トイレ動作の環境設定で自立支援! 患者様に合わせた方法とは? 〜トイレ動作の動作分析から情報共有までの流れを学ぶ〜

トイレ動作の環境設定で自立支援! 患者様に合わせた方法とは? 〜トイレ動作の動作分析から情報共有までの流れを学ぶ〜

 

 

 

みなさんこんにちは。作業療法士の内山です。前回は、認知機能低下時のトイレ動作改善策について解説しました。今回は患者さんの能力に合わせた環境設定について考えていきたいと思います。よろしくお願いします。
>>>トイレ動作に必要な認知機能のアプローチ起立・立位・下衣 〜トイレ動作の動作分析から情報共有までの流れを学ぶ〜

○文献ベースで考えるトイレ動作における環境設定の重要性

トイレ動作の工程分け

トイレ動作は大きく以下の3つの場面に分けられます。

  1. 便器への移乗
  2. 下衣の着脱
  3. 排泄〜清拭

具体的な設定方法とポイント

1. 便器への移乗

  • 手すり:適切な高さ、位置、角度に設置することで、移乗動作を補助します。具体的には、肩の高さから肘を軽く曲げた高さに設置し、立ち上がりや着座時に掴みやすい位置に調整します。
  • 滑り止めマット:床に敷くことで、転倒を予防します。
  • 便器の高さ調節:患者さんの身長に合わせて調整することで、移乗動作を容易にします。足が床にしっかり着く高さが目安です。
  • 移乗用ボード:下肢筋力低下により、起立・立位保持が困難な場合にサポートとして使用できます。使用する際は、転倒リスクを考慮し、介助者の補助が必要です。

2. 下衣の着脱

  • ズボンの種類:着脱しやすい伸縮素材、ゴムウエスト、マジックテープ付きなどがおすすめです。ボタンやファスナーの開閉が難しい場合は、これらの工夫を取り入れることで自立を促せます。
  • 便器の形状:U字型便器は、前屈姿勢になりにくいため、着脱がしやすいです。身体状況に合わせて便器の形状も考慮しましょう。
  • 縦型手すり:立位保持をする際に、転倒予防として手すりを把持しながら行うことで、患者さんの安心感や着脱動作の補助として機能します。手すりがあると、バランスを崩しにくく、安心して動作に集中できます。

3. 排泄と清拭

  • 便座の高さ:補高便座などで高さ調整をすることで、着座の際に勢いよく座ることを防止できます。また排泄姿勢が安定し、腹圧をかけやすくなります。適切な高さは、足が床につく、または軽く曲げた状態になるように調整します。
  • ウォシュレット:お尻洗浄機能が、排泄後の清拭を容易にします。上肢の可動域制限などで陰部まで手が届かない方は、清拭の代替手段として活用可能です。ウォシュレットの使用は、衛生面だけでなく、心理的な負担軽減にも繋がります。

○臨床場面での実経験から考えるトイレ動作で必要な環境設定とは?

1. 便器への移乗

  • 補高便座:着座の際に、下肢の踏ん張りが効かず、勢いよく座ってしまう患者さんに活用できます。ただし、補高したことで足底が床面に接地できなくなってしまう場合もあるので、その場合は、足台なども合わせて検討する必要があります。
  • スイングアウトできる車椅子:スイングアウト可能であるかどうかは、移乗動作のやりやすさに大きく関係します。スイングアウトができないタイプは、フットレストが便器の手前に当たってしまうため便座と車椅子の距離が遠くなってしまいリーチ距離もその分だけ遠くなります。対してスイングアウトができる車椅子は、便座の手前まで近づけるためリーチ距離が短くなり、手すりも把持しやすくなります。その結果、立位保持時間が短い方や小柄な方にとっては転倒リスクを減らすことや自立度の向上につなげることができます。
  • 車椅子を止める位置:②と類似する点がありますが、車椅子の止める位置は毎回同じ場所であることが理想です。斜め45°程度に止めることができると起立動作を行った際に、方向転換の角度を最小限で済ませることができます。全てのトイレにおいて適用できる訳ではないですが、便器が横向きに設置されているトイレなどでは有効手段として活用できます。

2. 下衣の着脱

  • 本人が日常生活で使用しているズボン:入院中は病衣を着用していることが当たり前になっていますが、退院を想定すると患者さんが日常生活で使用しているズボンでも着脱ができるのか評価しておく必要があります。
  • 縦手すり:片方ずつズボンを下げていく際に、もう一方の上肢で手すりを把持できると、安全に着脱動作を行うことができます。また、縦手すりは手指の集団屈曲・集団伸展が可能なレベル(stage.Ⅲ〜Ⅳ)であれば活用することができます。手指の分離運動を促通することが難しい場合の1つの手段として考えていくことは必要となります。
  • 壁にもたれかかることができる狭い空間:②とは反対で両上肢・手指を使用して下衣の着脱を行いたいが、立位保持が長時間難しい方に実践していた方法です。トイレ内の空間が狭い場合はすぐ横が壁であるため、もたれかかってもらうことで、立位保持の一助とすることができます。そうすることで両上肢・手指を一時的ではありますがフリーで使用することができるようになります。上肢・手指の分離運動は可能であるが、下肢の分離が不十分で立位保持時間に不安がある方はおすすめの方法になります。

3. 排泄と清拭

  • ウォシュレット:上肢・手指の分離運動が困難な場合や可動域制限が強く、陰部までリーチが難しい場合は代替案として有効活用できます。ウォシュレットは便座の種類によって壁にモニターが設置されているタイプと便器横にボタンが設置されているタイプなど様々です。どちらのタイプも使用できるように、モニターやボタンまでリーチしてボタンを押す練習などは事前に行っていく必要があります。
  • 補高便座:便器への移乗でも記載しましたが、排泄においても姿勢の安定に寄与するため活用できます。腹圧がかけにくく排泄がしづらい患者さんなどは、補高便座を使用し身体重心を高くすることで腹圧をかけやすくし、自力での排泄を促すことができます。
  • トイレットペーパーホルダーの位置と高さ:ホルダーの位置が高いと、ペーパーを自力で巻き取ることが難しい場合があります。また、ペーパーをちぎる際もホルダーの位置や高さが近いと少ない力でちぎることができるため、自立度も向上します。

4. その他場面での環境設定

  • 携帯式ナースコール:内山が以前担当していたパーキンソン病の患者さんが使用していたものになります。上肢の可動域制限やoffで身体が動かないときもトイレに行きたいとの希望があったので、小型のボタン式ナースコールを携帯し、手指の握り動作でボタンを押しスタッフを呼べるように設定していました。在宅での使用は難しいですが、病院や施設などで長期療養されている方で、身体機能の変化に合わせて検討する手段として持っておくことは重要です。
  • センサー式マット:認知機能の低下により、トイレに行きたいことを訴えられない方やトイレに行ったことを忘れてしまい頻回になってしまう方向けになります。ナースコールと連動しており、マットの上を通ったり、体重がかかるとナースコールが反応する仕掛けになっています。一歩間違えると抑制の対象になってしまうため、転倒予防策として考える最終手段になります。使用を開始する際は病棟スタッフなどと相談した上で現状に必要なのか議論した上で活用することが大切です。

以上今回はトイレ動作場面で必要な環境設定について考えていきました。

トイレ動作の工程ごとに必要な環境設定を細かく考えていくことが患者さんのトイレ動作の自立度向上へとつながっていきます。

○まとめ

  1. トイレ動作の工程ごとに各々必要な環境設定を考えていく。
  2. 患者さんの身体能力に合わせて必要な補助具を選定する。
  3. 認知機能低下に対して活用する道具は、抑制の対象にならないかか多職種で相談しながら活用していく。

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