脊椎疾患の神経障害性疼痛を質問票で拾えるか

脊椎疾患由来の神経障害性疼痛を2項目で拾う試み——SPDQ/SF-SPDQの開発と診断精度

The Spine painDETECT questionnaire: Development and validation of a screening tool for neuropathic pain caused by spinal disorders

Other | 2018 | 疼痛評価尺度

疼痛評価尺度

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何を調べた?
腰や首の疾患による痛みのうち、神経障害性疼痛(NeP)の要素をもつものを、質問票でどこまで見分けられるのかを検討した研究です。既存のpainDETECT日本語版(PDQ-J)の項目を再重み付けして脊椎疾患向けのSPDQを作り、さらに2項目だけの簡易版SF-SPDQを開発し、確定診断のある患者集団とWeb調査集団の2つで診断精度を検証しています。
何が分かった?
SPDQは感度74.0〜83.3%/特異度69.2〜75.6%/AUC 0.73〜0.77、SF-SPDQ(electric shock-like pain と numbness の2項目)は感度82.4〜86.2%/特異度61.2〜68.8%/AUC 0.73〜0.77でした。判別に最も大きく寄与したのは「しびれ(numbness)」で、多施設検証では NeP-SD の86.2%が少なくとも軽度以上のしびれを報告した一方、侵害受容性疼痛群(NocP)は31.3%でした。2〜4週間隔の再検査ではCohen's kappa=0.5(moderate)でした。
何を言ってはいけない?
「SF-SPDQが陽性だから神経障害性疼痛である」とは読めません。著者ら自身が偽陽性の可能性に注意し、陽性者には追加検査が有用だと述べています。特異度は6〜7割台で、AUCも0.73〜0.77=中等度であり、この質問票は診断を確定する検査ではなく、拾い上げのための道具です。

重要ポイント

  • PDQ-Jの9項目に正準判別分析で重み係数を付け直し、カットオフ≥0となるよう定数を調整したのがSPDQです。
  • SF-SPDQは electric shock-like pain(係数−4)と numbness(係数+9)の2項目のみで構成され、numbness の重みが圧倒的に大きい構造になっています。
  • 2つの検証集団(多施設 n=45/Web調査 n=500)を通じて、SF-SPDQは一貫して高い感度(82.4〜86.2%)を示しましたが、特異度は61.2〜68.8%にとどまりました。
  • LR+は2.2〜3.2、LR−は0.2〜0.4で、陰性のときに可能性を下げる働きのほうが相対的に大きい数値です。
  • 著者は特異度の低さの説明として、脊椎疾患の症状発現に関わる姿勢・脊椎動態の要因を問う項目が含まれていない点を挙げています。

文書を読み解く2〜4分

この文献が取り組んだ問い

脊椎疾患による痛みには、組織の炎症や機械的刺激に由来する成分と、神経自体の損傷・機能障害に由来する成分が混ざり得ます。しかし後者を判定するには専門医による診察と検査が必要で、日常の現場では簡便な手がかりが乏しい。
そこで著者らは、既存のpainDETECT日本語版(PDQ-J)を出発点に、脊椎疾患由来の神経障害性疼痛(NeP-SD)を拾い上げるための質問票SPDQと、その簡易版SF-SPDQを作り、妥当性を検証しました。

どうやって作ったのか(index test の作り方)

開発研究は日本13施設・2011年9月〜2013年11月、NeP-SD 85名とNocP 45名(n=130)です。NeP-SDはIASPの神経障害性疼痛グレーディングに基づき整形外科の脊椎専門医が診断し、対照は関節疾患による侵害受容性疼痛の患者でした。
PDQ-Jの9項目に正準判別分析で重み係数を割り当て(burning +1、tingling +2、light touchでの痛み −2、electric shock-like −4、cold/heat −3、numbness +8、slight pressure +1、pain course pattern ×0、radiating pain +1)、合計から12を引いてカットオフを≥0に設定しています。SF-SPDQはstepwise法で electric shock-like pain(−4)と numbness(+9)の2項目が選ばれ、7を減算しています。ここで注意したいのは、係数は統計モデルが開発時サンプルから算出したものであり、臨床的な重要度を直接表したものではないという点です。

参照基準(何と比べて「当たり」としたか)

開発研究と多施設研究では、医師による確定診断(IASP基準)が参照基準です。一方、Web調査(2016年7〜8月、9,572名にスクリーニング配信、n=500)では自己申告の疾患に基づく分類が用いられました。
つまり同じ「感度・特異度」という言葉が並んでいても、Web調査の数値は参照基準の質が異なります。著者も限界として、自己申告に基づく組み入れによる誤分類の可能性を挙げています。

結果:感度は高め、特異度は控えめ

SPDQは開発 感度78.8%/特異度75.6%/AUC 0.77、多施設(n=37)感度83.3%/特異度69.2%/AUC 0.76、Web調査(n=500)感度74.0%/特異度72.8%/AUC 0.73。
SF-SPDQは開発 感度82.4%/特異度66.7%/AUC 0.75、多施設(n=45)感度86.2%/特異度68.8%/AUC 0.77、Web調査 感度84.4%/特異度61.2%/AUC 0.73。
LR+は2.2〜3.2、LR−は0.2〜0.4です。得点も群間で分かれ、多施設研究のSPDQ得点は NeP-SD 7.3(9.2) 対 NocP −5.4(8.5)、SF-SPDQは 9.2(8.7) 対 −3.9(9.4) でした。原著には信頼区間・p値の記載がなく、点推定値のみが提示されています。

判別を担っていたのは「しびれ」だった

項目ごとの回答分布を見ると、多施設研究で「しびれが少なくとも軽度以上」と答えた割合は NeP-SD 86.2% 対 NocP 31.3%。Web調査でもNeP-SD群の80%超がしびれを報告し、NocP群の60%超は「なし/ほとんど気づかない」でした。一方、他の項目や放射痛の分布には顕著な差がありませんでした。
興味深いのは electric shock-like pain に最も大きな負の係数(−4)が付いたことです。著者はこの表現をOA患者も用いるため、急激な痛みを反映した可能性を考察しています。日本語の「電気が走るような痛み」という訴えが、常に神経障害性を指し示す表現として機能していなかった、という読み方ができます。

再現性と、数値の安定性

多施設研究では初回から2〜4週以内に受診し、医師が症状不変と判断した患者に2回目を実施しました。Cohen's kappaはSPDQ・SF-SPDQともに0.5(moderate)で、完全な一致ではありません。同じ人が同じ状態でも判定が入れ替わりうる程度、ということです。
また多施設研究のサンプルは小さく(SPDQ解析は37名)、著者自身が「1例のデータが結果に大きく影響する」と限界に挙げています。

限界と背景の偏り

著者が挙げた限界は、①統計モデル由来のため開発サンプルの特性に依存する、②多施設研究は福島およびその近郊10施設からの募集で全国への一般化が制限され得る、③Web調査は重症者が参加しづらく軽症に偏った可能性、④サンプルサイズが小さい、⑤自己報告依存による誤分類、⑥脊椎動態・姿勢要因を問う項目がなく特異度が低い、です。
加えてWeb調査では男性割合が NeP-SD 84.8% 対 NocP 43.6% と大きく異なり、疾患期間も 8.3年 対 11.4年 と背景が揃っていません。検証研究はPfizer Japanの資金提供を受けており(資金提供者は研究デザイン等に関与しなかったと記載)、共著者の一部に製薬企業からの講演料等の申告があります。

原典から臨床へ

① 原典で提示されていること原典

SPDQは開発集団で感度78.8%・特異度75.6%・AUC 0.77、多施設検証で感度83.3%・特異度69.2%・AUC 0.76、Web調査で感度74.0%・特異度72.8%・AUC 0.73でした。SF-SPDQは順に感度82.4%/86.2%/84.4%、特異度66.7%/68.8%/61.2%、AUC 0.75/0.77/0.73でした。LR+は2.2〜3.2、LR−は0.2〜0.4。項目分布では「しびれ」がNeP-SD群で顕著に多く(多施設 86.2% 対 31.3%)、他項目や放射痛には顕著差がありませんでした。2〜4週後の再検査ではCohen's kappaはいずれも0.5でした。

①′ 原典での位置づけ原典・著者の考察

著者らは、SPDQとSF-SPDQが整形外科受診患者において中等度の診断的有用性を示したと述べています。特にSF-SPDQは2項目のみで、性質の異なる2つの集団で一貫して高い感度を示したため臨床使用に適する可能性があるとしています。同時に偽陽性の可能性に留意し、陽性と判定された患者には追加検査が有用であると結論づけています。また特異度の低さについては、脊椎疾患の症状発現に関わる脊椎動態・姿勢要因を問う項目が含まれていないことを説明として挙げています。

② 療活ではどう考えるか療活編集部の整理・ここからは原典そのものではありません

療活として読みたいのは、「この質問票を使えば神経障害性かどうか分かる」という話ではなく、「痛みの訴えのどこに注意を向けるか」という点です。
この研究で判別を担っていたのは、ほぼ「しびれ」の有無でした。逆に「電気が走るような痛み」は、関節疾患の患者も使う表現だった可能性が考察されています。つまり患者さんの言葉づかいから痛みの性質を推し量るとき、表現の派手さと病態の対応は常に一致しない、ということです。
もう一つ、数値の読み方です。LR−が0.2〜0.4というのは、陰性だったときに可能性を下げる働きが相対的に強いことを意味します。一方でLR+は2.2〜3.2で、陽性になっても「疑いが少し上がった」段階です。療活編集部としての読み方は、「陽性=神経障害性」ではなく「陽性=医師と情報を共有し、経過を丁寧に追う対象」と位置づけることです。
そして再検査のkappaが0.5だった事実は、一時点のスクリーニング結果を固定した属性のように扱わない理由になります。同じ患者で数週後に判定が変わり得るなら、私たちが見るべきは点数そのものよりも、しびれや痛みの出方が何と一緒に動いているかでしょう。

③ 臨床で観察するとしたら療活編集部

観察候補としては、①しびれの有無だけでなく、その部位・分布・境界がどこまで説明できるか、②しびれや痛みが姿勢や動作(立位保持、歩行距離、前屈・後屈、頸部の位置)でどう変わるか、③痛みの強さ(NRS)が変わらないのにしびれの訴えだけ変化する場面があるか、④痛みが生活のどの場面を妨げているか(BPIのpain interferenceのような視点)、⑤本人が痛みをどう表現するか、その言葉が受診ごとに変わっていないか、が挙げられます。著者が「質問票に含まれていない」と指摘した脊椎動態・姿勢要因は、まさに私たちが日常の観察で拾える領域でもあります。

④ まだ言えないこと

この研究から言えないことを整理します。第一に、SPDQ/SF-SPDQの得点で個々の患者の病態を確定することはできません。参照基準は医師の診断(Web調査では自己申告)であり、質問票はその代替ではありません。
第二に、この研究はスクリーニング精度を検討したもので、得点によって治療方針を変えると結果が良くなるかは検証されていません。介入選択の根拠としては使えません。
第三に、多施設検証は37〜45名という小さな集団で、信頼区間の記載もありません。数値は幅をもって読む必要があります。また対象は日本の限られた地域の整形外科受診患者であり、Web調査は軽症に偏った可能性が著者自身によって指摘されています。
第四に、しびれの訴えが多いことと、神経の機能障害が痛みを生んでいることは同義ではありません。項目分布の差は関連の記述であり、機序の証明ではありません。

この研究と臨床の距離

この文献は、脊椎疾患由来の神経障害性疼痛を「拾い上げられるか」を検討した尺度開発・診断精度研究です。対象は主に日本の整形外科受診患者で、検証の一部は自己申告に基づくWeb集団でした。得点が病態を確定するわけではなく、さらにその判定を踏まえた介入が生活の変化につながるかは、この研究では扱われていません。臨床の目の前の一人に届くまでには、いくつかの段階が残っています。

確定診断がある専門施設の患者集団での判別精度 → 参照基準が自己申告のWeb集団への一般化 → 質問票の得点から個々の患者の病態理解へ → 病態理解からリハビリテーション上の判断へ → 判断が生活・活動レベルの変化につながるか

逆の視点から読んでみる

「SF-SPDQは2項目で感度が高い→SPDQ(9項目)は不要だ」と読みたくなります。しかし特異度を見ると、Web調査でSF-SPDQは61.2%、SPDQは72.8%でした。2項目版は拾い上げに寄っている代わりに、侵害受容性疼痛の患者を陽性と判定する割合が高くなります。短いほど優れているのではなく、短くしたことで何を手放したかが数値に現れている、という読み方が必要です。
また「しびれの係数が+9で最大→しびれを聞けば十分」とも読めません。項目分布ではNocP群でも31.3%が軽度以上のしびれを報告しています。しびれは判別に寄与する手がかりですが、しびれの訴えだけで病態を振り分けられるという結果ではありません。

この文献を読んだあと、何を見る?

次に「しびれます」と言われたとき、その一語で終わらせず、どこに・どんなときに・何をすると変わるのかを一緒に確認してみてください。質問票が拾おうとしていたものと、私たちが動作の中で観察できるものは、重なりつつずれています。

考えてみましょう

担当している患者さんの「しびれ」は、姿勢や動作のどの条件で強まり、どの条件で軽くなっているだろうか。そのパターンは、質問票の得点では表現されていないのではないだろうか。
痛みの表現(電気が走る、焼けるような)が変わったとき、病態が変わったと考える以外に、どんな説明があり得るだろうか。

答えを急ぐ必要はありません。次の臨床で、少し観察してみてください。

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次に読むなら

  • 腰痛の神経障害性要素をpainDETECTで拾えるか Freynhagen 2006 この考え方の基礎|SPDQの土台となったpainDETECTの原著です。どの項目がどんな考え方で選ばれ、腰痛の神経障害性要素をどう拾おうとしたのかを知ると、SPDQで係数が付け直された意味が見えてきます。
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  • Melzack 1987 この考え方の基礎|痛みを言葉の性質から捉える発想の源流です。「電気が走るような」という表現が判別に貢献しなかった本研究の結果を、言語による痛み記述の限界という文脈で読み直せます。

原典・書誌情報

Nikaido T, Sumitani M, Sekiguchi M, Konno S. The Spine painDETECT questionnaire: development and validation of a screening tool for neuropathic pain caused by spinal disorders. PLoS One. 2018;13:e0193987.

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原典照合:大塚 久(原典照合=AI・Europe PMC全文XML・2026-08-17)/最終確認日:2026-08-17

確認状況:書誌確認・抄録確認・全文入手可・全文照合・主要数値確認・臨床Bridge確認

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