食事中のむせ込みを防ぐ!嚥下の5期とポジショニングの解剖学的根拠

「食事中にむせ込んでしまう」「なかなか飲み込んでくれない」……そんな悩みに直面したとき、つい『食事形態』や『口元の動き』ばかりに注目していませんか?

実は、安全な嚥下(飲み込み)には、覚醒レベルなどの全身状態から、首の角度といった姿勢保持まで、複合的な機能が関わっています。

本記事では、嚥下のメカニズム(5期)を紐解きながら、誤嚥リスクを下げるための「機能の階層性」「ポジショニングの具体策」について解説します。

【本日の疑問】

Q.食事に必要な機能は?
⇒「全身状態」から「口・喉の動き」まで、多岐にわたる機能が必要です!

Q.食事とポジショニングの関係は?
⇒誤嚥リスクを物理的に減少させる密接な関係があります!

Q.食事のポジショニングのポイントは?
「顎を引く(頸部前屈)」と「安定性の確保」が最重要です!

嚥下の5つの時期

嚥下の流れイラスト
図1:嚥下の流れ(©えすてぃちゃん/熊谷櫂)
嚥下の5つの時期 図解
図2:嚥下の5つの時期

1. 先行期

  • 説明:目の前のものが食べ物であると認識し、硬さ・温度・一口量・食べるペースを判断し、口に運ぶ時期
  • 必要な機能:覚醒状態、視覚、嗅覚、食欲、記憶

2. 準備期

  • 説明:食べ物を噛み砕き、唾液と混ぜ合わせて、飲み込みやすい形にする時期
  • 必要な機能:歯・義歯の噛み合わせ、顎の開閉、舌の動き、唾液分泌

3. 口腔期

  • 説明:まとめた食塊を、舌を使って喉の奥へ送り込む時期
  • 必要な機能:舌を上顎に押し付けて後ろに送る力、唇の閉鎖

4. 咽頭期

  • 説明:嚥下反射が起き、一瞬で気道を閉じて食道の入り口を開き、食塊を食道へ送り込む時期
  • 必要な機能:舌骨の挙上、喉頭蓋の閉鎖、軟口蓋の挙上

5. 食道期

  • 説明:食道に入った食塊を、蠕動運動によって胃まで運ぶ時期
  • 必要な機能:食道の蠕動運動、噴門の開閉

嚥下に必要な身体機能

〈上肢機能〉
スプーンや箸を持ち、正確に口まで運ぶ動作に必要
〈感覚機能〉
味覚や温度覚は、食欲を刺激し、嚥下反射を誘発するために必要
〈呼吸機能〉
嚥下時は呼吸を一瞬止め、呼吸と嚥下のタイミングがずれると誤嚥のリスク増加
〈姿勢保持〉
体幹や首が安定していないと、顎が上がり気道が開きやすくなり誤嚥のリスク増加

嚥下に必要な機能の階層性

安全な食事摂取のためには、以下の順序で機能を確認する必要があります。

1. 全身状態(土台:スタートラインに立てるか?)

嚥下機能が正常でも、肺炎でゼーゼーしている状態や食事中に眠ってしまっている状態で食べさせるのは危険です。

〈観察ポイント〉

  • 覚醒はしているか?
  • 血圧は安定しているか?
  • 食事中や食事後にSPO2の低下していないか?
  • 発熱は続いていないか?

2. 食事姿勢(器作り:誤嚥しない形になっているか?)

姿勢が崩れてあごが上がった状態だと、喉の筋肉が正常に働きにくく、誤嚥しやすいです。

〈観察ポイント〉

  • 体幹が崩れていないか?
  • 頸部の前屈ができているか?
  • 足底が接地しているか?

3. 咽頭クリアランス(交通整理:通り道はキレイか?)

食事の前から喉がゴロゴロ鳴っている状態(痰が溜まっている状態)で食べ物を入れると、痰と食べ物が混ざって気管に入り、重篤な肺炎を起こします。食べる前に「咳払い」や「吸引」で道を空ける必要があります。

〈観察ポイント〉

  • 痰や唾液が喉に溜まっていないか?
  • 咳払いをして、喉をキレイにできるか?
    (難しい場合は吸引の実施や依頼する必要あり)

4. 咀嚼・食塊形成〜送り込み(荷造り:飲み込める形を作って送れるか?)

ここで問題があれば、食事形態の調整が必要になります。

〈観察ポイント〉

  • 歯や舌を使って、食べ物を適切な大きさの食塊にまとめられるか?
  • それを喉の奥(中咽頭)までスムーズに運べるか?

5. 嚥下反射のタイミング(スイッチ:タイミングよくフタが閉まるか?)

このタイミングがズレると、水分などでむせやすくなります。嚥下内視鏡検査や嚥下造影検査などの確認が有効です。

〈観察ポイント〉

  • 食べ物を適切なタイミングで飲み込めているか?
  • 気道のフタ(喉頭蓋)が閉まるのが間に合うか?

6. 食べ方・食べさせ方(運用:ルールを守って安全運転できるか?)

①~⑤まで完璧でも、介助者が無理やり突っ込んだり、本人が早食いをすれば誤嚥します。

〈観察ポイント〉

  • 一口量は多すぎないか?
  • 次々と詰め込んでいないか?
  • スプーンの運び方は適切か?

頸部前屈の効果

頸部前屈位 イラスト
図3:頸部前屈位

頸部を前屈し顎を引くことで、誤嚥のリスクを減少させられることが知られています。オトガイ部から胸骨まで4横指程度が目安と言われています。頸部前屈をすることで以下のような効果が考えられています。

◎舌の根元と喉頭蓋(気道のフタ)の隙間にある喉頭蓋谷が物理的に広がる
⇒噛んでいる最中に送られてきた食べ物を、安全に溜めておくスペースが確保できます。溢れて気管に入るのを防げます。

◎気道の入り口が狭くなり、逆に食道の入り口が開きやすくなる
⇒首の前面が伸びきってしまい、喉仏を持ち上げる筋肉が働きにくくなります。すると気道のフタ(喉頭蓋)が完全に閉まりきらず、誤嚥リスクが跳ね上がります。

ポジショニングの特徴と注意点

◎Head-up 30°

⇒誤嚥しにくい姿勢

Head-up30° ポジショニング
図4:Head-up30°(©えすてぃちゃん/熊谷櫂)

〈特徴〉
身体を倒すことで、重力により食べ物が咽頭後壁を伝って流れます。「気管が上、食道が下」という位置関係になるため、物理的に気管へ入りにくくなります。

〈適応〉

  • 重度の嚥下障害がある患者
  • 嚥下反射が遅い・弱い患者
  • 首が座っていない・体幹を保てない患者
  • 疲労しやすい患者

〈注意点〉

  • そのまま倒すと顎が上がりやすいので、必ず枕を入れて頭を高くし、あごを引いた状態を作ります。
  • 麻痺側の肩が落ちないよう、クッションで支えます。
  • 自力摂取は難しいため、基本的に全介助となります。

◎Head-up 60°

⇒「移行期」の姿勢(30度より手元・足元が見えやすい)

Head-up60° ポジショニング
図5:Head-up60°(©えすてぃちゃん/熊谷櫂)

〈特徴〉
首の前面が伸びきってしまい、喉仏を持ち上げる筋肉が働きにくくなります。すると気道のフタ(喉頭蓋)が完全に閉まりきらず、誤嚥リスクが跳ね上がります。

〈適応〉

  • 30度では問題なく食べられ、次のステップへ進みたい患者
  • 自力摂取の練習を始めたい患者

〈注意点〉

  • 膝上げ機能でお尻が滑り落ちないようにストッパーとして活用したり、足底が安定するように工夫する(ズレ防止)
  • ギャッチアップ後に背中の服や皮膚の引っ張りを直し、苦痛とズレを防ぐ(背抜き)

◎いす座位

⇒食事姿勢の基本だが、高い身体機能が求められる

いす座位 ポジショニング
図6:いす座位

〈特徴〉
重力で落ちるため食道への通過性は良いですが、タイミングが合わないとダイレクトに気管へ落ちるリスクがあります。

〈適応〉

  • 体幹がしっかりしており、座位バランスが保てる患者
  • 首が座っている患者
  • 咳払い(喀出)ができる患者

〈注意点〉

  • 足がブラブラしていると腹筋に力が入らず、飲み込む瞬間の踏ん張りが効きにくくなるため、足の裏が床しっかり着けましょう
  • 高すぎると脇が開き、飲み込みにくくなるため、テーブルの高さを肘が90度くらいに乗せられる程度の高さになるように調整しましょう
  • 浅く座ると姿勢が崩れるため、深く座りましょう

まとめ

★嚥下は「喉」だけでなく「全身」で行う
嚥下は5つの時期(先行期~食道期)に分かれますが、単に飲み込む動作だけでなく、覚醒・認知・呼吸・上肢機能・姿勢保持といった「全身の機能」が複合的に関わっています。

★安全な食事には「優先順位(階層性)」がある
いきなり食べさせるのではなく、①全身状態(覚醒・呼吸)→②姿勢→③咽頭の痰除去といった「土台」を確認・調整した上で、初めて食事形態や食べ方を検討する必要があります。

★「顎を引く」と「角度調整」が誤嚥防止の鍵
気道を閉じやすくする「頸部前屈(顎を引く)」の徹底と、患者のレベル(重度なら30°、自立移行なら60°、安定していれば座位)に合わせた適切なポジショニングが重要です。

※本記事は一般的な知識を提供するものであり、個別の症例については医師や専門職の指示に従ってください

参考文献

  • 1)大野木宏彰:3か月でマスター 知識ゼロからはじめる嚥下評価、メディカ出版、2025年
  • 2)田中マキ子編集:褥瘡×嚥下障害×拘縮 ケアに生かすポジショニング技術、照林社、2025年
  • 3)白波瀬元道編集:ST評価ポケット手帳、ヒューマンプレス、2020年
  • 4)アイ・ソネックス株式会社:おいしく食べるための「姿勢づくり」(PDFリンク

【イラスト引用】

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