痛みのメカニズムから始める臨床推論|評価と介入の優先順位を整理する

  • 痛みは侵害受容入力だけで決まるものではなく、感覚・情動・認知・社会的背景を含む個人的な体験と考えられています。
  • 疼痛分類(侵害受容性・神経障害性・痛覚変調性)は「診断ラベル」ではなく、「介入仮説を立てるための枠組み」として活用することが重要です。
  • 評価はBPSモデルとHOPEを統合し、「痛みをゼロにする」ではなく「生活の再構築」を目指す視点が臨床を変えます。

痛みは「入力」ではなく「体験」である

こんにちは、理学療法士の赤羽です。
臨床で痛みを訴える患者さんを前にしたとき、私たちはつい「どこが悪いのか」「どの組織が痛みを出しているのか」と考えがちです。
もちろん、組織損傷や炎症、神経症状、画像所見を確認することは非常に重要です。しかし、それだけで痛みを説明しようとすると、臨床では行き詰まることがあります。

たとえば、

  • 画像上の変化は強いのに痛みは軽い人
  • 逆に、画像上の異常は大きくないのに強い痛みや生活障害を訴える人
  • 組織の修復時期を過ぎているはずなのに、痛みが続き、動作や活動への不安が強く残っている人

このようなケースに対して、単純に「組織が悪いから痛い」と捉えるだけでは、十分な臨床判断につながらない可能性があります。

現在の疼痛理解では、痛みは単なる侵害受容入力の結果ではなく、感覚・情動・認知・社会的背景を含む個人的な体験として捉えられています。

つまり、侵害受容入力があることと、患者さんがどの程度痛みを感じ、どの程度生活に支障をきたすかは、必ずしも一致しないと考えられます。

※IASPの定義では、痛みは「実際の、または潜在的な組織損傷に関連する、不快な感覚・情動体験」とされており、侵害受容入力の重要性を否定するものではありません。あくまで、入力の程度だけで体験のすべてが決まるわけではないという理解が重要です。

ここで重要になるのが、「痛みを消すこと」だけを目的にするのではなく、患者さんの活動・参加・HOPEをどう支えるかという視点です。

痛みは問題点の1つではあります。しかし、活動制限の要因は痛みだけとは限りません。
ROM制限、筋力低下、バランス能力、感覚障害、心肺機能、恐怖回避、破局的思考、家族や職場環境、本人の回復期待など、さまざまな要因が関与します。

だからこそ、痛みを訴える患者さんを前にしたときには、「本当に痛みが活動制限の主因なのか?」「いま優先して変えるべき要素は何か?」を見極める必要があります。

疼痛分類は「診断名」ではなく「介入仮説」として使う

痛みをみるうえで、神経メカニズムに基づく分類で考えると整理しやすいです。

主な疼痛分類の概要

  • 侵害受容性疼痛:組織損傷や炎症に伴う侵害受容器の活性化が主因と考えられる疼痛。局所の負荷量や動作条件との関連が明確なことが多い。
  • 神経障害性疼痛:末梢または中枢神経系の病変・機能障害によって生じる疼痛。灼熱感、電撃様の痛み、異痛症(アロディニア)、感覚過敏などが特徴的とされる。
  • 痛覚変調性疼痛(Nociplastic Pain):組織損傷や神経損傷が明確でないにもかかわらず、痛みの感受性が変化していると考えられる疼痛。中枢性感作が関与するとされる。

ただし、臨床で大切なのは、患者さんをきれいに分類することではありません。

実際の痛みは、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、痛覚変調性疼痛が混在していることも多くあります。これらの分類はIASP・ICD-11における病態メカニズム理解の枠組みであり、臨床上は単純に三分類に割り切れない場合も少なくありません。

そのため疼痛分類は、「この患者さんは何疼痛か?」とラベルを貼るためのものではなく、「今、何が症状を維持していて、何を優先的に評価・介入すべきか」を考えるための仮説として使うことが重要と考えられます。

分類ごとの臨床的な着目点

  • 侵害受容性疼痛が優位な場合:局所組織の許容量、負荷量、動作条件、炎症の有無や程度など組織・負荷の観点からの評価・管理を考えます。ただし、侵害受容性疼痛への介入は負荷調整にとどまらず、運動療法、徒手療法、患者教育、薬物療法など多岐にわたる場合があります。
  • 神経障害性疼痛が疑われる場合:症状分布、感覚障害、神経学的所見、神経解剖学的な整合性を確認します。
  • 痛覚変調性疼痛が関与していそうな場合:痛みの広がり、過敏性、睡眠、疲労、認知・情動、恐怖回避、自己効力感などを含めて評価する必要があります。

評価は「BPS+HOPE」で統合する

疼痛評価では、問診や身体機能評価だけでなく、心理社会的要因や生活背景、そして患者さん自身のHOPEを統合することが重要です。

BPSモデルで情報を整理する

  • Biological(身体):ROM、筋力、神経学的所見、画像所見、痛みの性状・分布・強度
  • Psychological(心理):恐怖回避信念、破局的思考、自己効力感、不安・抑うつ
  • Social(社会):職場・家庭環境、社会的サポート、経済的背景、活動・参加の制限

HOPEで患者さんの目標を確認する

  • HOPE:患者さんが「こうなりたい」「こんな生活を取り戻したい」と望む姿。評価の出発点として、常に意識に置くことが重要です。

このように情報を統合することで、単に「痛い部位に介入する」のではなく、患者さんが望む生活に近づくために、何を優先すべきかが見えてきます。

痛みのゼロではなく、生活の再構築へ

特に慢性疼痛では、「痛みをゼロにすること」だけを目標にすると、かえって介入方針が狭くなることがあります。痛みの軽減は重要です。しかし、それと同時に、ADL、QOL、活動量、自己効力感、睡眠、心理的柔軟性、社会参加をどう回復していくかが大切です。

徒手療法も運動療法も患者教育も、それぞれ単独で完結するものではありません。

  • 徒手療法で一時的に動きやすさや安心感を得る
  • その変化を利用して運動療法につなげる
  • 患者教育によって、痛みへの誤解や過剰な不安を整理する
  • 活動ペーシングや段階的負荷によって、生活の中でできることを増やしていく

痛みのメカニズムを理解することは、介入の選択肢を増やすことにつながります。
「どこが悪いか」だけでなく、「なぜその人にその痛みが続いているのか」を問う視点が、臨床を変えるのではないでしょうか。

こんな悩みがある方におすすめです

このセミナーでは、痛みを「なんとなく評価する」のではなく、メカニズムに基づいて整理し、臨床で使える形に落とし込んでいきます。
特に、これから痛みについて勉強していきたいと思っている初学者や臨床で痛みをどのように扱えば良いのか分からない方・以下のような悩みがある方におすすめです。

  • 痛みの評価で何から手をつければいいかわからない
  • 患者さんの痛みを説明できず、自信を持って介入できない
  • 慢性疼痛や画像所見と痛みが一致しない患者さんへの対応に悩んでいる
  • 疼痛科学の知識を臨床に落とし込む方法を知りたい

セミナーで目指すこと

この講座の目的は、痛みの知識を増やすことだけではありません。
目指すのは、「痛みを訴える患者さんを前にしたときに、評価と介入の優先順位を自分で考えられるようになること」です。

痛みを「組織の問題」としてだけ捉えるのではなく、患者さんの身体機能、心理社会的背景、生活環境、HOPEを含めて評価する。
そのうえで、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、痛覚変調性疼痛のどのメカニズムが優位に関与しているのかを仮説化し、介入方針へつなげていきます。

痛みを理解することは、臨床を変えること

痛みの知識を得ることで患者さんへの説明や評価の視点・介入の優先順位が変わります。そして、患者さんの「できること」を取り戻す関わり方が変わります。

痛みについて考え、臨床で使える形に落とし込みたい方は、ぜひご参加ください。

本記事が、日々の臨床の一助となれば幸いです。

参考文献

  • IASP Announces Revised Definition of Pain – International Association for the Study of Pain (IASP) (iasp-pain.org)
  • 森脇 克行, 大下 恭子, 堤 保夫, ICD-11時代のペインクリニック―国際疼痛学会(IASP)慢性疼痛分類に学ぶ, 日本ペインクリニック学会誌, 2021, 28 巻, 6 号, p. 91-99
  • Treede RD, et al. Neuropathic Pain: redefinition and a grading system for clinical and research purposes. Neurology. 2008.
  • 日本ペインクリニック学会 神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン作成ワーキンググループ 編, 神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン 改訂第2版, 真興交易, 2016
  • Kosek E, et al. The concept of nociplastic pain—where to from here?. PAIN 165(11S): p S50-S57, November 2024.
  • Kosek E, Clauw D, Nijs J, Baron R, Gilron I, Harris RE, Mico JA, Rice ASC, Sterling M. Chronic nociplastic pain affecting the musculoskeletal system: clinical criteria and grading system. Pain. 2021 Nov 1;162(11):2629-2634.
  • Nijs J, Lahousse A, Kapreli E, Bilika P, Saraçoğlu İ, Malfliet A, Coppieters I, De Baets L, Leysen L, Roose E, Clark J, Voogt L, Huysmans E. Nociplastic Pain Criteria or Recognition of Central Sensitization? Pain Phenotyping in the Past, Present and Future. J Clin Med. 2021 Jul 21;10(15):3203.
  • 松原貴子, 服部貴文. 神経生理学からみた痛みのメカニズムと分類. 理学療法学, 53(1), 75-81, 2026.
  • 「慢性疼痛診療システムの均てん化と痛みセンター診療データベースの活用による医療向上を目指す研究」研究班 監:慢性疼痛診療ガイドライン.真興交易医書出版部,東京,2021

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