理学療法士の大塚です。今回は、理学療法士・作業療法士の皆様向けに、平滑筋と心筋 – 骨格筋との比較について、臨床での活用に焦点を当てて解説します。日々の治療プログラムやリハビリテーションでどのように活かせるのか、実践的なポイントと手順をまとめました。ぜひ、日々の臨床でご活用ください。
はじめに
リハビリテーションの現場では、筋力強化や動作学習を中心に骨格筋(skeletal muscle)への介入が注目されがちです。しかし、人の身体には骨格筋のほかに平滑筋(smooth muscle)と心筋(cardiac muscle)という2種類の筋が存在し、それぞれが独特の構造・制御機構を通じて重要な役割を担っています。
平滑筋は血管や消化管など内臓の壁を形成し、不随意にゆっくりとした収縮をする筋組織です。心筋は心臓を構成し、一定のリズムで収縮し続ける特性を備えています。この記事では、理学療法士や作業療法士向けに、平滑筋と心筋の基礎生理学を骨格筋との比較を交えながら整理し、臨床応用につなげるための視点をわかりやすく解説します。
今回の記事を読むことで、それぞれの筋組織の特性を理解し、より効果的なリハビリテーションプログラムの立案に役立てることができます!
目次
平滑筋 (Smooth Muscle)
構造と特徴
平滑筋は、消化管(胃・腸など)、血管、気道、子宮、膀胱などの壁を構成する筋で、横紋(ストライプ)が見られないためこの名称がついています。アクチンとミオシンのフィラメントはあるものの、サルコメア構造がなく網状に走るのが特徴です。単核の紡錘形細胞が互いに接合し合い、骨格筋のように長い繊維を形成しない点でも異なります。
- 収縮速度は遅いが、比較的低エネルギーで長時間張力を保つことができる
- 血管の平滑筋では、血圧調整のためトーヌス(持続的緊張)を維持する性質が重要
- 消化管では蠕動運動を通じて内容物を先へ送る機能を担う
制御機構
平滑筋は体性神経支配(随意筋)である骨格筋と異なり、自律神経(交感・副交感)とホルモンなどによる制御を受ける不随意筋です。ギャップ結合を介して電気的に結合しており、「単一ユニット型」の平滑筋では、一部の細胞への刺激や自動能で生じた活動電位がほかの細胞に波及し、まとまりとして収縮を起こします(例:消化管蠕動、子宮収縮など)。
- 単一ユニット型平滑筋: 消化管・子宮など。自動能を持ち、一斉収縮を起こしやすい
- 多重ユニット型平滑筋: 虹彩や立毛筋など。各細胞が独立して神経支配を受け、精巧な制御を可能にする
また、ホルモン(アドレナリン、オキシトシンなど)の影響も大きく、血管収縮や分娩時の子宮収縮などに深くかかわっています。
臨床への応用
平滑筋を意識してリハビリテーションを行う場面はさほど多くありませんが、以下のような点で重要となります。
- 血圧管理: 長期臥床後の起立性低血圧などは血管平滑筋の反応性が低下して起こるため、漸進的な起立・座位練習が有用
- 理学療法科学などを参考に呼吸リハ:気管支平滑筋の収縮・拡張を促す交感神経・副交感神経作用を理解し、喘息患者へのアプローチを検討
- 消化管機能: 腸管蠕動の促進や便秘対策など、内臓機能に関連して間接的にサポートできる部分がある
心筋 (Cardiac Muscle)
構造と特徴
心筋は、骨格筋と同様に横紋構造(サルコメア)を持ちながらも、不随意筋として機能します。細胞は短い矩形状で、枝分かれしており、介在板(インターレイテッドディスク)で互いに強固かつ電気的につながっています。これはギャップ結合と呼ばれる小孔を介してイオンや活動電位が速やかに伝わり、心臓全体が同期して拍動するメカニズムを支えています。
- 骨格筋と同様にアクチン・ミオシンのサルコメアを有する
- 単核ないし二核で、細胞同士がネットワーク状に接合
- 疲労しにくい: ミトコンドリアが豊富で酸化的代謝能力が高い
自動能と伝導系
心臓には、洞房結節(SA結節)、房室結節(AV結節)、ヒス束、プルキンエ線維などからなる伝導系があり、ここで興奮が周期的に生み出されることによって拍動が起こります。具体的には、
- 洞房結節がペースメーカーとして自動的に活動電位を発火
- 房室結節・ヒス束を通って心室へと興奮が伝わり、心室全体が同期して収縮
- 心拍数や収縮力は交感神経・副交感神経・ホルモンによって調節される
この自律的拍動と神経・ホルモン調整の両立により、心臓は常に身体の需要に即した拍出量を保ちます。
長い不応期
心筋の活動電位は200〜300msと長く、不応期も同程度に続くため、テタヌス収縮(強縮)が起こりにくいです。もし心筋が骨格筋のように強縮を起こしてしまうと、拍動が止まり循環が崩壊してしまいます。この生理学的特性は、ポンプとしての心臓の連続拍動を確実にし、不整脈をある程度抑制する安全弁として機能します。
心臓リハとの関連
有酸素運動と心機能
心不全や心筋梗塞後の患者に対し、心臓リハビリテーションでは有酸素運動などを段階的に導入します。これによって、
- 骨格筋の代謝改善(末梢抵抗低下)
- 心拍出量の効率化
- 自律神経機能のバランス回復
が促され、結果的に運動耐容能(VO₂max)が向上し、ADLやQOLが改善するとされています。心拍数や血圧のモニタリングを行いながら漸増的に負荷をかけ、患者の安全を確保することが大切です。
薬物療法の考慮
心筋は交感神経を介して心拍数・収縮力を増す作用(β1受容体)を受けます。β遮断薬はこのβ1受容体をブロックし、過剰な心拍数上昇を防ぐことで心臓を保護します。一方、カルシウム拮抗薬は心筋や血管平滑筋へのCa²⁺流入を阻害して血圧や心拍数を抑制します。これら薬剤を服用中の患者は運動中に心拍が上がりにくいなどの特徴があるため、理学療法士・作業療法士は自覚症状やBorgスケールなど他の指標を活用して負荷量を評価する必要があります。
骨格筋との比較
1. 随意性と支配神経
- 骨格筋: 体性神経支配(運動ニューロンの軸索末端からアセチルコリンが放出)で随意制御
- 平滑筋・心筋: 自律神経とホルモン支配で不随意
2. サルコメアと横紋の有無
- 骨格筋: サルコメアが整然と並び、顕微鏡下で横紋を観察可能
- 平滑筋: サルコメア構造がなく、アクチン・ミオシンの網目状
- 心筋: サルコメアあり(横紋)だが、不随意筋で介在板による電気的同期が特徴
3. 不応期とテタヌス収縮
- 骨格筋: 不応期が極めて短い → 高頻度刺激でテタヌス可能
- 平滑筋: そもそも活動電位発火頻度が低く、ゆっくり持続的に収縮
- 心筋: 不応期が長く、テタヌスは基本的に起こらない → 拍動を守る安全設計
4. 臨床応用
- 骨格筋: 筋力トレーニング、柔軟性向上、パワーリハなど直接的アプローチ
- 平滑筋: 血管トーヌス、消化管蠕動、起立性低血圧への対応など間接的に理解が必要
- 心筋: 心臓リハ(有酸素運動、薬物療法の影響考慮)、不整脈・心不全の管理
まとめ
- 平滑筋
- 横紋がなく、アクチン・ミオシンは網状に配置
- 自律神経・ホルモン支配の不随意筋で、血管・消化管などに分布
- 単一ユニット型(ギャップ結合で一斉収縮)と多重ユニット型(独立支配)があり、消化管蠕動や血圧調整などに関与
- 心筋
- 横紋があり、サルコメアを持つが不随意筋
- 介在板とギャップ結合で電気的に同期し、一斉に収縮
- 洞房結節などの伝導系が自動能を生み、交感・副交感神経が拍動数や収縮力を調節
- 不応期が長く、テタヌス収縮が起こらないため、拍動を維持するポンプとして機能
- 骨格筋との比較
- 骨格筋は随意制御で強速収縮可能、平滑筋・心筋は不随意でゆっくりor自動拍動
- 不応期の長さ、支配神経、エネルギー代謝などが大きく異なる
- リハビリテーションでの着眼点も異なり、骨格筋に対しては筋力トレーニング中心、心筋には有酸素運動やモニタリングが必要、平滑筋は主に循環・消化機能管理を考慮する
- リハビリテーションへの応用
- 血圧や心拍数の管理には平滑筋と心筋の生理を踏まえたモニタリングが不可欠
- 心不全患者の運動負荷設定、薬剤の影響理解(β遮断薬・Ca拮抗薬など)が安全なリハビリを支える
- 消化管蠕動や自律神経系がかかわる起立性低血圧、便秘対策に応用可能