骨格筋の構造と収縮メカニズム:筋線維からサルコメアまでを徹底解説

骨格筋の構造と収縮メカニズム 〜理学療法士・作業療法士のための生理学の教科書〜

こんにちは、理学療法士の大塚です。今回は筋肉の構造と収縮のメカニズムについて解説します。この記事では、「学んだ知識を臨床現場の治療プログラムやリハビリテーションにどう活かすか」に焦点を当てています。理学療法士・作業療法士の皆さんが日々の現場で活用できるポイントや具体的なステップをまとめました。ぜひ参考にしてください。

1. 筋線維の階層構造

筋肉全体の構成: 骨格筋は多数の筋線維束(筋束)が集まって筋腹を形成し、全体が結合組織性の筋膜(筋外膜)に包まれています。筋肉の両端は腱となって骨に付着し、関節をまたいで固定されています。この構造により、筋収縮時に骨を引っぱって関節運動を生み出します。例えば上腕二頭筋であれば、肘関節をまたいで前腕の骨に付着し、収縮すると肘を屈曲させる力が発生します。

筋束(Fascicle): 骨格筋の内部はさらに小さな束単位に分けられています。筋束は数十~数百本の筋線維からなり、それぞれの筋束は筋周膜と呼ばれる結合組織の鞘に包まれています。筋束内には毛細血管や神経が走行し、酸素や栄養を供給するとともに筋線維の協調した収縮を可能にします。個々の筋束が協調して働くことで、筋肉全体として滑らかな力発揮が行われます。

筋線維(Muscle Fiber): 筋線維は骨格筋を構成する筋細胞で、長さは数センチから数十センチメートルにもおよぶ細長い多核細胞です。直径は50~100µm程度で、人の髪の毛より細い程度ですが、内部には収縮装置がぎっしりと詰まっています。筋線維は細胞膜にあたる筋鞘(サルコレマ)に覆われており、この膜が興奮性を持ちます。運動神経から伝えられた活動電位はサルコレマ上を伝導し、筋線維内へ信号を送り込むことで収縮を調節します。筋線維の細胞質にはミトコンドリアなどの細胞小器官も存在し、エネルギー産生や代謝を行いながら収縮に必要なATPを供給しています。

筋原線維(Myofibril): 筋線維の内部を縦方向に貫くように多数存在するのが筋原線維です。各筋線維には数百~数千本もの筋原線維が平行に詰め込まれており、筋線維全体の収縮に寄与します。筋原線維はさらに細かく見ると、サルコメアと呼ばれる構造単位が連なってできています。サルコメアは筋収縮の最小構造単位で、この部分が長さ方向に短縮・伸長することで筋原線維全体、ひいては筋線維全体が収縮します。つまり、筋線維の階層構造は「筋原線維(サルコメアの反復単位) → 筋線維 → 筋束 → 筋肉全体」という加算的な積み重ね構造になっています。

骨格筋の階層構造
図: 骨格筋の階層構造。 骨格筋(右上の上腕の図)から一部を切り出した模式図。筋肉は多数の筋束(左上の断面図)からなり、各筋束内には複数の筋線維(筋細胞、左中央の円柱状構造)が含まれる。筋線維の内部には筋原線維(右中央)が縦方向に多数配置し、その筋原線維をさらに拡大するとサルコメア(右下:緑のミオシンと赤のアクチンフィラメントで構成)が確認できる。最下段には収縮フィラメントであるアクチン(赤)とミオシン(緑)の分子モデルが示されている。

2. サルコメアの詳細構造

サルコメアは筋原線維を構成する基本単位であり、筋収縮における「アクチン‐ミオシン間の相互作用」が起こる場となります。サルコメアの両端はZ線(Zディスク)と呼ばれる線で区切られ、これがサルコメアの境界となっています。Z線には細いアクチンフィラメント(薄フィラメント)が付着しており、サルコメアの中央に向かって伸びています。アクチンフィラメント上には調節タンパク質としてトロポニン複合体とトロポミオシンが巻き付いています。一方、サルコメア中央部には太いミオシンフィラメント(厚フィラメント)が存在します。ミオシンフィラメントは多数のミオシン分子からなり、各ミオシン分子の頭部(ミオシン頭部)が外側に突き出ていて、隣接するアクチンフィラメントとクロスブリッジ(架橋結合)を形成できる構造です。

横紋筋と呼ばれる所以でもある筋原線維の縞模様は、サルコメア内のフィラメント配置によって生じます。明るく見える領域がI帯(明帯)で、アクチンフィラメントのみが存在する部分です。I帯は両端のZ線付近にあり、筋収縮時にはアクチンフィラメントが引き込まれてこの帯域は短縮します。暗く見える領域がA帯(暗帯)で、サルコメア中央のミオシンフィラメントが存在する部分に相当します。A帯の長さはミオシンフィラメントの長さに等しく、筋収縮時にも基本的に長さは変化しません。A帯の中央付近には、ミオシンフィラメントのみでアクチンと重ならない領域があり、これをH帯と呼びます(由来はドイツ語の”Heller”=明るい、で筋肉が弛緩しているときにやや明るく見える帯域)。H帯は収縮によってアクチンフィラメントが滑り込むと狭くなります。さらにサルコメアの中心線にはM線(Mライン)と呼ばれる構造があり、向かい合うミオシンフィラメント同士をつなぎとめる支持構造になっています。

サルコメア構造
図: サルコメア内の帯域構造模式図。 サルコメア(S)は隣接する2本のZ線(Z)に挟まれた区間である。中央にはミオシンフィラメントの連結部であるM線(M)が位置する。両端の明るい部分がI帯(I、アクチンのみ)、中央の濃い部分がA帯(A、ミオシンの長さに相当)である。A帯中央のやや明るい領域がH帯(H、ミオシンのみの部分)で、収縮時に短縮する。筋収縮に伴い、アクチンとミオシンの重なり具合が変化することで、I帯とH帯の長さが変わり筋全体の長さが調節される。

3. 分子レベルの筋収縮メカニズム

クロスブリッジサイクル: 筋収縮の分子機構は、アクチンフィラメントとミオシン頭部が繰り返し結合・分離を行う「クロスブリッジサイクル」によって実現します。筋線維が興奮してカルシウムイオンが放出されると、ミオシン頭部はアクチン上の特定の結合部位に付着できるようになります。ミオシン頭部は付着と同時に首振り運動を起こし、これによってアクチンフィラメントを自分の方へ引き寄せます(パワーストロークと呼ばれる動き)。この一連の過程にはATPの結合と分解が不可欠です。具体的には、ミオシン頭部にATPが結合するとアクチンから頭部がいったん解離し、続いてATPの加水分解(ADPとリン酸への分解)によってミオシン頭部が高エネルギー状態に「コッキング(立ち上がる)」します。その後、ミオシン頭部が再びアクチンに結合し、蓄えたエネルギーを解放して首を振ることでフィラメント同士を滑らせます。首振りの完了とともにADPがミオシンから離れ、新たなATPが結合すると再び頭部がアクチンから離れて次のサイクルに入ります。このようにATPの結合と加水分解によるミオシン頭部の構造変化と、アクチン-ミオシンの相互作用が周期的に起こることで、筋収縮力が生み出されます。

カルシウムの役割: 上記のクロスブリッジサイクルが発生するためには、アクチン上の結合部位が開放されている必要があります。安静時、アクチンフィラメント上にはトロポミオシンが巻き付いてミオシン結合部位をふさいでおり、ミオシン頭部はアクチンと結合できない状態です。筋小胞体から放出されたカルシウムイオン(Ca²⁺)は調節タンパク質であるトロポニンのサブユニット、トロポニンCに結合します。トロポニン複合体にCa²⁺が結合するとトロポミオシンの位置がずれ、アクチン上のミオシン結合部位が露出します。その結果、ミオシン頭部がアクチンと結合(クロスブリッジ形成)できるようになり、前述のクロスブリッジサイクルが開始されます。筋収縮の強さは筋小胞体から放出されるCa²⁺濃度によって調節され、刺激が終わりCa²⁺が再び筋小胞体に回収されると、トロポミオシンが元の位置に戻ってアクチン-ミオシン結合が抑制されます。これによって筋線維は弛緩します。

以下に、ATPの関与するクロスブリッジサイクルの主要なステップを表形式でまとめます。

ステップクロスブリッジサイクルの過程
① ATP結合と頭部の解離弛緩時、ミオシン頭部はアクチンと結合した状態(リガーマー状態)です。ここにATPが結合するとミオシン頭部はアクチンから離れます。
② ATP加水分解による立ち上がりミオシン頭部がATPを加水分解し、ADPとリン酸(Pi)を保持したまま高エネルギーの立ち上がった構造になります(頭部の「コッキング」)。
③ クロスブリッジ再形成Ca²⁺の作用でアクチン上の結合部位が開いた状態で、ミオシン頭部(ADP・Pi結合状態)が再びアクチンと結合しクロスブリッジを形成します。
④ パワーストロークミオシン頭部からPiが放出されると同時に首振り運動(パワーストローク)が起こり、アクチンフィラメントが引き寄せられます。この過程でADPも放出され、サルコメアが短縮します。
⑤ 再開と繰り返しミオシン頭部に新たなATPが結合するとアクチンから頭部が離れ、再び①の状態に戻ります。十分なCa²⁺とATPが存在する限り、このサイクルが繰り返され筋収縮が持続します。

4. 臨床的背景と応用

筋ジストロフィーとサルコメア構成タンパク質の異常: 骨格筋の構造タンパク質が欠損・異常をきたすと、筋線維の機能不全や脆弱化を招きます。代表的な例がデュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne Muscular Dystrophy, DMD)で、筋細胞膜の内側でサルコメリックな構造物と細胞外マトリックスをつなぐタンパク質であるジストロフィンが先天的に欠損しています。ジストロフィンは筋収縮時の衝撃を和らげ、筋線維膜を安定化させる「ショックアブソーバー」のような役割を果たしています。そのため欠損すると筋細胞膜は非常に脆くなり、収縮のたびに微小な断裂が生じてしまいます。 損傷した筋細胞はカルシウムの流入や壊死を引き起こし、体は炎症反応を介してこれを修復しようとしますが、繰り返される損傷と修復過程で筋組織は線維化し、徐々に筋力低下と筋萎縮が進行します。つまりサルコメアを構成する支持蛋白の欠損は、筋収縮時に筋線維を維持できず筋ジストロフィーの病態を招くのです。

 

トレーニングによる筋肥大と適応: 一方、正常な筋では適切な負荷刺激を与えることでサルコメア数や収縮タンパク質量が増加し、筋力向上につながる筋肥大という現象が起こります。高強度の抵抗性トレーニング(筋力トレーニング)を行うと、筋線維内の一部の筋原線維に微細な損傷が生じます。損傷後、休息と栄養補給を十分にとることで筋線維は修復されますが、この際に超回復と呼ばれる現象が起こり、筋線維は以前よりも太く強く再生されます。具体的には、損傷刺激によって筋衛星細胞などが活性化し、筋線維に新しい核やタンパク質が補充されることで、筋原線維の数が増え筋断面積が大きくなります。こうして各筋線維内に追加でサルコメアが並列に増加し(筋フィラメントの増加)、筋全体としてより大きな張力を発生できるようになります。継続的なトレーニングによってこのプロセスを繰り返すと、筋力および筋量が徐々に向上します。また一部の適応では、筋繊維が伸張刺激に応じてサルコメアを縦方向(直列)に増やし、筋収縮速度や柔軟性の適応につながる場合もあります。

筋肥大を引き起こすためには休養と栄養もトレーニングと同じくらい重要です。トレーニング直後は一時的に筋力が低下するものの(筋疲労と筋損傷)、その後48~72時間程度で損傷部位の修復とタンパク質合成が進み、筋組織が強化されます。適切な休息期間をおいて再び負荷を与えることでさらに筋肥大が促進されます。逆に休息不足のまま過度な負荷を繰り返すと、修復が追いつかずオーバートレーニングとなり筋力が低下する恐れがあります。理学療法や作業療法の現場でも、筋力増強訓練ではこの超回復の原理を踏まえて頻度や強度を設定し、安全かつ効率的に筋力向上を図ります。

表: 抵抗性トレーニング後の筋肥大プロセス(概略)

時期・要因筋肉の反応・変化
トレーニング直後筋原線維の一部に微小な損傷が生じ、筋力が一時的に低下する。筋肉痛や炎症反応が起こり、身体は損傷箇所の修復を開始する。
休養・栄養補給(数日間)筋線維の損傷部位でタンパク質合成が亢進し、新たな筋原線維や収縮タンパク質が作られる。筋衛星細胞の働きで筋線維核が増加し、修復と再生が進む。
超回復損傷前よりも筋線維内のサルコメア数や筋タンパク質量が増え、筋線維が太く強くなる。これにより筋肉の断面積が大きくなり、最大筋力が向上する。
次のトレーニング刺激超回復により強化された筋に再び負荷を与えると、以前より高いレベルの負荷に耐えうるため、さらなる筋肥大と筋力向上が得られる。適切なサイクル管理で筋力は漸進的に向上する。

以上のように、骨格筋の構造と機能を理解することは、臨床のリハビリテーションやトレーニングに直結します。筋収縮の分子機構を知ることで、エネルギー供給や疲労の仕組みを踏まえた指導が可能となり、筋肥大の原理を知ることで、安全で効果的な筋力増強プログラムを計画できます。新人の理学療法士・作業療法士にとって、これら骨格筋の基礎知識は臨床応用の土台となる重要なものです。

まとめ

  1. 階層構造: 骨格筋は、筋肉全体→筋束→筋線維→筋原線維という階層構造を持ち、各階層の結合組織が収縮力を骨に伝達する役割を果たしています。

  2. サルコメア構造: サルコメアはZ線、I帯、A帯、H帯から成り、アクチンとミオシンが規則正しく配置され、これが筋収縮の最小単位となります。

  3. 収縮メカニズム: ATPの加水分解によりミオシン頭部がアクチンと結合し、首振り運動(パワーストローク)を起こす「クロスブリッジサイクル」が筋収縮を生み出し、Ca²⁺がこの過程を調節します。

  4. 臨床的意義: サルコメアの構造異常は筋ジストロフィーの原因となり、一方、適切なトレーニングにより筋肥大や筋力向上が促され、超回復を通じてリハビリテーションに応用されます。

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