こんにちは、理学療法士の内川です。
「患者さんから”手がしびれます”と言われたけれど、何を評価したらいいかわからない…」
「デルマトームは覚えたけれど、実際の症状と一致しない…」
「神経根と末梢神経って、何が違うの?」
神経の評価に苦手意識を持つ方は少なくありません。
神経を理解するためには、正中神経や坐骨神経などの走行を覚えるだけでなく、「どこから始まり、何を伝え、どこで障害されると、どのような症状が現れるのか」をつなげて考えることが大切です。
今回は、これから末梢神経を学ぶための土台となる「末梢神経の基礎」を整理していきましょう。
- 末梢神経は神経根→脊髄神経→神経叢→末梢神経という流れで筋・皮膚へ分布し、運動・感覚・自律神経の3つの機能を担う
- 「しびれ=末梢神経障害」ではなく、神経根障害・中枢神経障害との鑑別が重要。症状の分布・筋力・感覚・反射を総合的に評価する
- 神経根障害と末梢神経障害の違いは1つの所見だけで判断せず、複数の神経学的所見と問診を組み合わせて解釈することが大切
1.神経系とは?―中枢神経と末梢神経―
神経系は大きく、
- 中枢神経系:脳・脊髄
- 末梢神経系:中枢神経系と身体各部をつなぐ神経
に分けられる。
イメージとして、中枢神経は情報を統合・処理する「中心」、末梢神経は中枢と身体各部との間で情報をやり取りする「通り道」と考えられる。
例えば皮膚で感じた感覚情報は末梢神経を通って中枢へ伝えられる。反対に、運動に必要な情報は中枢から末梢神経を介して筋へ伝えられる。
つまり、私たちが身体を動かしたり、触られたことを感じたりするためには、中枢神経と末梢神経の両方が関わっている。
2.末梢神経はどのようにつながっている?
四肢では大まかに、
脊髄 → 神経根 → 脊髄神経 → 神経叢 → 末梢神経 → 筋・皮膚
とつながっている。
例えば上肢では、脊髄から出た神経線維が腕神経叢を形成し、そこから正中神経・尺骨神経・橈骨神経などへ分かれる。下肢でも腰神経叢や仙骨神経叢を経て、大腿神経や坐骨神経などにつながる。
そのため末梢神経を理解するときは、「どの神経根から線維を受け、どこを走り、どの筋・皮膚へ向かうのか」をつなげて考えることが重要となる。

3.末梢神経の構造
末梢神経は、1本の単純な「電線」ではない。
神経線維の中心には情報を伝える軸索があり、有髄線維ではその周囲をSchwann細胞が形成する髄鞘(ミエリン)が取り囲む。
さらに神経線維は、以下のような層状の構造によって保護されている。
- 神経内膜:個々の神経線維を包む
- 神経周膜:神経線維の束(神経束)を包む
- 神経上膜:神経全体を包む
この構造を知っておくと、神経障害に関しても理解しやすくなる。
4.運動・感覚・自律神経の役割
末梢神経には主に、以下の役割がある。
- 運動:筋などへ情報を伝える
- 感覚:皮膚や筋・関節などから情報を中枢へ伝える
- 自律神経:発汗や血管などの調節に関与する
末梢神経が障害されると、「しびれる」だけではなく、筋力低下や感覚低下などが生じる可能性がある。つまり、末梢神経を評価するときには、感覚だけでなく運動機能も確認することが重要。
5.神経根と末梢神経の違い
神経根症と末梢神経障害の違いは間違えやすいポイント。
例えば「足背がしびれて、足関節背屈が弱い」患者さんがいた場合、これだけで「L5神経根障害だ!」と判断してはいけない。
L5由来の神経線維は末梢で複数の神経へ分かれていく。そのため、同じような症状でも神経根の問題なのか、より末梢の神経の問題なのかを考える必要がある。
デルマトームには隣接領域との重なりや個人差がある。感覚・筋力・反射・疼痛など複合的に評価をし、判断する必要がある。
「この場所がしびれる=○○神経根」と1つの所見だけで判断しないことが大切となる。
6.末梢神経が障害されるとどうなる?
末梢神経が障害される原因はさまざまあるが、臨床で遭遇する代表例の1つに絞扼性神経障害がある。
例えば、
- 正中神経 → 手根管
- 尺骨神経 → 肘部管など
- 総腓骨神経 → 腓骨頭周囲
などは障害部位としてよく知られている。
末梢神経の障害では、以下のような症状がみられる可能性がある。
- しびれ、感覚低下
- 神経障害性疼痛
- 筋力低下
- 筋萎縮
- 反射の低下
- 自律神経症状
「しびれ=末梢神経障害」ではない。だからこそ症状だけで決めつけず、障害部位を考えていく必要がある。
7.末梢神経を評価するときのポイント
神経症状を疑ったら、まず以下を整理してみるといい。
①症状の分布
どこに症状があるのか、片側か両側か、末梢神経の支配領域と一致するのかを確認する。
②感覚
触覚などを確認し、症状の分布と末梢神経の感覚支配領域を照らし合わせる。
③筋力
どの筋が弱いのかを確認する。
1つの筋だけを見るのではなく、同じ神経根由来でも異なる末梢神経に支配される筋を比較すると、障害部位を考えるヒントになる。
④反射
深部腱反射も神経学的評価の重要な情報。
末梢神経障害でも障害部位や重症度によっては反射の低下がみられることがあり、神経根障害では低下・消失することがある。反射は単独で判断するのではなく、他の神経学的所見と合わせて解釈することが重要。
⑤神経の伸張テストや圧迫テスト
伸張テストとしてはULTT(upper limb tension test)やSLRなどがある。
圧迫・誘発テストとして有名なものはSpurling testやKemp testがある。ただし、Kemp testは神経根刺激や腰椎椎間関節由来の疼痛を評価する誘発テストとして位置づけられることが多い。
検査単独で障害部位を決めるのではなく、問診やその他の神経学的所見と組み合わせて解釈することが大切。
8.まとめ
① 解剖・特徴
- 神経系は中枢神経(脳・脊髄)と末梢神経に分けられる
- 末梢神経は神経根→脊髄神経→神経叢→末梢神経を経て筋・皮膚へ分布する
- 神経は軸索・髄鞘(ミエリン)をもち、神経内膜・神経周膜・神経上膜で保護されている
- 末梢神経は運動・感覚・自律神経の3つの機能を担う
② 評価とアプローチ
- 症状の分布が神経根・末梢神経の支配領域と一致するか確認する
- 感覚・筋力・深部腱反射を組み合わせて評価する
- 神経根障害と末梢神経障害を一つの所見だけで判断しない
- ULTT・SLRなどの伸張テストやSpurling・Kempテストは、問診や神経学的所見と合わせて解釈する
③ 機能低下の影響と臨床的注意点
- 末梢神経障害ではしびれ・感覚低下・筋力低下・筋萎縮・反射低下などが生じる可能性がある
- 絞扼性神経障害(手根管症候群・肘部管症候群・総腓骨神経障害など)は臨床で遭遇しやすい
- 「しびれ=末梢神経障害」とは限らず、神経根障害や中枢神経障害も鑑別する
- 障害部位の特定には、症状・感覚・筋力・反射・誘発テストを総合的に評価することが重要
9.参考文献
- 基礎運動学 第6版補訂
- バトラー・神経系モビライゼーション 触診と治療手技
- 病気が見える 脳神経
- プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論運動器系 第3版
- ビジュアルガイド 末梢神経と筋のみかた
- 病態動画から学ぶ臨床整形外科的テスト

