外出困難でも社会参加は実現できる──デイサービスにおける療法士の役割
- 「外出できない=社会参加できない」ではなく、参加の形を広く捉えることが療法士の視点として重要である。
- その人の強み・歴史・役割を起点に支援を設計することで、自己効力感と活動量の向上が期待できる。
- デイサービスは訓練の場にとどまらず、利用者と社会をつなぐ「接点の場所」として機能できる。
こんにちは、作業療法士の内山です。前回のコラムでは、「孫に料理を作りたい」という90歳女性のHOPEを起点にした支援の実際をお話ししました。今回は、身体的な外出困難を抱えながらも「社会参加」を実現した事例を通して、デイサービスが担える役割の広がりについてお伝えしていきます。
「外出できないから、社会参加は難しい」──そう決めつけていませんか?
外出することと、社会につながることは、必ずしも同じではありません。外出が難しい状況であっても、その人の「つながりたい」「役に立ちたい」「誰かと関わりたい」というHOPEを叶える方法は、意外なところにあります。
外出することと、社会につながることは、必ずしも同じではありません。外出が難しい状況であっても、その人の「つながりたい」「役に立ちたい」「誰かと関わりたい」というHOPEを叶える方法は、意外なところにあります。
1. 事例の概要
利用者情報
- 氏名:Cさん(82歳、男性)
- 診断名:慢性心不全、変形性腰椎症、両膝関節症
- 要介護度:要介護3
- 居住形態:妻と二人暮らし(マンション3階・エレベーターあり)
- デイサービス利用頻度:週3回
「昔は町内会の役員をやっていて、地域の行事を仕切るのが生きがいだった。今は体が不自由で出かけられない。デイに来ても、ただ座っているだけで何もできていない気がする」
HOPE(利用者の希望・目標)
- 本人の言葉:「誰かの役に立つことがしたい。地域のことに関わりたい」
- 長期目標:デイサービスや地域の活動において、自分の経験・知識を活かした役割を担える
- 短期目標:デイサービス内で、継続的な「役割のある活動」に参加し、自己効力感と活動量の向上が期待できる状態になる
2. 初期評価
身体機能面
- 心肺機能:6分間歩行試験 約240m。息切れはMRC grade 3(少し歩くと息切れ)
- 筋力:下肢筋力低下(大腿四頭筋 MMT 2〜3)。歩行は歩行器使用で室内自立
- バランス:BBS 28点。屋外歩行・段差は全介助〜重介助
- 疼痛:腰痛・膝痛 NRS 5〜6(歩行・立位継続時)
- 体力:30分以上の活動は疲労が著明。午後は傾眠傾向あり
生活・参加面
- 屋外外出は月1回の通院のみ(家族同伴・車椅子)
- デイでの過ごし方:主に椅子座位で体操に参加するのみ。「他に何かしたいとは言い出せない」
- 趣味:若い頃から書道を嗜む。地域活動のポスター・掲示物を手書きで作成していた経験あり
心理面
- 「役に立てない自分」への強い焦りと喪失感
- 一方で、過去の地域活動の話になると表情が明るくなる。語りに熱が入る
- 「体が動けば、まだできることがあるはずだ」という意欲は保たれている
3. アプローチ
デイ内での「役割のある活動」の設計
外出困難であっても、デイサービスというコミュニティの中に「Cさんにしかできない役割」を作ることが支援の軸になりました。
役割①:デイ内の掲示物・行事案内の作成担当
- 書道の技術を活かし、月1回のデイ内行事の案内・掲示物を手書きで作成
- 「デイの顔」としてCさんの作品が玄関に飾られる状態を作る
- 他の利用者・スタッフから「上手ですね」「また作ってください」と声をかけられる機会が自然に生まれた
役割②:新しい利用者の「案内役」
- デイに慣れていない新規利用者へ、「ここがトイレで、ここが食堂で」と場所を教える役を担う
- 「この施設のことを一番知っているのはCさん」という位置づけをスタッフが意図的に作る
役割③:地域との接続(作品を通じた社会参加)
- 町内会の知人がCさんの書道の作品を見て、「地域の掲示板に貼ってもいいか」と問い合わせてきた
- Cさんの作品が自宅外の地域空間で展示されるという「作品を通じた地域との交流・社会参加」が実現
個別機能訓練・体力管理
- 心肺機能を考慮した低強度の持久力向上訓練(座位での自転車エルゴメーター 最大心拍数の50〜60%を目安とし、自覚的運動強度や血圧・SpO2も併用しながら個別調整)
- 腰椎・膝関節の疼痛管理(活動前後のコンディショニング)
- 活動量のモニタリング:活動後の疲労スコアを記録し、Cさん自身が体調を自己管理できる力を育てる
多職種連携
- 看護師と連携:心不全管理のために体重・血圧の変動と活動量の関係をモニタリング。「今日はここまで」という安全な活動量の目安をCさんと一緒に確認
- 介護スタッフと共有:「Cさんは指示を待つより、役割を与えると生き生きする場面が多い」という情報をチーム全体で共有し、日常的に役割が生まれるような声かけを統一
「役割の設計」はOTが一人でやるものではない。スタッフ全員がCさんの「らしさ」を知り、日常の中で引き出すことが本当の支援だと実感した場面だった。
4. 結果と変化
活動量・機能面の変化
- デイでの活動時間(座位での作業時間):平均30分 → 60〜90分(3ヶ月後)
- BBS:28点 → 34点
- 「疲れたから横になりたい」という訴えの頻度が減少
心理・参加面の変化
- 「何もできない」という発言が減り、「今日は掲示物を仕上げたい」という目的を持って来所するようになった
- 町内会の知人からの反応を通じて「まだ地域とつながっている」という感覚を取り戻した
- 妻が「家でも楽しそうに書道の話をするようになった。表情が変わった」と話した
家族・地域との接続
- 月1〜2回、町内会関係者がデイへ「Cさんに書いてもらいたい」と訪れる形が生まれた
- デイが単なる通所先ではなく、Cさんと地域社会をつなぐ「接点の場所」として機能し始めた
5. この事例から学んだこと
Cさんの事例で得た最大の気づきは、「外出できないこと=社会参加できないこと」ではないということです。
外出という形の社会参加が難しくても、その人の力や歴史が誰かの役に立つ接点を作ることで、社会とのつながりは維持・回復できます。そして、デイサービスはその接点を作るのに非常に適した場所です。
この事例で意識した3つのポイントは以下の通りです。
【支援のポイント①】強みを「役割」に変換する
Cさんが持つ書道の技術・地域経験という「強み」を、デイの中で活きる「役割」に変換することが支援の核心だった。
Cさんが持つ書道の技術・地域経験という「強み」を、デイの中で活きる「役割」に変換することが支援の核心だった。
【支援のポイント②】作品を通じた社会参加の設計
体力・身体機能の制約があっても、「作品を通じて地域に存在する」という参加の形を意図的に作れる。
体力・身体機能の制約があっても、「作品を通じて地域に存在する」という参加の形を意図的に作れる。
【支援のポイント③】チームで「その人らしさ」を引き出す
OTが個別介入で引き出した強みを、スタッフ全員が日常の中で活かせるよう情報共有することが不可欠。
OTが個別介入で引き出した強みを、スタッフ全員が日常の中で活かせるよう情報共有することが不可欠。
まとめ
- 外出困難でも社会参加は実現できる。「参加の形」を広く捉えることが療法士の視点として重要
- その人の「強み・歴史・役割」を起点に支援を設計することで、自己効力感と活動量の向上が期待できる
- デイサービスは単なる訓練の場ではなく、利用者と社会をつなぐ「接点の場所」として機能できる
- チーム全体でその人の「らしさ」を共有し、日常の中で引き出す仕組みを作ることが持続的な支援の鍵
本コラムが、デイサービスでの利用者支援の一助となれば幸いです。ご質問やご意見がございましたら、お気軽にお寄せください。
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