こんにちは、理学療法士の嵩里です。
以前のコラムで臨床スキルには運動スキル(評価や治療技術)と認知スキル(問題点抽出や知識の使い方)があることをお伝えしました。今回は、問題抽出が苦手な学生の指導方法についてお伝えします。
問題点抽出が苦手な学生の背景
認知スキルとは、評価結果から問題点を抽出するための過程を考える力のことです。患者さんがいるからこその考察のため、検査測定と異なり学校では事前学習や練習しにくい技術になります。そのため学生が実習に来て、いきなり評価結果から考察してみて下さいとバイザーから言われても、何をどう考えたら良いか分からない状態に陥ってしまうのです。
問題点抽出は見学・模倣・実施の過程を経て身につく
運動スキルのコラムでもお伝えしましたが、スキル習得は「見学・模倣・実施」の過程を経て身につきます。これは認知スキルでも同様です。指導イメージがしづらいですが、指導者と学生のやり取りを通して知識の使い方や思考過程を身に付けていきます。
見学:
見学は、指導者の臨床推論を聞くことです。指導者がどのような考察の結果、問題点抽出や目標設定に至ったかを学生に説明します。目標設定では年齢や家屋環境、社会的要因などに応じてどのように立案しているかを理解することも大切です。また指導者が記載したカルテを見せて説明することも見学にあたります。
模倣:
模倣では質問を投げかけて答えを考えてもらいます。
例えば「膝の伸展制限は膝窩筋の機能不全が原因」という考察があるとします。その場合、
- 「膝の伸展制限には何が考えられるか?筋の問題であれば何が挙げられるか?」
- 「膝窩筋の機能不全があると何に支障が出るか」
といった2通りの聞き方が挙げられます。
①では結果を伝えて原因を考えてもらうための質問であることから、学生も答えが出しやすい聞き方になります。次の段階として②のような原因を提示して結果を考えてもらう質問を投げかけます。
実施:
実施では結果と原因のどちらも説明してもらいます。もし不十分な点があれば模倣段階のような質問を投げかけて考察や問題点抽出を深めていきます。
担当した学生の場合
学生指導を担当した際に、学生がどの程度考察できるのかが分からず「評価結果から問題点を考察してきて下さい」と問いかけたことがあります。結果として、評価結果からどう考えて良いか分からず、問題点や目標、プログラムも悩み続けてしまい何も答えが出なかったことがあります。もちろん自分で考察することも必要であったり、学生の学習レベルにもよるかもしれません。ですが、指導者側が問題点の整理や目標の設定までの筋道をある程度立てて伝える必要があったと思います。そのため上記の「見学・模倣・実施」の段階を踏んで、質問をするように意識しました。そうしてみると、バラバラだった評価結果が問題点と繋がり、そこから目標を立てられるようになっていきました。学生からは「どう考えたら良いか少しずつ分かるようになった」との声も聞かれました。
まとめ
- 学校では実技練習を行う機会はあるが考察や知識の使い方を学ぶ場は少ないため、実習で身につけていく必要がある。
- いきなり考察してもらうのではなく、まずは指導者側の臨床推論を伝え、知識の使い方をin putしてから質問形式で問題点抽出を行っていく。
- 指導者側も患者さんの治療を普段どのように行っているか明確にして学生に説明する技術が必要。
参考図書:
セラピスト教育のためのクリニカルクラークシップのすすめ 中川法一