こんにちは、理学療法士の大塚です。皆さんは臨床実習指導者を経験したことはありますか? 私も以前何名かの実習を担当したのですが、特に難しかったのが時間管理でした。通常業務に加えて実習生の指導。業務時間内だけでは終わらず、残って1時間以上フィードバックしていたこともあります。その頃の実習生の皆さん本当にすみません。
しかし同じように時間管理に悩んでいる指導者も多いんじゃないでしょうか? 今回はそんな時間管理についてお伝えします。
実習指導者が直面する課題
1. 時間的負担
臨床実習指導者の多くは、以下のような時間的な課題を抱えています
- 通常の患者ケアを維持しながらの指導
- 学生へのフィードバックや指導に関する残業時間の増加
- 学生の業務完了を待つ待機時間の発生
研究によれば、これらの負担により約70%の指導者が業務量の増加を報告しています。
2. メンタルヘルスへの影響
時間的負担に加えて、以下のような精神的負担も大きな課題となっています:
- 業務と指導の両立によるストレス
- 「一人前に育てなければ」という責任感からのプレッシャー
- 十分な指導時間が確保できないことへの焦燥感
効果的な解決策
1. システム面での改善
a) 複数学生指導モデルの導入
2:1モデル(1人の指導者に対して2人の学生)や3:1モデルの導入には、以下のようなメリットがあります
- 学生同士の相互学習の促進
- 指導時間の効率的な活用
- 指導者の時間的負担の約30%削減(研究報告あり)
b) 教育専門スタッフの配置
臨床教育コーディネーターを置くことで:
- 指導計画の立案と調整
- 学生評価のサポート
- 指導者へのメンタルサポート
が可能となります。
正直この方法は難しいと思います。まずは業務を行うことが大前提であり、教育のためのスタッフを配置できる施設は数えるほどだと思います。理想論で考えれば、新人教育、実習生の専門の指導担当のスタッフを常設できるとベストだと考えます。現実的には複数名の教育担当のスタッフを配置し、チームで指導に当たる体制が整うのがベターだと考えます。
2. 指導方法の効率化
a) マイクロティーチングの活用
5分程度の短時間での教育セッションを効果的に活用することで:
- 具体的な学習目標に焦点を当てた指導が可能
- すきま時間の有効活用
- 学生の集中力維持
が実現できます。
僕も経験がありますが、詳しくフィードバックしようとすると時間が長くなります。しかし時間の長さと相手の理解度は比例しません。むしろ短く簡潔にフィードバックすることで記憶に残りやすいことが多くありました。
b) 自己学習の促進
学生の自己学習能力を育成することで:
- 文献レビューの課題設定
- 症例報告の作成
- 臨床推論の演習
など、指導時間の効率的な活用が可能となります。
前回のコラムの内容にもつながりますが、指導者側が指導の意図を明確にして上で、業務時間内の実習生に対して課題を題して、自己学習することは「ただ見学しているだけ」よりも学習効果は高いと考えられます。
新しい指導モデルの可能性
Mayo Clinicの研究では、複数学生指導モデル(2:1や3:1)が効果的であることが報告されています。このモデルでは:
- 学生同士が教え合い、学び合う環境が生まれる
- 指導者の負担が軽減される
- より多くの臨床経験を提供できる
という利点が確認されています。
まとめ
臨床実習指導における時間管理とストレス軽減は、個々の指導者の努力だけでは解決できない組織的な課題です。システム面での改革と効率的な指導方法の導入を組み合わせることで、持続可能な臨床教育体制の構築が可能となります。
それぞれの施設の状況に応じて、これらの方策を適切に組み合わせ、実践していくことが重要です。そうすることで、指導者のワークライフバランスを保ちながら、質の高い臨床教育を提供することができるでしょう。
参考文献
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Provident MA, Worrell TW, Mathis JL.Collaborative model of clinical education in physical and occupational therapy at the Mayo Clinic. J Allied Health. 2009 Summer;38(2):88-91. PMID: 19753424.
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