こんにちは、理学療法士の内川です。
みなさん、上腕三頭筋に関して評価していますか?上腕三頭筋は、上肢の伸展や安定に大きな役割を果たす重要な筋肉です。特に肘関節の動作において非常に重要で、日常生活のさまざまな動作で使用されています。上腕三頭筋が機能しないと、起き上がりも困難になってしまいます。
上腕三頭筋は2関節筋でもあるため、肩関節の安定性にも寄与します。上肢をよく使う競技では、この筋肉の機能不全により肩関節や肘関節の障害が生じることもあります。
今回は、上腕三頭筋についての解剖学的知識、機能、評価方法、そしてリハビリテーションでの活用方法について詳しく解説します。
目次
1. 上腕三頭筋の解剖と作用
起始:
- 長頭:肩甲骨の関節下結節
- 外側頭:上腕骨後面、橈骨神経溝より上部
- 内側頭:上腕骨後面、橈骨神経溝より下部
停止:
- 尺骨の肘頭
支配神経:
- 橈骨神経(C6~C8)
作用:
- 肘関節の伸展
- 肩関節の伸展と内転(長頭のみ)
上腕三頭筋は、名前の通り3つの筋頭(長頭、外側頭、内側頭)から構成されており、肘関節の伸展運動に大きく関与します。内側頭は一番深層にある筋で、その上に外側頭、長頭が重なっています。長頭は肩甲骨から起こるため、肩関節の伸展と内転にも関与します。日常の押す動作や、物を持ち上げる際に重要な役割を果たす筋肉です。
2. 上腕三頭筋の評価
MMT(徒手筋力テスト)
段階5、4、3の手順:
- 腹臥位で肩外転90°肘屈曲90°前腕を台から外に出し下垂、肘を伸展させる
- 全可動域動かせれば、検者は上腕を下方から支持しもう一方の手で手関節の近位で抵抗(肘をロックさせないよう軽度のみ屈曲位で実施)
判断基準:
- 5:最大の抵抗に対して保持できる
- 4:中等度の抵抗に対して保持できる
- 3:抵抗がなければ可動域をすべて動かせる
段階2、1、0の手順:
- 腹臥位で肩外転90°回旋中間位、肘屈曲45°(上肢は床面と水平になる)
- 肘を下方から支持し、肘を伸展させる
判断基準:
- 2:重力が最小化されれば全可動域を動かす
- 1:前腕を下方から支持し可動させ、肘頭の近位で上腕三頭筋腱を緊張または筋腹を触知
- 0:動きも収縮もない
3. 上腕三頭筋の機能訓練
肘伸展のエクササイズ
- 背臥位で腕を体の前に持ってきます。(MMT2,1,0の姿勢を背臥位でとる)
- 肘の伸展を繰り返す。
- 10回3セットを目安に行います。
プッシュアップ(腕立て伏せ)
- 体を一直線に保ち、手を肩幅に開き、床に置きます。しっかりと肩を開くようにしつつ体を支えます。
- 肘を曲げて体をゆっくり下ろし、肘を伸ばして元の位置に戻します。
- 10回3セットを目安に行います。
4. 機能低下と影響
- 上腕三頭筋の機能低下は、肘関節の伸展が困難になることで、押す動作や重いものを持ち上げる動作が制限される原因となります。起き上がりなども押し込みができなくなることがあります。
- 上腕三頭筋の弱化により、肩関節や肘関節自体への負担が増し、肩関節や肘関節の不安定感や疼痛が生じることがあります。
5. 臨床ちょこっとメモ
- 上腕三頭筋は弱化しやすい筋肉となります。
- 上腕三頭筋は肘外反への制動作用も持っています。
- 上腕三頭筋は、肘関節だけでなく肩関節の安定性にも関与します。上腕三頭筋の過緊張が生じると、水平屈曲や肩関節90°屈曲位での内外旋へ影響が出やすいです。
- 上腕三頭筋の機能低下は、肩や肘の負担を増加させるため、筋力強化を計画的に行うことで、肩関節や肘関節の痛みの予防にもつながります。
6. まとめ
①解剖と機能:
上腕三頭筋は長頭、外側頭、内側頭の3つの筋頭から構成される筋肉で、主に肘関節の伸展に関与します。長頭は肩甲骨から起始するため、肩関節の伸展と内転にも働きます。橈骨神経(C6~C8)に支配され、日常生活での押す動作や物を持ち上げる際に重要な役割を果たします。また、肘関節の安定性や肘外反の制動にも貢献しています。
②評価と訓練:
上腕三頭筋の評価には徒手筋力テスト(MMT)が用いられ、腹臥位や背臥位での肘関節伸展動作を観察します。機能訓練としては、背臥位での肘伸展エクササイズやプッシュアップ(腕立て伏せ)などが効果的です。これらの評価と訓練方法を適切に実施することで、上腕三頭筋の機能改善と上肢全体の安定性向上を図ることができます。
③機能低下の影響と臨床的考慮:
上腕三頭筋の機能低下は、肘関節の伸展困難や押す動作の制限をもたらし、日常生活動作に支障をきたす可能性があります。また、肩関節や肘関節への負担が増加し、不安定感や疼痛を引き起こすこともあります。臨床的には、上腕三頭筋は弱化しやすい筋肉であるため、計画的な筋力強化が重要です。さらに、上腕三頭筋の状態が肩関節の可動域にも影響を与える可能性があるため、上肢全体のバランスを考慮したアプローチが必要です。
今回記載したものはあくまでも筋単体のことです。実際の治療においては周囲にいくつもの筋肉が存在しており、深さも考えなければなりません。周囲に何があるかイメージできていますか?不安な方はぜひ一緒に勉強しませんか?
【解剖が苦手な方限定】 実践!! 身体で学ぶ解剖学(筋肉編)
7. 参考文献
- 新・徒手筋力検査法 原著第10版
- プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論運動器系 第3版
- 肩関節痛・頸部痛のリハビリテーション
- 山本凜太郎.他”停止腱の組成に基づく上腕三頭筋の解剖学的研究” 日本作業療法学会抄録集 57: 721-721, 2023.
- 河田龍人.他”上腕三頭筋長頭の硬さと肩関節可動域との関連性”愛知県理学療法学会誌 31(suppl): 41-41, 2019.
- 高木岳彦.”関節疾患 (内反肘, 外反肘, 内反手, 外反手) “小児外科 54(1): 91-95, 2022.