こんにちは、理学療法士の大塚です。
みなさんは、こんな経験はありませんか?
- 歩行は自立した。
- FIMも高い。
- 病棟内では一人で生活できている。
でも本人に話を聞くと、
- 「まだ一人で外へ出るのは怖い」
- 「仕事には戻れる気がしない」
- 「右手は動くけど、家ではほとんど使っていない」
そんな場面です。
評価上は「良くなっている」。
でも、その人の生活まで本当に良くなったのかというと、少し違う。
今回は、そんなことを改めて考えさせられる脳卒中急性期治療の研究がJAMAに掲載されました。
- LAIS試験はloberamisalが90日後mRS 0〜1を約13ポイント改善する可能性を示した(ただし中国人集団に限られ、さらなる検証が必要)。
- 同じ試験でBarthel Index 95点以上の割合は両群でほぼ差がなく、「mRS」と「Barthel Index」は見ているものが違う。
- 評価値の改善と生活の回復は同じではない。療法士には「数字の先にある生活」を見る臨床推論が求められる。
急性期脳梗塞に新しい可能性
2026年9月、急性期脳梗塞患者998人を対象にしたLAIS試験の結果がオンライン公開されました。
対象は発症48時間以内、NIHSS 7〜20、発症前mRS 0〜1の患者です。中国32施設で、loberamisal 40mgを10日間静注する群とプラセボ群を比較しています。治療開始までの中央値は約25時間でした。
結果として、90日後にmRS 0〜1となった患者は、
- loberamisal群:69.7%
- プラセボ群:56.3%
絶対差13.28ポイント。これはかなり大きな差に見えます。
重篤な有害事象も8.6%対10.7%で、少なくとも今回の試験では大きな安全性悪化は確認されませんでした。
神経保護薬はこれまで多くの候補が臨床試験でうまくいかなかった領域です。そのため、もし今後ほかの国や患者群でも同じような結果が再現されれば、かなり重要な治療になる可能性があります。
- 対象は中国の患者のみ
- 非常に軽症・重症の脳卒中は少ない
- 血栓回収療法を受けた患者は除外されている
著者らも、さらなる検証が必要だとしています。
でも、もう一つ面白い結果があります
僕が療法士として一番気になったのはこちらです。
90日後のBarthel Index 95点以上は、
- loberamisal群:70.7%前後
- プラセボ群:70.4%前後
ほとんど差がありませんでした。
mRSでは大きな差がある。Barthel Indexでは差がない。
「どちらかの評価が間違っているのでしょうか?」
そういうことではありません。そもそも、見ているものが違います。
mRSとBarthel Indexは「見ているもの」が違う
mRSは脳卒中後の全般的な機能障害・日常生活自立度を粗く評価する尺度です。
一方、Barthel Indexは食事、移乗、排泄、歩行など基本的ADLを中心に評価します。
Barthel Index 95点以上という高い水準まで到達すると、基本的ADL上はかなり自立しています。しかし、以下のような違いまでは十分に見えない可能性があります。
- 細かな上肢操作
- 高次脳機能
- 疲労
- 屋外活動
- 復職
- 家庭内の役割
- 趣味
- 社会参加
ADLが自立したことと、その人が元の生活へ戻ったことは同じではない。
「良くなった」を何で決めるのか
ここが今回の研究から僕たち療法士が考えたいところです。
例えば、
- 筋力が3から4になった。→ これは事実です。
- 10m歩行が0.6m/sから1.0m/sになった。→ これも事実です。
- Barthel Indexが100点になった。→ これも大切な事実です。
でも、そこから「だからこの人は良くなった」と解釈するには、もう少し情報が必要です。
事実・解釈・行動を分けて考える
僕は臨床では、
- 事実
- 解釈
- 行動
を分けて考えることが大切だと思っています。
10m歩行が1.0m/sになった。これは事実。でも実際には家でほとんど歩いていない。それも事実です。
ではなぜ歩かないのか。ここを解釈して初めて、次の行動が決まります。
- 疲労なのか
- 転倒への不安なのか
- 高次脳機能障害なのか
- 家族が介助してしまうのか
- 外へ行く目的がないのか
この解釈があって初めて、次の行動が決まります。
- さらに筋力訓練をするのか
- 屋外歩行を練習するのか
- 家族へ説明するのか
- 環境を変えるのか
- 本人が行きたい場所を一緒に探すのか
急性期治療が進歩すると、リハビリは不要になるのか
新しい薬や血栓回収療法によって脳卒中後の予後が改善すると、「リハビリの必要性は減るのでは?」と思うかもしれません。
僕はむしろ逆の部分もあると思います。
急性期治療によって生命が救われ、重度障害が減れば、回復期へ来る患者さんの姿も変わります。
- 病棟内ADLは自立している
- 歩行もできる
でも、
- 「仕事になると間に合わない」
- 「人混みでは歩けない」
- 「疲れて午後になると何もできない」
- 「麻痺手は使えるはずなのに生活では使わない」
そんな、粗いADL尺度だけでは見えにくい課題が前面に出てくる可能性があります。
そこで必要になるのは、「歩けるようにするリハビリ」だけではなく、その”動ける”を生活の中で使える条件を整えるリハビリです。
療法士が患者さんを「できるようにする」のではありません。「できた」と意味づける主体は患者さん本人です。
僕たちがサポートできるのは、その人が目的に向かって動ける状態をつくること。そのためには、身体機能だけでなく、活動、参加、環境、心理、本人のHOPEまで見なければなりません。
明日から一つだけ変えるなら
脳卒中患者さんを一人選んで、評価表の最後に一つだけ問いを追加してみてください。
- 歩行速度が上がった。→ では、外出しましたか?
- 上肢機能が改善した。→ では、家でその手を使っていますか?
- Barthel Indexが100点になった。→ では、本人が戻りたい生活へ戻れていますか?
もし答えが「まだ」であれば、そこに次の臨床推論があります。
今回のLAIS試験は、新しい脳卒中治療の可能性を示した非常に興味深い研究です。
同時に僕たち療法士へ、「何をもって患者さんが良くなったと考えるのか?」という、もっと根本的な問いを投げかけているように感じます。
数字は大切です。でも、その数字の先にある生活を見る。
急性期治療が進歩するほど、療法士にはその力がこれまで以上に求められるのではないでしょうか。
参考文献:Li S, Feng B, He D, et al. Loberamisal for Acute Ischemic Stroke: The LAIS Randomized Clinical Trial. JAMA. Published online September 10, 2026. doi:10.1001/jama.2026.16557.

