上殿神経の解剖と臨床|走行・支配筋からトレンデレンブルグ徴候の鑑別まで

上殿神経の解剖と臨床|走行・支配筋からトレンデレンブルグ徴候の鑑別まで

こんにちは、理学療法士の内川です。

「片脚立ちで骨盤が下がるのは、中殿筋の筋力低下だけが原因なのかな?」
「股関節の手術後から、歩くと体が横に傾く。神経の影響もある?」

股関節外転筋の機能低下をみたときには、筋・腱や関節の問題に加えて、上殿神経の障害も考える必要があります。

上殿神経は中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋を支配し、片脚支持時の骨盤の安定に関わります。

今回は、その走行と支配を整理し、トレンデレンブルグ徴候の捉え方、L5神経根障害との鑑別を解説します。

  • 上殿神経はL4・L5・S1由来で、梨状筋上孔を通って中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋を支配する運動神経
  • 障害により股関節外転筋力が低下し、片脚支持での骨盤安定が難しくなる(トレンデレンブルグ徴候)
  • トレンデレンブルグ徴候は上殿神経障害に特異的ではなく、L5神経根障害や股関節疾患との鑑別が重要

目次

  1. 上殿神経とは
  2. 上殿神経の走行
  3. 上殿神経の支配
  4. 上殿神経の障害
  5. 上殿神経の評価
  6. まとめ

1.上殿神経とは

上殿神経は、L4・L5・S1脊髄神経に由来する仙骨神経叢の枝と考えられています。梨状筋の上方から骨盤の外へ出て、中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋へ向かいます。

💡 臨床ちょこっとメモ
上殿神経は固有の皮膚感覚領域を持たず、主に中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋への運動支配を担います。感覚障害がない場合でも、運動機能への影響が出ることがあります。

2.上殿神経の走行

走行の流れは以下のとおりです。

  1. 仙骨神経叢
  2. 梨状筋の上方(梨状筋上孔)
  3. 中殿筋と小殿筋の間
  4. 各支配筋

上殿神経は、大坐骨孔のうち梨状筋の上方にある梨状筋上孔を通ります。その後、中殿筋と小殿筋の間を外側へ進み、両筋に枝を出します。

下方の枝はさらに前方へ進み、大腿筋膜張筋へ向かうとされています。ただし枝分岐の様式には個人差がある場合もあります。

💡 「梨状筋の上を出て、中殿筋と小殿筋の間を走る」と覚えると整理しやすいです。
上殿神経の走行と支配筋の図解

3.上殿神経の支配

運動支配と役割

上殿神経は中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋を支配します。

片脚立位では、体重によって遊脚側の骨盤を下げる方向のモーメントが生じます。支持側の股関節外転筋群はこれに対抗して、骨盤を支えます。

上殿神経障害で外転筋群の出力が低下すると、この制御が難しくなります。

4.上殿神経の障害

原因と背景

股関節手術、骨盤・股関節周囲の外傷、殿部への注射に伴う損傷などが報告されています。

人工股関節置換術の外側アプローチでは、中殿筋周囲の操作に伴う神経への影響も言われています。

症状と動作への影響

主な評価対象は以下のとおりです。

  • 股関節外転筋力の低下
  • 支配筋の萎縮
  • 片脚立位の不安定性
  • 歩行時の骨盤下制や体幹側屈

内旋に関わる筋も支配するため、内旋筋力が低下する場合もあります。ただし、内旋筋力の低下だけで障害を特定することはできません。

※トレンデレンブルグ徴候とは
片脚で支えたときに、反対側の骨盤が下がる所見です。例えば右側の外転筋機能が低下していれば、右脚支持時に左側の骨盤が下がります。

支持側へ体幹を傾けて外転筋への要求を減らす代償は、デュシェンヌ型の跛行として捉えられます。

徴候と神経障害は一致するとは限らない

⚠️ 注意点
トレンデレンブルグ徴候は外転筋機能の問題を示す所見であり、上殿神経障害に特有の徴候ではないため注意しましょう。

5.上殿神経の評価

① 問診と経過

発症時期と、手術・転倒・骨盤外傷・注射との時間的な関係を確認します。術前からの跛行か、新たな変化かも重要です。

聞き取る内容として以下が挙げられます。

  • 疼痛部位
  • 歩行距離
  • 階段や片脚立位で困る場面
  • 腰痛・下肢のしびれの有無

② 股関節筋力と萎縮

側臥位での股関節外転などを用い、骨盤の挙上・回旋や股関節屈曲による代償を抑えながら左右差を確認します。

中殿筋だけでなく、大腿筋膜張筋の収縮や萎縮も観察します。

③ 片脚立位と歩行

転倒を防げる環境で、左右それぞれの片脚立位を観察します。

  • 骨盤の高さ
  • 体幹側屈の有無
  • 疼痛の有無
  • 支持時間

歩行や段差昇降でも同じ代償が出るかをみて、筋力検査の所見と照合します。

④ 腰椎と他の神経領域を確認する

股関節外転筋力の低下はL5神経根障害でも起こります。以下を確認することが重要です。

  • 腰椎運動との関連
  • 足関節背屈・母趾伸展などの筋力
  • 下腿・足部の感覚
💡 臨床ちょこっとメモ
足関節背屈・母趾伸展・下腿の感覚にも異常があれば、上殿神経単独よりも広い範囲の障害を考える必要があります。L5神経根障害との鑑別において、この確認が鍵になります。

6.まとめ

① 解剖・特徴

  • 上殿神経はL4・L5・S1由来で、仙骨神経叢から分岐する
  • 梨状筋上孔→中殿筋と小殿筋の間を走行する
  • 中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋を支配する
  • 固有の皮膚感覚領域を持たない運動神経

② 評価とアプローチ

  • 股関節外転筋力と支配筋の萎縮を左右で確認する
  • 片脚立位・歩行で骨盤下制や体幹側屈を観察する
  • トレンデレンブルグ徴候だけでなく、疼痛や代償動作も合わせて評価する
  • 足関節背屈・母趾伸展・感覚などを確認し、L5神経根障害との鑑別を行う
  • 股関節手術・骨盤外傷・殿部注射などの発症背景も確認する

③ 機能低下の影響と臨床的注意点

  • 上殿神経障害 → 股関節外転筋力低下・片脚支持不安定
  • 支持側の外転筋機能低下 → 反対側の骨盤下制(トレンデレンブルグ徴候)
  • 代償として支持側へ体幹を傾けるデュシェンヌ型跛行がみられることがある
  • 歩行・階段・片脚立位などで骨盤安定性が低下する
  • トレンデレンブルグ徴候は上殿神経障害に特異的ではなく、股関節疾患やL5神経根障害も考慮することが重要

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この記事の執筆・監修

執筆:内川 舜(理学療法士)運動器

監修:大塚 久(理学療法士・療法士活性化委員会 代表)