「統合的神経認知運動療法®」は、身体面だけでなく、心理・社会・存在意義といった多層的な観点を統合し、患者様が望む生活(HOPE)の実現をサポートするリハビリテーションのアプローチです。脳機能・身体機能・環境要因を総合的に捉え、行動変容までを包括的に支援します。
1. 本療法の特徴とビジョン
統合的神経認知運動療法®が目指すのは、患者様が「本来の生活を取り戻し、長期的に発達し続けられる身体と心、そして環境」を再構築することです。下記の3つのポイントを軸にしています。
- HOPE(患者様の望み)を最優先: 患者様が「何をしたいのか?」を明確化し、それをゴールに据えたリハビリ計画を立てます。
- 身体機能・脳機能・環境要因の三位一体: 単に身体面だけでなく、認知・心理状態や住環境、社会的背景を総合的に評価・アプローチします。
- 行動変容まで伴走: 神経可塑性に基づいた運動学習だけでなく、患者様のモチベーションや社会参加を支えるためのフォローアップを重視します。
2. 理論的基盤(四層構造モデル・統合システムなど)
2.1 四層構造モデル
人間を包括的に捉えるため、本療法では以下の4層で評価・介入を行います。
- 存在意義・価値観の側面: 人生観や自己超越的な感受性、内面的なモチベーション源。
- 社会的側面: 人間関係、所属コミュニティ、文化的背景、役割など。
- 心理的側面: 感情や認知機能、意欲・動機づけ、ストレス対処など。
- 身体的側面: 筋力、関節可動域、感覚、運動パターン、生理的状態など。
これらは互いに影響し合い、症状や生活機能へ複合的に関わります。身体面の課題が心理面や社会環境と結びついている場合も多いため、一つの次元だけを切り離して扱わないことが重要です。
2.2 統合的システム(身体機能・脳機能・環境要因)
本療法では、患者様の機能を「身体機能」「脳機能」「環境要因」という3つの要素で整理し、それぞれの相互作用を見極めます。
- 身体機能: 筋力、柔軟性、関節可動域、感覚統合など
- 脳機能: 運動学習、認知処理、バランス制御、神経可塑性など
- 環境要因: 住環境、社会的支援、慣習・文化的背景、習慣化された動作のパターンなど
たとえば脳機能(認知や注意力)が低下していると、安全な動作や適切な環境調整が難しくなる場合があります。その一方で、住環境を整備することで動作がスムーズになるなど、3要素は連動して患者様の生活を左右します。
3. 治療の基本原則
本療法には、以下の4つの基本原則があります。
原則 | 概要 |
---|---|
階層性 | 身体機能や感覚などの基盤から高次機能(複雑な日常動作)へ段階的に積み上げていく。 |
統合性 | 身体・脳・環境を分断せず、全体として評価・介入することで実践的な効果を目指す。 |
個別性 | 患者様の生活歴、価値観、身体的特徴に合わせたオーダーメイドアプローチ。 |
持続性 | 神経可塑性の視点から、繰り返しの練習とフォローアップを通じて効果を定着させる。 |
4. 評価と介入のステップ
臨床現場での評価・介入は、段階的に進められます。下図のようなフローで「最終ゴール」を明確にしながら、必要に応じたアプローチを行います。
4.1 HOPE(目標設定)
- 目的: 患者様が「何をできるようになりたいか」、どんな生活を望んでいるかを丁寧にヒアリングし、ゴールを共有します。
- 内容: 現在困っていること・目標・社会的役割などを総合的に洗い出し、治療計画の大枠を作成。
4.2 工程分析
- 目的: HOPE(最終ゴール)を達成するまでの動作やタスクを細分化し、どの工程で課題が生じているかを特定します。
- 例: トイレ動作や着替え動作をステップごとに分割し、どこがボトルネックかを明らかにします。
4.3 ADL動作分析
- 目的: 生活動作(ADL)全体で、誤った代償動作や不適切なパターンがないかを観察・評価します。
- ポイント: 患者様の実際の生活場面をできるだけ再現し、その中で自然に生じる動作を把握します。
4.4 基本動作分析
- 目的: 寝返り、座位保持、立ち上がりなど、より基礎的な「自動運動」を評価し、中枢神経と身体の連携をチェックします。
4.5 複合運動の評価
- 目的: 骨盤帯と肩甲帯、頭頸部、下肢など複数ユニットが連動する動作を詳細に分析して、協調のズレを探ります。
4.6 局所評価
- 目的: 関節可動域(ROM)、筋力(MMT)、触診などで構造的な問題を定量的に把握します。
4.7 5つの視点を常に考慮
各段階で、以下の5要因を同時にチェックします。
- 構造的要因: 筋・骨格・関節など
- 中枢神経機能: 脳幹・小脳・大脳皮質の機能
- 環境要因: 物理的環境、社会的支援、習慣化された代償動作など
- 発達段階・既往歴: 加齢や生活習慣病、既往症など
- 心理・認知的要因: 不安や恐怖、注意力、意欲など
4.8 介入(Plan & Do)
- 構造的要因へのアプローチ: 徒手療法、筋力トレーニング、姿勢・アライメント指導 など
- 中枢神経機能へのアプローチ: バランストレーニング、プロプリオセプション訓練、運動イメージ など
- 環境要因へのアプローチ: 住環境の改良、福祉用具の選定、社会的サポート体制づくり など
- 発達段階・既往歴への配慮: 加齢リスクへの対応、生活習慣の見直し、再発予防策 など
- 心理・認知的要因へのアプローチ: 恐怖・不安の軽減、モチベーション強化、認知行動療法的な支援 など
5. 集団を環境とみなすアプローチ
統合的神経認知運動療法®では、患者様ご本人だけでなく「所属する集団」も重要な環境要因と捉えます。家族、職場、地域コミュニティなど、患者様が役割を果たす場を考慮することが特徴です。
- 集団の目的・価値観の把握: 公式/非公式のルール、期待される役割を確認し、患者様と集団が同じゴールを共有できるようにします。
- コミュニケーション支援: 集団内のコミュニケーションのズレを調整し、患者様が適切に参加できる体制を整えます。
- ワークショップの実施: 家族や同僚を巻き込んだ勉強会、目標共有会などを行い、理解やサポートを深めます。
こうした働きかけにより、社会参加や復職・復学がスムーズに進む事例が多く報告されています。
6. 発達・脳機能と運動制御の階層的理解
6.1 感覚‐運動‐認知‐高次機能のピラミッド
人の運動制御は、下位の感覚や姿勢制御が安定してはじめて、高次機能(計画・実行機能など)が発揮されます。以下のピラミッドを意識することで、学習効率や安全性を高めることができます。
- 感覚・姿勢反射: 反射や基礎的な感覚機能
- 感覚運動統合: 乳幼児期の反射統合、日常動作の自動化
- 知覚‐運動機能: 視空間認知、目と手の協調、バランス制御 など
- 高次脳機能: 計画力、問題解決、実行機能、社会的判断力 など
6.2 ボディスキーマとボディイメージ
- ボディスキーマ: 無意識下で身体位置や動作パターンをコントロールする内部表現
- ボディイメージ: 意識的に認識される身体像(鏡映像療法などで再構築を図る)
この2つの概念を活用し、運動イメージ練習や鏡療法など、実際の感覚とイメージの擦り合わせを行うことで効果的な再学習が期待できます。
6.3 意識と無意識の統合
リハビリ初期では意識的に動作を修正し、最終的には無意識化した自動動作へ移行するプロセスを大切にします。繰り返しの訓練だけでなく、心理面のモチベーションや環境調整も欠かせません。
7. まとめと今後の展望
統合的神経認知運動療法®は、存在意義や社会的要因、身体的要因を多角的に捉え、患者様の生活と直結したリハビリを実践する枠組みです。特に以下の点が本療法の特徴となります。
- HOPE(患者様の望み)からスタートし、個々のゴールに合わせた「オーダーメイド」リハビリ
- 身体機能だけでなく、脳機能や環境要因、心理面まで含めた多次元評価・介入
- 集団(家族や職場)を取り巻く環境要因をリハビリ計画に組み込むことで、社会参加をより円滑に
- 神経可塑性や発達段階の理論をベースに、階層的に学習を進めていく運動制御アプローチ
今後は、AIやIoTを活用したリハビリ支援(遠隔モニタリング、データ解析、NIBS/BMIなど)との連携も期待されています。患者様の「したい生活」を中心に据え、最新技術を補完的に活かすことで、より持続的で効果的なサポートが可能になるでしょう。
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