「身体機能を変える」から「動けるをサポートする」へ|生活につなげる臨床推論の考え方

「身体機能を変える」から「動けるをサポートする」へ|生活につなげる臨床推論の考え方

こんにちは、理学療法士の大塚です。

みなさんは、こんな経験はありませんか?

中殿筋の筋力は改善した。でも、歩行時の不安定性は変わらない。
膝関節の可動域は広がった。でも、階段昇降への恐怖は残っている。
病院の廊下では歩けるのに、自宅ではほとんど歩いていない。
立ち上がりは自立したのに、一人でトイレへ行こうとしない。
バランス検査の点数は上がった。でも、屋外歩行にはつながらない。

そして、こう考えませんか?

「もっとトレーニングが必要だったのだろうか」
「評価が足りなかったのだろうか」
「この患者さんはやる気がないのだろうか」

臨床3年目頃までの僕は、こういう場面に直面するたびに、自分の知識不足や技術不足のせいだと思っていました。

でも、今は少し違う見方をしています。

治療が効かなかったのではなく、変化した身体機能を生活へつなぐための条件が不足していたのかもしれない

そして、もう一つ大切だと考えていることがあります。

療法士が身体機能や動作の変化を確認したとしても、患者さん本人が「できた」と認識するとは限りません。

療法士が観察できるのは「動き」です。
療法士がサポートできるのは、「動ける」ための条件です。
その経験を「できた」と意味づける主体は、患者さん本人です。

この記事では、患者さんの「できた」を療法士が代わりに決めるのではなく、「動ける」条件と可能性を広げるための考え方として、療活の臨床推論の型をお伝えします。

この記事の結論(3行まとめ)

  • 「治療が効いたこと」「生活場面で動けたこと」「患者さん本人が『できた』と感じること」は、それぞれ同じではない。
  • 療法士がサポートできるのは、身体・課題・環境・経験に働きかけ、患者さんが「動ける」条件と可能性を広げることである。
  • 臨床推論は「HOPEから局所へ降り、HOPEへ戻る」循環であり、「変わったか・動けたか・本人は『できた』と感じたか」を確認する。

1.「治療が効いた」と患者さんの「できた」は同じではない

まず、整理しておきたい考え方があります。

Whyte & Barrett(2012)は、リハビリテーションの理論を大きく2つに分けて考えることを提案しています。

Treatment theory(治療理論)

介入によって、直接的な治療標的がどのように変化するかを考える理論です。

  • 筋力トレーニング → 筋力の向上
  • 関節モビライゼーション → 関節可動域の改善
  • 疼痛教育 → 疼痛に対する理解や認知の変化

ここでは、「介入と身体機能の関係」を考えます。

Enablement theory(能力化理論)

変化した身体機能が、活動や参加にどのようにつながるかを考える理論です。

  • 筋力が上がった → 立ち上がりが安定する → トイレ動作が自立する → 一人で外出する → 地域活動へ参加する

しかし、この矢印は自動的には成立しません。

筋力が向上しても、疼痛・感覚障害・姿勢制御・持久力・恐怖心・注意機能・段差・靴・手すり・家族の関わり・本人の目的などが制約となれば、歩行や生活は変わらない可能性があります。

さらに僕は、ここをもう一段階分けて考える必要があると思っています。

  1. 身体機能が変化した
  2. 課題や環境の中で動作が成立した
  3. 患者さん本人が「できた」と感じた

この3つは同じではありません。

例えば、療法士が「一人で立ち上がれています」と評価しても、患者さん本人は「まだ怖い」「これでは自宅でできない」「自分でできた感じがしない」と受け取っているかもしれません。

療法士は、動作が成立したという事実を観察できます。

しかし、その動きが患者さんにとってどのような意味を持ち、「できた」と感じられる経験になったかどうかは、患者さん本人にしか分かりません。

重要ポイント

身体機能を変える理論と、変化した身体機能を生活へつなぐ理論は、分けて考える必要があります。

さらに、療法士が動作の成立を確認したことと、患者さん本人が「できた」と感じることも分けて考えなければなりません。

僕たちが問うべきなのは、「治療は効いたか」だけではありません。その変化は動作へ現れたか、その動作は生活へつながったか、患者さん本人はどう受け取ったかまで確認する必要があります。

この間にある矢印こそを検証することが、臨床推論の出発点です。

2.療法士が患者さんの「できた」をつくるわけではない

リハビリを行っていると、どうしても療法士が治療を行い、患者さんを治しているように感じることがあります。

しかし実際に、動く・試す・失敗する・修正する・学習する・適応する・選択するのは、患者さん自身です。

療法士は、患者さんの代わりに動くことも、患者さんの代わりに学習することもできません。

また、療法士が「できています」と判断したからといって、患者さん本人が「できた」と感じるとは限りません。

「できた」には、単なる動作の成立だけではなく、安心・納得・自信・目的・役割・その人らしさといった、患者さん自身による意味づけが含まれるからです。

療法士が働きかけられるのは、主に次のような条件です。

  • 身体機能に働きかける
  • 課題の難易度を調整する
  • 環境を変更する
  • 必要な補助や道具を提案する
  • フィードバックを伝える
  • 成功や失敗を経験できる場を整える
  • 患者さんが自分で考えられる問いを渡す
  • 支援の量やタイミングを調整する

したがって、療法士の役割は患者さんの「できた」をつくることではなく、身体・課題・環境・経験に働きかけ、患者さんが「動ける」条件と可能性を広げることだと、僕は考えています。

「動き」「動ける」「できた」を分けて考える

  • 動き:立ち上がった、右脚へ荷重した、方向転換時に歩数が増えたなど、観察できる現象
  • 動ける:身体・課題・環境などの条件が整い、ある動作が成立する状態や可能性
  • できた:その動きや行為を、患者さん本人が自分の目的や価値観に照らして意味づけた経験

療法士は「動き」を観察し、「動ける」条件を評価・調整できます。

しかし、その経験を「できた」と意味づける主体は、患者さん本人です。

ここで注意したいのは、サポート=介助することではないという点です。

サポートとは、

  • できない部分をすべて代行することではない
  • 常に手を貸し続けることではない
  • 療法士が考える正しい動作を教え込むことではない
  • 失敗をすべて避けさせることではない
  • 成功だけを経験させることでもない

むしろ、本人が試行錯誤できる範囲を見極め、必要なときに条件を調整し、患者さんの反応に合わせて徐々に支援を減らしていくことです。

3.神経系が学ぶのは、運動の回数だけではなく経験の内容

Nudo et al.(1996)は、非ヒト霊長類を対象とした基礎実験において、脳虚血後にどのような訓練内容を提供するかが、皮質の再編成と運動機能の回復に関係する可能性を示しました。

臨床では「反復が重要」と言われます。

確かに反復は重要です。

しかし、同じ回数を反復したとしても、何を反復するかによって患者さんが経験する内容は大きく異なります。

  • 肩関節屈曲を100回行う
  • コップを取って口元へ運ぶ動作を100回行う
  • 棚から必要な物を選び、把持して移動する
  • 洗濯物を取り、向きを変えて干す

これらには共通する身体運動が含まれているかもしれません。

しかし、患者さんが経験する内容は同じではありません。

単純運動では、関節運動・筋活動・可動域・運動方向などが中心になります。

一方、意味のある課題には、それらに加えて、目的・注意・予測・感覚・結果の確認・エラー修正・選択・成功や失敗が含まれます。

さらに、その課題が患者さん自身のHOPEとつながっていれば、同じ動作であっても本人にとっての意味は変わります。

重要ポイント

身体を動かすことと、患者さんが行動を経験することは同じではありません。

療法士は運動を反復させるだけではなく、どのような目的のもとで、何に注意を向け、どのような結果を経験してもらうのかまで考える必要があります。

なお、Nudoらの研究は非ヒト霊長類を対象とした基礎実験です。「この訓練をすれば人間でも同じ皮質再編が起こる」と直接一般化するのではなく、どのような経験を提供するかが神経系の再編や運動学習に関係する可能性を示した重要な基礎的知見として扱うことが大切です。

4.正しい運動戦略は患者さんの身体だけでは決まらない

Horak & Nashner(1986)は、支持面の条件によって姿勢制御戦略が変化することを実験的に示しました。

支持面が安定している状況と、支持面が狭い状況では、必要となる姿勢戦略が異なります。

そのため、

  • 足関節戦略が出れば正常
  • 股関節戦略が出れば異常
  • 上肢を使えば代償

と単純に判断することはできません。

重要なのは、なぜ、その人が、その状況で、その運動戦略を選択しているのか?という問いです。

例えば、同じ患者さんでも、病院の広い廊下・自宅の狭いトイレ・柔らかい布団・段差のある玄関・人混み・雨の日・荷物を持った状態・後ろから声をかけられた状況では、選択する運動戦略が変わります。

病院内で一つの動作を再現できたとしても、環境が変われば同じように動けるとは限りません。

反対に、身体機能そのものが大きく変化していなくても、環境や課題を調整することで動ける場合もあります。

したがって、評価するのは個別筋や関節だけではありません。

支持面・視覚情報・体性感覚・前庭感覚・予測・注意・課題の目的・これまでの経験・周囲の人との関係も含めて評価します。

重要ポイント

正常とされる動作を一つ再現できることよりも、状況に応じて運動戦略を切り替えられることが重要です。

「正しい動作は一つではない」という視点は、臨床推論の幅を大きく広げてくれます。

5.「動ける」は人・課題・環境・経験の関係から現れる

Nudoらの研究からは、「何を経験するかによって、神経系の適応が変わる可能性がある」という視点が得られます。

Horak & Nashnerからは、「課題や環境によって、選択される運動戦略が変わる」という視点が得られます。

この2つを合わせると、次のように整理できます。

患者さんの「動ける」は、身体機能だけで決まるのではなく、人・課題・環境・経験の関係から現れる。

図式で表すと、

  • :身体機能・感覚・認知・心理・これまでの経験・価値観
  • 課題:何をするのか・何のためにするのか・どの程度の正確性や速度が必要か
  • 環境:支持面・空間・道具・光・音・他者・社会的役割
  • 経験:反復・成功・失敗・フィードバック・試行錯誤・選択
  • HOPE:患者さんが何を望み、何のためにその行為を行うのか

この5つの関係の中で、その状況に応じた「動き」が現れます。

療法士が直接つくるのは、患者さんの「できた」ではありません。

療法士が働きかけられるのは、人・課題・環境・経験の関係です。

その関係を調整することで、「動ける」条件や可能性を広げることはできます。

しかし、その動きにどのような意味を見いだし、「できた」と受け取るかを決める主体は、患者さん本人です。

また、何のためにその動作を行うのかという目的、つまりHOPEがなければ、同じ運動でも患者さんにとっての意味は変わります。

だから療活では、人 × 課題 × 環境 × 経験 × HOPEとして整理します。

療活における主体の整理

  • 療法士は「動き」を観察する
  • 療法士は「動ける」条件を評価し、調整する
  • 患者さん自身が、その経験を「できた」と意味づける

6.療活の臨床推論はHOPEから局所へ降り、HOPEへ戻る

療活の臨床推論を、単なる評価手順としてではなく、身体機能の変化を生活へつなぐための構造として提示します。

流れは、次のようになります。

HOPE → 工程分析 → ADL → 基本動作 → 複合運動 → 局所評価 → 5つの視点から統合 → Plan & Do

この流れの特徴は、最初から局所を見ないことです。

「痛みがあるから疼痛部位を見る」
「歩けないから下肢筋力を見る」

という始まりではありません。

まず、患者さんが何をしたいのか、何を大切にしているのかというHOPEから始めます。

6-1.HOPE:何をできるようになりたいのか?

HOPEでは、機能目標だけではなく、患者さんの生活上の目的を確認します。

  • 自分でトイレへ行きたい
  • 孫と買い物へ行きたい
  • もう一度仕事へ戻りたい
  • 趣味の畑仕事を続けたい
  • 家族に迷惑をかけずに暮らしたい

ここでの「できる」は、療法士が判定する能力ではありません。

患者さん本人が望んでいる生活や、自分にとって大切な行為を表しています。

「何ができないか」だけでなく、なぜ、それができるようになりたいのか?まで確認することで、運動や課題の意味が変わります。

6-2.工程分析:どの工程で生活行為が途切れているのか?

「スーパーへ行きたい」というHOPEがあったとしても、スーパーへ行くという行為は一つの動作ではありません。

  • 着替える
  • 靴を履く
  • 玄関まで移動する
  • 段差を越える
  • 屋外を歩く
  • 信号を渡る
  • 人や障害物を避ける
  • 商品を探す
  • 立ち止まる
  • 向きを変える
  • 荷物を持つ
  • 支払いをする
  • 荷物を持って帰宅する

という複数の工程があります。

工程分析を行うことで、「歩けない」という大きな問題を、

  • 狭い場所で方向転換するときに不安定になる
  • 荷物を持つと歩行速度が低下する
  • 屋外では足元を見続けてしまう

という、観察可能な事実へ分解できます。

6-3.ADL:生活場面で何が起きているのか?

ADLでは、治療室内での能力だけではなく、実際の生活場面での遂行を見ます。

ここでは、動作が成立するかどうかに加えて、

  • 治療場面では動けているが、生活場面での行為にはつながっていない
  • 見守りや介助があれば動けるが、一人では動き出せない
  • 病院の環境では動けるが、自宅では同じように動けない
  • 動作としては成立していても、患者さん本人には安心感がない
  • 療法士は動けたと判断しているが、患者さん本人は「できた」と感じていない

という違いも重要になります。

「動けるのに、やらない」と判断する前に、その患者さんにとって動き出せない条件が何かを考える必要があります。

6-4.基本動作:ADLを支える運動戦略は何か?

ADLの中で問題となっている工程を、基本動作へ分解します。

ここでは、動作が成立するかどうかだけでなく、

  • どのような支持面を使っているか
  • 重心をどこへ移動しているか
  • どの順番で身体を動かしているか
  • どの感覚情報を利用しているか
  • どのような代償戦略を使っているか
  • 条件を変えると戦略が変わるか

を観察します。

Horak & Nashnerの考え方は、ここに自然に入ってきます。

大切なのは、療法士が考える正常動作に近いかどうかだけではありません。

その患者さんが、その課題と環境の中でどのような運動戦略を選び、条件が変わったときに別の戦略へ切り替えられるかを見ます。

6-5.複合運動:身体をユニット単位で評価する

動作では、身体のすべての部位を使っています。

基本動作として見たときに問題となる部位があったとしても、そこが本来の原因とは限りません。

そこで、身体をユニット単位に分解して動きを評価します。

大きく4つ、

  • 頭頚部
  • 肩甲帯
  • 骨盤帯
  • 足部

に分け、それぞれのユニットの動きと、ユニット同士の関係を評価します。

例えば、歩行時に骨盤帯の動きが小さく見えたとしても、骨盤帯だけに原因があるとは限りません。

頭頚部の定位、肩甲帯の回旋、足部からの支持、視線の向きなどが変わることで、骨盤帯の動きも変化する可能性があります。

6-6.局所評価:その動作を制約している身体機能は何か?

ここで初めて、局所の評価へ降ります。

関節可動域・筋力・筋緊張・疼痛・感覚・アライメント・関節の安定性・軟部組織・呼吸・循環・持久力などを確認します。

重要ポイント

局所評価は、局所の異常を探すためだけに行うのではありません。

患者さんのHOPEや、目的とする生活行為を妨げている制約を確認するために行います。

局所評価で見つかった異常が、必ずしも生活上の問題の原因とは限りません。

「異常があるか」だけでなく、「動作と関連しているか」「条件を変えると動作が変わるか」「介入によって変化するか」「その変化がADLへつながるか」まで確認します。

6-7.5つの視点から統合する

療活では、問題を一つの原因に限定しません。

次の5つの視点から統合します。

  • 構造:関節・筋・筋膜・骨・靱帯・疼痛・可動域
  • 中枢神経:運動制御・感覚統合・予測・姿勢制御・注意・運動学習
  • 環境:支持面・段差・靴・手すり・照明・空間・道具・他者
  • 発達:支持面の使い方・重心移動・分離運動・協調性・姿勢戦略・運動の獲得過程
  • 心理・認知:恐怖・不安・自己効力感・注意・判断・病識・痛みに対する意味づけ

さらに療活では、社会的自己も重要になります。

  • 家族の中での役割
  • 仕事上の役割
  • 他者からどのように見られたいか
  • 自分らしさ
  • これまで大切にしてきたこと
  • 支援されることへの抵抗
  • 失敗を見られることへの不安

同じ身体機能であっても、その動きが本人にとってどのような社会的意味を持つかによって、行動は変わります。

療法士が「動ける」と評価しても、その動きによって自分らしさや役割が失われると患者さんが感じていれば、「できた」という実感にはつながらない可能性があります。

6-8.Plan & Do:身体だけでなく、「動ける」条件を整える

Plan & Doでは、局所への介入だけで終わらせません。

働きかける対象は、大きく3つあります。

  • 身体への介入:筋力・関節可動域・疼痛・感覚・姿勢制御・持久力
  • 課題への介入:難易度・速度・支持面・動作の順序・道具・認知負荷・反復方法
  • 環境への介入:手すり・椅子の高さ・靴・照明・空間・動線・家族の関わり方

そして、どのような経験をしてもらうかを考えます。

  • 何を反復するか
  • どのような目的を持つか
  • どの程度の失敗を許容するか
  • どのタイミングでフィードバックするか
  • どの程度の支援を行うか
  • いつ支援を減らすか
  • 生活場面へどう近づけるか

ただし、療法士が患者さんの経験をすべて設計できるわけではありません。

患者さんの反応を見ながら、試行錯誤できる場を整え、本人が自分に合った動き方や方法を見つけられるように支援します。

ここまで考えることが、Enablement theoryを臨床に落とし込むことだと僕は考えています。

7.「事実→解釈→行動」で、「動ける」条件を探る

療活の臨床推論のもう一つの軸が、事実 → 解釈 → 行動の循環です。

事実:評価者の意味づけを加えずに捉える

患者さんに実際に起きていることを、評価者の意味づけを加えずに捉えます。

  • 右立脚期に骨盤が左へ下降した
  • 方向転換時に歩数が増えた
  • 狭い場所では歩行速度が低下した
  • 荷物を持つと左上肢を外転した
  • 声をかけながら歩くと停止した

「中殿筋が弱い」
「バランスが悪い」
「怖がっている」

これらは、まだ事実ではなく解釈です。

患者さん本人が「怖い」と話したのであれば、「患者さんが怖いと話した」ということは事実です。

一方、療法士が表情や動きだけを見て「怖がっている」と判断したのであれば、それは解釈になります。

解釈:5つの視点から複数の仮説を立てる

事実がなぜ起きているかを、5つの視点から考えます。

例えば、方向転換時の歩数増加に対して、

  • 足関節可動域の制限
  • 荷重感覚の低下
  • 予測的姿勢調整の不足
  • 狭い環境への不慣れ
  • 転倒への恐怖
  • 過去の転倒経験
  • 動作手順の理解不足

など、複数の仮説を立てます。

ここで、一つの原因に決めつけません。

行動:条件を変えて反応を確認する

解釈した仮説を確かめるために、条件を変えます。

  • 支持面を変える
  • 視覚情報を変える
  • 手すりを使う
  • 動作速度を変える
  • 声かけを変える
  • 荷物の重さを変える
  • 局所へ介入する
  • 課題を分解する

条件を変えて動作が変化すれば、その反応が次の事実になります。

つまり、

事実 → 解釈 → 行動 → 新しい事実 → 解釈の修正

という循環です。

この循環によって、療法士の最初の見立てを患者さんに押しつけるのではなく、患者さんの反応から臨床推論を修正できます。

また、この循環は、療法士が患者さんの「できた」を決めるためのものではありません。

どの条件であれば動きが変わるのか、どの支援があれば動けるのかを、患者さんと一緒に探るためのものです。

8.評価するのは「変わったか」「動けたか」「本人は『できた』と感じたか」

この記事の実践的なまとめとして、アウトカムを3段階で整理します。

1.変わったか

身体機能や、直接的な治療標的が変化したかを確認します。

  • 筋力
  • 関節可動域
  • 疼痛
  • 感覚
  • 持久力
  • 姿勢制御

これは、主にTreatment theoryの評価です。

2.動けたか

変化した身体機能が、課題や環境の中で動きとして現れたかを確認します。

  • 立ち上がり動作が成立したか
  • 歩行中に方向転換できたか
  • 段差を越えられたか
  • 荷物を持って歩けたか
  • 支持面が変わっても姿勢を保てたか
  • 環境に応じて運動戦略を切り替えられたか

ここでは、治療室内だけではなく、課題や環境の条件を変えて確認します。

「動けたか」は、療法士が観察できる範囲です。

3.本人は「できた」と感じたか

動作の成立や生活上の変化を、患者さん本人がどのように受け取っているかを確認します。

  • 本人は安心して行えたか
  • 本人は自分で行えたと感じているか
  • 本人が望む方法で行えたか
  • 自分からもう一度やってみようと思えたか
  • 本人が望む生活へ近づいたと感じているか
  • 本人にとって大切な役割へつながったか
  • その経験に本人なりの意味があったか

これは、療法士が外側から推測するだけでは分かりません。

患者さん本人の言葉を聴き、確認する必要があります。

重要ポイント

身体機能が変わっても、課題や環境の中では動けないことがあります。

動作が成立しても、患者さん本人は「できた」と感じていないことがあります。

したがって評価は、変わったか・動けたか・本人は「できた」と感じたかの3段階で行う必要があります。

療法士は「変わったか」を測定し、「動けたか」を観察できます。しかし、患者さんの「できた」を療法士の評価だけで決めることはできません。

まとめ:身体機能を変えることは、「動ける」をサポートするための手段

筋力を上げる。
関節可動域を広げる。
疼痛を軽減する。
感覚入力を行う。
姿勢制御を改善する。

これらは、どれも重要です。

しかし、それだけで患者さんの生活が変わるとは限りません。

身体機能を変えたあとに、

  • どの課題で使うのか
  • どの環境で使うのか
  • どのような経験が必要か
  • どのような支援を行うか
  • いつ支援を減らすか
  • HOPEへどうつなげるか

を考える必要があります。

私たち療法士が身体機能を変えるのは、筋力や関節可動域の数値を良くするためだけではありません。

身体・課題・環境・経験に働きかけ、患者さんが自分の目的に向かって「動ける」条件と可能性を広げるためです。

ただし、療法士が「動けた」と評価したことが、そのまま患者さん本人の「できた」になるわけではありません。

その動きにどのような意味を見いだし、「できた」と受け取るかを決める主体は、患者さん本人です。

療法士が観察するのは「動き」。
療法士がサポートするのは「動ける」条件。
その経験を「できた」と意味づけるのは患者さん本人。

「身体機能を変える」から「動けるをサポートする」へ。

そのために必要なのが、HOPEから始まり、生活から動作へ、動作から局所へ降り、もう一度生活へ戻っていく臨床推論なのだと、僕は考えています。

参考文献

  • Nudo RJ, Wise BM, SiFuentes F, Milliken GW. Neural substrates for the effects of rehabilitative training on motor recovery after ischemic infarct. Science. 1996;272(5269):1791-1794. doi:10.1126/science.272.5269.1791
  • Horak FB, Nashner LM. Central programming of postural movements: adaptation to altered support-surface configurations. J Neurophysiol. 1986;55(6):1369-1381. doi:10.1152/jn.1986.55.6.1369
  • Whyte J, Barrett AM. Advancing the evidence base of rehabilitation treatments: a developmental approach. Arch Phys Med Rehabil. 2012;93(8 Suppl):S101-S110. doi:10.1016/j.apmr.2011.11.040

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