こんにちは、理学療法士の嵩里です。
ADL動作獲得を目指して、療法士・病棟はそれぞれアプローチを行っています。しかし症例によっては動作獲得に至らなかったケースもあるかと思います。
今回は、トイレ自立にならなかった事例を通して、退院支援に必要な情報共有についてお伝えします。
自宅退院に向けて必要な他職種への情報提供
自宅退院に向けて、他職種へ提供した方が良いと感じた項目についてまとめます。職種によって支援する方向性は異なります。それぞれの視点で支援できるよう他職種の役割を知ることも大切です。
1. 予後予測
入院前のADLを踏まえて動作がどのレベルまで改善するか見切りをつけることも必要です。FIMやBerg Balance Scale、HDS-R等の評価スケールを用いて、自立か介助が必要かの判断をつけましょう。介助が必要と早めに判断することが出来れば、福祉用具や在宅・通所サービス等の介護サービスを手配してもらう時間を作ることができます。
2. 介助方法を病棟と共有
リハビリ場面ではADL動作が行えていても、病棟では過介助の場合があります。動作のどの場面に介助が必要か、どの場面なら介助は必要ないかを伝え、介助方法の差を減らします。
3. 動画を使用した家族への説明と家族指導
口頭で動作や介助方法について説明をしても、家族と病院側とでイメージのズレが生じる可能性があります。実際に動画やリハビリ見学にて動作を見てもらうことで、退院後のイメージがつきやすくなります。介助がはじめての場合は、介助方法を家族に行ってもらい指導もします。
4. 退院後に必要なサービスを想定する
自宅で想定されるサービスをケアマネジャーに伝えることも必要と考えます。例えば自宅での入浴が難しいため、通所系サービスを利用するのはどうかと提案することができます。
具体例の紹介
ここでは、ADLトイレ動作獲得に関する具体例を紹介します。これは実際の症例を基にしていますが、個人情報保護のため一般化して説明します。
1. 例えばこんな症例があったとします
ある患者さんの場合、移乗・立位保持は軽介助にて行え、下衣操作を含めたトイレ動作も行えるレベルでした。しかし、この方は依存的な傾向があり、離床意欲が低く、また家族の介護力も限られていました。退院先としては自宅退院を希望されていたケースです。
2. 病棟と話し合った方向性
このような場合、病棟でトイレ誘導を行いトイレ動作が可能になったとしても、患者さんの性格や状況によっては、自宅退院後に臥床傾向となり介助量が増える可能性があります。そのため、自立度を上げることよりも、安全性を重視し、家族が無理なく介助できるようオムツ対応とすることを検討しました。その上で、オムツ介助時の協力動作を増やすことに焦点を置きました。
3. 自宅退院に向けて行なった情報共有
このようなケースでは、療法士の介入だけでなく、多職種との連携が不可欠です。ADL動作を獲得するためには病棟と情報を共有し、自宅退院に向けたカンファレンスではソーシャルワーカー、ケアマネジャー、家族に対する情報提供が必要となります。また場合によっては家族に対して動作指導を行う必要もあります。
病棟との連携例
病棟でのオムツ交換時の様子を確認すると、全介助で行われていることがあります。そのような場合、患者さん自身で行える動作(例えば寝返りやお尻上げ)を伝え、協力動作を促しながら最小限の介助でオムツ交換を行うよう依頼します。また、ADL向上のため、可能な限り車椅子での食事摂取を勧めるなど、離床機会を増やす工夫も提案します。
ソーシャルワーカーとの連携例
現状のADL能力と、自宅での介護の必要性を伝えます。初回のカンファレンスで現状を報告し、2回目のカンファレンスでは退院後のサービスを具体的に検討できるよう調整を依頼します。定期的なカンファレンスを設けることで、リハビリの進捗状況を踏まえつつ、家族の介護能力を考慮したプランを立てることができます。
ケアマネジャーとの連携例
患者さんの現在の排泄状況や性格的特徴を伝え、適切なサービス(例:ヘルパー派遣)の調整を依頼します。また、家族の希望を考慮し、必要に応じて訪問リハビリの提案なども行います。介護経験の少ない家族の場合、サービスの頻度を増やすなどの調整も検討します。
家族への指導例
実際の動作場面を動画で撮影し、どの場面で介助や声掛けが必要かを具体的に説明します。可能な限り、面会時間に合わせてリハビリ時間を調整し、起き上がりや移乗方法についての実践的な指導を行います。家族に実際に介助を体験してもらうことで、介助の難しさや必要な力の度合いを実感してもらえることが多いです。
まとめ
- 退院支援において、療法士だけでなく看護師、ソーシャルワーカー、ケアマネジャーなど、様々な職種が連携し、患者の状態や家族の状況を共有する。
- 獲得を目指すADLは、身体機能の評価だけではなく、家族の希望やマンパワー、患者の性格を踏まえて自立度や介助方法を決める必要がある。
- 臨床以外にも療法士として行うべきアプローチの一つとして、情報共有がある。自宅退院に向けて、介助方法の共有、他職種との連携、家族への指導が大切。
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