こんにちは、理学療法士の内川です。
「立ち上がるときに手で強く支えているけれど、どこから評価すればいいのかな?」
「大殿筋の力が弱そうだけど、筋肉だけでなく神経も確認したほうがいいのかな?」
臨床に出たばかりの頃は、患者さんの動作で気になるところを見つけても、その理由をどう考え、何を評価すればよいか迷うことがあると思います。
学校で学んだ筋肉や神経の知識を、目の前の動作と結びつけるのは難しいですよね。
そんなときは、一度にすべてを判断しようとせず、「どの筋肉が働く動作なのか」「その筋肉をどの神経が支配しているのか」と、一つずつ整理してみましょう。
今回は、大殿筋を支配する「下殿神経」を取り上げます。走行と支配を確認しながら、立ち上がりや歩行のどこに注目すればよいか、筋力低下の原因をどう考えるかを一緒に整理していきましょう。
- 下殿神経はL5・S1・S2由来で、梨状筋下孔を通り大殿筋深面へ走行する
- 大殿筋の筋力低下は立ち上がり・歩行の体幹制御に影響し、特徴的な代償動作が出現する
- 大殿筋麻痺に下腿・足部症状が伴う場合は、神経根や仙骨神経叢の障害も考慮する必要がある
目次
- 下殿神経とは
- 下殿神経の走行
- 下殿神経の支配
- 下殿神経の障害
- 下殿神経の評価
- まとめ
1.下殿神経とは
下殿神経は、L5・S1・S2脊髄神経の前枝に由来する仙骨神経叢の主要な分枝であり、大殿筋を単独で支配する。
中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋を支配する上殿神経(L4〜S1)とは、走行レベルも支配筋も明確に異なる。
臨床では主に大殿筋の筋力低下、萎縮、動作代償から機能を評価する。
名称の似ている「下殿皮神経」は、主に後大腿皮神経から分かれて殿部下方の皮膚感覚を担当する神経であり、下殿神経とは解剖学的に区別して整理する必要がある。
2.下殿神経の走行
- 仙骨神経叢
- 梨状筋の下方(梨状筋下孔)
- 大殿筋の深面
- 大殿筋

下殿神経は、大坐骨孔のうち梨状筋の下方にある「梨状筋下孔」を通過して骨盤の外へ出る。
この出口部では、坐骨神経、後大腿皮神経、下殿動静脈、内陰部動静脈などと密集して併走する。
骨盤外へ出た直後、下殿神経は複数の筋枝に分かれ、大殿筋の深面(裏側)から筋腹へと進入する。
基本として「梨状筋の下を出て、大殿筋の裏側から入り込む」と整理するとイメージしやすい。

3.下殿神経の支配
大殿筋の運動支配
大殿筋の主な作用は「股関節伸展」と「外旋」。
特に、股関節が深く屈曲した肢位から身体を持ち上げる「立ち上がり動作」や「階段昇降」において極めて重要な抗重力伸展パワーを発揮する。
また、足底が接地した荷重位(CKC)では、体幹が前方へ過剰に倒れ込む慣性モーメントを後方から強力に制御する。
股関節伸展には大内転筋(坐骨部)やハムストリングスも関与する。そのため、下殿神経が障害されても股関節伸展が完全にゼロになるとは限らず、他筋による代償が出現する点に留意したい。
4.下殿神経の障害
主な原因
- 医原性侵襲(手術):人工股関節置換術(THA)の後方アプローチや後外側進入における大殿筋の筋間展開・過度な牽引
- 外傷・血腫:骨盤骨折、後方脱臼、骨盤内・殿部深層の血腫や腫瘍による圧迫
術後の大殿筋筋力低下には、切開・展開による直接的侵襲、疼痛による反射性筋抑制、術後の廃用も絡むため、筋力低下のみで神経麻痺と短絡的に結びつけない姿勢が重要である。
大殿筋歩行
大殿筋の筋力低下が生じると、平地歩行の初期接地から荷重応答期にかけて、大殿筋によるブレーキが利かず、上半身の重みで体幹が前方に崩れ落ちてしまう。
そのため、患者は接地した瞬間に「体幹を意図的に後方へ強く傾ける(仰け反らせる)」特徴的な代償が出現する。
5.下殿神経の評価
① 問診と発症経過の確認
股関節手術歴(後方進入等)、骨盤外傷歴、立ち上がりや階段での困難感、腰痛や下肢しびれの有無を聴取する。
② 大殿筋の単独筋力評価(MMT)
腹臥位にて「膝関節を90度屈曲した状態での股関節伸展」を行わせる。
膝を曲げることでハムストリングスの張力を緩め、大殿筋の収縮をより強調して左右比較する。
③ 動作分析(立ち上がりと歩行)
- 椅子からの立ち上がり時に極端に前傾を強めたり手押し代償を使っていないか
- 歩行の荷重受け入れ期に体幹後傾(大殿筋歩行)が出ていないか
④ 障害高位の鑑別(坐骨神経・神経根の除外)
下殿神経は仙骨神経叢から坐骨神経とは独立して分岐する。
坐骨神経単独の障害(梨状筋症候群等)では、通常は大殿筋への神経支配が直接的に障害されにくいと考えられている。
もし大殿筋麻痺に加えて下腿や足部の麻痺・感覚障害が併発していれば、より広範な神経根レベルや仙骨神経叢の障害も念頭に置いて鑑別を進めることが重要である。
6.まとめ
① 解剖・特徴
- 下殿神経はL5・S1・S2由来で、仙骨神経叢から分岐する
- 梨状筋下孔→大殿筋深面へ走行する
- 大殿筋を支配し、股関節伸展・外旋に関与する
- 下殿皮神経とは別の神経であり、皮膚感覚は支配しない
② 評価とアプローチ
- 膝屈曲位での股関節伸展筋力を左右で比較する
- 立ち上がり・階段昇降での大殿筋の出力を確認する
- 歩行初期に体幹後傾(大殿筋歩行)がないか観察する
- 股関節手術・骨盤外傷などの発症背景を確認する
- 下腿・足部の筋力や感覚も確認し、神経根・仙骨神経叢障害との鑑別を行う
③ 機能低下の影響と臨床的注意点
- 大殿筋機能低下 → 立ち上がり・階段昇降の困難
- 歩行時の伸展制御低下 → 体幹後傾による代償
- 股関節伸展はハムストリングスなども担うため、完全に伸展不能になるとは限らない
- 術後の筋力低下は、神経障害だけでなく疼痛・筋侵襲・廃用でも生じる
- 大殿筋麻痺に下腿・足部症状を伴う場合は、より広範な神経根レベルや仙骨神経叢の障害も考慮することが重要
参考文献
- 基礎運動学(第6版 補訂)
- バトラー 神経系モビライゼーション(触診と治療手技)
- プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系(第3版)
- ビジュアルガイド 末梢神経と筋の評価

