この記事の結論(3行まとめ)
- 筋肉が硬く感じられることと、その筋肉が痛みの原因であることは同じではない。
- 痛みがあるとき、筋活動は単純に増えるのではなく、動作に応じた「調節幅」が変化する。
- 目の前の現象(事実)と、なぜそれが起きているか(解釈)を分けることが臨床推論の出発点になる。
こんにちは、理学療法士の大塚です。
みなさんは、腰痛の患者さんを評価するとき、脊柱起立筋を触って「硬いな」と感じたことはありませんか?
そして、その硬い筋肉を緩めたら、痛みが軽くなったり、腰の動きが良くなったりした経験はないでしょうか?
僕も以前は、硬くなっている筋肉を見つけて、そこを緩めることで痛みや動きが変化すると、アプローチがうまくいったと感じていました。
もちろん、今でもその場で変化を出せることは大切だと思っています。
でも、臨床を続ける中で、一つ疑問を感じるようになりました。
「そもそも、なぜその筋肉は硬くなっているんだろう?」
筋肉が硬いから痛みが出ているのでしょうか?
それとも、痛みがあるから筋肉の活動が変わっているのでしょうか?
この二つは似ているようで、まったく違います。
今回は、1999年にZedkaらが発表した「Voluntary and reflex control of human back muscles during induced pain」という研究をもとに、痛みと筋活動の関係、そして僕たち療法士が臨床で何を評価すべきなのかを考えてみたいと思います。
1.「筋肉が硬い」ということと、「筋肉が原因」ということは同じではない
例えば、腰痛の患者さんの脊柱起立筋を触診したとします。触ってみると硬く感じられます。
そこで、
- 「脊柱起立筋の緊張が高い」
- 「この筋肉が腰を引っ張っている」
- 「だから腰痛が出ている」
と考えることがあります。
では、この考え方は間違っているのでしょうか?
僕は、必ずしも間違いではないと思っています。筋肉やその他の組織の状態が痛みに関係していることはありますし、局所へのアプローチによって症状が変化することもあります。
ただし、ここで一つ整理したいことがあります。
「筋肉が硬く感じられた」というのは観察した事実ですが、「その筋肉が痛みの原因である」というのは僕たち療法士の解釈です。
さらに言えば、触診で感じる硬さと、筋電図で測定される筋活動、伸張反射の強さは、それぞれ同じものではありません。
硬く感じられるからといって、常に筋活動が過剰になっているとは限りません。
また、筋活動が増えていたとしても、それが痛みを引き起こしているのか、痛みによって筋活動が変化したのかは、それだけでは分かりません。
では、痛みそのものが筋肉の活動にどのような影響を与えるのでしょうか?これを調べたのが、今回紹介するZedkaらの研究です。
2.痛みを起こしたら、筋肉の活動はどう変化するのか?
Zedkaらは1999年に、健常成人5名を対象として、腰部に痛みを生じさせたときの運動と筋活動の変化を調べました。
方法は、右側の腰部脊柱起立筋へ5%の高張食塩水を注入し、一時的に筋肉の痛みを生じさせるというものです。
そして、痛みがないときと痛みがあるときで、体幹を前屈・伸展してもらい、動作と左右の脊柱起立筋の筋電図活動を比較しました。
さらに、筋肉へ機械的な刺激を加えて伸張反射を調べ、筋肉の痛みと皮膚への痛み刺激で反射がどう変わるかも確認しています。
なぜ、こんなことを調べたのでしょうか?
背景には、痛みによって筋肉の緊張が高まるという考え方がありました。痛みがあると筋肉が緊張する。その筋肉が硬くなり、さらに痛みを引き起こす。こうした考え方は、臨床でもよく耳にします。
では実際に、痛みがあると筋肉の活動は単純に強くなるのでしょうか?
結果は、もう少し複雑でした。
3.痛みがあると、人は動き方を変える
まず、痛みがある状態では、被験者の体幹の前屈範囲が小さくなり、運動速度も低下しました。痛みのないときと比較して、前屈角度はおよそ60〜90%の範囲に減少していました。
これは、僕たちの普段の経験とも一致すると思います。
例えば、急に腰が痛くなったとき、普段と同じように身体を曲げるでしょうか?多くの場合、動きを小さくしたり、ゆっくり動いたりすると思います。
ただし、このとき本当に関節の可動域が制限されたのでしょうか?それとも、痛みによって動き方を変えているのでしょうか?
ここが重要です。
動きが小さいという事実だけでは、その人が動かす能力を失っているのか、それとも何らかの理由で動きを小さくしているのかは分かりません。
痛みによる運動の変化は、負担を避けるための防御的な反応として解釈できるかもしれません。しかし、その動きが本当に何を目的として現れているのかは、運動を観察するだけでは断定できません。
だからこそ僕たちは、「動きが小さい」という事実と、「なぜ動きが小さいのか」という解釈を分ける必要があります。
4.痛みがあるからといって、筋肉がずっと強く働くわけではない
今回の研究で、僕が特に面白いと感じたのは、筋活動の変化です。
通常、身体を前屈していくと、脊柱起立筋は姿勢を制御するために活動します。しかし、前屈が大きくなると、脊柱起立筋の筋電図活動が著しく低下することがあります。
これを屈曲弛緩現象(Flexion-Relaxation Phenomenon:FRP)といいます。
ところが今回の研究では、痛みがある状態で体幹を前屈すると、この筋活動の低下が見られなくなりました。
ここだけ見ると、「やっぱり痛いと筋肉が緊張するんだ」と思うかもしれません。
しかし、面白いのはその続きです。
体幹を前屈位から起こしてくるときには、脊柱起立筋の筋活動が低下していたのです。
つまり、痛みがあると、すべての場面で筋活動が増えていたわけではありませんでした。ある場面では筋活動が残り、別の場面では筋活動が減少していたのです。
研究では、これを筋電図活動の「調節幅の低下」として捉えています。
さらに、痛みがある状態でも、痛みのないときと同じ範囲・速度で体幹を動かしてもらいました。すると、動きそのものをそろえても、痛みを生じさせた側の脊柱起立筋では筋活動の調節幅が小さい状態が残りました。
この結果から、何が考えられるでしょうか?
僕は、筋肉がどれだけ活動しているかという「量」だけでなく、動作に応じて筋活動をどのように調節しているかを見る必要があると感じました。
筋活動が多いか少ないか。それももちろん大切です。でも、どの場面で活動し、どの場面で活動が低下するのか。運動の中でその活動がどう変化しているのか。そこまで見なければ、実際に起きていることを理解するのは難しいのではないでしょうか。
5.痛みがあると伸張反射は強くなるのか?
もう一つ、今回の研究で興味深い結果があります。それは伸張反射についてです。
筋肉の緊張を考えるとき、筋紡錘や伸張反射を思い浮かべる療法士は多いと思います。では、筋肉に痛みが生じると、伸張反射が強くなるのでしょうか?
Zedkaらは、脊柱起立筋に機械的な刺激を加えて、筋電図に現れる反射応答を調べました。
その結果、今回の実験条件では、深部筋痛によって伸張反射が有意に増強することはありませんでした。
一方、皮膚へ痛み刺激を加えた場合には、遅い潜時の反射応答を含む複数の成分に変化が生じる可能性が示されました。
ここも非常に重要です。
痛みといっても、筋肉に生じた痛みと、皮膚への痛み刺激では、反射に現れた反応が異なっていたのです。
つまり、今回の研究では、筋肉の痛みによって随意運動中の筋活動が変化しているにもかかわらず、伸張反射の有意な増強は確認されませんでした。
ただし、これだけで「痛みと伸張反射は関係がない」と結論づけることはできません。今回の研究は健常成人5名に一時的な筋痛を生じさせた実験であり、慢性腰痛や神経疾患を対象にしたものではないからです。
それでも、臨床で考えるうえで大切なことを教えてくれます。
筋活動が変化しているからといって、その原因が伸張反射の亢進にあるとは限らない。同じように筋活動の変化が見えていても、その背景にある仕組みは一つではないのです。
6.僕たちは原因を見ているのか、それとも結果を見ているのか?
では、この研究を臨床でどう考えればよいのでしょうか?
例えば、腰痛患者さんの脊柱起立筋を触って、硬く感じたとします。そのとき、
- 「脊柱起立筋が硬いから痛みが出ている」→ 一つの仮説
- 「痛みがあるために筋活動の調節が変わっている」→ 別の可能性
- 身体を動かすことへの不安、普段の生活で繰り返している動作、周囲の環境なども関係しているかもしれない
ここで大切なのは、どれか一つを正解と決めつけないことです。
「筋肉が硬いから痛い」と決めつけることも、「痛いから筋肉が硬い」と決めつけることも、結局は同じことだと思います。大切なのは、目の前の患者さんでは何が起きているのかを確認することです。
療活では、患者さんの問題を考えるとき、構造・中枢神経・環境・発達・心理認知という五つの視点を使って統合しています。
例えば、腰痛によって前屈しにくい患者さんがいたとします。
- 構造の視点:筋や関節、その他の組織にどのような負荷がかかっているのかを考える
- 中枢神経の視点:痛みに伴って筋活動や姿勢制御が変化していないかを考える
- 環境の視点:床から物を取るときと、高い台から物を取るときで動きが変わるのかを確認する
- 発達の視点:支持面や重心移動、身体各部の協調をどう使っているのかを考える
- 心理認知の視点:患者さんが動作に対してどのような予測や不安を持っているのかを確認する
もちろん、Zedkaらの研究でこれらすべてが証明されたわけではありません。
この研究が示したのは、実験的な筋痛によって随意運動中の筋活動が変化し、今回測定された伸張反射には有意な増強が見られなかったということです。
その知見を参考にしながら、臨床ではほかの視点も含めて考える。こうすることで、目の前の筋肉だけでは見えてこなかったことが見えてくるのではないでしょうか。
7.「事実→解釈→行動」で考えてみる
では、実際の臨床ではどうすればよいのでしょうか?ここで一つ、仮の症例を考えてみます。
腰痛があり、床に置いた洗濯かごから洗濯物を取り出すことが難しい患者さんです。この患者さんのHOPEは、「自分で洗濯を続けたい」ということだったとします。
療法士が評価すると、腰部の筋肉が硬く感じられ、体幹の前屈範囲が小さく、動作時に痛みを訴えていました。
「脊柱起立筋が硬いから前屈できない」と判断し、その筋肉を緩めることも一つの方法かもしれません。
しかし、今回はもう少し考えてみましょう。
まず事実を確認します
- 前屈すると腰に痛みがある
- 前屈する範囲が小さい
- 動作速度が遅い
- 触診では腰部が硬く感じられる
これらは観察や問診によって確認できた情報です。ただし、この段階では原因は分かりません。
次に解釈します
- 筋や関節の状態が痛みに関係しているのかもしれない
- 痛みによって筋活動の調節が変化している可能性もある
- 股関節や足関節の動きが関係しているかもしれない
- 過去の痛みの経験から、前屈するとまた痛くなると予測している可能性もある
- 洗濯かごの位置や高さが、その患者さんにとって負担になっているのかもしれない
ここでは原因を一つに決めず、複数の仮説を考えます。
そして行動します
- 洗濯かごの高さを変えてみる
- 足の位置を変えてみる
- 股関節の動きを利用した方法を試してもらう
- 痛みが増悪しない範囲で、動く速度や範囲を変えてみる
- 局所の評価で必要な問題が見つかれば、筋や関節へのアプローチも行う
その結果、どう変化したでしょうか?
- かごを高くしたら痛みが軽くなった
- 足の位置を変えたら前屈しやすくなった
- 局所へ介入したら動作時の痛みが減った
あるいは、動きは改善したのに、患者さん本人はまだ怖いと感じているかもしれません。
こうした反応は、最初の仮説を考え直すための新しい事実になります。
療活で大切にしているのは、この「事実→解釈→行動→新しい事実」という循環です。最初に考えた原因が正しいとは限りません。だからこそ、患者さんの反応を見ながら解釈を修正していきます。
そして、もう一つ忘れてはいけないことがあります。それは、患者さんが何のためにその動作を行いたいのかということです。
8.筋肉を柔らかくすることが、患者さんの目的ではない
今回の患者さんが望んでいたのは、「自分で洗濯を続けたい」ということでした。決して、脊柱起立筋を柔らかくしたいわけではありません。
もちろん筋肉へのアプローチが必要なこともあります。疼痛の軽減や関節可動域の改善も重要です。でも、そこで終わってしまうと、患者さんの生活までつながらないことがあります。
例えば、治療室では前屈できるようになった。でも自宅では、洗濯物を取ることが怖くてできない。あるいは、療法士から見ると問題なく動けているのに、患者さん本人は「まだ自分ではできない」と感じているかもしれません。
ここで、以前のコラムでもお伝えした考え方につながります。
療法士が「動けた」と評価したことと、患者さん本人が「できた」と感じることは同じではありません。
僕たち療法士ができるのは、身体機能や課題、環境などに働きかけて、患者さんが「動ける」条件を整えることです。そして、その経験をどのように受け取り、「できた」と意味づけるのかは患者さん本人です。
だからこそ、最初からHOPEを確認し、そのHOPEを妨げているものは何かを考えます。
- 生活行為を工程に分け、ADLから基本動作、複合運動、局所へと評価を進める
- 必要な部分に介入したら、もう一度動作や生活場面へ戻って確認する
- HOPEから局所へ降り、HOPEへ戻る
この繰り返しが、身体機能の変化を患者さんの「動ける」へつなげていく臨床推論なのだと思います。
まとめ|「硬い」の先にある原因を考える
今回紹介したZedkaらの研究では、実験的に筋肉へ痛みを生じさせることで、体幹の動きや脊柱起立筋の活動が変化しました。
その変化は単純な筋活動の増加ではなく、運動に応じた筋活動の調節幅の低下として現れました。また、深部筋痛によって伸張反射が有意に増強することはありませんでした。
この研究から僕が大切だと感じたのは、目の前に現れている筋肉の状態が、必ずしも問題の原因とは限らないということです。
- 筋肉が硬く感じられる
- 動きが小さい
- 筋活動が変化している
これらは、僕たちが評価によって確認できる現象です。しかし、その現象がなぜ起きているのかは、別に考える必要があります。
「筋肉が硬いから痛い」のか。「痛みがあるから筋肉の使い方が変わっている」のか。あるいは、別の要因が関係しているのか。
どれか一つに決めつけるのではなく、患者さんの反応を確認しながら考えていく。
「筋肉が硬い」というのは観察した現象です。でも、「だから痛い」というのは僕たち療法士の解釈です。その間の矢印を確かめることが、臨床推論なのだと思います。
そして、その先には患者さんの生活があります。
筋肉を緩めることも、痛みを減らすことも、身体機能を変えることも大切です。でも、僕たちが目指しているのは、そこで終わることではありません。
「身体機能を変える」から「動けるをサポートする」へ。
そのためにも、まずは目の前で起きている事実と、自分が考えた解釈を分けてみる。そこから、いつもの評価やアプローチが少し変わってくるのではないでしょうか。
僕はそう考えています。
参考文献
Zedka M, Prochazka A, Knight B, Gillard D, Gauthier M. Voluntary and reflex control of human back muscles during induced pain. The Journal of Physiology. 1999;520(Pt 2):591–604.
DOI: 10.1111/j.1469-7793.1999.00591.x

