3.4 末梢神経系の解剖学的構造と機能 〜理学療法士・作業療法士のための生理学の教科書〜

3.4 末梢神経系の解剖学的構造と機能

こんにちは、理学療法士の大塚です。今回は末梢神経についてお伝えしていきます。

本章のポイント

  • 活動電位の発生と伝導の詳細メカニズム
  • 不応期の生理学的意義と臨床応用
  • 臨床現場での実践的活用法

1.1 活動電位の発生と伝導の詳細メカニズム

静止膜電位の形成

細胞内外のイオン濃度勾配

  • Na⁺: 細胞外 145mEq/L、細胞内 12mEq/L
  • K⁺: 細胞外 4mEq/L、細胞内 150mEq/L
  • Cl⁻: 細胞外 120mEq/L、細胞内 4mEq/L

重要ポイント:

Na⁺/K⁺-ATPaseが1回の活性で3個のNa⁺を細胞外へ、2個のK⁺を細胞内へ輸送し、濃度勾配を維持します。

活動電位の主要段階

  1. 静止期
  • 静止膜電位:-70mV
  • Na⁺/K⁺-ATPaseによる能動輸送(3Na⁺out/2K⁺in)
  1. 脱分極期
  • 閾値:-55mV
  • 電位依存性Na⁺チャネルの開口
  • 膜電位が+30mVまで上昇
  1. 再分極期
  • K⁺チャネルの開口
  • Na⁺チャネルの不活性化
  • 静止膜電位への回復

1.2不応期の生理学

絶対不応期

  • 持続時間:約1ms
  • 特徴:新たな活動電位が発生不可能

相対不応期

  • 持続時間:2-3ms
  • 特徴:通常より強い刺激で活動電位が発生可能

1.3 臨床応用のポイント

電気刺激療法での活用

  • 低周波治療器の最適周波数:20-50Hz
  • パルス幅:200-300マイクロ秒
  • 不応期を考慮した設定による効果的な筋収縮

リハビリテーションでの注意点

  • 筋疲労時の相対不応期延長への配慮
  • 適切な休息時間の確保
  • 段階的な負荷量の調整

神経疾患への配慮

  • 脱髄性疾患での不応期延長
  • 環境温度の管理(28度以下推奨)
  • 適切な疲労管理と休息

章末のまとめ

重要ポイント

  • 活動電位は5つの明確な段階を経て発生する
  • 不応期は神経の機能的特性として重要
  • 臨床応用では生理学的特性を考慮した介入が必要

臨床実践のためのチェックポイント:

  • 電気刺激パラメータの適切な設定
  • 疲労管理と休息時間の確保
  • 環境因子への配慮

 

第2章:末梢神経の伝導メカニズム

本章のポイント

  • 有髄神経の跳躍伝導の特徴と機能
  • 無髄神経の連続伝導のメカニズム
  • 伝導様式の違いによる臨床的意義

2.1 有髄神経の跳躍伝導

ミエリン鞘の構造と機能

物理的特性

  • 厚さ:約2μm
  • 周期:約160-180層/μm
  • 絶縁抵抗:約2,000MΩ/cm²

構成成分

  • タンパク質(20%)
    • P0タンパク質
    • PMP22
    • MBP
  • 脂質(80%)
    • コレステロール
    • スフィンゴミエリン

ランビエ絞輪の特徴

構造的特徴

  • 間隔:約1-2mm
  • Na⁺チャネル密度:約1,000-1,200/μm²
  • 直径:約1μm

機能的特徴

  • 局所電流の増幅効果
  • 伝導速度の向上(最大75m/秒)
  • エネルギー効率:無髄神経の約1/100

2.2 無髄神経の連続伝導

基本特性

  • 伝導速度:1-4m/秒
  • 連続伝導方式
  • 主にC線維や自律神経節後線維

主な機能と分布

C線維

  • 痛覚伝導
  • 温度感覚
  • 自律神経機能

自律神経節後線維

  • 内臓機能調節
  • 血管運動調節
  • 発汗調節

2.3 臨床的意義

病態での特徴的変化

多発性硬化症

  • ミエリン鞘の破壊
  • 跳躍伝導の障害
  • 温度感受性の増大

糖尿病性神経障害

  • 無髄線維の早期障害
  • 温痛覚障害の先行
  • 自律神経症状の出現

リハビリテーション介入のポイント

有髄神経障害

  • 環境温度管理
  • 疲労管理
  • 段階的負荷設定

無髄神経障害

  • 皮膚保護
  • 自律神経症状への対応
  • 温度管理指導

章末のまとめ

重要ポイント

  • 有髄神経は跳躍伝導により高速・省エネルギーな伝導を実現
  • 無髄神経は連続伝導により確実な情報伝達を実現
  • 病態により伝導特性が変化し、特徴的な症状が出現

臨床実践のためのチェックポイント:

  • 神経の種類による症状出現パターンの理解
  • 適切な評価項目の選択
  • 病態に応じた介入戦略の立案

 

 

第3章:シナプス伝達の生理学

本章の学習目標

  • 神経筋接合部の構造と機能の理解
  • 神経伝達物質の動態の把握
  • シナプス伝達の臨床応用の習得

3.1 神経筋接合部の詳細構造と機能

シナプス前終末の構造

小胞体系

  • シナプス小胞数:50-300個/活性帯
  • アセチルコリン分子数:5,000-10,000/小胞
  • 活性帯の数:20-50個/終末

イオンチャネル

  • Ca²⁺チャネル密度:約250/μm²
  • チャネル開口時間:0.1-0.3ミリ秒
  • 局所Ca²⁺濃度:最大約200μM

シナプス間隙とシナプス後膜

シナプス間隙

  • 幅:約50nm
  • アセチルコリンエステラーゼ密度:約2,800/μm²
  • 拡散時間:約0.1ミリ秒

シナプス後膜

  • 受容体密度:約10,000/μm²
  • チャネル開口時間:1-2ミリ秒
  • コンダクタンス:約30pS

臨床的重要性

  • 重症筋無力症:受容体密度の低下
  • Lambert-Eaton症候群:Ca²⁺チャネルの機能障害
  • ボツリヌス中毒:伝達物質放出阻害

3.2 神経伝達物質の動態

アセチルコリンの代謝

合成過程

  1. コリン取り込み
    • 高親和性トランスポーター
    • Na⁺依存性輸送
  2. アセチル化
    • コリンアセチルトランスフェラーゼ
    • アセチルCoAとの縮合
  3. 小胞への充填
    • 小胞性アセチルコリントランスポーター
    • プロトン勾配依存性

放出機構

  • Ca²⁺依存性開口放出
  • SNARE複合体の関与
  • シナプトタグミンによるCa²⁺感知

分解過程

  • アセチルコリンエステラーゼによる加水分解
  • コリンの再取り込み
  • アセチル基の代謝

3.3 臨床応用

主な神経筋疾患への対応

重症筋無力症

  • 運動時間:15-20分/セット
  • 休憩時間:3-5分/セット間
  • 午前中の運動推奨

Lambert-Eaton症候群

  • 十分なウォームアップ
  • 段階的な負荷設定
  • 反復運動による改善活用

リハビリテーション戦略

運動療法の原則

  • 個別化された運動処方
  • 疲労度のモニタリング
  • 環境因子への配慮

生活指導のポイント

  • 活動と休息のバランス
  • 服薬時間との調整
  • ストレス管理の重要性

章末のまとめ

重要ポイント

  • 神経筋接合部は精密な構造と機能を持つ
  • 伝達物質の代謝は厳密に制御されている
  • 病態により特徴的な症状が出現する

臨床実践のためのチェックポイント:

  • 症状の日内変動の確認
  • 運動負荷量の適切な設定
  • 環境因子の管理

 

 

第4章:末梢神経の代謝と栄養

本章のポイント

  • エネルギー代謝のメカニズム
  • 軸索輸送システムの機能と重要性
  • 神経栄養因子の役割と臨床応用

4.1 エネルギー代謝の特徴

グルコース代謝

代謝パラメータ

  • 酸素消費量:2.6-3.0 mL/100g/分
  • グルコース消費量:5.5-6.0 mg/100g/分
  • ATP産生量:約38 ATP/グルコース分子

エネルギー効率

  • イオンポンプ活性維持:40%
  • 軸索輸送:30%
  • 神経伝達物質合成:20%
  • その他:10%

ミトコンドリアの分布と機能

分布特性

  • ランビエ絞輪部:密度が約5-10倍
  • 軸索終末:ATP需要に応じた集積
  • 髄鞘下:規則的な配列

エネルギー産生機構

  1. 電子伝達系の5つの複合体
  2. プロトン勾配の形成
  3. ATP合成酵素によるATP生成

4.2 軸索輸送システムの詳細

順行性輸送(細胞体→末梢)

速い輸送(200-400 mm/日)

  • シナプス小胞前駆体
  • イオンチャネル
  • 膜タンパク質

遅い輸送(1-5 mm/日)

  • チューブリン
  • ニューロフィラメント
  • 細胞質酵素

逆行性輸送(末梢→細胞体)

  • 速度:100-200 mm/日
  • 輸送物質:
    • 神経栄養因子
    • 古い細胞小器官
    • エンドソーム
  • リサイクル効率:約40-60%

4.3 神経栄養因子

主要な神経栄養因子

NGF

  • 産生量:0.1-1.0 ng/g
  • 半減期:2-3時間
  • 受容体:TrkA、p75NTR

BDNF

  • 発現量:NGFの2-3倍
  • 半減期:4-6時間
  • 受容体:TrkB

NT-3

  • 大径有髄線維に重要
  • 受容体:TrkC
  • 再生促進:約30%

臨床応用のポイント

末梢神経損傷

  • 成長因子の局所投与
  • 運動療法との併用効果
  • 電気刺激の活用

神経変性疾患

  • 早期介入の重要性
  • 複合的アプローチ
  • 予防的介入

臨床への応用

評価とモニタリング

  • エネルギー代謝の評価
    • 疲労度の客観的評価
    • 運動耐容能の測定
    • 回復過程の確認
  • 軸索輸送機能の評価
    • 神経伝導検査
    • 筋力評価
    • 感覚機能検査

治療戦略

運動療法

  • 適切な運動強度設定
  • 休息時間の確保
  • 段階的負荷増加

生活指導

  • 栄養管理の重要性
  • 活動と休息のバランス
  • 環境調整の方法

章末のまとめ

重要ポイント

  • エネルギー代謝は神経機能維持に不可欠
  • 軸索輸送は双方向性で厳密に制御されている
  • 神経栄養因子は修復と再生に重要な役割を果たす

臨床実践のためのチェックポイント:

  • 代謝状態に応じた介入計画の立案
  • 輸送機能障害の早期発見と対応
  • 栄養因子を考慮した治療戦略

 

 

第5章:神経再生の生理学的プロセス

本章の重要ポイント

  • Wallerian変性の時間的経過と分子メカニズム
  • 軸索再生のプロセスと制御因子
  • 臨床的介入のタイミングと方法

5.1 Wallerian変性の詳細過程

急性期(損傷後24-48時間)

カルシウムの流入

  • 濃度上昇:通常の約100倍
  • カルパイン活性化
  • 細胞骨格の分解開始

ミトコンドリア機能障害

  • ATP産生低下:通常の約20%
  • 活性酸素種の産生増加
  • アポトーシス経路の活性化

亜急性期(3-7日)

シュワン細胞の活性化

  • 増殖率:通常の約5-10倍
  • 遺伝子発現変化:約400遺伝子
  • 栄養因子産生増加

マクロファージの浸潤

  • 集積密度:約1000個/mm³
  • 貪食活性:約48時間で最大
  • サイトカイン産生

5.2 軸索再生の分子メカニズム

成長円錐の形成

構造的特徴

  • 面積:約100-200 μm²
  • フィロポディア数:20-30本
  • アクチン含量:通常の約3倍

誘導因子

  • 神経栄養因子勾配
  • 接着分子の発現
  • 細胞外マトリックス成分

再髄鞘化過程

シュワン細胞の関与

  • 増殖速度:24時間で2倍
  • 髄鞘形成速度:1-2週間/節
  • タンパク質合成:通常の約5倍

髄鞘の再構築

  • 厚さ:元の約80-90%
  • 節間長:元の約60-70%
  • 伝導速度:最大で元の約90%

臨床応用と介入戦略

時期別の介入方針

急性期(~48時間)

  • 二次損傷の予防
  • 炎症コントロール
  • 適切な固定

亜急性期(3-7日)

  • 神経栄養因子の活用
  • 軸索再生の促進
  • 環境整備

慢性期(7日~)

  • 機能的電気刺激
  • 運動療法の開始
  • ADL訓練

リハビリテーションプログラムの立案

運動療法

  • 段階的負荷増加
  • 神経再生速度の考慮
  • 可塑性の活用

感覚入力

  • 知覚再教育
  • 感覚統合訓練
  • 代償戦略の指導

経過観察と評価

評価指標

客観的評価

  • 神経伝導速度
  • 筋電図所見
  • 筋力測定

主観的評価

  • 痛みのVAS
  • しびれの程度
  • ADL評価

章末のまとめ

重要ポイント

  • Wallerian変性は神経再生の必須過程
  • 軸索再生は時間依存的な過程
  • 適切な時期の介入が機能回復のカギ

臨床実践のためのチェックポイント:

  • 損傷後の経過時間の把握
  • 再生段階に応じた介入
  • 定期的な評価と計画修正

 

 

第6章:末梢神経系の適応と可塑性

本章の学習目標

  • シナプス可塑性のメカニズム理解
  • 環境応答性の臨床的意義の把握
  • 可塑性を活用したリハビリテーション戦略の習得

6.1 シナプス可塑性

短期可塑性

促通

  • 持続時間:数ミリ秒~数分
  • Ca²⁺依存性メカニズム
  • 伝達物質放出確率の増加

抑圧

  • 持続時間:数秒~数分
  • 小胞枯渇による影響
  • 回復時間:約1-2分

長期可塑性

構造的変化

  • 神経筋接合部の再構築
  • 受容体密度の変化
  • シナプス数の調節

機能的変化

  • 伝達効率の向上
  • 代償機能の獲得
  • 活動閾値の調整

6.2 環境応答性

温度適応

  • 最適温度:35-37℃
  • 温度係数:32℃以下で1℃あたり2.4-2.8m/sec低下
  • 臨床的意義:神経伝導検査時の体温管理の重要性

機械的ストレス応答

  • 軸索輸送速度の変化
  • イオンチャネル発現調節
  • 構造タンパク質の適応

臨床応用の実際

可塑性を活用した治療戦略

運動学習の原則

  • 反復練習の重要性
  • 課題特異性の考慮
  • 適切な難易度設定

感覚入力の活用

  • 多感覚刺激の統合
  • 環境設定の工夫
  • フィードバックの活用

介入プログラムの実際

基本プログラム例

フェーズ時間内容
ウォームアップ10分軽度の全身運動
メイン運動30分課題特異的トレーニング
クールダウン10分ストレッチング

経過観察と効果判定

評価指標の選択

機能評価

  • 運動機能テスト
  • 感覚機能評価
  • 筋力測定

活動・参加評価

  • ADL評価
  • QOL評価
  • 社会参加度

章末のまとめ

重要ポイント

  • 神経系の可塑性は生涯維持される
  • 環境因子が適応能力に大きく影響する
  • 適切な介入により機能回復を促進できる

臨床実践のためのチェックポイント:

  • 個別性を考慮したプログラム立案
  • 環境設定の重要性の理解
  • 継続的な評価と修正の実施

 

 

確認問題と解答

各問題の「解答を表示」をクリックすると、解答と解説が表示されます。

問題1:活動電位の発生メカニズム

末梢神経における活動電位の発生過程について、以下の点を含めて説明しなさい。

  • Na⁺/K⁺-ATPaseの役割
  • 各イオンチャネルの開閉のタイミング
  • 不応期の生理学的意義

解答:

  1. Na⁺/K⁺-ATPaseの役割
    • 静止膜電位の維持(-70mV)
    • 3Na⁺を細胞外へ、2K⁺を細胞内へ輸送
    • イオン濃度勾配の形成と維持
  2. イオンチャネルの開閉
    • 脱分極時:電位依存性Na⁺チャネルの開口
    • 再分極時:Na⁺チャネルの不活性化とK⁺チャネルの開口
    • 後過分極期:K⁺チャネルの緩徐な閉鎖
  3. 不応期の意義
    • 絶対不応期:活動電位の一方向性伝導の保証
    • 相対不応期:情報伝達の時間的制御
    • 臨床的意義:疲労予防と適切な刺激間隔の設定

問題2:神経伝導の特性

有髄神経の跳躍伝導と無髄神経の連続伝導について比較し、臨床的意義を考察しなさい。

解答:

1. 構造と機能の比較

有髄神経:

  • 伝導速度:最大120m/秒
  • エネルギー効率:高い
  • ミエリン鞘による絶縁

無髄神経:

  • 伝導速度:0.5-2.0m/秒
  • エネルギー消費:多い
  • 連続的な伝導
2. 臨床的意義
  • 脱髄性疾患での症状出現パターン
  • 糖尿病性神経障害の進行様式
  • リハビリテーション介入の優先順位

 

 

末梢神経系の生理学 総まとめ

重要概念の整理

1. 基本的な生理学的特性

  • 活動電位の発生と伝導
    • Na⁺/K⁺-ATPaseによるイオン勾配の維持
    • 5段階の活動電位サイクル
    • 不応期による制御

2. 伝導メカニズム

  • 有髄神経の跳躍伝導
    • 高速・省エネルギー
    • ランビエ絞輪での増幅
  • 無髄神経の連続伝導
    • 遅速・高エネルギー消費
    • 痛覚・温度感覚の伝導

3. 臨床応用のポイント

評価

  • 神経伝導検査
  • 筋力評価
  • 感覚機能検査

介入

  • 段階的負荷設定
  • 環境調整
  • 適切な運動強度

臨床実践のための重要ポイント

疾患別アプローチ

脱髄性疾患

  • 疲労管理の重要性
  • 温度管理
  • 段階的な負荷増加

軸索性障害

  • 神経栄養因子の活用
  • 再生促進戦略
  • 代償機能の強化

リハビリテーション計画の立案

  • 病態生理に基づく介入時期の決定
  • 個別性を考慮したプログラム作成
  • 定期的な評価と修正
  • 環境因子への配慮
  • 患者教育の重要性
 

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