こんにちは、理学療法士の大塚です。今回は嵩里さんに代わって私がコラムを担当いたします。私は理学療法士になって22年目を迎えます。臨床実習に参加したのは今から24年前のことです。
当時の実習は患者担当型で、1〜3名ほどの患者さんを担当し、夜を徹してレポートを作成し提出しました。翌日には真っ赤に修正されたレポートが返ってくるのが日常でした。正直なところ、最後には指導者の考えを書き写すだけになり、「これは誰のレポートなのか?」と悩むこともありました。今思えば、二度と戻りたくない時間です。
もちろん、一人の患者さんを長期間担当できたり、指導者からの問いかけに限界まで考え抜いて答えを出そうともがく時間は、確かに自分の成長の糧になりました。しかし、学生や指導者への負担が大きすぎることは否めません。そして何より、そのような状況下でリハビリを受ける患者さんに対して失礼だったと反省しています。
本稿では、私の経験した昔の実習と、現在推奨されている診療参加型の実習を比較しながら、その変遷についてお伝えしたいと思います。
近年、理学療法士・作業療法士の臨床実習において、従来の患者担当型実習から診療参加型臨床実習への移行が推奨されています。この変更は、学生の学びの質を向上させるとともに、患者の安全性を確保することを目的としています。私自身の経験も踏まえながら、両者の違いを比較し、診療参加型臨床実習の特徴や指導者に求められる技術・資質、そして実施にあたっての課題と対策について詳しく解説します。
1. 患者担当型実習と診療参加型臨床実習の比較
患者担当型実習
私が経験した従来の患者担当型実習では、学生が1〜3名の患者を担当し、評価から治療計画の立案まで自ら行います。この方法では、学生は一人の患者について深く学ぶことができますが、以下のような課題がありました:
- 学生の実習時間外の負担が大きい(寝ないでレポートを作成するなど)
- 患者の安全性に関する懸念
- 多様な症例を経験する機会が限られる
- 学生の能力を超えた課題を課す可能性がある
- 指導者の考えを単に書き写すだけになってしまうことがある
診療参加型臨床実習
一方、現在推奨されている診療参加型臨床実習では、学生が診療チームの一員として加わり、指導者の監督下で実践的な経験を積みます。主な特徴は以下の通りです:
- 学生はチームの一員として参加し、指導者の下で診療に関わる
- 経験豊富な理学療法士・作業療法士が評価や介入方法を考え、学生はそれを実践する
- 実習時間内で完結することを目指し、学生の負担軽減を図る
- 複数の患者に関わることで、様々な疾患や症例を経験できる
- 患者の安全性が高まる
2. 診療参加型臨床実習の進め方
- オリエンテーション
- 実習の目的と到達目標の確認
- 診療チームの一員としての役割説明
- 見学段階
- 指導者の評価・治療場面を見学
- 患者との位置関係、手の位置、抵抗の掛け方などについて説明を受ける
- 協同参加段階
- 患者、学生、指導者による介入場面を設定
- 学生が主体的に行い、指導者が部分的にサポート
- 実施段階
- 学生が指導者の監督下で独立して手技を行う
- 他の患者へも応用する
- 振り返りと評価
- 日々のフィードバックセッション
- 定期的な症例検討会への参加
3. 指導者に必要な技術と資質
診療参加型臨床実習を効果的に実施するためには、指導者に以下のような技術と資質が求められます:
- 指導スキル
- 学生のレベルに合わせた段階的な指導能力
- その場での適切なフィードバック力
- 臨床推論のプロセスを言語化して説明する能力
- コミュニケーション能力
- 学生との良好な関係性構築力
- 患者や他職種との円滑なコミュニケーション能力
- 学生の疑問や不安に丁寧に対応できる傾聴力
- 臨床能力
- 高い専門知識と技術
- エビデンスに基づいた臨床実践力
- 臨床経験を活かした応用力
- 教育者としての資質
- 学生教育に対する熱意と責任感
- 学生の成長を支援する姿勢
- 自身の指導を振り返り改善する謙虚さ
- マネジメント能力
- 実習プログラムの立案と運営能力
- 学生の学習進捗の管理力
- 臨床業務と指導の両立を図る時間管理能力
4. 指導者をサポートする方法
指導者が効果的な診療参加型臨床実習を実施できるよう、以下のようなサポート体制が必要です:
- 指導者向け研修の実施
- コーチングやティーチングのスキルを学ぶ研修
- 最新の臨床知識やエビデンスを学ぶセミナー
- メンター制度の導入
- 経験豊富な指導者が新人指導者をサポート
- 指導上の悩みや課題を相談できる体制づくり
- 指導マニュアルの整備
- 指導の流れや注意点をまとめたガイドラインの作成
- 学生評価の基準や方法の標準化
- 定期的なフィードバック機会の設定
- 学生からの評価や感想を指導者にフィードバック
- 指導者同士で指導方法を共有し、改善点を話し合う場の設定
- 指導者の負担軽減
- 指導時間の確保や業務調整のサポート
- 指導に専念できる環境づくり
- e-ラーニングシステムの活用
- 指導スキル向上のためのオンライン学習コンテンツの提供
- 養成校との連携強化
- 養成校と実習施設間での情報交換の促進
- 共同での指導者育成プログラムの開発
5. 現実的な課題と優先すべき事項
診療参加型臨床実習の実施にあたっては、以下のような現実的な課題が存在します:
- 指導者の時間的制約
- 診療参加型実習に対する理解不足
- 患者の同意取得の難しさ
- 多様な症例の確保
- 指導者の負担増加
これらの課題に直面した際、以下の点を優先して対応することが重要です:
- 患者の安全性確保
- 学生の能力を適切に評価し、患者に対するリスクを最小限に抑える
- 必要に応じて、見学や協同参加の段階を延長する
- 学生の学習機会の確保
- 時間的制約がある場合でも、短時間でも質の高い指導を心がける
- カンファレンスや症例検討会への参加を通じて、多様な学習機会を提供する
- 段階的な導入
- 全ての実習を一度に診療参加型に変更するのではなく、段階的に導入する
- 成功事例を共有し、指導者の理解と協力を得る>>>これについては嵩里さんのコラムを参考にしてください!!
- 効率的な指導方法の採用
- 1対1の指導だけでなく、グループ指導も取り入れる
- ICTを活用した遠隔指導や事前学習の導入
- 指導者のサポート体制強化
- 指導者の負担を軽減するための業務調整
- 指導者間での情報共有と相互サポートの促進
診療参加型臨床実習への移行は、学生の学びの質を向上させ、将来の理学療法士・作業療法士としての実践力を高める重要な取り組みです。しかし、その実施には様々な課題が伴います。指導者、養成校、実習施設が協力し、段階的かつ柔軟に導入を進めることが成功の鍵となります。患者の安全を最優先としつつ、学生の学習機会を最大化するバランスを取りながら、より効果的な臨床実習教育を目指していくことが重要です。
まとめ
- 診療参加型臨床実習は、学生の学びの質向上と患者の安全確保を両立させる新しいアプローチです。
- 成功には指導者の適切なスキルと組織的なサポートが不可欠です。
- 現実的な課題に直面した際は、患者の安全性を最優先しつつ、段階的な導入と効率的な指導方法の採用が重要です。
参考文献
- 厚生労働省 (2018). 「参考例:診療参加型臨床実習実施ガイドライン 平成28年度改訂版」
- 日本理学療法士協会 (2020). 『臨床実習教育の手引き(第6版)』
- 文部科学省 (2019). 「診療参加型臨床実習の実施のためのガイドライン」
- 日本作業療法士協会 (2022). 『作業療法臨床実習指針(2018)作業療法臨床実習の手引き(2022)』
- 日本理学療法士協会 (2019). 『理学療法学教育モデル・コア・カリキュラム』
※ さらに詳しい情報は、嵩里さんのコラムをご参照ください。