3.5.2 自律神経機能の評価方法 〜理学療法士・作業療法士のための生理学の教科書〜

3.5.2 自律神経機能の評価方法

こんにちは、理学療法士の大塚です。前回は自律神経の基礎についてお伝えしました。3.5 自律神経系 基礎生理 〜理学療法士・作業療法士のための生理学の教科書〜

今回は評価についてお伝えします。

2-1. バイタルサインモニタリング

2-1-1. バイタルサインとは

バイタルサイン(vital signs) とは、生命活動を維持する上で重要な生理的指標であり、通常は以下の4つを指します。

  1. 心拍数(Heart Rate)
  2. 血圧(Blood Pressure)
  3. 呼吸数(Respiratory Rate)
  4. 体温(Body Temperature)

自律神経機能は、これらバイタルサインに大きく関わるため、日常のリハビリテーションの場面で最も手軽に実施できる評価方法として重要です。また、バイタルサインの変動パターンをこまめに確認することで、患者の身体状態や自律神経の反応を把握し、介入の安全性や効果を高めることができます。

2-1-2. 心拍変動(HRV)の解析

心拍数は単純な“1分間の拍動数”だけでなく、拍動と拍動の間隔(RR間隔)のゆらぎを解析することで、自律神経の活動バランスを客観的に評価することが可能です。これを心拍変動(Heart Rate Variability; HRV) と呼びます。

  1. 周波数領域解析
    • LF(低周波数成分:0.04〜0.15 Hz):交感神経・副交感神経の混合的反映
    • HF(高周波数成分:0.15〜0.40 Hz):副交感神経活動の反映(呼吸性不整脈に対応)
    • LF/HF 比:交感神経と副交感神経の相対的バランス指標
  2. 時間領域解析
    • SDNN(標準偏差):全体的な心拍変動の大きさ
    • RMSSD(隣接する RR 間隔の平方平均):主に副交感神経活動を反映

HRV 解析の留意点

  • 測定はできるだけ安静時で行い、呼吸リズムや姿勢を一定に保つ
  • 日内変動が大きいため、同じ条件下・同じ時間帯で測定するのが望ましい
  • 自律神経障害や薬物服用(β遮断薬など)により指標が変化することを理解しておく

2-1-3. 血圧変動のモニタリング

  • 連続血圧モニタリング(Finapres など)指先(指動脈)で測定する方法で、リアルタイムに血圧波形を連続表示できる。起立や運動負荷のタイミングで血圧がどのように変化するかを詳細に評価可能。
  • 一般的なカフ式血圧測定一定の間隔で測定し、起立前後・運動前後などの比較を行う。起立性低血圧や運動中の血圧変動を把握するうえで有用。

2-1-4. 呼吸数と体温

  • 呼吸数(RR:Respiratory Rate)スポーツシーンや呼吸器疾患だけでなく、自律神経機能の乱れによる過呼吸や息切れの頻度変化を評価する際にも重要。
  • 体温(Body Temperature)自律神経は体温調節にも関わるため、急な発熱や低体温には注意を払い、感染や脱水など他の要因との鑑別も必要。

2-2. 簡易機能検査

バイタルサインモニタリングは日常的に行いやすい評価方法ですが、さらに自律神経反応を定量的・半定量的に把握したい場合は、以下のような簡易機能検査を活用します。

2-2-1. 起立負荷試験(Orthostatic Test)

目的:起立性低血圧や心拍反応の異常を評価し、自律神経系による血圧調節機能を確認する。

  1. 手順
    1. 仰臥位で数分間安静を保ち、血圧・心拍数を測定
    2. ゆっくり立位へ移行し、1分・3分・5分などの経時的に血圧・心拍数を測定
    3. 症状(めまい、ふらつき)の有無を観察
  2. 判定基準
    • 3分以内の収縮期血圧が 20 mmHg 以上、または拡張期血圧が 10 mmHg 以上低下した場合、起立性低血圧と判断
    • 同時に心拍数の反応(上昇具合)が低い場合、交感神経反応の低下が示唆される
  3. 臨床上の注意
    • 転倒リスクを考慮して必ず安全確保を行う
    • 一過性の変動か、持続的な変動かを把握することで、介入方法を検討

2-2-2. 深呼吸試験(Respiratory Sinus Arrhythmia Test)

目的呼吸性不整脈(RSA)を利用して、副交感神経(迷走神経)機能を評価する。

  1. 手順
    1. 安静座位または仰臥位で、6回/分(10秒に1回吸気)の深呼吸を指示
    2. 吸気時と呼気時の心拍数変化(あるいは RR間隔変動)を記録
  2. 評価のポイント
    • 健常であれば吸気時:心拍数↑、呼気時:心拍数↓がはっきりと確認できる
    • 高齢者や自律神経障害がある患者では、変化量が小さくなる
  3. 解釈
    • 変化量の減少=副交感神経反応の低下
    • 病態によっては心拍変化がほぼ認められない場合もある

2-2-3. Valsalva テスト

目的:呼気を閉じ込める(バルサルバ手技)ことにより、血圧・心拍変動を引き起こし、自律神経反射(特に交感神経活性と迷走神経反射)を評価する。

  1. 手順(簡易法)
    1. 深吸気後、口を閉じ鼻をつまむなどして、15秒ほど強く息を吐こうとする
    2. その間の心拍数・血圧の変化を観察
  2. 4相の変化
    • Phase 1:胸腔内圧上昇により血圧一過性に上昇
    • Phase 2:静脈還流量低下で血圧低下→交感神経刺激で徐々に上昇
    • Phase 3:バルサルバ解除直後、血圧が急激に低下
    • Phase 4:一気に血液が還流して血圧上昇、副交感神経反射で心拍数低下
  3. 注意
    • 心疾患がある方や高齢者など、無理のない範囲で実施
    • 臨床的にはバイタルサインの変化や自覚症状の有無を同時に確認

2-2-4. Cold pressor テスト(寒冷刺激試験)

目的:寒冷刺激に対する交感神経反応(血管収縮・心拍数上昇など)を評価する。痛みによる交感神経反応も含めて観察可能。

  1. 手順
    1. 被検者の片手を冷水(0〜4°C)につけ、1〜2分間保持
    2. 血圧や心拍数の変化を測定
  2. 期待される正常反応
    • 交感神経優位による血圧上昇、心拍数上昇
  3. 意義
    • 全身性の交感神経反応を簡易的に確認
    • 痛みの耐性やストレス反応のバリエーション把握にも役立つ

2-3. 評価フローチャートの活用

臨床では、患者さんの状態やリハビリ目的に応じて、評価の組み合わせや順序を柔軟に変える必要があります。以下は一例です。

  1. ベースラインの把握
    • 安静時のバイタルサイン(血圧・心拍数・呼吸数・体温)を計測
    • 必要に応じて HRV を短時間測定
  2. 姿勢変化時評価
    • 起立負荷試験などで、自律神経の反応を観察
    • めまいや失神が出現しないか安全を確認
  3. 追加検査
    • 深呼吸試験や Valsalva、Cold pressor テストなど、個々のケースに合わせて選択
    • より詳細な評価が必要な場合は連続血圧モニタリングや長時間 HRV 測定を検討
  4. 総合的な解釈
    • バイタルサイン変動と簡易機能検査結果を総合し、自律神経の活動バランスを推定
    • 起立時に極端な低血圧を示す場合は、段階的離床や弾性ストッキング使用などのリハ戦略を考慮
    • 副交感神経反応が著しく低い場合は、呼吸訓練や低負荷有酸素運動などの介入を検討

2-4. 安全管理と倫理的配慮

2-4-1. 安全管理の重要性

  • リスクアセスメント患者の病態や既往歴、薬物治療状況をあらかじめ把握し、評価時のリスクを予測しておく。
  • バイタルサインの連続モニタ評価中や直後にもこまめにバイタルサインを観察し、急激な変化がないかチェックする。
  • 転倒・失神リスク起立負荷試験中の転倒、Valsalva実施中の失神などに注意を払い、必ずサポート体制を整える。

2-4-2. 倫理的配慮

  • 被検者(患者)の意思尊重検査の目的や手順を十分説明し、同意を得たうえで実施する。
  • プライバシー保護測定時に収集した個人情報(心拍変動や血圧データなど)の取り扱いに配慮し、適切に管理する。
  • 苦痛を最小限にValsalva や Cold pressor テストなど一部の検査は苦痛を伴う場合があるため、無理強いをせず被検者の状態を常に確認する。

第2章まとめ

  1. バイタルサインモニタリングは、最も日常的かつ安全に実施できる自律神経評価の第一歩。HRV解析や連続血圧モニタリングを組み合わせると、より精度が高まる。
  2. 簡易機能検査(起立負荷試験、深呼吸試験、Valsalva、Cold pressor テストなど)を適切に選択・実施することで、臨床上のさまざまな自律神経の問題を発見しやすくなる。
  3. 評価結果をフローチャート化することで、ケースごとに柔軟に対応できる。特に起立性低血圧のリスク管理や副交感神経低下の理解は、リハビリプログラムの立案に直結する。
  4. 安全管理と倫理的配慮は必須。転倒リスクや苦痛への対処に加え、検査データの取り扱いや被検者の意思を尊重する姿勢が重要。

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