歩行の蹴り出し・バランス低下の隠れた原因?脛骨神経の解剖とアプローチ

足底の痛み・バランス低下の「原因」は筋肉じゃないかも? 脛骨神経を臨床で攻略する完全ガイド

こんにちは、理学療法士の赤羽です。

バランス戦略としての足関節戦略や、歩行時のロッカー機構など、足部が動作に関わってくる場面は非常に多いですよね。

しかし、足部~下腿部について考える際、関節や筋に着目することはあっても、「神経」について深く着目する場面は意外と少ないのではないでしょうか?

そこで今回は、歩行、立位安定、蹴り出し、足底感覚による姿勢制御などに深く関与する「脛骨神経」について考えてみたいと思います。

脛骨神経について:見落とされがちな重要性

脛骨神経は坐骨神経由来で、下腿後面から足底までを支配する運動・感覚の重要なルートです。

にもかかわらず臨床では、以下のように原因を単純化してしまう傾向があります。

  • 足底の痛み → 足底腱膜
  • 踵の痛み → 脂肪体 or 踵骨
  • しびれ → 腰椎由来

このように、「局所(組織)」または「中枢(腰)」のどちらかに思考が偏りがちです。
その結果、「足底に原因があるはずなのに、どこを触っても決め手がない」という手詰まりな状況が生まれてしまいます。

脛骨神経の機能解剖と障害メカニズム

1. 脛骨神経の走行と「足根管」

脛骨神経が障害された場合、脛骨神経由来の筋機能低下や、膝窩・近位腓腹部・内果・足底の痛み・しびれ・感覚異常などが考えられます。
代表的な疾患としては、足根管症候群が有名です。

脛骨神経のおおまかな走行は以下の通りです。

  1. 仙骨神経叢(坐骨神経)
  2. 膝窩部で「脛骨神経」と「総腓骨神経」に分岐
  3. 脛骨神経が下腿後面を走行
  4. 足根管を通り、内側・外側足底神経へ

ここで重要なのが、膝窩部・下腿後面深層・内果後方の足根管(tarsal tunnel)という、機械的ストレスを受けやすいルートを通過する点です。

これらの部位で機械的ストレスが加わることで、神経の滑走障害や機械感受性の亢進が生じ、脛骨神経由来の症状が出現する可能性があります。

2. 運動機能への影響:アーチと蹴り出し

脛骨神経は、以下の筋群を支配します。

  • 下腿後面筋群(腓腹筋・ヒラメ筋・足底筋・膝窩筋)
  • 後脛骨筋
  • 長趾屈筋
  • 長母趾屈筋

特に、後脛骨筋・長趾屈筋・長母趾屈筋は「内側縦アーチ」の形成・維持に関与します。

つまり、脛骨神経機能が低下すると、内側縦アーチの支持機能が低下し、足部回内(扁平足化)を起点とした運動連鎖を介して、下肢全体のアライメント不良に繋がる可能性があります。

また、アーチ以外にも「足趾把持の弱化」や「歩行終期の蹴り出し(Push off)低下」など、動作の質の低下に直結します。

3. 感覚機能への影響:姿勢制御

脛骨神経は、内側足底神経や外側足底神経として足底の感覚も担っています。
足底感覚が低下すると、床面情報の入力が減少し、姿勢制御や運動出力の微調整が困難になります。

その結果、「痛みが原因で動けない」のではなく、「感じにくいから、うまく動けない」という現象も起こり得ます。

臨床における評価ポイント

関節や筋の評価に加え、以下の3つの視点で評価してみましょう。

① 神経の機械感受性

  • 圧痛:走行上の圧痛点を確認(特に足根管部など)
  • 伸張テスト:SLRのような要領で、「足関節背屈 + 足部外返し + 体幹前屈」を行う

※伸張テストでは、症状の有無だけでなく、肢位の変化(近位・遠位の操作)による症状の増減や左右差を確認し、単なる「筋の伸張痛」と鑑別することが重要です。

② 神経支配筋の機能

  • MMT:下腿三頭筋・後脛骨筋・長趾屈筋・長母趾屈筋を評価。
    ※単発の出力だけでなく、「持続性(耐えられるか)」や「左右差」に着目します。
  • 動作観察:歩行時の蹴り出し(Push off)がしっかり行えているか確認します。

③ 感覚入力

  • 足底表在感覚:触覚の左右差を確認
  • 必要に応じて二点識別覚

まとめ:神経機能を評価軸に加えよう

足部の機能低下を評価する際、関節や筋に加えて「神経機能」という視点を取り入れることで、これまで説明しづらかった症状や動作の問題が整理しやすくなる場合があります。
今回は、足部機能に深く関与する脛骨神経を一つの評価軸として整理しました。

最後にポイントを3つにまとめます。

① 脛骨神経は「痛み」だけでなく「動作の質」に影響する
機能低下は、足底の痛み・しびれだけでなく、内側縦アーチの支持低下、足趾把持弱化、蹴り出し低下など「動作の質の低下」として現れます。

② 足底感覚の低下は姿勢制御や運動出力にも影響する
「痛みがあるから動けない」のではなく、「足底感覚が入力されにくいために、うまく出力調整ができない」という状態を生じさせます。

③ 神経機能を評価軸に加えることで臨床推論が広がる
関節・筋の評価に加えて、機械感受性・支配筋機能・感覚を評価することで、足部機能低下に対する仮説や介入の選択肢が広がります。

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