理学療法・作業療法の臨床において、「可動域や筋力は改善したが、動作が変わらない」「患者様の望む生活(HOPE)に結びつかない」という課題は、多くの療法士が直面する壁です。
療法士活性化委員会では、これらの課題を解決し、価値に基づく医療(Value-Based Healthcare)を実践するための思考フレームワークとして、「臨床推論の基本の型」を提唱しています。
本ページでは、特定の治療手技に依存しない、普遍的な臨床推論のプロセスと理論的背景について解説します。
目次
1. 従来型アプローチの限界と課題
臨床において結果が出ない多くのケースでは、思考の順序に「ボタンの掛け違い」が生じています。特に多いのが、局所的な機能改善を積み上げれば、自然と生活が変わるという「ボトムアップ思考」の限界です。
- 機能偏重: 「膝の可動域を広げれば、歩けるようになるはずだ」という誤解。
- 目的の喪失: 局所の数値(ROM, MMT)改善自体がゴールになり、患者様の生活と乖離する。
→ 結果:機能は改善しても、動作や生活の質(QOL)向上に直結しない。
本質的なリハビリテーションを提供するためには、局所を見る前に全体像を捉える「トップダウン思考」への転換が不可欠です。
2. 臨床推論の基本モデル「3つの階層」
当委員会では、複雑な臨床事象を整理するために、ICF(国際生活機能分類)に基づいた以下の3つの階層(レイヤー)で捉えるモデルを採用しています。
- 【第1層:全体像(参加・HOPE)】
患者様の人生、価値観、生活背景、社会的役割など、リハビリテーションの「目的」となる層。
(ICFにおける「参加」「個人因子」「環境因子」の統合領域) - 【第2層:動作・活動(Activity)】
目的に向かうための具体的な「動き」や「現象」。寝返り、歩行、ADL動作など。
(ICFにおける「活動」領域) - 【第3層:局所機能・身体構造(Body Function/Structure)】
動作を構成するための要素・部品。筋力、可動域、感覚、疼痛など。
(ICFにおける「心身機能・身体構造」領域)
確実な成果を出す臨床推論は、必ず「全体像(HOPE)→ 動作(活動)→ 局所(機能)」の順序で進行します。上位概念から下位概念へ降りていくことで、全ての評価・治療に明確な意図が生まれます。

3. 実践プロセス:HOPEから逆算する7つのステップ
このトップダウン思考を、実際の臨床場面で運用するためのプロセスが以下の7ステップです。この手順を遵守することで、論理的かつ患者中心の介入が可能となります。
Step 1:HOPE(目標設定)
単なる「痛みを取りたい」といった主訴(Complaints)だけでなく、その先にある「人生の目的」や「心から望む生活(HOPE)」をヒアリングし、共有します。これがすべての介入の起点となります。
Step 2:工程分析
HOPEを達成するために必要なタスク(活動)を工程ごとに分解し、遂行を阻害しているボトルネック(課題となる工程)を特定します。

Step 3:目的動作の分析
Step 2の工程分析で特定された「ボトルネックとなっている動作」を目的動作として設定し、なぜその動作が遂行できないのか、どのような代償動作が出現しているかを詳細に分析します。
Step 4:基本動作分析
より基礎的な自動運動(寝返り、起き上がり等)を評価し、運動制御の問題を抽出します。
Step 5:複合運動の評価
身体の複数ユニット(例:骨盤と肩甲帯)の協調性や連動性を詳細に分析します。

Step 6:局所評価
ここで初めて、関節可動域や筋力を評価します。
重要なのは「Step 2〜5で特定された動作課題を解決するために、この機能が必要である」という仮説のもとに評価を行うことです。

Step 7:5つの視点による統合
各段階において、以下の5つの要因を常に考慮し、多角的に問題を捉えます。
- 構造的要因: 骨格、関節、筋の状態
- 中枢神経機能: 脳機能、運動学習、ボディスキーマ
- 環境要因: 物理的環境、人的サポート
- 発達段階・既往歴: 加齢変化、既往症の影響
- 心理・認知的要因: 不安、意欲、注意機能、自己効力感

4. 理論的背景とエビデンス
本フレームワークは、世界的なリハビリテーションの潮流であるBPSモデル(生物心理社会モデル)やICFの概念を基盤とし、臨床実践のために構造化したものです。
理論的背景となる関連文献
| 分野 | 文献(年) | 本モデルとの関連 |
|---|---|---|
| 全体論 | Wade DT et al. (2017) | BPSモデルに基づく「全体像」把握の重要性 |
| 分類 | WHO ICF (2001) | 参加・活動・機能の階層的理解と相互作用 |
| 行動変容 | Navas‑Otero A et al. (2024) | HOPE(自律性)支援が治療効果を高める根拠 ※自律性と行動変容に関する最新知見 |

5. 環境と集団への介入
「全体像」を捉えるアプローチにおいて、患者様を取り巻く「環境」と「集団」への介入は不可欠です。
- 環境調整: 単なる手すりの設置だけでなく、生活動線や道具の配置を最適化します。
- 集団へのアプローチ: 家族や職場における患者様の「役割」を再定義し、社会参加を促進するための人的環境を整えます。

6. 運動制御と学習の階層性
動作を変えるためには、脳の学習プロセスに沿ったアプローチが必要です。本モデルでは、運動制御を以下のピラミッド構造として捉えます。
- 感覚・姿勢反射: 無意識レベルの身体制御
- 感覚運動統合: ボディスキーマ(身体図式)の構築
- 知覚‐運動機能: 意図的な運動実行
- 高次脳機能: 社会的な判断と行動
この階層性を理解することで、一時的な改善ではなく、脳機能レベルでの学習と定着を目指します。

7. この「型」を習得する体系的カリキュラム
療法士活性化委員会では、この「臨床推論の基本の型」を体系化し、実技を含めて習得するためのカリキュラムとして「認定コース」を提供しています。
「基本の型」を身につけることで、皆様が現在持っている手技や知識が有機的に繋がり、臨床における迷いが解消されます。
信頼される療法士の土台を作る
認定コース
多くの療法士が選ぶ、療活のメインカリキュラムです。臨床推論の「基本の型」を構成する4つの要素を、全13ヶ月かけて実践レベルまで引き上げます。*単発コースの受講も可能です。
- 1. 触診・アプローチ法を学ぶ(局所機能への介入)
BASICコース【迷ったらこれ!】 - 2. 評価・促通法を学ぶ(動作・活動への介入)
Assessmentコース - 3. 動作分析・運動療法・ADLを学ぶ(全体と動作の統合)
Motion Analysisコース - 4. 脳機能の基本から体が動くシステムを学ぶ(システムの理解)
BFDコース
よくある質問(FAQ)
この「臨床推論の型」はどんな疾患に使えますか?
脳卒中、整形外科疾患、小児、高齢者など、すべての領域に応用可能です。「人間がどう動くか」「どう生活するか」という普遍的な原理に基づいているため、疾患や対象を選ばず活用いただけます。
特定の手技を学ぶのですか?
はい、思考プロセスだけでなく、各段階に必要な具体的・実践的なアプローチ技術もしっかりと習得します。
「いつ、どこで使うか(思考の型)」とセットで学ぶため、学んだその日から臨床で使えるようになります。
- BASICコース: 関節モビライゼーション、筋膜リリースなど(局所への介入)
- Assessmentコース: 筋力強化、促通手技など(機能への介入)
- Motion Analysisコース: 運動療法、動作訓練、動作介助法など(動作への介入)
- BFDコース: 発達段階・脳神経系への介入、集団療法の評価と介入など(システムへの介入)
「考え方」と「技術」の両輪を回せるようになるのが、本コースの最大の特徴です。
認定資格とはなんですか?
療法士活性化委員会が提供する各コースを修了し、この「基本の型」を高いレベルで実践できると認められた方に発行している資格です。臨床実践力の証明としてご活用いただけます。

