日本語版CSIは筋骨格系疼痛の症状評価に使えるか
日本語版CSIは筋骨格系疼痛の患者で何を測れていたのか
Validation of the Japanese version of the Central Sensitization Inventory in patients with musculoskeletal disorders
Other | 2017 | 疼痛評価尺度
疼痛評価尺度の心理測定特性
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- 何を調べた?
- 中枢性感作に関連する症状を拾うための質問紙Central Sensitization Inventory(CSI)の日本語版(CSI-J)が、日本の筋骨格系疼痛患者で安定して測れるのか、また何と関連するのかを検討した横断研究です。整形外科クリニックを受診した290名を対象に、内的整合性・1週間後の再検査信頼性・臨床指標との相関・因子構造を調べています。
- 何が分かった?
- CSI-J総得点はCronbach's α=0.89、ICC(2,1)=0.85(95%CI 0.80–0.89)で、集団レベルでは安定した回答が得られていました。得点はEQ-5D(r=−0.44)、BPI疼痛強度(r=0.42)、疼痛による支障(r=0.48)と関連した一方、疼痛期間とは関連しませんでした(r=0.10, p=0.11)。平均得点は21.91(SD 13.31)で、moderate以上(40点以上)は32名(11.00%)でした。
- 何を言ってはいけない?
- この研究は「CSI-Jで中枢性感作を診断できる」ことを示したものではありません。著者らも定量的感覚検査(QST)によるCSの直接測定は行っておらず、変化への反応性や予測妥当性も検証されていないと明記しています。得点が高いことと、その患者の痛みが中枢メカニズムで生じていることは別の話です。
重要ポイント
- 対象は整形外科クリニックの筋骨格系疼痛患者290名(女性64.83%、平均51.14歳、疼痛期間21.00週)で、再検査に回答したのは158名。
- 内的整合性 Cronbach's α=0.89、再検査信頼性 ICC(2,1)=0.85(95%CI 0.80–0.89)。ただし項目単位では4項目(項目2, 3, 11, 19)がICC<0.60。
- 得点はQOL・疼痛強度・疼痛による支障と中等度の相関を示したが、疼痛期間とは相関しなかった。
- CSS(中枢性感作症候群)と診断された疾患を持つ群のほうが得点が高く、線維筋痛症と多種化学物質過敏症の診断者は0名だった。
- 探索的因子分析では5因子が抽出され、7項目は負荷量0.40未満だった。日本語版の平均得点は米国・オランダ・韓国の報告より低値。
文書を読み解く2〜4分
この研究が答えようとした問い
痛みの訴えが、目の前の組織の状態だけでは説明しきれない患者がいます。CSIは、そうした場面で中枢性感作関連症状(睡眠、疲労、集中困難、顎の症状、排尿の症状など)を25項目で聞き取る質問紙として作られたものです。
ただし質問紙は言語と文化に強く依存します。英語版で成り立っていた測定が、日本語に訳しただけで同じように機能するとは限りません。この研究の問いは、CSI-Jが日本の筋骨格系疼痛患者で安定して測れているか、そして臨床指標とどう関連するかを確かめることでした。
対象と手続き
単一の整形外科クリニックから募集された20〜80歳の筋骨格系疼痛患者290名(頸部・肩・腰・股・膝・足関節など)。癌、脳・脊髄損傷、神経疾患、認知症、日本語の理解が難しい人は除外されています。
質問紙は順翻訳→ネイティブ英語話者による逆翻訳→原版開発者の承認→患者6名への予備実施と表現修正、という手順を経て作成されました。評価はCSI-J、EQ-5D、BPI(疼痛強度・疼痛による支障)、疼痛期間で、1週間後に再検査が行われました。介入も追跡もない、質問紙の性能を確かめる研究です。
測っていた指標:信頼性
内的整合性はCronbach's α=0.89(項目除外時0.88–0.89)。25項目が一つのまとまりとして働いていることを示す値です。
1週間後の再検査ではICC(2,1)=0.85(95%CI 0.80–0.89、158名)。合計点としては安定していました。ただし項目単位で見ると、21項目はICC>0.60(0.61–0.82)でしたが、項目2(0.48)、項目3(0.48)、項目11(0.57)、項目19(0.38)は0.60を下回っています。合計点の安定性と、個々の項目の安定性は同じではないという点は、臨床で1項目だけを取り出して話題にするときに意識しておきたいところです。
測っていた指標:他の尺度との関連
CSI-JはEQ-5Dと r=−0.44、BPI疼痛強度と r=0.42、BPIの疼痛による支障と r=0.48(いずれもp<0.01)。一方で疼痛期間とは r=0.10(p=0.11)で関連が見られませんでした。
つまりCSI-Jの得点は「痛みが長く続いているかどうか」ではなく、「いま痛みがどれくらい強く、生活にどれくらい支障をきたし、QOLがどうか」と重なる方向で動いていた、という結果です。慢性化=高得点という単純な対応ではありません。
重症度分布とCSS診断
平均CSI-J得点は21.91(SD 13.31)。重症度区分(先行研究の5区分を引用)では、subclinical 214名(73.79%)、mild 44名(15.17%)、moderate以上32名(11.00%、Discussionでは約10%と記載)でした。
Part Bで確認されたCSS診断ありは81名(27.93%)。診断なし群19.64±12.81、1疾患26.44±11.47、2疾患以上32.50±16.46と段階的に高値でした(p<0.01)。なお線維筋痛症と多種化学物質過敏症の診断者は0名で、著者らは自己記入式で診断数を尋ねたことによる回答バイアスの可能性を挙げています。
因子構造
最尤法+promax回転による探索的因子分析(固有値>1、負荷量0.40)では5因子が抽出されました。Emotional distress(15,16,17,24)、Urological and general symptoms(9,11,21,22,23,25)、Muscle symptoms(1,2,18)、Headache/Jaw symptoms(4,10,19)、Sleep disturbance(1,8,12)です。
一方で項目3, 5, 6, 7, 13, 14, 20は負荷量が0.40に届いていません。因子間相関はすべて正(例:F1–F5 .66、F1–F2 .54)で、症状群が互いに独立ではないことを示しています。25項目が一枚岩ではなく、いくつかの症状のかたまりとして動いていた、という読み方になります。
この研究が検証していないこと
著者ら自身が限界として挙げているのは3点です。QSTによるCSの直接測定を行っていないこと、臨床状態の変化に対する感度(反応性)を検討しておらず因果関係・予測妥当性についても結論できないこと、CSS診断数を自己記入式で評価したための回答バイアスです。
また、平均得点21.91は米国(52.4±14.3/50.7±13.0)、オランダ(43.88±17.67)、韓国(42.4)の報告より低値でした。著者らは文化・民族差と、対象者背景の違い(多職種疼痛センターや人工膝関節置換術患者ではなく、疼痛期間・部位・診断を問わない筋骨格系疾患患者だった)を要因として挙げています。
原典から臨床へ
① 原典で提示されていること原典
CSI-JはCronbach's α=0.89、再検査ICC(2,1)=0.85(95%CI 0.80–0.89)を示し、EQ-5D(r=−0.44)、BPI疼痛強度(r=0.42)、疼痛による支障(r=0.48)と有意に相関(p<0.01)した一方、疼痛期間とは相関しませんでした(r=0.10, p=0.11)。CSS診断数が多い群ほど得点が高く(診断なし19.64±12.81、1疾患26.44±11.47、2疾患以上32.50±16.46、p<0.01)、平均得点は21.91(SD 13.31)、moderate以上は32名(11.00%)。探索的因子分析は5因子構造を示し、7項目は負荷量0.40未満でした。
①′ 原典での位置づけ原典・著者の考察
著者らは、CSI-Jは日本の筋骨格系疾患患者において中枢性感作症候群を評価するための有用で心理測定学的に妥当な尺度であり、CS重症度レベルの有病割合に関する知見は治療方針決定の参考になり得ると述べています。同時に、QSTによるCSの直接測定、変化への反応性、予測妥当性は本研究では検証されていないと明記しています。
② 療活ではどう考えるか療活編集部の整理・ここからは原典そのものではありません
この文献から臨床に持ち帰れるのは「CSIを使えば中枢性感作が分かる」ではなく、「痛みの訴えの周辺にある症状を、同じ枠組みで繰り返し聞き取れる」という点だと考えます。
注目したいのは、CSI-J得点が疼痛期間と相関しなかったという結果です。臨床では「長引いている=感作が進んでいる」と読みたくなる場面がありますが、この集団ではその関係は見られていません。一方で、いまの痛みの強さ、生活への支障、QOLとは中等度に重なっていました。療活編集部としては、CSIの得点をメカニズムのラベルではなく「この人の痛みが生活のどこまで広がっているか」を映す指標の一つとして読むほうが、臨床の観察につながりやすいと考えます。
もう一つ、因子構造が5つに分かれ、7項目はどの因子にも十分乗らなかったという結果も見過ごせません。合計点が同じ30点でも、睡眠の項目で積み上がった30点と、頭部・顎の症状で積み上がった30点では、その後に見るところが違ってきます。合計点だけを記録して終わると、その違いが消えてしまいます。
③ 臨床で観察するとしたら療活編集部
観察候補として挙げられるのは、(1)合計点だけでなく、どの症状群(気分・睡眠・筋症状・頭部顎・排尿や全身症状)に点が集まっているか、(2)痛みの強さや生活への支障(BPI的な観点)と得点の動きが一致しているか離れているか、(3)疼痛期間と得点が本人の中でどう対応しているか、(4)再検査で不安定だった種類の項目(体調や直近の出来事で揺れやすい項目)について、答えた時の状況を本人がどう説明するか、といった点です。いずれも介入を決めるための指標ではなく、面接で確かめる手がかりとしての観察です。
④ まだ言えないこと
この研究から言えないことは明確です。第一に、CSI-Jの得点は中枢性感作の直接測定ではありません。QSTとの対応は検証されていないため、得点が高いことをそのまま神経生理学的な状態の説明に置き換えることはできません。第二に、反応性が検討されていないため、介入前後で得点が下がったことを「介入が効いた」と読むための根拠はこの研究にはありません。第三に、40点というカット値は先行研究の引用として紹介されているもので、この研究で新たに検証されたものではありません。第四に、単一クリニック・単一時点の横断データであり、平均得点も海外報告より低値でした。他の集団(術後、多職種疼痛センター、より重症例)にこの分布をそのまま当てはめることはできません。
この研究と臨床の距離
この文献は、日本語版CSIが同じ集団で安定して測れ、QOLや痛みの支障と関連していたことを示した横断研究です。得点が中枢性感作という生理学的状態を反映しているか、介入で変化するか、将来の経過を予測するかは、この研究の外にある段階です。目の前の患者の得点を解釈するまでには、まだいくつもの推論の段(そのうち複数は未検証)を越える必要があります。
質問紙の翻訳・言語的妥当性 → 単一施設・横断データでの信頼性と併存的な関連 → 質問紙得点と神経生理学的指標(QSTなど)の対応 → 臨床状態の変化に対する反応性・予測妥当性 → 目の前の患者の解釈と方針判断
逆の視点から読んでみる
「日本人の平均得点は21.91と海外より低かった」→「では日本の患者には中枢性感作は少ないのか」とは読めません。著者らが挙げているのは文化・民族差だけでなく、対象者背景の違いです。海外の報告は多職種疼痛センターの患者や人工膝関節置換術の患者を含み、この研究は疼痛期間も部位も診断も問わない外来の筋骨格系疼痛患者でした。母集団が違えば分布は違います。加えて、自己記入式で診断数を尋ねたため線維筋痛症が0名だった可能性も指摘されています。得点の低さは「日本では稀」の証拠ではなく、「どんな集団で測ったかを確認せずに数値を比べられない」ことの例として読むほうが妥当だと考えます。
この文献を読んだあと、何を見る?
次に痛みの評価をするとき、合計点を記録する前に、その点数がどの項目から積み上がっているかを一度見てみる。そして、その症状が本人の一日のどこで一番困っているのかを聞いてみる。
考えてみましょう
同じCSI得点の2人の患者がいたとして、点数の内訳(睡眠か、気分か、筋症状か)が違うとき、自分は次に何を聞くだろうか?
この患者の得点が高いことを「感作が進んでいる」と説明する以外に、どんな仮説で説明できるだろうか?
答えを急ぐ必要はありません。次の臨床で、少し観察してみてください。
次に読むなら
- 中枢感作関連症状を質問票で整理できるか この考え方の基礎|CSIの原版に関する文献。日本語版が何を引き継ぎ、どの点で異なる結果になったのかを確認するために、先に原版の設計思想と対象集団を押さえておきたい。
- 腰痛の神経障害性要素をpainDETECTで拾えるか 同じ問いを別方法で|質問紙で痛みの質(神経障害性要素)を拾えるかという同型の問いを扱う。CSIが拾おうとしているものとpainDETECTが拾おうとしているものの違いを並べて読むと、尺度の役割分担が見えやすくなる。
- 脊椎疾患の神経障害性疼痛を質問票で拾えるか 臨床へ応用した|日本の脊椎疾患患者で質問紙を用いた研究。日本語版の尺度が実際の臨床集団でどう分布するかという点で、本研究の得点分布と対比しながら読める。
- Hawker 2011 この考えを支持する|痛みの測定尺度全般の整理。本研究で併存指標として用いられた疼痛強度・支障の測り方を確認し、CSIとの位置づけを整理するのに役立つ。
原典・書誌情報
Tanaka K, Nishigami T, Mibu A, et al. Validation of the Japanese version of the Central Sensitization Inventory in patients with musculoskeletal disorders. PLoS One. 2017;12:e0188719.
原典照合:大塚 久(原典照合=AI・Europe PMC全文XML・2026-08-17)/最終確認日:2026-08-17
確認状況:書誌確認・抄録確認・全文入手可・全文照合・主要数値確認・臨床Bridge確認
