こんにちは、理学療法士の内川です。
「鼠径部から大腿内側が痛い。内転筋を傷めたのかな?」
「股関節を内側へ寄せる力が落ちているのに、膝を伸ばす力は保たれているのはなぜ?」
「骨盤内の手術や外傷の後から、太ももの内側に違和感がある。神経が関係している?」
このように迷った経験はありませんか?
閉鎖神経は、股関節を内転させる筋群の多くを支配する神経です。鼠径部から大腿内側の痛みや内転筋力低下は、内転筋そのものの問題だけでなく、閉鎖神経の障害でも生じます。
閉鎖神経障害は頻度の高い病態ではありませんが、骨盤内の手術・外傷・血腫などの後や、スポーツで慢性の鼠径部痛が続く場合には見落とせません。今回は、前枝・後枝の走行と支配、障害時の特徴を整理します。
- 閉鎖神経はL2〜L4由来で、閉鎖管を通って前枝・後枝に分かれ、主に股関節内転筋群を支配する
- 鼠径部〜大腿内側の痛みや内転筋力低下は、閉鎖神経障害でも生じるため、骨盤内手術・外傷・スポーツ負荷の背景を必ず確認する
- 感覚障害が乏しくても閉鎖神経障害を否定できず、支配の重なりにより完全麻痺とは限らない点が評価上の注意点
1.閉鎖神経とは
閉鎖神経は、L2〜L4神経根の前枝由来の線維からなる腰神経叢の末梢神経です。骨盤内から閉鎖管を通って大腿内側へ出て、主に股関節内転に関わる筋を支配します。運動線維だけでなく、限られた範囲の大腿内側の皮膚感覚と、股関節・膝関節の関節枝も担います。
閉鎖神経は「前枝・後枝」という2つの枝をイメージすることが大切です。前枝は主に長内転筋・短内転筋・薄筋へ、後枝は外閉鎖筋と大内転筋の内転部へ向かいます。ただし、枝分かれと支配には個人差があります。
2.閉鎖神経の走行
走行の流れを整理すると、以下のようになります。
- L2〜L4の線維が腰神経叢を形成する
- 大腰筋の内側縁のあたりから骨盤内へ向かう
- 閉鎖動静脈とともに骨盤側壁を走行する
- 骨盤の出口である閉鎖管を通って大腿内側へ出る
- 大腿内側で前枝と後枝に分かれる
大腿内側では前枝と後枝に分かれます。前枝は長内転筋と短内転筋の間を下行し、後枝は外閉鎖筋のそばを通ったのち、短内転筋と大内転筋の間を下行すると考えられています。閉鎖管の中・手前・出た後のいずれで分かれることもあり、分岐位置には個人差があります。

3.閉鎖神経の支配
運動支配
- 前枝:長内転筋、短内転筋、薄筋を主に支配する
- 後枝:外閉鎖筋、大内転筋の内転部を主に支配する
- 短内転筋には前枝・後枝の両方から枝が入ることがある(個人差あり)
- 恥骨筋は主に大腿神経支配で、閉鎖神経からの枝を受ける場合もある
これらの筋は股関節内転に協調して働くため、閉鎖神経が障害されても内転が完全にできなくなるとは限りません。内転筋群以外の代償や支配の重なりを考慮し、左右差と痛みの影響をあわせて評価することが大切です。
感覚・関節支配
感覚枝は大腿内側の一部や股関節包、膝関節包などに分布しますが、その範囲は小さく個人差もあります。隣接する大腿神経や後大腿皮神経などとの重なりがあるため、閉鎖神経障害でも明確な感覚低下が出ないことがあります。

4.閉鎖神経の障害
主な原因
- 骨盤内・婦人科・泌尿器科などの手術、骨盤骨折、骨盤内の血腫・腫瘤
- 閉鎖管周囲での圧迫や牽引
- スポーツ活動に伴う反復的な負荷や、大腿内側での絞扼
- 閉鎖ヘルニアによる圧迫
主な症状
- 鼠径部から大腿内側の痛み、しびれ、違和感
- 股関節内転の筋力低下、内転筋群の萎縮
- 運動時や反復動作で増悪する大腿内側・鼠径部の痛み
- 大腿内側の感覚低下または感覚過敏(みられないこともある)
5.閉鎖神経の評価
① 問診と経過
痛みの部位と拡がり、発症状況、スポーツでの反復動作、骨盤内手術・骨盤外傷・抗凝固薬使用などを確認します。
腹部症状や急激な悪化がある場合は、運動器症状だけとして扱わず、医師への連絡を行いましょう。
② 股関節内転筋力
背臥位や側臥位で股関節内転の左右差を確認します。痛みによる抑制と神経性の筋力低下を区別するため、痛みの再現性、萎縮、他の筋群の筋力をあわせて観察します。
③ 感覚分布
大腿内側を左右で比較します。ただし感覚枝の分布は小さく変異も多いため、感覚が正常だからといって閉鎖神経障害を否定はしません。
④ 隣接部位の評価
腰椎運動、股関節可動域、内転筋の伸張・抵抗運動、鼠径部・恥骨周囲の圧痛を確認します。局所の筋・腱・関節の所見だけでなく、膝伸展筋力や膝蓋腱反射も確認し、より近位の障害を見落とさないようにします。
6.まとめ
① 解剖・特徴
- 閉鎖神経はL2〜L4由来で、腰神経叢から分岐する
- 大腰筋の内側縁あたり→骨盤側壁→閉鎖管→大腿内側へ走行する
- 前枝・後枝に分かれ、主に股関節内転筋群を支配する
- 感覚支配は大腿内側の一部で、分布には個人差が大きい
② 評価とアプローチ
- 股関節内転筋力を左右で比較する
- 大腿内側の感覚・痛み・しびれを確認する
- 腰椎・股関節・鼠径部・恥骨周囲も合わせて評価する
- 膝伸展筋力・膝蓋腱反射も確認し、より近位の障害を鑑別する
- 骨盤内手術・外傷・スポーツ活動などの発症背景も重要
③ 機能低下の影響と臨床的注意点
- 閉鎖神経障害 → 股関節内転筋力低下・内転筋群の萎縮
- 鼠径部〜大腿内側の痛み・しびれがみられることがある
- 感覚障害が乏しくても、閉鎖神経障害を否定できない
- 内転筋力低下があっても、支配の重なりにより完全麻痺とは限らない
- 急激な症状悪化や腹部症状を伴う場合は、骨盤内病変も考慮することが重要
参考文献
- 基礎運動学 第6版補訂
- バトラー・神経系モビライゼーション 触診と治療手技
- 病気が見える 整形外科
- プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論運動器系 第3版
- ビジュアルガイド 末梢神経と筋のみかた

