こんにちは、理学療法士の嵩里です。一般病棟、回復期病棟ではADL向上を目指しますが、ADLが向上すれば転倒リスクも高くなります。施設入居者では認知機能が低下している方が多く、また抑制がないため転倒のリスクも高まります。
そのため、セラピストとしては転倒予防のための評価が必要になります。
今回は病棟や施設での転倒要因と対策についてお話しします。
入院や施設入居している高齢者の特徴
入院患者や施設入居者が転倒する場面として、トイレ内での便座から車椅子への移乗時やベッドからのずり落ち、杖や歩行器を忘れて移動したといった場面が多いように感じます。これらの特徴として以下の点が挙げられます。
- 環境に慣れていない
- 認知機能の低下
- 廃用症候群
- 薬物の影響
病院は自宅と異なる環境です。入院患者や施設入居者は高齢者が多いため、加齢に伴い認知機能の低下や身体機能の低下を認めます。また既往歴が重なるにつれ服薬の量も増えるため、薬の副作用によるふらつき等が出現することが考えられます。
転倒リスクを高める要因
転倒の要因としては以下の3つが挙げられます。
1. 内的要因
内的要因は「加齢変化・身体要因・薬物の3つに分けられます。どれもよく経験する疾患や既往歴ではないでしょうか?また複数の要因が重なる方も多いと思います。
加齢変化
- 筋力低下
- 姿勢の変化
- 平衡感覚の低下
- 深部感覚の低下
- 視覚低下
身体要因
- 脳血管障害
- パーキンソン病
- 変形性膝関節症
- 起立性低血圧
- 認知症
- めまい
- 骨粗鬆症
薬物
- 睡眠薬
- 抗不安薬
- 降圧剤
- 抗うつ薬
2. 外的要因
外的要因は病院という不慣れな環境であることから転倒を引き起こします。また在宅であれば段差等の自宅環境も含まれます。
- 不慣れな環境
- 便座の高さ
- 部屋の暗さ
- 履き物
3. 行動要因
行動要因とは欲求や考えによって引き起こされる行動です。よく聞かれる背景としては「トイレに行きたい」、「1人で動きたい」、「ナースコールを押して呼ぶと申し訳ない」等が挙げられます。認知機能の低下により単独行動をしてしまうのか、性格的にせっかちや人に頼りたくないのか等、対象者がどのような行動を取るかの予測を立てることも必要です。
転倒予防対策
内的要因
評価を行い、問題点を考察していきます。問題点が可動域制限・筋力・脳神経なのか、そして頸部・足部・股関節・体幹の何処かを精査します。評価が行えたら機能改善を期待できる点に対して筋力強化やモビライゼーション等のアプローチします。また認知機能評価も行い短期記憶・実行能力等のどの項目が低下しているか、どのような代償手段があるかを考えます。短期記憶の低下によりナースコールを押し忘れてしまう場合は、車椅子に移乗する前に視覚に入るよう「ナースコールを押してください」と書かれた掲示板を用意します。またトイレが頻回やトイレに行ったことを忘れてしまう場合は時間で誘導します。
外的要因
病院は慣れない環境であることから転倒リスクが高まりやすいです。入院直後は見守りを行い転倒予防に努め、また不穏はないか、ナースコールを押せるか等の評価期間に当てます。靴に関しては入院する際に持参された靴がサイズが大きかったり、革靴、屋内用スリッパのことがあります。サイズのあった靴を貸し出すか、他に運動シューズのような靴があるか家族に確認しましょう。
パーキンソン病や進行性核上性麻痺ではすくみ足や姿勢反射障害により徐々に転倒リスクが高い状態です。トイレ内やベッドサイドのような狭い空間では方向転換の際に転倒しやすいため、スタッフに聴覚刺激として声掛け等の指導を行ったり、床に目印のテープを貼って跨げるような視覚刺激を用いることも有効です。
行動要因
尿意が近く焦ってしまった、出来ると思った、部屋に戻りたい、トイレに行きたいといった患者さんなりの動機や理由です。内的要因と外的要因にこの動機が加わると転倒リスクが高まります。性格や認知機能が関わってくるので患者さんの人となりを観察して行動を予測し、環境整備を行い対策します。患者さんがどのような行動パターンを取るかはリハビリ以外の病棟生活も観察する必要があります。性格や特徴を病棟スタッフから聴取するのも1つの方法です。
まとめ
- 転倒の要因には入院や施設入居による環境の変化、加齢による身体機能の低下、薬の影響など、様々な要因が複雑に絡み合っている。
- 転倒リスクを評価するためには、身体機能、認知機能、環境、行動要因など、多角的な視点から評価を行う必要がある。
- 転倒リスクを身体機能の改善で変えられるか、環境整備で変えられるかは個々の状況に合わせて様々な対策を組み合わせる必要がある。