こんにちは、理学療法士の大塚です。理学療法士・作業療法士の皆さん、日々の臨床で呼吸リハビリテーションに自信を持って取り組めていますか?この記事では、臨床実践に不可欠な「肺・気道の解剖」と「呼吸力学」について、基礎から応用まで分かりやすく解説します。
この記事では、特に「肺・気道の解剖と呼吸力学」に焦点を当て、学生時代に学んだ知識を実際の臨床場面でどのように活かし、より効果的な治療プログラムを立案できるのか、その具体的なポイントと手順を詳述します。ぜひ、皆様の呼吸リハビリテーションスキル向上にお役立てください。
臨床実践に繋がる!肺・気道の解剖と呼吸力学マスター
気道解剖のキーポイント:“空気の通り道”をミクロからマクロまで理解する
上気道の構造と機能:フィルター・加湿・センサーとしての役割
構造 | 基礎機能 | INCET的視点 | 臨床のツボ |
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鼻腔 | 乱流で38 ℃近くまで加温・100 %まで加湿。鼻毛+粘液線毛で5 µm超の粒子を捕捉。 | におい刺激→辺縁系活性→呼吸リズムと感情調整(心理層)。 | 経鼻カニュラ酸素:冷乾ガスは線毛運動を抑制→加湿器 or 高流量HFNCの検討。 |
副鼻腔 | 共鳴腔+一酸化窒素(NO)供給。NOは肺血管拡張・線毛運動促進。 | NO生成低下(上顎洞術後)はガス交換効率↓(身体層)。 | サイナスリンス指導で副鼻腔炎→線毛運動改善→SpO₂↑の例あり。 |
咽頭・喉頭 | 嚥下反射で声門閉鎖、誤嚥防止。声帯振動は呼気陽圧(PEP)効果。 | 嚥下障害→誤嚥性肺炎リスク→嚥下-呼吸協調訓練で脳可塑性(脳層)。 | 声門閉鎖不全者:エクセサイズ(“/k/”発声)で咳ピークフロー20 %改善。 |
環境層・具体例
- 乾燥した冬季病棟:上気道粘膜乾燥→線毛停滞→気管支炎リスク↑→病棟全体で加湿管理。
- 生活臭・香料過敏症:心理層→過換気発作。空間調整と呼吸再教育をセットで。
下気道の構造と機能:ガス交換の最前線「呼吸ゾーン」へ
a. 世代構造と機能的分岐
- 世代0–16:コンダクティブゾーン
- 直径17→1 mm。挿管チューブ内径は成人7–8 mm=第3世代相当。
- 軟骨量↓・平滑筋量↑で遠位ほど喘息・COPDの可逆性反応が顕著。
- 世代17–23:呼吸ゾーン
- 肺胞数 約3億個、表面積 70–100 m²。Ⅰ型上皮(細胞厚0.3 µm)で拡散距離最小化。
- Ⅱ型上皮のサーファクタントはγ-グルタミルトランスペプチダーゼ活性↓でRDS発症。
b. 気流様式
- 体積速度 <200 mL/s:層流 → 低周波呼吸筋トレで層流支配域を拡大しWOB↓。
- 咳嗽時 >600 L/min:乱流→高せん断で分泌物除去。PCF<270 L/minは排痰補助適応。
胸郭と呼吸筋のメカニズム:“三次元ポンプ”の理解と臨床応用
胸郭運動の三平面メカニクスと臨床アプローチ
平面 | 主要骨運動 | 臨床例 | 介入アイデア |
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前後径 | ポンプハンドル(2–6肋) | 心臓術後胸骨正中切開→前後径減少 | 上肢リーチ+深呼吸で前後ストレッチ |
左右径 | バケツハンドル(7–10肋) | 側弯患者は凹側肋間狭小→左右径↓ | 凹側肋間部に徒手抵抗呼吸訓練 |
縦径 | ピストン運動(横隔膜) | 肝腫大で横隔膜挙上→縦径拡大不能 | 座位前傾で横隔膜ドーム回復 |
INCET統合
- 身体層:関節可動域+筋長-張力。
- 脳層:呼吸–四肢協調リズム形成。
- 環境層:椅子・ベッド高さ。
- 心理層:呼吸困難時の不安コントロール(呼気延長言語指示)。
主要呼吸筋のバイオメカニクス:横隔膜・肋間筋・腹筋群
横隔膜
- 筋腱中心が2 cm下降で 350 mL 換気(安静換気量の約半分)。
- 長-張力曲線:FRC 付近が最大発揮張力。過膨張肺では平坦化→張力30 %低下。
- 電気生理:タイプI線維 55 %、タイプIIa 25 %、IIx 20 %→IMTでIIx→IIaシフト。
肋間筋と斜角筋
- 外肋間筋:肋骨上縁引き上げ→横隔膜と協調。
- 内肋間筋:呼気終末で肋骨下降。
- COPDで斜角筋 EMG 活性が安静時から上昇→エネルギー消費増(Basal metabolic rate +15 %)。
腹筋群(強制呼気・咳嗽)
- 腹横筋→腹直筋→内外腹斜筋の順に収縮し縦隔内圧+40 cmH₂Oまで上昇。
- 栄養不良高齢者は腹筋面積↓→PCF低下→排痰力不全。
呼吸力学の理解と臨床応用:“数字で語れる”評価と介入
肺・胸郭コンプライアンス:評価と病態別アプローチ
病態 | 静弾性曲線の変位 | 臨床所見 | 介入優先 |
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線維化 | 曲線が左方・傾き↓ | 肺音 fine crackles/SpO₂↓ | 低強度高頻度の有酸素+Air Stacking |
気腫 | 曲線が右方・傾き↑ | 胸郭バレル型/残気量↑ | 呼気時間延長・腹圧呼気筋トレ |
肥満・胸郭変形 | 胸郭C͞cw↓ | 拘束性パターン/TLC↓ | 呼吸ストレッチ+姿勢矯正 |
気道抵抗とポアズイユの法則:臨床的意義と介入戦略
- Raw = 8ηl/πr4。半径20 %減で抵抗約2倍。
- 喘息急性増悪:PEF<50 %予測値=半径30–40 %狭窄。吸入β₂+抗コリン薬+ステロイドの多面的介入。
- 理学療法:呼気抵抗1.5 cmH₂OのPEPマスクで遠位気道クリアランス14 %向上。
弾性リコイルとオートPEEP:病態生理と臨床対応
- 肺弾性繊維(エラスチン)は25 歳ピーク→加齢で断裂。
- 残気量>150 %予測値=重度過膨張。6MWTでSpO₂低下より歩隔延長が制限因子。
- オートPEEP測定(フロー波形終末で0ライン非接触)→+7 cmH₂OならNPPV 5–7 cmH₂O設定で削減可能。
呼吸仕事量(WOB)と呼吸筋疲労:評価とマネジメント
- WOB=∫P×dV。COPDで4–6 J/L(健常2 J/L)。
- 横隔膜疲労指標:Tension-Time Index (TTdi)= (Pdi/Pdimax)×Ti/Ttot >0.15で危険。
- PT/OTは呼吸レート×SpO₂×主観的Borgスケールを組み合わせ“呼吸疲労レーダーチャート”で可視化。
呼吸機能の多角的評価とINCETモデルに基づく介入プロトコル
ステップ | 方法 | 解釈 | 推奨介入 |
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1 構造確認 | 胸部X線・US横隔膜 | ドーム高さ<2 cm | IMT+腹式呼吸誘導 |
2 換気機能 | スパイロ:FEV₁/FVC, MVV | 過膨張・拘束・混合判定 | 呼吸パターン矯正 or ストレッチ |
3 呼吸筋協調 | sEMG:横隔膜/斜角比 | 比率<1 →補助筋依存 | ポジショニング+意識下訓練 |
4 ガス交換 | 6MWT SpO₂ 連続測定 | 下降>4 % or 88 %未満 | 酸素投与・リズム指導 |
5 心理・価値 | HADS, Dyspnoea-12, HOPE 面談 | 不安>8/主観的制限高 | CBT的呼吸ペーシング+目標再設定 |
INCET 統合例
- 個別性:スパイロ重度でも“庭掃除をしたい”価値→小分け活動+呼吸筋トレ並行。
- 持続性:Home-Based IMT(Threshold 30 % PImax, 5 d/w 8 週)でFEV₁ 8 %↑、CAT -4。
明日からの臨床が変わる!呼吸リハビリの質を高める5つの実践ポイント
- 上・下気道の構造差と病態ターゲット薬の作用点を臨床言語で説明できる。
- 胸郭三平面運動+横隔膜ドライブを解剖・運動学・神経制御で三位一体に理解。
- C ・Ccw ・Raw ・Recoilを測定値と身体所見でリンクし、介入優先度を決定。
- INCET四層統合で呼吸筋トレ・認知行動療法・環境調整を複合処方。
- HOPE 志向の評価で「息が切れる」苦悩を“意味ある呼吸活動”に変換しQOLを引き上げる。
呼吸は生理の“入り口”であり、運動・心理・社会参加の“パスポート”。