この記事では、作業療法士が自身の経験に基づき、デイサービス特有のリスクから具体的なBCPの策定方法、台風やコロナ禍での実践事例、そしてすぐに取り組める備蓄や訓練のポイントまでを網羅的に解説します。
理学療法士・作業療法士として、明日から現場で活かせる災害対策の知識が身につきます。
皆さんこんにちは。作業療法士の内山です。
近年、地震や豪雨、台風などの自然災害が頻発する中で、高齢者が多く利用するデイサービスにおける災害対策は、利用者さんの命を守る重要な課題となっています。
また、災害時でも可能な限りサービスを継続し、利用者さんの生活を支え続けるためのBCP(事業継続計画)の策定も不可欠です。
今回は、実際の経験や具体的な取り組み事例を交えながら、災害に強いデイサービス運営について一緒に考えていきましょう。
デイサービスにおける災害リスクと特殊性
デイサービスは、身体機能や認知機能に何らかの支援が必要な高齢者が多く利用するため、災害時には一般的な施設以上に深刻なリスクに直面します。
1. 利用者さんの避難能力の制約
車椅子を使用されている方、歩行が不安定な方、認知症により状況理解が困難な方など、自力での迅速な避難が困難な利用者さんが多数いらっしゃいます。私のデイサービスでも、現在利用されている40名の方のうち、約半数の方が何らかの移動支援を必要としています。
2. 安全な帰宅支援の責任
デイサービスは日中のサービスのため、災害発生時に利用者さんをご自宅まで安全に送り届ける責任があります。道路の寸断や交通機関の停止により、通常の送迎ルートが使用できなくなった場合の対応も重要な課題となります。
3. 医療的ケアの継続
利用者さんの中には常時服薬が必要な方、医療機器を使用されている方もいらっしゃいます。災害時でもこれらの医療的ケアを継続し、利用者さんの生命と健康を守る体制の整備が必須です。
BCP(事業継続計画)とは?その重要性と基本構成
BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)とは、災害や緊急事態が発生した際に、事業の継続や早期復旧を可能とするために、平常時に策定する計画のことです。デイサービスにおけるBCPは、単なる事業継続ではなく、「利用者さんの生活継続支援」という重要な使命を担っています。
私のデイサービスでは、以下の5つの柱でBCPを策定しています。
- 基本方針と目標:「何を最優先するか」を明確にする。
- リスク分析と影響評価:「何が起こりうるか」を想定する。
- 事前対策:「起こる前に何をするか」を準備する。
- 災害発生時の対応手順:「起きた時にどう動くか」を決める。
- 事業継続と復旧計画:「どうやってサービスを続けるか」を計画する。
【事例で学ぶ】デイサービスの具体的な災害対策
計画を立てるだけでなく、実際の災害時にどう動いたかが重要です。ここでは3つの事例をご紹介します。
事例1:台風19号における対応(2019年10月)
関東地方を直撃した台風19号では、2日前から情報収集を開始。前日夕方の時点で「安全な送迎は困難」と判断し、全利用者さんへ臨時休業の連絡をしました。その際、緊急連絡先の再確認と服薬等に関する注意喚起も行いました。通過後には安否確認を行い、停電した利用者さん宅へ発電機を貸し出すなど、個別支援も実施しました。
事例2:新型コロナウイルス感染症への対応
未知の感染症に対しては、利用者数の制限や時間短縮で密集を回避。さらに、オンラインでの健康相談や生活指導を導入し、通所できない方への代替サービスを提供することで、利用者さんとの繋がりを維持しました。
事例3:地震発生時の避難訓練と実践
毎月、車椅子利用者や認知症の方など、個々の特性に応じたシナリオで避難訓練を実施しています。実際に震度4の地震が発生した際には、訓練の成果が発揮され、利用者さん全員を5分以内に安全な場所へ避難させることができました。その後の安否確認や家族への連絡も手順通りスムーズに進みました。
災害対応力を高める職員教育と明確な役割分担
災害時の成否は、職員一人ひとりの対応力とチームの連携にかかっています。当デイサービスでの取り組みをご紹介します。
主な教育・訓練
- 定期的な防災研修:月1回、最新知識の共有や外部講師による研修を実施。
- 実践的な避難訓練:様々な時間帯やシナリオを想定し、消防署とも連携。
- 判断力向上のための訓練:緊急時の意思決定シミュレーションや、ストレス下でのコミュニケーション訓練。
災害時の役割分担(例)
- 災害対策本部長:管理者
- 避難誘導班:介護職員
- 安全確認・医療支援班:看護師・機能訓練指導員
- 連絡調整班:生活相談員
【チェックリスト付】命を守る備蓄品と設備対策
災害時に利用者さんの安全と健康を維持するためには、適切な備蓄と設備の対策が不可欠です。ローリングストック法などを活用し、常に使える状態を保ちましょう。
- 基本的な備蓄品:飲料水(1人1日3L×3日分)、非常食(嚥下状態に配慮)、医薬品、衛生用品(おむつ等)
- デイサービス特有の備蓄品:移動用具(担架等)、医療機器の予備電源、寒暖対策用品、情報収集機器(ラジオ等)
- 家具や設備の固定
- 非常用電源の確保
- 通信手段の複数確保(衛星電話など)
- 避難経路の安全確保(障害物の撤去)
事業所だけで抱えない!災害時の地域連携体制
災害対応は、一つの事業所だけでは限界があります。平時から地域との連携を深めておくことが重要です。
連携先の例
- 行政機関:市役所の福祉課、地域包括支援センター、消防署・警察署
- 医療機関:主治医、近隣病院、薬局
- 他の福祉事業所:災害時相互支援協定の締結(利用者の一時受け入れ、職員の相互派遣など)
- 地域住民:町内会との協力体制、民生委員との連携
私のデイサービスでは、近隣の3つのデイサービスと災害時相互支援協定を結んでいます。年1回の合同訓練も実施し、顔の見える関係を築いています。
利用者さんの不安を軽減する家族との連携
災害時、ご家族との密な連携は利用者さんの安心に直結します。
- 緊急連絡体制の整備:複数の連絡先や連絡の優先順位を事前に確認しておく。
- 事前の情報共有:利用者さんの医療情報や避難時の注意点を家族と共有しておく。
- 災害時の役割分担:迎えが困難な場合の対応などを事前に話し合っておく。
- 定期的な情報更新:年2回は緊急連絡先などを確認し、常に最新の状態を保つ。
サービスを止めないための代替手段とは?
万が一、施設が被災した場合でも、利用者さんの生活を支えるための代替手段を複数準備しておくことがBCPの鍵となります。
- 代替施設での暫定サービス:協定を結んだ事業所や公民館でのサービス提供。
- 在宅支援の強化:電話やオンラインでの安否確認・健康相談、必要物資の配送。
- 地域資源の活用:ボランティアや民生委員との連携による見守り体制。
BCPに終わりはない。今後の課題と改善点
災害対策とBCPの運用は、一度作ったら終わりではありません。常に改善を続ける必要があります。
- 想定外への対応力:複合災害や職員自身が被災した場合の体制構築。
- ICTの活用:安否確認システムやクラウドでの情報管理による効率化。
- 地域防災力の向上:福祉避難所としての機能整備など、地域全体での体制強化。
- 継続的な改善活動:訓練や災害対応の振り返りを元に、BCPを定期的に見直す。
まとめ:災害に強いデイサービスであるために
デイサービスにおける災害対策とBCP策定の要点を3つにまとめます。
災害対策3つの要点
- 利用者の命を守るBCPの策定と継続的な改善:災害時でもサービスを継続し、利用者の生活を支えるための計画が不可欠。
- 包括的な防災体制の構築:職員教育、備蓄、地域連携を組み合わせ、様々なリスクに対応できる体制を作る。
- 安心を提供する連携と代替手段の準備:家族と密に連携し、代替サービスを準備することで、利用者と家族の安心を確保する。
この記事が、皆さまの事業所での災害対策を見直す一助となれば幸いです。
