自宅環境評価とトイレまでの移動支援 〜トイレ動作の動作分析から情報共有までの流れを学ぶ〜

こんにちは、理学療法士の嵩里です。

今回は、退院後の生活で重要となる「自宅でのトイレまでの移動手段」について、専門的な視点から解説します。

なぜトイレまでの移動手段を適切に選定することが重要なのか

退院後の生活において、トイレまでの移動は患者様の自立度に大きく影響を与えます。例えば、歩行器を使用できる身体機能があっても、廊下幅が十分でなければ使用できません。そのため、環境に応じた適切な移動手段の選定が重要になります。

自宅環境の評価ポイント

効果的な移動手段を選定するために、以下の項目を詳細に評価する必要があります:

1. トイレまでの動線

  • 居間・寝室からの距離
  • 廊下幅
  • ドアの開閉幅

2. 床材と設備

  • フローリング/畳の状態
  • 手すりの設置状況と高さ
  • 段差の有無と高さ

3. 家具配置

  • 移動の妨げとなる家具の有無
  • 支持物として活用できる家具の配置

車椅子使用に必要なスペースの具体的数値

自宅内を車椅子が使用出来るかにより、移動手段の選択肢は変わることが多いのではないでしょうか。

参考までに、車椅子の幅と通行に必要な廊下幅、トイレ内スペースをお伝えします。

1. 必要な廊下幅

  • 介助用車椅子:53〜57cm(全幅)
  • 自走用車椅子:62〜63cm(全幅)
  • 直進通行時:車椅子全幅 + 10〜15cm
  • 直角転回時:85〜90cm(自走用の場合)

2. トイレ内必要スペース

  • 介助必要時:便器前方・側方に50cm以上
  • 前方アプローチ時:奥行き180cm以上
  • スペース不足時の対応:介助者が車椅子を外に出す等の工夫

トイレスペースが確保できない場合は、車椅子から便器へ以上した後に介助者がトイレの外に車椅子を移動させる必要もあります。

適切な移動手段の選定プロセス

  1. 身体機能評価
  2. 環境評価
  3. 以下の選択肢から最適な方法を選定
    • 車椅子
    • 歩行器
    • 杖歩行
    • 伝い歩き
    • ポータブルトイレ(必要に応じて)

歩行の場合は、自立か介助下なのかも含め評価します。そして自宅環境と身体機能の双方から判断して移動手段を検討していきます。トイレまでの移動が困難であったり夜間は家族の介助やふらつきが必要になる場合もあります。その際はポータブルトイレの使用も検討します。例えば「車椅子が通れる幅がない。またポータブルトイレの使用に拒否的。そのためトイレまで歩行器か伝い歩きが行える必要がある」というようにゴールを考えていきます。

多職種連携のポイント

家屋環境を踏まえて移動手段を決定したら、自宅での生活を想定して病棟でのADLを検討していきましょう。自宅退院後の移動手段と同じになるよう、自室からトイレまでの移動も歩行器や杖を使用します。その際は介助量や介助位置を病棟へ伝達します。カンファレンス等があれば自宅環境も合わせて説明することで説得力が生まれより病棟も協力してもらうことができます。

ポータブルトイレやオムツを使用した方が、家族の負担を軽減できる場合もあります。その際は病棟へオムツ指導の依頼をします。ご家族が来院されたタイミングで看護師がオムツの種類や替え方を指導します。

1. 病棟での実践

  • 自宅環境を想定したADL訓練
  • 介助量・介助位置の明確な伝達

2. 看護師との連携

  • 必要に応じたオムツ指導依頼
  • 家族への具体的な指導時期調整

家族支援の具体的方法

1. 介助方法の実践的指導

  • 車椅子操作手順
  • 適切な介助位置
  • 安全な停車位置

2. 効果的な指導ツール

  • スマートフォンでの動画撮影
  • 紙面での手順書作成
  • 必要に応じた訪問リハビリの利用

まとめ:安全な移動のための3つのポイント

  1. 自宅内の移動手段は家屋環境に左右される。自走用車椅子の場合、廊下幅が90cmあれば直角に曲がることが可能。

  2. トイレ内スペースは介助が必要な場合、便器から前方と側方に50cmのスペースがあると良い。前方アプローチの場合は奥行きが180cm必要だが、スペースが足りなければ介助者が車椅子を外に移動することもある。

  3. 自宅での移動手段が決定したら、病棟でも自宅と同様の移動手段で生活できるよう病棟へ情報共有を行う。介助方法などを病棟へ伝達しさらに家族へも同様の介助指導を行うことで、よりADLや介助量の差をなくすことができる。

本記事で解説した内容を実践することで、患者様の安全で自立した生活を支援することができます。

 

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