こんにちは、理学療法士の内川です。今回は、肩甲骨の動きと安定性において非常に重要な役割を果たす「前鋸筋」についてお話しします。前鋸筋は肩関節の動きの土台となり、呼吸運動にも関与する重要な筋肉です。
前鋸筋の機能が低下すると、肩甲骨の位置が崩れ、肩関節や肩甲骨の可動域に問題を引き起こす可能性があります。これにより肩の痛みや不安定性、さらには翼状肩甲といった症状が現れることもあります。
前鋸筋は弱化しやすい筋肉でもあり、臨床現場でしばしば問題となります。この記事では、前鋸筋の解剖、機能、評価方法、そしてトレーニング方法について詳しく解説します。しっかりと理解して、臨床に活かしていきましょう!
目次
1. 前鋸筋の解剖と作用
- 起始:第1~第9肋骨の外側面
- 停止:肩甲骨の内側縁(特に下角)
- 支配神経:長胸神経(C5-C7)
前鋸筋の主な作用:
- 肩甲骨の外転と上方回旋、下方回旋
- 肩甲骨の固定
- 上肢挙上時の肩甲骨の安定化
前鋸筋は、肋骨から肩甲骨の内側縁にかけて広がる筋肉で、肩甲骨を胸郭に固定し、肩関節の動きをサポートします。特に、上肢の挙上や押す動作、さらには肩甲骨の上方回旋において重要な役割を果たしています。前鋸筋が正常に機能していると、肩甲骨がスムーズに動き、肩関節の動作が円滑になります。
上部線維が優位に収縮すると下方回旋、下部線維が優位に収縮すると上方回旋をします。
2. 前鋸筋の評価
MMT(徒手筋力テスト)
段階5、4、3の手順:
- 座位で検査側の肩関節を130°屈曲させる
- 上腕を前方に突き出させ、検者は一方の手で上腕遠位部を把持し後方に向かい抵抗をかける
- 検者のもう一方の手は肩甲骨の直下で体幹を安定させ、回旋を防止する
判断基準:
- 5:最大の抵抗に対して保持できる
- 4:最大の抵抗には押し負ける
- 3:抵抗がなければ可動域を動かせる
段階2の手順:
- 上肢を90°以上に屈曲させ、検者はその位置を肘の位置で支える
- 検者のもう一方の手は肩甲骨下角にあて、母指を外側縁、他の指を内側縁にそわせる
- 上記位置を保持→脱力→保持を繰り返す
判断基準:2:肩甲骨が重力をなくしてもスムーズに外転上方回旋しない場合、内転する場合
段階1、0の手順
- 2と同じ肢位で行う
- 検者のもう一方の手は肩甲骨外側縁に沿わせ前鋸筋を触知
判断基準:
- 1:上肢の位置を支持してもらう際に収縮活動が触知できる
- 0:収縮活動がない
翼状肩甲(Scapular Winging)の評価
- 患者に両腕を前方に伸ばし、壁を押す動作をさせます。
- セラピストは肩甲骨が胸郭から浮き上がる(翼状化)かどうかを確認します。
- 肩甲骨が浮き上がる場合、前鋸筋の弱化や機能不全が疑われます。
3. 前鋸筋の機能訓練
背臥位での肩甲骨突き上げ運動
- 背臥位で肩関節90°屈曲位をとる
- 天井へ突き上げるように肩甲骨の外転を行う
四つ這いでの肩甲骨エクササイズ
- 四つ這いで肩甲骨を内転位とする
- 肩甲骨の外転を行う
4. 機能低下と影響
前鋸筋の機能低下は、以下のような問題を引き起こす可能性があります:
- 翼状肩甲:前鋸筋の機能低下の特徴的な症状です。
- 肩甲骨の不安定性:肩の可動域制限につながる可能性があります。
- 二次的な症状:肩関節周囲炎や腱板損傷のリスクが高まる可能性があります。
5. 臨床ちょこっとメモ
- 前鋸筋は僧帽筋中部、菱形筋、外腹斜筋と共同して働くことで肩甲骨の安定性を向上させます。
- Jandaの筋分類によると、前鋸筋は弱化しやすい筋肉となります。
- 前鋸筋の機能低下は、肩甲骨翼状化を引き起こしやすく、肩甲骨の安定性低下を引き起こすことがあります。
- 前鋸筋は肋骨に起始を持つため呼吸運動にも関与します。体幹部とも関与するため肩甲骨のみでなく周囲もしっかりと評価する必要があります。
6. まとめ
解剖と機能:
前鋸筋は第1~第9肋骨の外側面から起始し、肩甲骨の内側縁(特に下角)に停止する筋肉です。長胸神経(C5-C7)に支配され、主に肩甲骨の外転、上方回旋、下方回旋、固定、および上肢挙上時の安定化に関与します。上部線維と下部線維の収縮の優位性によって、肩甲骨の回旋方向が変化します。前鋸筋が正常に機能することで、肩甲骨の動きがスムーズになり、肩関節の動作が円滑になります。
評価と訓練:
前鋸筋の評価には徒手筋力テスト(MMT)と翼状肩甲の観察が用いられます。MMTでは、座位での上肢の突き出し動作に対する抵抗を評価します。機能訓練としては、背臥位での肩甲骨突き上げ運動や四つ這いでの肩甲骨エクササイズが効果的です。これらの評価と訓練方法を適切に実施することで、前鋸筋の機能改善と肩甲骨の安定性向上を図ることができます。
機能低下の影響と臨床的考慮:
前鋸筋の機能低下は翼状肩甲を引き起こし、肩甲骨の不安定性や肩の可動域制限、さらには肩関節周囲炎や腱板損傷のリスクを高めます。臨床的には、前鋸筋は弱化しやすい筋肉であるため、僧帽筋中部、菱形筋、外腹斜筋との協調性を考慮したアプローチが重要です。また、前鋸筋は呼吸運動にも関与するため、肩甲骨周辺だけでなく体幹部も含めた総合的な評価と訓練が必要です。
今回記載したものはあくまでも筋単体のことです。実際の治療においては周囲にいくつもの筋肉が存在しており、深さも考えなければなりません。周囲に何があるかイメージできていますか?不安な方はぜひ一緒に勉強しませんか?
3D思考で臨床力アップ! 学生・新人理学療法士、作業療法士の ためのスキルアップガイド 前鋸筋 Visualize Anatomy in Your Mind 頭の中に解剖学を描こう
7. 参考文献
- 症例動画から学ぶ 臨床整形外科的テスト
- 新・徒手筋力検査法 原著第10版
- プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論運動器系 第3版
- 肩関節痛・頸部痛のリハビリテーション
- マッスルインバランスの理学療法