こんにちは、内川です。
みなさんは中殿筋について、どのくらいご存じでしょうか?
例えば股関節疾患の手術前後に現れやすい中殿筋の筋萎縮や、歩行時のトレンデレンブルグ様の徴候、中殿筋を代償することによる股関節と膝関節への負担の増大における痛みにもかかわってきます。
そんな中殿筋ですが、そもそも問題点かの評価や、なぜ歩容が崩れるか股関節以外の関節への負担がかかることについて説明できますか?
私自身が新人の頃は問題点となる理由が説明できなかったり、また評価を行うにしても代償動作に気が付かず、再現性のないテスト結果になり先輩に指摘されたこともありました。
しかし改めて解剖を見直すこと、テストの方法を確認することで、評価の見落としが少なくなりアプローチも自然と正しい運動方向で行えるようになってきました。
確認、実施を繰り返すことで徐々に定着していきます。
では早速一緒に解剖から確認していきましょう!
目次
1.中殿筋の解剖学と作用
起始:腸骨後面
停止:大転子
中殿筋は前部繊維、後部繊維に分かれます。(文献によって3つ、4つと別れることもあります)
前部繊維:股関節の屈曲と内旋
後部繊維:股関節の伸展と外旋
全体:外転
支配神経:上殿神経
中殿筋は生理学的断面積が大きく、最も強い外転筋です!
2.中殿筋の評価 、MMT
MMTの実施方法
段階5、4、3の方法:
- テストする側の下肢を上にした側臥位をとる
- 下肢を中間位より軽度伸展
- 骨盤を軽度前方に回旋した位置から開始
- 下側の下肢は安定のため屈曲しておく
- 検者はテスト側に立ち、収縮を確認するために大転子より近位部に手を置く
- 段階5では抵抗をかける手は足関節外側
- 段階4では抵抗をかける手は大腿外側
判定:
- 5:最大抵抗に耐えられる
- 4:中程度〜強度の抵抗に対して耐えられる
- 3:抵抗がなければ可動域全てを動かせ、最終域を保持できる
ポイント!
股関節が屈曲、外旋、内旋、骨盤が挙上での代償をしていないかを確認しつつ行う。(大腿筋膜張筋による代償や、腰方形筋腹斜筋の代償)
段階2の方法
- 背臥位でテストする側の下肢の横に立つ
- テスト側の足首を支持し、台との摩擦を減らす(アシストも抵抗もしない)
- 片方の手は大転子のすぐ近位のところで触知する
- 膝蓋骨を天井に向けたまま股関節外転するように指示する
判定:
- 2:外転可動域を全て動かせる
段階1、0の方法
- 背臥位でテストする側の下肢の横に立つ
- テスト側の足首を支持する(アシストも抵抗もしない)
- 片方の手は大転子のすぐ近位のところで触知する
- 股関節外転するように指示する
判定:
- 1:中殿筋の収縮活動を触知するが運動は起こらない
- 0:筋の活動無し
3.中殿筋の筋力強化方法
筋力練習方法:基本的にはMMTに従い運動を行いましょう
- 運動側の下肢を上に側臥位をとる
- 支持側の下肢を屈曲し安定させる
- 膝関節を伸展した状態で、股関節を外転伸展方向に動かす
この時も、骨盤の挙上や股関節の屈曲による代償を確認しましょう
また強度を上げたい場合は回数を増やすこと、セラバンドを利用し負荷をあげるなど対象者にあわせ調節しましょう。
4.歩行時の作用
歩行において中殿筋は、立脚初期(IC)〜立脚中期(MST)で主に働きます。
荷重応答期(LR)において、股関節が伸展していく間、骨盤側方傾斜に伴う股関節内転が起きます。このときの骨盤傾斜を最小限に抑えるために、股関節外転筋として主に中殿筋・大殿筋、大腿筋膜張筋が働きます。
また立脚中期(MST)では前額面の安定のため、中殿筋・大殿筋・大腿筋膜張筋が働きます。
5.歩行時の代償
歩行ではトレンデレンブルグ徴候やデュシェンヌ歩行など体幹での代償が生じることもあります。どちらも支持側の中殿筋筋力低下により生じるものになります。
トレンデレンブルグ徴候は支持側の中殿筋筋力低下により支持しきれず、遊脚側の骨盤が下制してしまう代償です。
デュシェンヌ歩行は支持側の中殿筋筋力低下により支持しきれず、体幹の側屈を行い、重心を支持側に乗っけている代償です。遊脚側の骨盤としては挙上しているように見えます。
6.臨床ちょこっとメモ
- 変形性股関節症では股関節の位置異常から筋の長さが変わることや、手術による侵襲で出力が低下しやすいです。
- 中殿筋の筋力低下が生じると、大腿筋膜張筋の張力が上がりやすくなります。そのため大腿筋膜張筋の停止である、腸脛靭帯の張力が上がり、膝へのストレスにもつながります。
- 教科書上ではトレンデレンブルグ徴候やデュシェンヌ歩行は中殿筋の筋力低下で生じると記載されやすいですが、腹斜筋や腰方形筋など体幹周囲筋の筋力低下でも生じやすいので中殿筋のみでなく、周囲筋も評価する必要があります。
7.まとめ
- ①中殿筋の解剖と機能:中殿筋は腸骨後面から大転子につき、前部繊維と後部繊維に分かれ、股関節の外転、屈曲・内旋、伸展・外旋を行います。各筋肉の起始、停止、支配神経を理解することが重要です。
- ②評価と治療:MMTは代償に留意しつつ実施しましょう。アプローチはMMTに順じて行い、収縮を確認しつつ実施しましょう。
- ③役割と影響:歩行時には、立脚初期から中期で主に働き、骨盤傾斜を最小限に抑える役割があります。変形性股関節症や手術等により筋出力が低下すると、大腿筋膜張筋の張力が相対的に高くなり、股関節や膝関節にストレスを与える可能性があります。
今回記載したものはあくまでも筋単体のことです。実際の治療においては中殿筋の周囲にいくつもの筋肉が存在しており、深さも考えなければなりません。周囲に何があるかイメージできていますか?不安な方はぜひ一緒に勉強しませんか?
参考文献
- 新・徒手筋力検査法 原著第9版
- 基礎運動学第6版補訂
- 股関節 協調と分散から捉える
- 症例動画から学ぶ臨床歩行分析
- 病態動画から学ぶ臨床整形外科的テスト
臨床に活かせる解剖学を体験しながら学ぶには...
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