反張膝はなぜ変わりにくいのか|BRS2〜3で見たい足部と荷重【前編】

反張膝が治らない本当の理由|BRSステージ別・攻略の全手順【前編】

脳卒中後の反張膝、膝への筋トレや局所マッサージでは変わらないことが多い。
その理由は、BRSのステージによって膝が過伸展するメカニズムが全く異なるため。
前編では、BRS2〜3の「共同運動ロック型」の病態と、足底感覚入力・装具・テーピングを組み合わせた攻略法を整理する。

  • 反張膝の要因は足関節・膝・股関節にまたがり、同じ患者様で重なっていることが多い(足関節底屈筋の痙縮・短縮、大腿四頭筋やハムストリングス・股関節周囲の筋力低下、感覚障害、不安定さを補う歩行戦略など)
  • 本記事はBRS2〜3を対象に、膝の筋力へ目が向きやすい場面で見落とされやすい足底感覚と足関節の要因を整理する
  • BRS2〜3では下肢伸展共同運動と足底感覚低下が関与している可能性が高く、膝への局所介入より足底感覚入力と荷重の再構築が優先される
  • 装具(底屈制限)・靴(硬いヒールカウンター)・テーピング(踵骨外反誘導)を連動させた環境設定が、攻略の鍵になる

「大腿四頭筋が弱いから」は本当か?

歩行時の立脚中期(Mid Stance)において、患者様の麻痺側の膝が「カクン!!!」と後ろに強烈に過伸展ロックされる姿を見て、こう考えていませんか?

  • 「大腿四頭筋の筋力(MMT)が弱いから、骨でロックして代償しているんだ。よし、ベッドの上でクアドセッティングとSLRだ!」
  • 「大腿四頭筋の痙性が高いから膝が伸び切るんだ。よし、太もものマッサージと大腿直筋のストレッチだ!」
⚠️ 注意
そのアプローチだけで終わってしまうと、歩行中の反張膝は変わらないことが少なくありません。
大腿四頭筋の筋力低下も反張膝の要因のひとつですから、筋力の評価を外すことはできません。ただ、ベッド上の筋トレや局所のマッサージ「だけ」では歩行中の膝の制御まで届きにくいのには、理由があります。

なぜ患者様の膝は後ろに張って弾かれてしまうのか。なぜ局所をいくら揉んでも筋トレをしても、歩行中の反張膝は変わりにくいのか?

その答えは、反張膝を「ひとつの症状」として一括りにしてしまっていることにあります。

実は、患者様の下肢のBRS(ブルンストローム・リカバリー・ステージ)の現在地によって、膝が裏返るメカニズムは全くの別物なんです。

【事実】 脳卒中などの回復初期において、歩行時に膝が後ろへカクンと伸び切ってしまう現象が起きる。

【解釈】 膝の筋力不足だけではなく、足裏の感覚低下と転倒の恐怖から、身体が足全体を硬直させて身を守ろうとしていることが、要因のひとつとして考えられる。

【行動】 膝の筋力も評価したうえで、そこだけに頼らず、足裏の感覚入力で不安をやわらげ、装具や硬い靴で足元を固定・補正することを組み合わせる。

BRS低値期の反張膝って? 「下肢伸展共同運動」とDFLの関係

BRSが低い時期の反張膝は、単なる筋肉の硬さや局所の問題ではありません。

脳幹レベルの原始的な一括ロックプログラム、【下肢伸展共同運動(股関節内転内旋・膝伸展・足関節底屈内反)】が関与している可能性があります。

筋膜的には、身体の最深部を走る筋膜経線【DFL(ディープ・フロント・ライン)】という見方があります。DFLは筋膜のつながりを説明するモデルで、後脛骨筋・膝窩筋・内転筋群・大腰筋といった深部の筋群をひとまとめに呼ぶ言い方だと考えてください。ただし「DFLが短縮するから反張膝が起こる」という因果そのものが確かめられているわけではありません。この記事では以降、DFLという言葉は使わず、これらの筋群をまとめて「深部」と呼んでいきます。

この時期の反張膝では、下肢伸展共同運動に加えて、足関節底屈筋の痙縮・短縮による背屈制限、大腿四頭筋の筋力低下や過活動、深部感覚の低下などが重なっていることが多いです。どれが効いているかは、評価してみないとわかりません。

だから、膝を直接どうにかするのではなく、

  • ✅ 足底感覚の入力(深部の防衛的な緊張をゆるめる)
  • ✅ 正しい荷重の乗せ方の再構築(脳の恐怖を取り除く)

この2つを軸にアプローチを組み立てます。

感覚低下が引き起こす「脳の暗闇」

感覚低下(体性感覚・固有感覚)によって、自分の足が空間のどこにあるのか? 床のどこを踏んでいるのか?

コレが分からない「脳の暗闇」の中にいます。

その状態で、立脚期に荷重がかかった瞬間、脳は「足が崩れて転倒する!」と強烈なパニックを起こします。

皆さんも「びっくりした時」「怖い時」って全身変に力入りますよね?(筋緊張亢進)

身を守るために、細かい制御はいったん後回しになり、全身の筋緊張が高まります。下肢では、股関節の内転・内旋、膝の伸展、足関節の底屈・内反という伸展パターンが出やすくなります。深部では後脛骨筋・膝窩筋・内転筋群・大腰筋あたりが触診の対象になりますが、これらが一本の鎖として一括で収縮すると確かめられているわけではありません。感覚と恐怖だけで説明しきれるものでもなく、さきほど挙げた足関節底屈筋の痙縮・短縮や背屈制限といった機械的な要因が、同時に膝の過伸展を押し上げていることも多いです。

これが、下肢伸展共同運動が臨床の歩行で出現する際の、神経・筋膜メカニズムのひとつの捉え方です。

反張膝駆動ドミノ:大腰筋とヒラメ筋の「鋼鉄ワイヤー」

深部がまとめて硬くなると、「反張膝駆動ドミノ」が起こりやすくなります。

① 大腰筋のエンスト(骨盤を前へ送れない)

「大腰筋=股関節の屈曲筋」としか書いてありませんが、歩行(CKC環境)における機能は【腰椎を安定させ、大腿骨頭を臼蓋に引き込んで安定させるインナーマッスル】です。

このインナー機能がエンストすると、関節のグラつきを恐れた脳が防衛反応として大腰筋を固めてしまいます。

その結果、股関節の伸展が失われ、骨盤を前へ送る動きが出にくくなります。

ただし、骨盤の遅れだけで反張膝が決まるわけではありません。骨盤も上半身もそろって後ろに残るなら、作用線は膝の後ろを通って膝折れの側に出ます。反張膝になるのは、脛骨が後傾したまま、上半身(重心)だけが膝より前へ運ばれたときです。

② 膝窩筋(ひざ裏のロック解除筋)のフリーズ

膝裏の関節包に直接付着し、伸び切った膝を屈曲方向へ滑らかに始動させる役割を担う【膝窩筋】。

これが筋膜の過緊張ドミノに巻き込まれると、伸び切った膝が屈曲方向へ動き出しにくくなることがあります。

📌 補足
膝窩筋は膝の回旋制御など複数の機能を持ちますが、この「過緊張ドミノに巻き込まれやすいインナー」として重要な観察ポイントになります。膝窩筋単体で反張膝のすべてが説明できるわけではないので、前後の連鎖全体をみることが大切です。

③ ヒラメ筋とアンクルロッカーの封印

足元では、後脛骨筋とヒラメ筋が底屈・内反(尖足)方向へ縮みきった状態で固まります。

単関節筋であるヒラメ筋が過緊張すると、立脚中期に脛骨が前へ転がっていくのを抑え込む方向へ力が働き、アンクルロッカーが出にくくなります。脛骨が後傾したまま立脚が進み、そこへ上半身(重心)が膝より前へ運ばれていくと、床反力の作用線が膝の前方を通りやすくなり、膝には過伸展方向のモーメントが加わります。

🔄 反張膝の負のループ

下腿 ← 後方に倒れたまま(ヒラメ筋の過緊張でアンクルロッカーが出ない)
骨盤 ← 前方への送りが出ない(大腰筋のエンスト)
↓
上半身だけが前へ運ばれ、膝が作用線より後方に取り残される → 反張膝
↓
上半身が前傾 → 前足部に荷重 → 足関節背屈の強制
↓
ヒラメ筋・後脛骨筋の伸長反射 → 痙性・過緊張
↓
さらに反張膝が強まる…(負のループ)

歩行って基本的に「前」に進むことが目的ですよね? けど「脛骨(下腿)」が後ろに倒れたまま、上半身だけが前へ出ていくと、「膝」は後方に取り残されて、床反力の作用線が膝の前方を通ります。これが、BRS2〜3の反張膝で見つかりやすいパターンのひとつです。

逆に、骨盤も上半身もそろって後ろに残ったままなら、同じ骨盤の遅れでも膝折れの側に出ます。当てはまるかどうかは、評価とその場の再評価で確かめてください。

臨床動作分析:まず「脛骨前傾」と「クロウトゥ」だけをみる

歩行分析の初手として、LR〜Mstにおける以下の2点をまず確認してください。

  • 【脛骨の前傾がない】 ヒラメ筋のロックによって脛が垂直(または後ろに傾いたまま)、前に転がらない状態。
  • 【足の指が床にしがみつく(クロウトゥ)】 伸展共同運動の末梢のサイン。足の指が丸まり、内反尖足の状態で必死にブレーキを踏み込んでいる。

ただし、この2点は入口です。当たりがついたら、①足関節底屈筋の痙縮(速い他動背屈での catch)と他動背屈の可動域(膝を伸ばした肢位と曲げた肢位で比べる)、②膝の伸展筋・屈曲筋と股関節伸展筋の支持性、③足底・足部の感覚、④装具と靴の適合、まで順に確認しましょう。とくに他動背屈が出ない(尖足拘縮がある)場合、後半で紹介する背屈位でホールドする装具の設定は、そのままでは使えません。

この2つが観えたら、「深部の防衛的な緊張の可能性」と「荷重の乗せ方のエラー」が疑われます。

アプローチ:「足底感覚入力と荷重の再構築」

脳がパニックを起こしている状態(暗闇)で、無理に足首を背屈させようとしても、防御反射が強まるだけです。

① 足底感覚の入力(GPSの回復)

「ここに体重を乗せれば安全だ」という情報を足底から届けることで、防衛的な筋緊張が下がるかどうかを、その場の再評価で確かめていきます。

重点的に刺激するポイントは以下の3点。

  • 母趾球
  • 小趾球
  • 踵

また、足部の感覚受容器(メカノレセプター)の分布を考え、入力する「感覚刺激の種類」も変えましょう。

② 荷重の再構築:骨盤前方誘導ハンドリングと脛骨引き出し

足部の準備ができたら実際に荷重をかけていきます。

  • 「膝」の荷重:一歩前に踏み込んだ姿勢(フロントランジ)で膝を足底内に荷重していきます。(→脛骨の前傾を促す)
  • 「骨盤」の荷重:フロントランジの姿勢から、「膝を伸ばしながら、骨盤を足底内に入れていきます」
【重要】
装具の「底屈制限の壁」単体だけに頼ると、初期接地で膝折れを起こすリスクがあります。
骨盤前方誘導は、重心を膝より前へ送って、膝に伸展方向のモーメントを作る操作です。膝折れを防ぐ側に働く一方、脛骨が後傾したままで骨盤だけを送れば、反張膝を強める向きにも働きます。
先に脛骨の前傾(ランジでの「膝」の荷重)が出ているかを確かめてから骨盤を送り、膝折れと過伸展のどちらも出ていないかを、その場で確認しながら進めてください。装具の設定だけで反張膝が整うわけではありません。

環境設定:装具・靴・テーピングによる「壁とブロック」の構築

【装具のポイント】底屈制限による膝屈曲モーメントの強制誘導

候補になるのは、硬性短下肢装具(SHB:シューホーンブレース)やダブルクレンザック継手付きの金属支柱装具です。

ただし装具の選択は、他動背屈の可動域・痙縮の程度・支持性・生活環境によって変わります。既製品が合うかどうかも含め、義肢装具士や医師と相談しながら決めていきましょう。

足関節を背屈方向に設定した前傾位でホールドし、歩行時に足首が底屈して脛が後ろに倒れるのを、装具の「壁」が物理的にせき止めます。

📌 装具設定の目安
底屈制限の角度(背屈5°〜10°前後)は、患者様の病態・重症度・筋力バランスに応じて個別に調整してください。一律に決め打ちせず、装具担当者や義肢装具士と相談しながら設定することが重要です。

【靴のポイント】装具を封じ込める「鋼鉄のヒールカウンター」

装具の上から履く靴は、「踵(ヒールカウンター)がガチガチに硬い靴(またはハイカット)」を選んでください。

スリッポンやサイズのデカい靴では、靴の中で装具がグラついて底屈制限の「壁」が効かず、足元の不安定さから防衛的な筋緊張が戻ってしまうことがあります。

【テーピング・バンテージのポイント】踵骨誘導と膝のロック解除

装具を履く前の素足に仕込む、物理的なアンカー(碇)です。

  • 伸びないホワイトテープや強めのキネシオテープを使い、踵骨(かかと)を外側へ引っ張り上げるように固定するヒールロック・テーピングで内反尖足を物理的にブロック
  • 膝には脛骨の回旋を整えるテーピングと、膝窩部(膝裏)に沿わせる軽い圧迫を加える。テープで膝の伸展モーメントそのものを打ち消せるわけではなく、狙いは過伸展の手前を皮膚で知らせること。貼る前後で立脚中期の膝の入り方が変わるかを、その場で確かめる

臨床アクションプラン&評価チェックリスト

BRS2〜3の反張膝を攻略するための【TODOリスト】です。

  • ☐ 反張膝の病態を「一括り」にせず、下肢のBRSステージによって明確に「分解」して解釈した
  • ☐ 歩行分析の際、患者様の真横に立ち、「脛骨の前傾がフリーズしていないか」と「足趾のクロウトゥ」を追った
  • ☐ 局所の筋トレだけに頼らず、足底感覚入力と荷重の乗せ方の再構築を組み合わせるアプローチに切り替えた
  • ☐ 装具(底屈制限の壁)、靴(硬いヒール)、テーピング(踵骨外反誘導)の3つを連動させて環境を構築した

【前編の結び】そして、ステージ4以上の「分離」へ

お疲れ様でした。ここまでが、BRS2〜3の「共同運動ロック型」における反張膝の攻略法です。

深部の防衛的な緊張をゆるめ、大腰筋のはたらきを引き出し、荷重の乗せ方を再構築して、装具という物理的な壁でアシストする。

けど、「BRS4以上」であり、ベッドの上では足首を単独で背屈できている(分離ができている)にもかかわらず、歩行になると膝が後ろにカクンと弾かれてしまうとしたら?

ちょっと別の「攻略法」が必要かも知れません…

共同運動から抜け出しているはずなのに、なぜバックニーが出るのか?

BRS4以上では、共同運動や筋力低下だけでは説明しきれない反張膝が出てきます。次回の【後編】では、この「動的分離エラー型」の反張膝について、荷重がかかったときの足関節の使われ方と、股関節の荷重コントロールという二つの見方を足して考えていきます。効果はその場でわかりますから、変化が出なければ見立てを見直す——その確かめ方もあわせてお伝えしますね。

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この記事の執筆・監修

執筆:目良 智昭(理学療法士)整形外科・スポーツ

監修:大塚 久(理学療法士・療法士活性化委員会 代表)