患者さんがAIに聞いてきたら? 療法士の「4つのA」対応法

患者さんがAIに聞いてきたら? 療法士の「4つのA」対応法

こんにちは、理学療法士の大塚です。

担当している患者さんや利用者さんから、こんなことを言われた経験はありませんか?

  • 「テレビで、この運動が腰痛にいいと言っていました」
  • 「本にはストレッチした方がいいと書いてありました」
  • 「ネットで調べたら、これは坐骨神経痛だと思います」

僕もよくあります。

そして正直に言うと、内心では、

「いやいや、テレビの情報より、目の前にいる理学療法士の僕の話を信じてよ」

と思っていました(笑)。

そのため、

  • 「テレビはたくさんの人に向けた一般的な情報ですからね」
  • 「ネットには正しくない情報もありますからね」

と、やんわり否定することもありました。

でも最近は、

  • 「AIに聞いたら、この筋肉が原因だと書いてありました」
  • 「ChatGPTに症状を入力したら、この運動がいいと言われました」

と言われることも増えてきました。

さて、こんなとき療法士はどう対応すればいいのでしょうか?

患者さんが情報を集めてくるのは、今に始まったことではない

患者さんが自分の症状について調べること自体は、昔からありました。

テレビ、新聞、健康雑誌、書籍、家族や知人の話。そこにインターネット、SNS、YouTubeが加わり、今は生成AIが加わっただけです。

ただ、生成AIには従来の検索とは少し違う特徴があります。

質問を入力すると、こちらの状況を理解しているような文章で直接答えてくれます。複数の情報もきれいに整理してくれますし、会話を重ねれば重ねるほど「これは自分に合った答えだ」と感じやすくなります。

しかも結構、自信満々に答えます。

僕たち療法士だって「実際に身体を見てみないと分かりません」と言うのに、AIは身体を触ってもいないのにスラスラ答えてくれるわけです。患者さんが納得してしまうのも無理はありません。

ここで大切なのは、AIを危険なものとして扱うことではありません。
AIは新しい技術ですが、「患者さんが外から持ってきた情報と、療法士がどう向き合うか」という臨床上の課題は、以前からあったのです。

「その情報は間違っています」だけでは不十分

患者さんが情報を調べるのは、単に知識が欲しいからではありません。

  • 「痛みの原因を知りたい」
  • 「いつ治るのか知りたい」
  • 「このまま悪化しないか心配」
  • 「自分でも何かできることを探したい」

そんな不安や希望があるから調べています。

もしかすると、以前に説明を受けたけれどよく理解できなかったのかもしれません。忙しそうな医療者に質問できなかったのかもしれません。自分のつらさを分かってほしくて、その気持ちを説明してくれる情報を探したのかもしれません。

そのため、患者さんが持ってきた情報をすぐに否定すると、情報だけでなく「自分で調べたこと」や「自分の不安」まで否定されたように感じる可能性があります。

もちろん、安全上の問題があれば修正は必要です。

患者さんが持ってきた情報を否定することと、誤った情報を修正することは同じではありません。

まずは、
・「どの部分が気になりましたか?」
・「読んでみて、どう感じましたか?」
・「何か心配になったことはありますか?」
と聞いてみる。それだけで、患者さんの本当の困りごとが見えてくることがあります。

AI情報を扱う「4つのA」

Kholiyaらは、患者さんが生成AIから得た情報を臨床で扱う方法として、

  • Ask:尋ねる
  • Appraise:評価する
  • Adapt:個別化する
  • Audit:結果を確認する

という4段階を提案しています。
では、一つずつ臨床に当てはめてみましょう。

Ask:まず、何を調べたのかを聞く

Askは、単に「AIを使いましたか?」と確認することではありません。

  • 「どのような言葉で質問しましたか?」
  • 「どの部分が自分に当てはまると思いましたか?」
  • 「読んで安心しましたか?それとも不安になりましたか?」
  • 「すでに試してみた運動はありますか?」
  • 「今日は、その情報について何を確認したいですか?」

と聞いてみます。

患者さんが持ってきた情報は、その人の病気に対する理解や信念、恐怖、期待を知るための評価材料になります。

つまりAskは、AIの回答を確認する作業であると同時に、患者さん自身を知るための問診でもあるのです。

Appraise:正しいかだけでなく、安全か、当てはまるかを考える

次に、患者さんが持ってきた情報を評価します。

ここで注意したいのは、

  • 「テレビだから間違い」
  • 「本だから正しい」
  • 「医師が言ったから正しい」
  • 「AIだから危険」
  • 「論文があるから絶対に正しい」

とは限らないということです。

まず確認するのは安全性です。レッドフラッグを見逃していないか、禁忌となる運動ではないか、既往歴や服薬との関係に問題はないかを考えます。

次に、その情報が何を根拠にしているのかを確認します。健康な人を対象にした一般的な情報なのか、特定の疾患や病期を対象にした情報なのかでも意味が変わります。

一番大切なのが、目の前の患者さんに当てはまるかどうかです。

情報が一般論として正しいことと、目の前の患者さんに適していることは別の問題です。

Adapt:一般論を、その人に合わせる

Adaptは、この4段階の中で療法士の専門性が最も現れる部分だと思います。

例えばAIから、

「腰痛には体幹筋トレーニングが有効です」

という回答が返ってきたとします。

間違いとは言い切れません。でも、それだけでは治療にはなりませんよね。

  • どの動作で痛むのか
  • どの程度の負荷ならできるのか
  • 何をすると症状が変化するのか
  • 仕事や生活では何に困っているのか
  • そして本人は何を取り戻したいのか(HOPE)

それらを評価して、運動の種類、負荷、回数、速度、可動範囲、姿勢、頻度、中止基準を調整します。

AIは一般的な候補を提示できます。
でも療法士は、「この人が、今、どの方法を、どの程度行うべきか」を考えます。

専門性とは、単に情報をたくさん知っていることではありません。情報を、その人の身体と生活に翻訳する力なのだと考えています。

Audit:やって終わりにせず、結果を一緒に確認する

最後はAuditです。

運動を提案して終わりではなく、実際に行った後の変化を確認します。

  • 「身体はどう変わりましたか?」
  • 「痛み以外に、やりやすくなった動作はありますか?」
  • 「続けにくかった部分はありますか?」
  • 「最初に調べたときと比べて、今は自分の状態をどう考えていますか?」

症状の悪化はないか、動作や活動範囲は変わったか、不安は軽くなったか、別の代償動作は出ていないか、本人の目標に近づいたかを一緒に確認します。

こうすることで、

  1. 調べる
  2. 専門家と検討する
  3. 自分に合う形に修正する
  4. 実践する
  5. 結果を振り返る

という学習の循環を作ることができます。

この4段階はAIだけの対応ではない

Ask・Appraise・Adapt・Auditは、AI情報を扱う方法として提案されたものです。

しかし実際には、テレビで見た健康法、本に書かれた運動、YouTubeのストレッチ、SNSの治療法、家族から勧められた方法にも、そのまま使えます。

AIが登場したから、まったく新しい対応が必要になったのではありません。

AIの登場によって、これまで曖昧だった「患者さんが持ち込む情報との向き合い方」が、4段階として整理されたのです。

専門家の役割は、患者さんに「テレビやネットではなく、僕を信じてください」と求めることではありません。
患者さんが集めた情報を一緒に確認し、安全性を判断し、その人の身体と生活に合わせ、結果を確かめることです。

AIを否定する必要も、無条件に信じる必要もありません。

まずは患者さんに、

「AIに、どんなことを聞いてみたんですか?」

と聞くことから始めてみましょう。

そこから始まる対話が、患者さんの不安や価値観を知る、新しい評価になるかもしれません。

まとめ

  1. 患者さんがAIや外部情報を持ち込むことは今に始まったことではない。新しい技術が加わっただけで、「外部情報との向き合い方」という臨床課題は以前からある。
  2. 情報を否定するのではなく、「Ask(尋ねる)・Appraise(評価する)・Adapt(個別化する)・Audit(確認する)」の4段階で向き合うことで、臨床推論の起点になる。
  3. 療法士の専門性は、情報の量ではなく「情報をその人の身体と生活に翻訳する力」にある。

参考文献

  1. Kholiya K, Jayaswal RP, Malik MMUD. AI-Safe Physiotherapy: From Patient-Generated Advice to Equity-Ready Clinical Governance. Physiotherapy. 2026;102344.
  2. Vancampfort D, Van Damme T. The missing step in AI-safe physiotherapy: Talking with patients. Physiotherapy. 2026;102345.
  3. Vancampfort D, Van Damme T. When patients bring AI into physiotherapy: Why and how clinicians should engage? Physiotherapy. 2026;132:102340.
  4. Chartered Society of Physiotherapy. Artificial Intelligence (AI) principles in action. 2025.
  5. Straus SE, Glasziou P, Richardson WS, Haynes RB. Evidence-Based Medicine: How to Practice and Teach EBM. 5th ed. Elsevier; 2018.

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