人は脳全体として「右脳型・左脳型」に分かれるのか
1011人の安静時fMRIから見た「左脳型・右脳型」という言い方の射程
An Evaluation of the Left-Brain vs. Right-Brain Hypothesis with Resting State Functional Connectivity Magnetic Resonance Imaging
Other | 2013 | 発達・側性化・姿勢制御
発達・側性化・姿勢制御
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- 何を調べた?
- 「あの人は左脳型」「この子は右脳型」という言い方に対応する脳全体の型は、実際の脳活動の左右差として存在するのでしょうか。Nielsenらは7〜29歳・1011スキャンの公開安静時fMRIデータを使い、機能的結合の左右差が個人単位の全脳的な偏りとして現れるかを検証しました。
- 何が分かった?
- 左優位のハブ9個(Broca野・Wernicke野・内側前頭前野・後帯状皮質など)と右優位のハブ11個(前頭眼野・島皮質・頭頂間溝など)からなる2つの側性化ネットワークが同定されました。しかし、ある人で左優位ネットワークが強いほど右優位ネットワークが弱くなるという関係はほとんど見られず(左右ハブ結合をまたぐ1620比較のうち負相関20件=1.2%)、著者らは側性化を個々のノードや局所サブネットワークの性質と述べています。年齢との相関は小さく(左r=0.08、右r=0.09)、ハブ結合の平均側性化に有意な性差はありませんでした。
- 何を言ってはいけない?
- 「脳に左右差はない」という研究ではありません。言語領域やdefault mode network関連の左優位、注意関連領域の右優位は明確に観察されています。言えないのは「人を左脳型/右脳型に分類できる」という部分です。また本研究には行動・認知課題のデータがなく、結合の左右差と能力・学習スタイルの関係は検討されていません。
重要ポイント
- FCON1000とADHD-200の公開安静時fMRI、7〜29歳のn=1011(男性587/女性424)を横断的に解析した画像研究で、介入も追跡もありません。
- 7266個のROI間・約1410万の半球内結合について、正中面で反転した画像との相関差を機能的側性化指数とし、灰白質密度由来の構造的側性化を被験者ごとに回帰除去してから判定しています。
- 左優位ハブには古典的言語領域とdefault mode network領域、右優位ハブには前頭眼野・島皮質・頭頂間溝など注意関連領域が含まれました。
- 側性化の被験者間相関は共通ハブを含む結合同士にほぼ限られ(左141/144、右314/329)、左優位系と右優位系のあいだの相関は稀でした。
- 結果は施設をまたいで再現性が高く(Beijingサイト対他サイト r=0.85)、頭部運動指標との関係はFDR補正を通過しませんでした。
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この研究が向き合った問い
「左脳人間は論理的、右脳人間は創造的」という言い方は、一般向けの説明としてだけでなく、臨床の申し送りや家族への説明にも入り込みがちです。Nielsenらは、この「全脳レベルの表現型」が本当に脳の機能的結合として観察できるのかを問いました。あわせて、機能的結合の左右差は単に構造(灰白質量)の非対称を映しているだけではないのか、そして小児期から成人早期にかけてそのパターンは変化するのか、という3つの問いを立てています。
model:何を測ったデータなのか
公開データセット(FCON 1000の28サイト+ADHD-200の定型発達者8サイト)から、全脳が撮像され画像処理条件を満たしたスキャンを集め、n=1011(平均18.3±5.6歳、範囲7〜29歳)を解析しています。課題はなく、安静時のBOLD信号だけを扱っています。つまりここで見ているのは「何かをしているときの脳の働き」ではなく、安静時に測られた領域間の信号の同期の強さです。この一点は、結果を臨床の課題遂行と結びつけるときに何度も戻ってくる前提になります。
左右差をどう測ったか
解析上、元画像と正中面で左右反転した画像を比較しました。半径5mmの球状ROIを7266個置き、同一半球内の結合(約1410万本)についてFisher変換した相関係数を求め、正中面で左右反転した画像から得た対側同名結合の値との差を「機能的側性化指数」と定義しました。さらに灰白質密度から算出した構造的側性化指数を被験者ごとに回帰除去し、両側t検定+FDR q<0.05で有意な側性化結合を判定、次数の局所最大をハブと呼んでいます。後頭極・内側後部島・線条体・視床・舌状回など、構造的非対称の影響が大きいと考えられた領域はハブから除外されています。
observed phenomenon①:2つの側性化ネットワーク
左優位ハブは9個で、内側前頭前野・後帯状皮質・側頭頭頂接合部・下側頭皮質といったdefault mode network領域と、Broca野・Wernicke野という古典的言語領域が含まれました。右優位ハブは11個で、前頭眼野・MT野・前帯状皮質・島皮質・補足運動野・頭頂間溝・上頭頂葉・背外側前頭前野といった注意関連領域が並びます。左半球ハブ同士の結合はほぼすべて左に、右半球ハブ同士の結合はほぼすべて右に側性化していました。左右差そのものは、はっきり存在します。
observed phenomenon②:側性化は「人単位」ではなかった
では、ある人で左優位ネットワークが強ければ右優位ネットワークは弱いのでしょうか。左ハブ間結合同士の630比較で負相関は1件(0.2%)、正相関144件(22.9%)、右ハブ間では負相関0件、正相関329件(33.2%)。そして有意な正相関のほとんど(左141/144、右314/329)は共通ハブを含む結合同士でした。左優位系と右優位系をまたぐ1620比較では負相関20件(1.2%)、正相関16件(1.0%)にとどまります。個人の中で「左が強い分だけ右が弱い」というトレードオフは観察されませんでした。
年齢・性差・頑健性
年齢と平均側性化には小さいが有意な相関があり(左r=0.08 p=0.009、右r=0.09 p=0.004)、個々の結合でFDR q<0.05を満たしたのは右側性化結合10本のみでした(例:右SMA–中部島 r=0.129)。ハブ結合の平均側性化および20ハブ間の部分集合に有意な性差はありませんでした。Beijingサイトと他の全被験者の平均側性化は r=0.85 で一致し、小規模サイトを除いても結果はほぼ同一(r=0.999)。91のハブ結合の側性化指数と頭部運動指標の関係はいずれも多重比較補正を通過していません。
著者の機序仮説と限界
著者らは、構造と機能の非対称の関係が単なるアーチファクトではない可能性(灰白質量の多い半球で機能が側性化する、あるいは機能的非対称が灰白質の肥大を生む)を提示し、さらなる検討が必要としています。またBroca野(左)と右のBroca相同部・前部島がほぼ相同位置にあり、隣接皮質機能を「競合」している可能性にも触れています。限界として、行動データと被験者背景情報が欠けていること、利き手の元データが不足していること(ただし側性化ハブに一次運動・感覚皮質は含まれず、データが得られた被験者では利き手指標と有意な相関はなかった)、構造的非対称は回帰後も残存し完全な除去は難しいこと、そして測っているのは同名結合間の結合強度の非対称のみで、左右半球が担う認知情報の内容の差は測定していないことが挙げられています。
原典から臨床へ
① 原典で提示されていること原典
7〜29歳・n=1011の安静時fMRIで、左優位ハブ9個と右優位ハブ11個からなる2つの側性化ネットワークが同定されました。左優位側には言語領域とdefault mode network領域、右優位側には注意関連領域が含まれます。一方、側性化の被験者間相関は共通ハブを含む結合同士にほぼ限られ、左優位系と右優位系のあいだの相関は稀(負1.2%、正1.0%)でした。年齢との相関は小さく(左r=0.08、右r=0.09)、ハブ結合の平均側性化に有意な性差はなく、施設をまたいだ再現性は高く、頭部運動指標との関係は補正を通過しませんでした。
①′ 原典での位置づけ原典・著者の考察
著者らは、左優位ネットワークと右優位ネットワークはそれぞれのハブ群のあいだで一様に強く側性化するが、こうした結合は個人単位で一方が優位となるような全脳的な側性化差を生じさせないと述べています。側性化は個々のノードや局所サブネットワークの性質であり、小児期から成人早期の変化はわずかで、性差はあってもごく小さいという整理です。ハブの構成からみれば、左優位結合を言語と内的刺激の知覚に、右優位結合を外的刺激への注意に結びつける図式のほうがより一貫している「かもしれない」と、可能性の水準で述べています。
② 療活ではどう考えるか療活編集部の整理・ここからは原典そのものではありません
療活編集部としてこの論文から持ち帰りたいのは、「左右差がある/ない」ではなく、左右差を語る単位です。この研究が示したのは、側性化がノードや局所サブネットワークの性質として現れ、人単位の全脳的な偏りとしては現れなかったという観察でした。だとすると、臨床で人を「右脳型」「左脳型」とまとめる説明は、この研究のデータからは支えにくいことになります。
臨床でも似た構図はよく起きます。ある課題での言語的教示の入りにくさを見て、「この方は右脳優位だから言語が苦手」とまとめてしまうことがあります。しかしこの論文の見方に沿えば、観察できるのは「この課題・この文脈でのこの機能の様子」であって、脳全体の型ではありません。同じ方が別の課題では違う様子を見せる可能性を残しておく——その余地が、次の評価の入口になります。
また、行動データがないという限界は重要です。結合の左右差と、目の前の人ができること・できないことは、この研究では結ばれていません。「画像で左右差が出た」ことと「その差が生活のどこに現れるか」は、別の問いです。
③ 臨床で観察するとしたら療活編集部
観察候補としては、たとえば同じ動作課題を言語的教示で伝えたときと視覚的に提示したときで反応が変わるか、外的環境への注意の向け方(人・物・音への気づき)と自分の身体や計画へ向く注意で様子が違うか、課題が変わると得手不得手が入れ替わるか、疲労や時間帯で同じ課題の成績が変動するか、といった点が挙げられます。いずれも「その人の型」を決めるための観察ではなく、機能ごと・課題ごとに見る癖をつけるための観察です。
④ まだ言えないこと
この研究から、個人の脳の結合パターンを推定して評価方法や介入方針を決めることはできません。安静時fMRIの結合強度の非対称は、行動・認知課題の成績や生活上の困難と本研究では結びつけられておらず、著者らも測っているのは結合強度の非対称のみで左右半球が担う情報の内容の差ではないと明記しています。対象は7〜29歳の主に定型発達データであり、脳損傷後の方、高齢者、発達障害を有する方の脳に同じ構図をそのまま当てはめる根拠はありません。年齢との相関は統計的に有意でも小さく、著者ら自身が行動・認知的差異と結びつかない微細な差が検出されうる点に注意を促しています。
この研究と臨床の距離
この文献は、課題を行っていない安静時の脳の結合の左右差を、7〜29歳の主に定型発達者1011名で解析したものです。行動データを含まないため、結合の左右差から個人の能力や学習の仕方を推定する段階には届いていません。臨床の対象者に当てはめるには、課題中の脳活動、行動レベルの特徴、生活場面での現れ方という段階を順に越える必要があり、脳損傷後の方への外挿はさらに距離があります。
安静時fMRIの結合強度の左右差という指標 → 課題遂行中の脳活動 → 認知・言語・注意の行動レベルの特徴 → 生活場面での活動・参加 → 目の前の個別の患者(脳損傷後・高齢者などを含む)への判断
逆の視点から読んでみる
「人単位の左脳型・右脳型はなかった」→「では半球差の話はリハビリでは無意味なのか」とは読めません。この研究は同時に、左優位ハブに言語領域とdefault mode network領域、右優位ハブに注意関連領域が含まれることを明確に観察し、左半球ハブ同士・右半球ハブ同士の結合がほぼ一様に側性化していることも示しています。否定されたのは局所的な左右差ではなく、それを人格や能力の全体的な型に拡大する読み方です。逆方向の単純化にも注意が必要で、「局所的だから小さい」わけでもありません。ネットワーク内部では強い側性化が観察されています。
この文献を読んだあと、何を見る?
次に「この方は右脳(左脳)が強いタイプ」と言いたくなったとき、それが何の観察に基づいているのかを一度言語化してみてください。多くの場合、根拠は「ある課題での特定の反応」であり、脳全体の型ではありません。
考えてみましょう
自分がある患者さんに使っている「〜タイプ」というまとめ方は、どの課題・どの場面の観察から作られただろうか。別の課題で確かめたことはあるだろうか。
ある課題での言語的教示の入りにくさを、半球の話以外の仮説(注意、疲労、教示の量、課題の意味づけ、環境の刺激量など)で説明できないだろうか。
答えを急ぐ必要はありません。次の臨床で、少し観察してみてください。
次に読むなら
- Gogtay N 2004 この研究を発展させた|本研究が横断データで示した「年齢との小さな関係」を、縦断画像研究の視点から読み直すため。発達に伴う脳の変化を時間軸で追う研究と並べると、横断デザインで言えることの範囲が見えてきます。
- Boyke J 2008 メカニズムを補足|経験や練習によって脳の構造指標が変化しうるという知見。「脳の型」という固定的な捉え方に対して、可変性の側から考える材料になります。
- Navon D 1977 同じ問いを別方法で|全体的処理と局所的処理という区別を実験的に扱った古典。この区別が後に半球差の物語に流用されていった経緯を考えるうえで、元の実験が何を示したのかを確認する価値があります。
- Adolph KE 2012 異なる結果・制約を示す|発達を段階や型で区切る見方に対し、変動と文脈依存性の側から問いを立てる研究。人を型に分類することの限界を、発達の観察から補強して考えられます。
原典・書誌情報
Nielsen JA, et al.. Evaluation of the left-brain vs right-brain hypothesis. PLoS ONE. 2013;8:e71275.
原典照合:大塚 久(原典照合=AI・Europe PMC全文XML・2026-08-17)/最終確認日:2026-08-17
確認状況:書誌確認・抄録確認・全文入手可・全文照合・主要数値確認・臨床Bridge確認
