理学療法士・作業療法士の皆様、こんにちは、理学療法士の赤羽です。疼痛に関する連載記事、第16回目となる今回は、運動と疼痛の関係について、より専門的な視点から掘り下げて解説していきます。慢性疼痛、急性疼痛に対する介入における運動療法の重要性、そしてその効果を最大限に引き出すための具体的なアプローチを共に考えていきましょう。
運動療法は、疼痛管理において欠かせない治療手段の一つです。適切な運動は、身体機能の回復を促進するだけでなく、疼痛そのものを軽減させる効果も期待できます。今回の記事では、そのメカニズムと、臨床で活かせる実践的な知識を提供します。
不動が引き起こす疼痛悪化のメカニズム:廃用症候群との関連性
疼痛を抱える患者様は、どうしても運動を避けてしまいがちです。しかし、活動量の低下や不動状態が続くと、筋力低下、関節可動域制限が進行し、結果として疼痛が増悪するという悪循環に陥ります。これは「廃用症候群」として知られており、組織や筋肉が使用されないことで柔軟性や血流が低下し、痛みが増幅する可能性が高まります。
さらに、不動は心理的な影響も無視できません。恐怖回避行動が強まることで、痛みの過敏性が増し、慢性化のリスクを高めます。早期からの適切な運動介入は、この負の連鎖を断ち切るために不可欠です。
運動による生理学的鎮痛メカニズム:エビデンスに基づいたアプローチ
運動が疼痛を軽減する背景には、複数の生理学的メカニズムが関与しています。以下に、エビデンスに基づいた主なメカニズムを解説します。
- 内因性オピオイド系の活性化:運動によって、脳内でエンドルフィンやエンケファリンといった内因性オピオイドが分泌されます。これらの物質は痛みの信号を抑制し、鎮痛効果を発揮します。高強度インターバルトレーニング(HIIT)や持続的な有酸素運動が有効です。
- 血流改善と炎症抑制:運動によって筋肉や関節への血流が増加し、酸素や栄養が供給されます。これにより、炎症物質が速やかに除去され、組織の回復が促進されることで疼痛が軽減されます。
- 神経可塑性の変化:慢性疼痛患者においては、中枢神経系の過敏化が生じている場合があります。運動療法は、神経可塑性に働きかけ、痛覚の過剰な感受性を抑制する効果が期待できます。特に、認知行動療法と組み合わせた運動療法が有効です。
- 心理的効果とストレス軽減:運動は、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を調節し、リラクゼーションを促進します。また、運動を通じた成功体験や達成感は、痛みに対する自己効力感を高め、心理的な安定をもたらします。
リハビリテーションに生かすために
- 個別化された運動プログラム
疼痛の種類や患者の状態に応じて、運動強度や種類を調整することが重要です。例えば、急性期には過度な負荷を避けつつ、関節可動域を維持するような軽度の運動を推奨します。一方、慢性疼痛では、有酸素運動や筋力トレーニングを取り入れることで、痛みの感受性を抑える効果が期待できます。
- 患者教育の重要性
「運動をすると痛みが悪化する」という誤解を抱える患者も多いため、運動の目的や効果をわかりやすく説明することが必要です。「痛みがあっても安全な運動がある」ことを伝えるだけでも、患者の不安を軽減する効果があります。
- 進行度に応じたアプローチ
介入では活動量を段階的に増やしていくことも効果的な場合があります。患者さんが無理なく継続できる活動量を少しずつ増やし、身体が新しい負荷に順応できるよう調整することで、安全かつ効率的な疼痛管理を目指します。
- 多職種連携
疼痛管理を効果的に進めるためには、理学療法士や作業療法士だけでなく、医師、看護師、心理士など、複数の専門職が連携することが重要です。各専門家がそれぞれの視点から患者を評価し、治療計画を共有することで、包括的なケアが可能になります。心理社会的要因の考慮が重要です。
臨床での運動療法実践:疼痛タイプ別アプローチと具体的な戦略
疼痛の種類や患者の状態に応じて、運動療法の内容を調整することが重要です。
- 急性疼痛への対応:急性期には、炎症を悪化させないよう、関節可動域を維持する軽度な運動(ROMエクササイズ、等尺性運動)から開始します。痛みの範囲や程度をモニタリングしながら、徐々に運動強度を上げていきます。
- 慢性疼痛への対応:慢性疼痛には、有酸素運動、筋力トレーニング、柔軟性トレーニングを組み合わせた複合的な運動プログラムが有効です。特に、中程度の強度での有酸素運動は、痛みの抑制に効果的です。痛みの増悪を避けるため、段階的な運動量の増加が重要となります。
- 疼痛に対する恐怖回避行動へのアプローチ:患者さんの不安や恐怖を取り除くために、運動に対する正しい知識を丁寧に説明します。痛みのメカニズムや運動の効果を理解してもらうことで、運動への抵抗感を軽減させることができます。
- 多職種連携の重要性:疼痛管理には、理学療法士、作業療法士だけでなく、医師、看護師、心理士など、多職種の専門家による連携が不可欠です。それぞれの専門性を活かし、患者さん一人ひとりに合った包括的な治療計画を立てることが重要です。
- 運動療法のモニタリング:運動療法中、または後に患者さんの症状を注意深くモニタリングします。痛みの変化、運動に対する反応、精神的な状態を評価することで、運動療法の効果を最大限に引き出すことができます。
まとめ
運動療法は、疼痛管理において非常に強力な武器となり得ます。不動による悪循環を断ち切り、適切な運動を導入することで、患者さんのQOL向上に大きく貢献できます。理学療法士、作業療法士として、最新のエビデンスに基づいた知識と技術を習得し、患者さんの個々の状態に合わせた運動プログラムを提供することが重要です。共に、運動療法による疼痛管理の新たな可能性を探求していきましょう。
最後に、本日の内容を3つのポイントでまとめます。
- 不動による疼痛悪化のメカニズムを理解し、早期からの運動介入を行う。
- 運動がもたらす生理学的鎮痛メカニズムを把握し、エビデンスに基づいた運動療法を実践する。
- 多職種と連携し、患者の状態に合わせた包括的な疼痛管理を行う。
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