痛みをとるだけがリハビリじゃない|「動ける」を支えることから、痛みへの関わりを考える

痛みをとるだけがリハビリじゃない|「動ける」を支えることから、痛みへの関わりを考える

こんにちは、理学療法士の大塚です。

「膝が痛いんです」
「腰の痛みを何とかしてほしいです」

臨床では、痛みを主訴に来られる方が多くいらっしゃいます。

そうした訴えを聞くと、「どうすれば痛みがとれるだろう」と考えることはありませんか?

実は、僕自身がそうでした。

臨床に出て最初の3年くらいまでの僕は、目の前の関節や筋肉にアプローチして、痛みを改善することだけに必死になっていました。

リハビリ室では楽に動けていた方が、病棟や自宅に戻ると、元の動作に戻ってしまう。そんな経験を何度も繰り返しました。痛みや可動域が良くなっても、その方の生活が変わるとは限らなかったのです。

もちろん、痛みが軽くなることは大切です。痛みが強ければ、動くことも、眠ることも、人と会うことも難しくなるかもしれません。

ただ、僕が介入を考えるとき、出発点にしているのは、少し違う問いです。

「この方が、望む生活に向かって動けるようになるには、何が必要だろう?」

身体の状態を確認し、動きにくくなっている条件を整理する。不安や生活環境にも目を向けながら、本人が動きやすい状態をつくっていく。その経過の中で、結果として痛みが減っていることがあります。

今日は、この考え方についてお伝えします。

この記事の結論(3行まとめ)

  • 痛みには身体を守る役割があり、痛みの変化と組織の回復は分けて確かめる。
  • 介入の出発点は「痛みをとること」ではなく、「この方が望む生活に向かって動けるには何が必要か」という問い。
  • 身体・心理・生活の条件を整え、痛みの数字だけでなく、生活の変化と本人の実感で結果を確かめる。

痛みには、身体を守る役割がある

まず、痛みには身体を守る役割があります。身体への負担に気づき、危険を避ける手がかりになります。

例えば、足首を捻った直後に、いつもどおり走ろうとすると痛みが出る。その痛みによって、足をかばったり、動きを小さくしたりします。組織の保護が必要な場面では、こうした反応には意味があります。

そのため、痛みが軽くなったからといって、すぐに負荷を増やしてよいとは限りません。痛みの変化と、組織が回復しているかどうかは、分けて確認する必要があります。

ただし、身体を守る役割があるからといって、痛みを我慢してもらえばよいわけでもありません。骨折や手術後でも、適切な鎮痛は必要な動作やリハビリを支えます。組織の保護と痛みへの対応を両立し、その時点で可能な活動を考えます。

慢性疼痛と痛覚変調性疼痛

では、長く続く痛みはどうでしょうか。

ここで整理しておきたいのが、慢性疼痛と痛覚変調性疼痛です。

慢性疼痛は、一般に3か月を超えて持続・反復する痛みを指します。一方、痛覚変調性疼痛は、侵害受容の変化が関わる痛みを表す言葉です。組織の損傷に伴う侵害受容性疼痛や、体性感覚神経系の病変・疾患による神経障害性疼痛だけでは、十分に説明できない痛みを指します。

時間の経過による分類と、仕組みによる分類なので、慢性疼痛のすべてが痛覚変調性疼痛というわけではありません。複数の仕組みが重なることもあります。

また、痛みを伴う経験は、その後の動きにも影響します。

ある動作で強い痛みを経験すれば、次に同じ動作をするときに「また痛くなるかもしれない」と身構えることがあります。動作と痛みを結びつける学習は、実験研究でも確認されています。

危険だった経験を覚えることは、次に同じ危険を避けるために役立ちます。ただ、その警戒が今の身体の状態に合っているかどうかは、改めて確かめる必要があります。

もちろん、痛覚変調性疼痛を「痛みを覚えているから」とだけ説明することはできません。経験や予測も、評価する側面の一つです。

HOPEから、困っている場面を分けて考える

こうした痛みの特徴を踏まえたうえで、僕は、その方のHOPEを確認します。

例えば、「膝が痛い」という主訴に対して、HOPEが「買い物に行きたい」だったとします。

痛みが軽くなれば、買い物に行きやすくなるかもしれません。痛みを減らすことは、HOPEを実現するための手段の一つになります。

では、僕たちは何に介入すればよいのでしょうか。

まず、買い物に行くまでの動作を考えてみます。椅子から立ち上がる。玄関で靴を履く。段差を下りる。お店まで歩く。商品を選び、荷物を持って帰る。

その中の、どこで困っているのでしょうか。

立ち上がりにくいのか。歩き続けると負担が増えるのか。段差が怖いのか。それとも、荷物を持って帰れるか不安なのでしょうか。

同じ「膝が痛い」でも、確認したいことや必要な支援は変わってきます。

身体については、関節の動きや筋力、支持の仕方、動作中の負担などを確認します。椅子の高さや手すりの有無によって、動きが変わるかもしれません。

心理的には、動くことをどう捉えているのかを聞きます。「歩くと膝の軟骨がすり減ってしまうと思っている」のか、「途中で痛くなったときに困る」のか。同じ不安でも、必要な説明や準備は違います。

社会的な条件も関係します。一緒に出かけられる人はいるのか。途中で休める場所はあるのか。家族や仕事の事情によって、活動が難しくなっていないか。

こうして、身体と心理、生活の条件をつなげて考えていきます。これが、僕が臨床でBPSモデルを使うときの見方です。慢性疼痛の評価でも、身体の状態に加えて、睡眠、仕事、人との関係などを確認することが勧められています。

動きを妨げている条件に介入する

例えば、背中の筋肉が硬く感じられたとします。

そこで筋肉に介入することもあります。ただ、その前後で確認したいのは、「なぜ硬くなっているのか」「その状態が動作にどう関係しているのか」ということです。

同じ姿勢で作業を続けているのかもしれません。動くことが怖くて、身体に力を入れているのかもしれません。別の部位が動きにくく、負担が集中している可能性もあります。

触って硬く感じたという事実だけでは、その背景までは分かりません。

話を聞き、動きを見て、身体に触れ、条件を変えて確かめる。その結果をもとに、必要な介入を考えます。

僕がまず介入するのは、その方の動きを妨げている条件です。

関節や筋が動作に参加しやすくなる。本人が身体の状態を理解し、納得して動けるようになる。生活の中で無理なく活動を続けられる環境が整う。

そのような変化とともに、痛みが軽くなっていることがあります。

安全性の確認と、結果の確かめ方

ただし、動きやすくなれば必ず痛みがなくなるとは限りません。痛みが残っていても、本人にとって大切な活動が広がる場合があります。慢性疼痛の診療指針でも、痛みが変わらなくても生活の質が改善する可能性が示されています。

だからこそ、介入後には「痛みはどうですか?」とはあえて聞きません。「さっきと比べて動きやすさはどうですか?」「買い物はどうでしたか?」「どの場面が楽になりましたか?」と確認します。

その際、安全性の確認は欠かせません。

発症のきっかけや経過、炎症所見、神経症状などを確認し、必要に応じて医学的評価につなげます。例えば、腰や脚の痛みに新たな排尿・排便障害や会陰部の感覚低下が伴う場合には、緊急の評価が必要です。こうした確認は、急性か慢性かにかかわらず行います。

また、痛みが強くて休めない、活動を試すこと自体が難しい場合には、医師と連携して鎮痛を検討することも必要です。それも、その方が生活に向かって動くための支援になります。

HOPEを聞いて「とにかく痛みをなくしたい」と言われたら、その希望を大切にします。そのうえで、今どのような場面で困っているのかを、一緒に整理していきます。

療法士が先に目標を決めることはできません。本人の希望や反応を確かめながら、取り組むことを相談します。

僕は、痛みの数字だけで、自分の介入がうまくいったかを判断したくありません。

身体が動きやすくなったか。不安はどう変わったか。生活の中で行動を選べるようになったか。そして、本人がその変化をどう感じているか。

その中に、痛みの変化も位置づけて見ていきます。

「この方が望む生活に向かって動けるようになるには、何を整える必要があるだろう?」

その問いから評価と介入を考え、生活の中で確かめていく。その視点があってもいいんじゃないでしょうか?

まとめ

  1. 痛みには身体を守る役割がある。痛みの変化と組織の回復は分けて確かめ、安全性の確認を欠かさない。
  2. 慢性疼痛と痛覚変調性疼痛は、分類の軸が違う。痛みの仕組みに加えて、経験や予測、生活の条件も評価の対象になる。
  3. HOPEから逆算し、動きを妨げている条件に介入する。結果は痛みの数字だけでなく、生活の変化と本人の実感で確かめる。

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この記事の執筆・監修

執筆・監修:大塚 久(理学療法士・療法士活性化委員会 代表)