こんにちは、理学療法士の内川です。
皆さんは、「肩関節=肩甲上腕関節」と捉えて評価していませんか?
新人の頃ほど、
- 肩を上げる=三角筋
- 痛い=腱板が悪い
- 可動域が狭い=硬い
と、動きと筋肉を単純に結びつけてしまいがちです。
しかし肩甲上腕関節は、高い可動性と低い安定性を併せ持つ特殊な関節であり、どの運動でも複数の筋が役割分担しながら動いています。
今回は肩甲上腕関節の解剖・特徴に加えて、各運動の主動作筋を整理し、「評価 → 原因 → アプローチ」がつながる理解を目指します。
1.肩甲上腕関節の解剖

構成骨
- 上腕骨頭
- 肩甲骨関節窩
関節の種類
- 球関節(多軸性関節)
関節面の特徴
- 上腕骨頭:大きく丸い
- 関節窩:浅く小さい
※骨性安定性が低く、筋・靱帯に依存する関節といえます。
関節唇
- 関節窩を取り囲む線維軟骨
- 関節面を深くし、安定性を高める
- SLAP損傷などの病態に関与
関節包
- 非常に広く、ゆとりがある
- 下方関節包は外転時に重要
- 拘縮すると凍結肩の原因になる
👉 ここがポイント
骨性適合性が低く、筋による動的安定性が極めて重要な関節です。
2.肩甲上腕関節の構造的特徴
- 関節窩は浅く、骨頭は大きい
- 可動性を最優先した構造
- 安定性はローテーターカフ、関節包・靱帯、肩甲骨の位置に依存する
👉 「動かせるが、崩れやすい」
これが肩甲上腕関節の本質です。
3.肩甲上腕関節の運動と主動作筋
屈曲
【主動作筋】
- 三角筋前部線維
- 大胸筋(鎖骨部)
- 烏口腕筋
- 上腕二頭筋(補助)
【臨床ポイント】
- 三角筋前部の過活動 → 骨頭前上方偏位
- 肩甲骨後傾が出ないとインピンジメントを起こしやすい
伸展
【主動作筋】
- 三角筋後部線維
- 広背筋
- 大円筋
- 上腕三頭筋長頭(補助)
【臨床ポイント】
- 体幹代償が出やすい
- 肩甲骨下制・内転との協調が重要
外転
【主動作筋】
- 棘上筋(全域で活動、骨頭安定化)
- 三角筋中部線維(30°以降)
【臨床ポイント】
- 棘上筋機能低下 → 初動で詰まり感
- 三角筋単独優位 → 上腕骨頭上方偏位
内転
【主動作筋】
- 広背筋
- 大胸筋
- 大円筋
- 上腕三頭筋長頭(補助)
【臨床ポイント】
- 引き寄せ動作・支持動作で重要
- 体幹筋との協調も評価する
外旋
【主動作筋】
- 棘下筋
- 小円筋
【臨床ポイント】
- 骨頭前方安定性に直結
- 投球・挙上動作の要となる
内旋
【主動作筋】
- 肩甲下筋
- 大胸筋
- 広背筋
- 大円筋
【臨床ポイント】
- 内旋過多 → 肩前方組織の短縮
- 外旋制限=肩甲下筋の短縮を疑う

4.機能低下と影響
- ローテーターカフ機能低下 → 骨頭偏位 → インピンジメント
- 可動域制限 → 肩甲骨・頸部・体幹の代償増加
- 主動作筋と安定筋のアンバランス → 疼痛・不安定感・再発
👉 「筋力低下」ではなく「運動中の役割破綻」として捉えることが重要。
5.臨床ちょこっとメモ
- MMTは姿勢と代償動作を必ず確認する
- 痛みがある場合、「主動作筋」より先に安定筋(腱板)を疑う
- 可動域制限がある場合は、肩甲上腕関節のみでなく土台である肩甲胸郭関節、肩鎖関節、胸鎖関節の動きも確認する
6.まとめ
① 解剖・特徴
- 構成:上腕骨頭と肩甲骨関節窩からなる球関節(多軸性)
- 関節面の特徴:上腕骨頭は大きく丸く、関節窩は浅く小さい
- → 骨性安定性が低い
- 関節唇:関節窩を深くし、安定性を補助(SLAP損傷に関与)
- 関節包:非常に広く、可動域を確保(拘縮すると凍結肩の原因)
- 本質的特徴:
- 可動性を最優先した構造
- 安定性は筋(特にローテーターカフ)への依存度が高い
- 「動かせるが、崩れやすい」関節
② 評価とアプローチ
- 評価の基本視点:主動作筋と安定筋の役割分担が保たれているか確認
- 運動別・評価ポイント:
- 屈曲:三角筋前部の過活動/肩甲骨後傾の有無
- 外転:初動での詰まり感(棘上筋機能)
- 外旋:骨頭前方安定性(棘下筋・小円筋)
- 内旋:過多・制限の有無(肩甲下筋短縮)
- アプローチの考え方:
- 痛みがある場合 → 主動作筋強化より腱板の再教育・安定化
- 可動域制限がある場合 → 肩甲上腕関節だけでなく肩甲胸郭関節・肩鎖関節・胸鎖関節も同時に評価
- 重要ポイント:MMTは必ず姿勢と代償動作をセットで確認
③ 機能低下の影響と臨床的注意点
- ローテーターカフ機能低下:骨頭偏位 → インピンジメント、疼痛・不安定感の原因に
- 可動域制限の影響:肩甲骨・頸部・体幹の代償増加 → 二次的な頸肩部痛へ
- 筋バランス破綻:主動作筋優位/安定筋不全 → 再発・慢性化のリスク増大
- 臨床的な捉え方:「筋力低下」ではなく「運動中の役割破綻」として評価することが重要
関節の理解と共に筋肉がどうついているのか、どう動いているのか一緒に勉強しませんか?







