運動麻痺が大きく変わらなくても生活は変わる——1症例のICFコーディングが映したもの
International Classification of Functioningコーディングによる脳卒中リハビリテーションに関する医療情報の標準化
Other | 2025 | ICF・目標設定 / 脳卒中回復・評価・介入
ICF・目標設定/脳卒中回復・評価・介入
30秒でつかむ
- 何を調べた?
- 左被殻出血後の50歳代女性1名について、多職種の診療情報をICFコードへ対応づけ、入院中の変化を共通言語で記述できるかを検討した実践報告です。
- 何が分かった?
- 発症30日で転院した対象者は、155日目に自宅退院しました。運動麻痺の評点は大きく変わらない一方、筋力、バランス、耐久性、移乗、セルフケアなど複数の項目が変化しました。著者らは53コードを継続評価できた一方、コード選択、採点、担当者設定、作業時間に課題があったと報告しています。
- 何を言ってはいけない?
- 1症例の経過なので、ICFコーディングが回復や自宅退院を生んだとは言えません。また、運動麻痺が変わらなくても誰でも生活機能が変わる、という一般化もできません。
重要ポイント
- 対象は左被殻出血、血腫量60 mL、50歳代女性1名。発症30日に回復期病院へ転院した。
- 医師、看護師、PT、OT、ST、社会福祉職の情報を、入院時と月1回、合計5時点で整理した。
- 約1,600のICFコードから該当項目を抽出し、最終的に53コードを継続評価した。
- 155日目のFIM運動項目合計は78点で、車椅子移動とセルフケアは自立、杖歩行は見守りとなり、自宅退院した。
- 初回コーディングには数時間、以後も1回約2時間を要し、採点の信頼性と担当分担が運用上の課題になった。
文書を読み解く2〜4分
対象と目標
対象者は入院時に重い運動障害、活動性低下、意欲低下を示し、起居、移乗、歩行、更衣などに介助を要しました。本人は早期退院、トイレまでの歩行、家事、孫の世話を望み、チームは日中の自宅生活の自立を長期目標に置きました。(PDF p.2–4/誌面p.314–316)
ICFへどう変換したか
多職種の評価情報をICF Assessment Sheet、ICF Categorical Profile、ICF Intervention Table、ICF Evaluation Displayへ集約しました。第一著者のPTが約1,600コードから該当項目を選び、チームへ確認しながら、障害の程度を0〜4、環境因子を促進因子+1〜+4/阻害因子−1〜−4で記録しました。(PDF p.3–5/誌面p.315–317)
観察された経過
入院中に、意欲、筋力、バランス、耐久性、感覚、起居、移乗、車椅子移動、セルフケアなどのコードが変化しました。一方、運動麻痺、一部の上肢機能、歩行の自立、交通機関利用などには変化が乏しい項目もありました。155日目のFIM運動項目合計は78点で、車椅子移動とセルフケアは自立、杖歩行は見守り、自宅退院という経過でした。(PDF p.8–9/誌面p.320–321)
実装で見えた負担
著者らは53コードを追跡できた一方、stroke comprehensive core setとの一致は心身機能78.0%、活動と参加74.5%、環境因子42.4%でした。1名でのコード選択と採点、観察中心の評価、専門領域の取りこぼし、初回数時間・以後約2時間という作業量を限界として挙げています。(PDF p.9–10/誌面p.321–322)
原典から臨床へ
① 原典で提示されていること原典
左被殻出血後の1名に対し、多職種情報をICFで5時点にわたり整理しました。53コードの経時変化を記述でき、運動麻痺の評点が大きく変わらないなかでも、筋力、バランス、耐久性、活動、セルフケア、環境因子など別の変化を同時に可視化しました。155日目にFIM運動項目78点、自宅退院という経過でした。(PDF p.2–10/誌面p.314–322)
①′ 原典での位置づけ原典・著者の考察
著者らは、ICFコーディングにより、運動麻痺だけでは捉えにくい生活機能と背景因子を共通言語で記述できたと考察しています。同時に、コード選択、評点、評価担当者、所要時間の問題を挙げ、より簡便な選択法、採点基準、電子的支援、多職種分担が必要になると述べています。(PDF p.9–10/誌面p.321–322)
② 療活ではどう考えるか療活編集部の整理・ここからは原典そのものではありません
療活編集部として注目するのは、「麻痺が変わったか」だけでは回復の全体像を説明できない点です。患者さんが主体となる生活目標に対し、身体機能、認知・言語、活動、環境のどこが変化し、どこが残ったかを並べることで、次に支える条件が見えやすくなります。ただし、コードが増えるほど理解が深まるとは限りません。本人の言葉と重要な生活課題を軸に、必要な情報を選ぶ運用が要ります。
③ 臨床で観察するとしたら療活編集部
一つの到達点について、運動麻痺、筋力、バランス、注意・言語、移乗、歩行、セルフケア、家事、支援者、住環境を並べ、どの変化が生活上の実行につながったかを時系列で見ます。コードだけでなく、「孫の世話」「家事」など本人の言葉が評価表のどこに残っているかも確認します。
④ まだ言えないこと
ICFコーディングがチーム連携、目標共有、治療選択、在院日数、自宅退院、患者満足を変えたかは分かりません。評点の評価者間信頼性、53コードの選択妥当性、他施設での実行可能性、電子化や多職種分担による負担軽減も今後の検討領域です。
この研究と臨床の距離
単一症例を後方視的にコード化した実践報告で、比較対象はありません。観察された回復には自然回復、1日各1時間・週7日のPT/OT/ST、多職種支援、環境調整などが同時に関わり、ICFコーディングの寄与は分離できません。臨床情報を構造化する実装例としては近い一方、治療効果や予後予測へ一般化するには大きな距離があります。
逆の視点から読んでみる
53項目を経時的に並べると全体像が見える一方、情報量が本人の物語を覆う可能性があります。また、予測値を上回った経過は印象的ですが、予測モデルと個人の実測値の差だけで介入の上乗せ効果は判断できません。共通言語の価値と、コード化による単純化・作業負担を同時に見る必要があります。
この文献を読んだあと、何を見る?
経過表で最も変化した項目と、本人にとって最も意味のある項目が一致しているかを見ます。一致しない場合、その間をつなぐ活動や環境条件を探します。
考えてみましょう
運動麻痺の変化が小さい患者さんで、私たちはどの生活機能の変化を記録できているだろうか。
共通言語で整理することが、本人の言葉を見えやすくしているか、それとも隠しているか。
答えを急ぐ必要はありません。次の臨床で、少し観察してみてください。
次に読むなら
- ICFは、身体だけでなく「活動・参加・環境」から生活機能を捉える この研究を発展させた|コードの一覧ではなく、生活機能と背景因子の相互作用という原点へ戻る。
- 標的が変わったことと、生活が変わったことを分ける この研究を発展させた|身体機能から活動・参加への波及を自動的な矢印にしないため。
- 脳卒中後の身体リハは、流派より何をどれだけ行うか この研究を発展させた|単一症例の多要素介入を、集積された比較研究の視点から読み直す。
原典・書誌情報
高松賢司; 平松佑一; 畠中めぐみ; 宮井一郎. International Classification of Functioningコーディングによる脳卒中リハビリテーションに関する医療情報の標準化. 理学療法学. 2025;52(5):313-323.
原典照合:大塚 久(原典照合=AI・J-STAGE 公式 PDF 全文・2026-09-09)/最終確認日:2026-09-09
確認状況:書誌確認・抄録確認・全文入手可・全文照合・主要数値確認・臨床Bridge確認
