肩関節屈曲が改善しないとき、どこを見る?「硬い筋探し」から抜け出す評価の考え方
こんにちは、理学療法士の赤羽です。
肩関節屈曲の可動域が改善しないとき、「広背筋が硬いのではないか」「肩甲骨の動きが悪いのではないか」と、肩周りの原因になりそうな組織を探したくなることがあります。
しかし、肩関節屈曲は肩甲上腕関節だけで行われる運動ではありません。上腕骨、肩甲骨、鎖骨、胸郭、体幹が協調して動くことで、上肢を挙上できます。さらに、疼痛、筋出力、神経機能、運動への恐怖なども影響します。
- 肩関節屈曲制限は「組織が硬い」だけでなく、疼痛・筋出力・恐怖・協調性など多因子が関与する。
- まず自動運動と他動運動を比較し、「可動域がないのか」「可動域を使えていないのか」を整理することが出発点になる。
- 評価の目的は正常角度の回復ではなく、患者さんの目的動作(HOPE)を達成するために何が不足しているかを明らかにすることである。
そのため、肩屈曲制限を評価するときは、最初から特定の筋や関節を原因と決めず、次の3点を整理することが重要です。
- 本当に硬くて動かないのか
- 動く範囲はあるが、自分では使えていないのか
- 何を変えると目的動作が改善するのか
まずは自動運動と他動運動を比べる
最初に、自動屈曲と他動屈曲を確認します。
例えば、自動屈曲は120°で止まるものの、他動では160°まで動く場合、関節が硬くて動かないとは限りません。
他動的には可動域が存在するため、以下の要因を考えます。
- 疼痛による筋出力抑制
- ローテーターカフや三角筋の筋力低下
- 肩甲骨と上腕骨の協調性の問題
- 神経障害
- 運動への恐怖
これは、「可動域がない」というより、利用可能な可動域を自動運動では使えていない状態と捉えられます。
一方、自動屈曲が110°、他動屈曲も115°というように、自動・他動ともに制限されている場合は、利用可能な可動域そのものが不足している可能性があります。
この場合は、関節包、筋腱の伸長性、術後や外傷後の瘢痕、骨性制限などを考えます。
疼痛や恐怖による防御性収縮でも他動運動は制限されるため、「他動も硬い=組織が短縮している」とは断定できません。自動・他動の差だけでなく、検査時の状況全体で判断することが重要です。
「痛みが先か、抵抗が先か」を確認する
他動運動では、最終角度だけでなく、疼痛と抵抗感が現れる順番を確認します。
以下のような場合は、疼痛や防御の影響を高く見積もります。
- 明確な抵抗感が出る前に疼痛が生じる
- 検査ごとに止まる角度が変わる
- ゆっくり動かすと可動域が増える
- 上肢を支えると動きやすくなる
反対に、以下のような場合は受動的な組織制限を疑います。
- 疼痛より先に抵抗感が増す
- 毎回ほぼ同じ角度で止まる
- 速度や支持方法を変えても可動域が変化しにくい
実際には、組織の硬さに疼痛や防御が重なっている症例もあります。完全に二分するのではなく、どちらの影響が大きいかを考えます。
条件を変えて屈曲を再評価する
次に、肩を挙げる条件を変えます。具体的には以下のような方法があります。
- 肩甲骨の上方回旋や後傾を介助する
- 肩甲帯を支持する
- 座位と背臥位で比較する
- 胸郭や骨盤の位置を変える
- 挙上方向や速度を変更する
このとき確認するのは、角度だけではありません。
- 疼痛が減ったか
- 力みが減ったか
- 動作が滑らかになったか
- 患者さんが動かしやすいと感じたか
- HOPEに関連した目的動作が改善したか
肩甲骨を介助して屈曲が改善しても、「前鋸筋が弱い」「僧帽筋の働きが悪い」とは断定できません。介助による変化には、力学的な影響だけでなく、触覚入力や安心感、疼痛予期の変化も関係します。
介助は原因筋を特定する検査ではなく、修正可能な要素を探す検査として活用します。
触診だけで原因を決めない
筋を触って硬い、押して痛いという所見だけでは、その筋が屈曲制限の原因とは判断できません。
圧痛から分かるのは、その部位への圧刺激で疼痛が生じるということです。短縮や癒着、屈曲時痛の発生源を直接示すわけではありません。
触診所見に加えて、以下を確認することが重要です。
- その筋が伸張される条件で屈曲が変化するか
- 収縮によって症状が再現されるか
- その筋への介入後に同じ動作が改善するか
最も大切なのは正常角度ではなく目的動作
肩屈曲の評価では、「何度まで挙がるか」に目が向きやすくなります。しかし、患者さんによって必要な可動域は異なります。
目的の例として、以下のようなものが挙げられます。
- 洗髪したい
- 洗濯物を干したい
- 高い棚に物を置きたい
- 仕事やスポーツに復帰したい
目的によって必要な角度、筋力、速度、反復回数は変わります。
体幹伸展や肩甲帯挙上を使って目的動作が改善した場合、その動きをすぐに悪い代償と判断する必要はありません。目的達成に役立つ適応戦略として、一時的に利用できる可能性があります。
代償の「見た目」ではなく、以下の観点から判断します。
- 反復によって頸部や腰部がつらくならないか
- 重い物にも対応できるか
- 疲労しても安全に行えるか
まとめ
肩関節屈曲制限を評価するときは、硬そうな組織を探すことから始めるのではありません。
まず自動運動と他動運動を比較し、「動く範囲がないのか」「動く範囲を使えていないのか」を整理します。その後、肩甲骨、鎖骨、胸郭、運動速度、重力条件などを変え、疼痛や目的動作が変化するかを確認します。
肩屈曲制限の評価とは、正常な動きを押しつける作業ではありません。
患者さんが目的を達成するために、何が不足し、何を補う必要があるのかを明らかにする作業です。
本記事が、日々の臨床の一助となれば幸いです。
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