こんにちは、理学療法士の大塚です。
- 解剖学は「覚える」だけでは臨床につながらない。知識を目の前の人の動きへ「つなぎ直す」視点が必要。
- 骨模型にテープを貼る作業は、頭の中のイメージと実際の構造とのずれを、自分の手で確かめるための一つの手段。
- 「生活から身体へ目を向け、身体で確かめたことを生活へ戻す」というサイクルが、学んだ知識を力に変える。
「解剖学は大事」と言われるたびに、教科書を開いていた
「解剖学と運動学と生理学は大事だよ」
みなさんも、実習中や新人の頃に、一度は言われたことがあるのではないでしょうか。
僕は何度も言われました。
患者さんの動きを見ても、何を評価したらいいのかわからない。評価をしてみても、そこからどう介入につなげればいいのかわからない。
そんなときに先輩へ相談すると、返ってくるのがこの言葉でした。
学生時代の勉強が十分ではなかったという自覚もあったので、「やっぱり基礎が足りないんだな」と思い、改めて解剖学の教科書を開きました。
筋の名前、起始・停止、作用、支配神経。
一つひとつ確認して、覚え直していく。
ただ、読み進めていると、いつも同じところで手が止まる。
「それで、この知識は目の前の患者さんと、どうつながるんだろう?」
大事なのはわかる。勉強しなければいけないこともわかる。
でも、何を考えながら勉強すれば、臨床につながるのかがわかりませんでした。
国家試験の勉強と、臨床の勉強は、同じではなかった
今振り返ると、当時の僕は、臨床で困って教科書を開いているのに、勉強の仕方は国家試験のために勉強していた方法と同じでした。
起始はどこか。停止はどこか。作用は何か。
覚える項目ははっきりしています。
一方で、その筋が立体的な身体の中でどこを通り、隣の筋とどう重なり、関節とどのような位置関係にあるのか。そこまでは、うまくイメージできていませんでした。
さらに、その働きが、立ち上がるときや歩くとき、服を着るときに、どう関わっているのか。
反対に、目の前の人が生活の中で困っているとき、どの動きに注目し、どの筋や関節を確かめればよいのか。
その行き来ができていなかったんです。
僕には知識を補うこととあわせて、覚えた知識を、目の前の人の動きにつなげて考える手がかりが必要だったのだと思います。
教える立場になって、同じ壁にぶつかった
この悩みは、教える立場になってからも続きました。
自分がわかっていることを説明すれば、相手も同じように理解できるのか。
限られた時間の中で、何から伝えて、どこを一緒に確かめればよいのか。
「解剖学は大事」と伝えるときに、かつての僕と同じように、その先で立ち止まってしまう人もいるかもしれない。
そう考えながら、知識を臨床へつなげる伝え方を模索していました。
骨模型にテープを貼るという実験
その中で取り組んだことの一つが、骨模型を使って筋の走行を示すことでした。
最初は、筋に見立てたセラバンドを骨模型に当てていました。
「ここから始まって、ここを通って、ここにつきます」
教科書の図と骨模型を見比べながら、立体的な位置関係を伝えようとしました。
ただ、その方法でできることはその場で当てて見せるところまででした。
そこで、筋に見立てたテープを骨模型に貼ってみることにしました。
一つ貼って、また一つ貼る。
講義が進むにつれて、骨模型に筋が増えていく。
すると、一つの筋の走行に加えて、「この筋の上に別の筋が重なる」「こちらの筋は、もっと深いところにある」という関係も見えてくるようになります。




自分の手を動かして、はじめてわかるずれ
そして、貼っている僕自身にも、気づきがありました。
「このくらいの長さかな」と思って切ったテープが、模型に当ててみると届かない。
今度は長すぎる。
頭の中では、起始も停止もわかっているつもり。でも、実際に骨模型の上でたどってみると、思い描いていた距離や通り道とずれている。
自分で手を動かしたことで、頭の中のイメージが曖昧だったところを、具体的に確かめられたんですね。
- どこを通ると思っていたのか?
- 実際に模型でたどると、どうなるのか?
- どこを捉え直す必要があるのか?
教科書を読み直すときにも、確認したいことがはっきりします。
僕は、この「自分の理解を確かめる」という作業を大切にしています。
頭の中で思い描いていることを、実際のものと照らし合わせる。ずれがあれば、もう一度見て、考え直す。
骨模型にテープを貼ることは、そのための一つの方法です。
構造の理解を、生活の中でつなぎ直す
そして、そこで捉えた筋や関節の位置関係を、今度は実際の身体や動きの中で確かめていく。
- その筋は、関節に対してどこにあるのか?
- 関節の位置が変わると、どのような関係になるのか?
- 生活の中では、どの場面でその動きが必要になるのか?
こうした問いを持つことで、教科書を読むときの視点も変わってくるのではないでしょうか。
身体の構造を詳しく理解するために、一つひとつを分けて学ぶことは大切です。
筋、骨、関節、神経。それぞれについて学ぶからこそ、細かな違いや働きがわかります。
そして臨床では、その知識を、生活している一人の人の中でつなぎ直していく必要があります。
「服を着る」という場面で考えてみる
例えば、服を着るときに困っている方がいたとします。
「服を着る」という一連の動きの中で、どの場面に困っているのか。
- 袖に手を通すときなのか
- 腕を上げるときなのか
- 背中へ手を回すときなのか
そこから実際の動きを見て、関係する関節や筋の働きを考え、必要な評価で確かめていく。
さらに、評価や介入で確認したことを、もう一度、服を着る場面へ戻して考える。
「関節は動きやすくなったけれど、服を着るときはどうだろう?」「ご本人は、着替えやすくなったと感じているだろうか?」
- 生活から身体へ目を向ける
- 身体で確かめたことを生活へ戻す
- 学ぶために分けた知識を、その人の日常生活という軸でもう一度つなぎ直す
僕が療活でお伝えしたいのは、こうした考え方です。
教科書を開くときに、一つ問いを持ってみてほしい
もし今、「勉強しているのに、臨床でどう使えばいいのかわからない」と感じている方がいたら、教科書を開くときに、一つ問いを持ってみてください。
「今日お会いしたあの方の動きと、ここに書いてあることは、どうつながるだろう?」
最初から答えが見つからなくても、どこまでわかっていて、何を確かめたいのかを整理することはできます。
- 筋の通り道が曖昧なら、図や模型でたどってみる
- 動きとの関係がわからなければ、その方の動作のどの場面をもう一度見たいのか考えてみる
そうやって、知識と目の前の人を行き来するところから始めてみてください。
かつて教科書を開いて立ち止まっていた僕も、そのつながりを探してきました。
学んだことが、目の前の人を理解する手がかりになる。そして、その人が生活の中で動けることをサポートする力になる。
そのつながりを、これからもみなさんと一緒に考え、自分の手で確かめていきたいと思っています。

