肩の前が痛いとき、どの筋を考える?―肩関節前面痛に関与する7筋を解剖学から整理する

肩の前が痛いとき、どの筋を考える? ―肩関節前面痛に関与する7筋を解剖学から整理する

こんにちは、理学療法士の赤羽です。

臨床で患者さんから「肩の前が痛い」と訴えられたとき、どのような組織を思い浮かべるでしょうか?

肩関節前面には、筋・腱・関節包・滑液包など多くの組織が存在しています。そのため、「この場所が痛いからこの筋」と疼痛部位だけで責任組織を決めることはできません。

一方で、どの筋がどこを走行し、どのような運動で負荷されるのかを知っておくことは、疼痛に関与する組織の仮説を立てるうえで重要です。

今回は、肩関節前面痛をみる際に知っておきたい筋を整理します。

  • 肩前面痛には、上腕二頭筋長頭腱・大胸筋・肩甲下筋など複数の筋・腱が関与し得る
  • 疼痛部位だけで責任組織を断定せず、走行・収縮・伸張での症状再現を組み合わせて仮説を立てることが重要
  • 「痛い筋を当てる」のではなく、評価の流れを通じて仮説を検証していく思考が臨床推論の核心

① 上腕二頭筋―特に長頭腱は重要

肩前面痛でまず候補となりやすいのが上腕二頭筋です。

長頭は関節上結節から起こり、肩関節を通過したあと結節間溝を下降します。一方、短頭は烏口突起から起始します。

そのため、評価ポイントは以下のように分かれます。

  • 長頭腱:結節間溝周囲
  • 短頭:烏口突起から上腕前面

長頭腱を疑う場合、結節間溝周辺の圧痛に加え、以下の動きで患者さんの「いつもの痛み」が再現されるか確認します。

  • 肩関節屈曲
  • 肘屈曲
  • 前腕回外
⚠️ 注意:個々のスペシャルテストだけで長頭腱障害を診断する精度は十分ではないため、総合的な判断が必要です。

② 大胸筋―前胸部から前腋窩をみる

大胸筋は鎖骨・胸骨・肋軟骨・腹直筋鞘の前葉から起こり、上腕骨の結節間溝外側唇(大結節稜)へ停止するとされています。大きな扇状の筋であり、前胸部から前腋窩、上腕骨近位まで広く評価する必要があります。

以下の動きで収縮するため、抵抗運動や反対方向への伸張で症状が再現されるかを確認します。

  • 肩関節水平内転
  • 内転
  • 内旋

③ 小胸筋―烏口突起周囲をみる

小胸筋は第3〜5肋骨から烏口突起へ向かいます。そのため、肩前面というより烏口突起周囲から前胸部深層が評価対象となります。

肩甲骨の運動にも関係するため、単純な圧痛だけでなく、肩甲骨運動との関係を見ることが重要です。

④ 烏口腕筋―忘れやすい肩前面の筋

烏口腕筋は烏口突起から起こり、上腕骨内側前面中部へ停止します。位置としては上腕二頭筋短頭の深部〜内側にあるため、烏口突起から上腕近位前内側の症状では候補になります。

以下の動きで症状が変化するか確認します。

  • 肩関節屈曲・内転方向への抵抗
  • その反対方向への伸張

⑤ 肩甲下筋―肩前面深部の候補

肩甲下筋は肩甲下窩から起こり、上腕骨小結節を中心に停止するローテーターカフの一つです。内旋抵抗や外旋方向への伸張で症状を確認し、必要に応じて以下のテストを使用します。

  • Bear-hug test
  • Belly-press test
  • Lift-off test
⚠️ 注意:これらのテストが陰性だからといって、必ずしも肩甲下筋病変を除外できるわけではないため注意が必要です。

⑥ 三角筋前部―前外側の表在痛

三角筋前部は鎖骨外側から上腕骨三角筋粗面へ走行します。肩前面よりやや外側の前外側部に表在するため、同部位の圧痛や肩屈曲時痛では候補になります。

三角筋前部は肩関節屈曲に大きなモーメントアームを有しており、肩屈曲への抵抗で症状が変化するか確認することが一つの方法です。

⑦ 広背筋・大円筋―腋窩まで評価範囲を広げる

広背筋と大円筋は、どちらも上腕骨小結節稜に停止し、肩関節伸展・内転・内旋に関与します。筋腹は肩前面よりも腋窩〜後方に位置するため、停止部の痛みとして候補にあがります。

「痛い筋を当てる」のではなく「仮説を立てる」

肩前面に痛みがあるからといって、圧痛のある筋がそのまま疼痛源とは限りません。あくまで、仮説を立てるための知識・評価の一つとして捉える必要があります。

評価の流れ(仮説形成のステップ)
  1. 疼痛部位を確認する
  2. その場所を走行する筋・筋腱を考える
  3. 圧痛を確認する
  4. 収縮・伸張で負荷を変える
  5. 患者さんの「いつもの痛み」が再現されるか確認する
  6. 実際に困っている動作との関係を確認する

大切なのは、この流れを通じて仮説を立てていくことです。

まとめ

今回の内容を3点でまとめます。

  • 肩前面痛には上腕二頭筋長頭腱・大胸筋・小胸筋・烏口腕筋・肩甲下筋・三角筋前部・広背筋/大円筋など多くの筋・腱が関与し得ると考えられます
  • 疼痛部位と筋の走行を照合し、収縮・伸張での症状再現を組み合わせて仮説を立てることが重要です
  • 「どこが痛いか」だけでなく「どの動きで・なぜそこに負荷がかかるのか」という視点が臨床推論の核心です

本記事が、日々の臨床の一助となれば幸いです。

参考文献

  • 監訳:坂井建雄, 松村譲兒. プロメテウス解剖学アトラス 解剖総論/運動器系, 第3版, 医学書院
  • Bélanger V, Dupuis F, Leblond J, Roy JS. Accuracy of examination of the long head of the biceps tendon in the clinical setting: A systematic review. J Rehabil Med. 2019 Jul 8;51(7):479-491.

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この記事の執筆・監修

執筆:赤羽 利輝(理学療法士)運動器・疼痛

監修:大塚 久(理学療法士・療法士活性化委員会 代表)