自律神経 リハビリテーション場面での応用 〜理学療法士・作業療法士のための生理学の教科書〜

3.5.3 自律神経系 リハビリテーション場面での応用

こんにちは、理学療法士の大塚です。前科は自律神経の評価についてお伝えしました。今回はリハビリへの応用方法をお伝えします。

3-1. 運動療法時の注意点

3-1-1. 運動強度設定と自律神経

自律神経機能は、運動負荷の大きさ運動の種類によって大きく影響を受けます。運動負荷を上げると交感神経活動が高まり、心拍数や血圧が上昇します。一方、運動後には副交感神経が優位となり、心拍数や血圧の回復が促進されます。こうした動的な変化を理解することで、患者の状態に合わせた無理のない運動処方が可能になります。

  1. Karvonen 法(目標心拍数の算出)
    • 目標心拍数 = 安静時 HR + α × (最大心拍数 – 安静時 HR)
    • α は運動強度(例:50~70% など)を示す。
    • β遮断薬を服用している場合、心拍数が指標になりにくいため留意が必要。
  2. 自覚的運動強度(RPE)
    • Borg スケールなどを利用し、主観的に「きつさ」を評価。
    • 患者自身が運動強度を調整しやすい利点がある。

3-1-2. 自律神経機能改善を目的とした運動

  • 有酸素運動(Aerobic Exercise)
    • ウォーキングや軽いジョギング、エルゴメーターなど低~中強度で持続可能な運動。
    • 副交感神経機能を高め、HRV 向上が期待される。
  • 呼吸訓練(Breathing Exercises)
    • 横隔膜呼吸や腹式呼吸を取り入れ、副交感神経優位を促す。
    • 高齢者や慢性呼吸器疾患患者にも適用しやすい。
  • バイオフィードバック
    • 心拍数や呼吸数などをリアルタイム表示し、患者が自律神経反応を視覚的に理解・制御できるようにする方法。
    • 不安軽減やストレスマネジメントにも効果的。

3-1-3. モニタリングとフィードバック

  • 運動中や直後にバイタルサイン(特に心拍数・血圧)をこまめにチェックする。
  • HRV を測定できる機器(ウェアラブルデバイスなど)を活用すれば、交感神経・副交感神経の変化を視覚的に把握できる。
  • 患者が自分の身体の変化を理解できるように説明し、「どの強度でどんな変化が起きるのか」を共有することで、安全かつ効果的に運動量を調整する。

3-2. 姿勢変換時の対応

3-2-1. 起立性低血圧への対処

自律神経機能が低下している患者は、姿勢変換(臥位→座位→立位)時の血圧調節がうまくいかない場合が多く、起立性低血圧を起こしやすくなります。リハビリの現場では、転倒や失神のリスクを最小限に抑えつつ、段階的に離床を進めることが重要です。

  1. 段階的アプローチ
    1. ベッド上での軽い準備運動(足踏み、下肢ストレッチ など)
    2. 端座位保持の時間を確保し、血圧安定を確認
    3. 立位保持を短時間から開始し、徐々に負荷時間を延長
  2. 圧迫用品の活用
    • 弾性ストッキングや腹帯を用いて静脈還流をサポートし、血圧低下を防ぐ。
  3. 水分・塩分補給
    • 不足による循環血液量の低下を防ぎ、起立時の血圧維持に役立つ。
  4. 多職種連携
    • 起立性低血圧が重度の場合、医師による薬物調整や看護師との安全管理連携が必須。

3-2-2. 自律神経反応のモニタリング

  • 起立負荷試験を繰り返し実施し、血圧・心拍数の変化や症状の有無を経時的に評価。
  • 患者がめまいや失神を訴える場合は、ベッドやイスに戻り十分な休息をとる。
  • 立位保持が困難な場合は、tilt table(起立台)を活用したり、臥位と立位の中間姿勢を取り入れるなど、段階的に慣れさせる工夫をする。

3-3. 多職種連携とチームアプローチ

3-3-1. 医師との連携

  • 薬物治療の見直し
    • β遮断薬や降圧薬などが自律神経反応に影響し、起立性低血圧や運動耐容能の低下を引き起こす場合がある。
    • リハ中に顕著な低血圧や不整脈がみられる場合は、医師と相談し投薬内容を再検討。
  • 病態評価と検査
    • 自律神経障害が疑われる患者に対し、心臓・血管系や内分泌系などの追加検査を検討し、評価結果を共有。

3-3-2. 看護師との連携

  • バイタルサインの共有
    • リハ前後や夜間のバイタル情報を共有することで、日内変動やリハ後の反応を総合的に把握。
  • 起立・歩行練習時のサポート
    • 転倒リスクがある患者の見守りやアシスト、患者の状態変化の早期発見に看護師の協力が欠かせない。

3-3-3. 栄養士・薬剤師との連携

  • 栄養管理
    • 水分・電解質バランスに配慮した食事・水分摂取計画の立案。
    • 低血圧や起立性低血圧が見られる場合、塩分量を適宜調整。
  • 投薬スケジュールの確認
    • 薬剤師からの情報を得ることで、運動や姿勢変換時のバイタル変化との関連を把握できる。

3-4. リハビリテーションにおける実践例

3-4-1. 有酸素運動プログラムの導入例

  • 対象:軽度~中等度の自律神経機能低下が認められる患者(例:高齢者、軽度心疾患 など)
  • 目的:心肺持久力向上、自律神経バランスの改善(HRV 向上)
  • 介入内容
    • エルゴメーター 10 分 × 2 セット/日(RPE で 11~13 程度)
    • 毎回開始前後の心拍数・血圧を記録し、HRV を週 1~2 回計測
    • 運動後は深呼吸を含むクールダウンを実施
  • 結果のモニタリング
    • 数週間継続後、起立負荷試験や深呼吸試験での変化を評価
    • 心拍変動(HF 成分)が増加、起立時の血圧低下が緩和すればプログラム効果の一指標となる

3-4-2. 姿勢変換プログラムの導入例

  • 対象:起立性低血圧を伴う脳卒中後患者
  • 目的:安全に離床を進め、ADL(Activities of Daily Living)向上を図る
  • 介入内容
    1. ベッド上での下肢運動(足踏み、タオルギャザーなど)
    2. 端座位保持を 1 分からスタートし、段階的に 5~10 分へ延長
    3. 立位保持は初回 30 秒程度で観察し、症状がなければ徐々に延長
    4. 弾性ストッキング着用や塩分・水分の指導も並行して実施
  • モニタリング項目
    • 姿勢変換前後の血圧、心拍数、めまいの有無
    • 起立後のバイタルが安定するまでの時間を記録し、経時的な改善を確認

3-5. 症例ごとのポイント

3-5-1. 脳卒中後の起立性低血圧

  • 評価の焦点
    • 発症早期は臥床期間が長く、循環調節機能が低下している可能性。
    • 自律神経以外にも筋ポンプ機能の低下による静脈還流不全が起立性低血圧に関与。
  • 対応策
    • 段階的離床プログラム(端座位→立位訓練)
    • ベッド上での筋力強化と同時に、バイタル変動を逐一評価

3-5-2. 頸髄損傷患者の自律神経過反射

  • リスク
    • T6 レベル以上の損傷で特に起こりやすい。
    • 膀胱・直腸の刺激や皮膚の圧迫が誘因となり、急激な血圧上昇・頭痛・発汗などがみられる。
  • 予防・対策
    • 排尿・排便管理を徹底し、皮膚トラブルを早期発見。
    • 運動や姿勢変換時は、バイタルをこまめにチェックし、異常を感じたら直ちにポジション変更や刺激除去を行う。

3-5-3. 糖尿病性自律神経障害

  • 特徴
    • 血圧調節や心拍数変動が低下している場合が多く、無自覚低血糖を併発しやすい。
    • 末梢神経障害(足部潰瘍など)にも注意が必要。
  • リハ戦略
    • 運動療法の際は、心拍数だけでなく RPE や血糖測定を併用して負荷を調整。
    • 定期的なフットケア、起立負荷試験での経時的変化を把握。

3-6. 第3章まとめ

  1. 運動療法では、適切な負荷設定と自律神経反応のモニタリングが重要。Karvonen 法や RPE を活用し、運動後の副交感神経優位(HRV 向上)を目標にすることで、全身状態の改善を図る。
  2. 姿勢変換時は、転倒や失神リスクを防ぎつつ段階的に離床を進める。起立性低血圧が顕著な場合は、弾性ストッキングや水分・塩分管理、多職種連携が欠かせない。
  3. 脳卒中、頸髄損傷、糖尿病など疾患特有の自律神経問題を踏まえ、オーダーメイドのリハプログラムを検討する。
  4. 医師・看護師・栄養士・薬剤師など、多職種との連携により総合的なサポートを提供することで、安全かつ効果的なリハビリが実現できる。

 

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