皆さんこんにちは。作業療法士の内山です。前回は家族や介護者との連携について考えていきました。今回は、利用者さんのQOLに焦点を当てて考えていきたいと思います。デイサービスに通うことで、利用者さんのQOLがどのように向上するのか、そして私たち作業療法士がその過程でどのように関わることができるのかについて、一緒に見ていきましょう。
利用者さん個々のQOLはどのように見出す?
利用者さん一人ひとりのQOLは、生活背景や価値観、目指す目標によって異なります。そのため、デイサービスでの支援を効果的に行うためには、まず利用者さんが何を大切にしているのか、どのような生活を送りたいのかをしっかりと把握することが重要です。
QOLの要素として考えられるものには、身体的健康、心理的安定、社会的なつながり、自己実現などが含まれます。例えば、ある方にとっては身体の不自由さがストレスになる一方で、他の方にとっては家族との時間が最も大切な要素かもしれません。こうした個々の価値観や希望を聞き取りながら、デイサービスでの支援方針を検討していくことが求められます。
具体例で見るQOL向上への支援
趣味の再開を希望する例
80歳の男性が、デイサービスに通いながら自宅での園芸を再開したいと考えている。園芸に必要な体力と柔軟性の向上を目指した運動プログラムを提供し、自宅の庭で再び園芸を楽しむことができるようにサポート。
自立した生活を希望する例
60代女性が、一人暮らしの再開を目指しているが、転倒のリスクが心配。バランス訓練や転倒予防プログラムを通じて、家事や買い物を安全にこなせるように支援。
デイサービスの立場でできるQOL向上への取り組み
デイサービスは、利用者さんが日常生活を快適に送れるよう支援する場であり、QOLの向上に貢献できる多くの手段を持っています。まずは、リハビリや運動プログラムを通じて身体機能の維持・向上を図ることができます。これにより、日常生活での活動が楽になり、自信を取り戻すことができます。
また、デイサービスは単に身体機能をサポートするだけでなく、社会的な交流の場としても重要です。利用者さんが他の参加者と交流することで、孤立感の解消や精神的な安定を得ることができます。さらに、趣味活動や役割活動を提供することで、利用者さんが自分自身の存在価値を再確認し、自己実現につなげることも可能です。
実践的な取り組み事例
グループでの料理教室
70代女性が料理を再び楽しみたいという希望に対し、デイサービス内での料理教室を開催。火を使わない簡単な料理から始め、徐々に自信を持たせます。
社会的役割の提供
90代男性が、「もう役に立てない」と感じていたところ、デイサービス内で他の利用者へのサポートを依頼。小さな役割を通じて自己価値を感じ、QOLが向上しました。
デイサービスという第3の立場がもたらすQOL向上の実例
今回は、脳梗塞後遺症で左半側空間無視と注意の分配障害が残存する70歳代の女性の例を紹介します。この方は、住み慣れた自宅に戻って家事を再開することを目指してデイサービスを利用されていました。
本人と家族のHOPE
本人の希望
「今は娘の家で一緒に住んでいるけれど、元の家に戻って自分で料理をしたい。孫と遊べる体力が欲しい。」
家族の希望
「左に注意が向きにくいので、火を使う料理は危ないからやらせたくない。」
QOL向上への具体的アプローチ
料理の再開に向けて
- 火を使わずにできる調理を再開するため、左側への注意を促す訓練
- 左側への注意の配分を促す運動の導入
孫と遊べる基礎体力の維持
- 日常的な活動量の増加
- 左側への注意配分を促す運動の実施
具体的な介入内容
料理動作訓練
- 毎回の味噌汁作りを担当
- 左側に注意を向けるための道具配置
- 作業療法士が左側に立ってサポート
基礎体力維持のための介入
- マシンを使った有酸素運動(15〜20分程度)
- 料理関連の役割活動(テーブル拭き、食器洗いなど)
- 立位での活動増加による体力維持
介入の成果
元の家に戻り、火を使わない料理を再開することができました。また、定期的な散歩を実施し、孫と遊ぶ時間も増えました。QOL向上の鍵は、家族や本人だけでは難しかった点を、デイサービスという第3の立場が補うことで実現したと考えます。
まとめ
- 利用者さん個々のQOLを理解するためには、生活背景や希望をしっかりと把握することが重要です。
- デイサービスでは、身体機能の維持や社会的交流の促進を通じて、利用者さんのQOL向上に貢献できます。
- デイサービスという第三者の立場からのサポートは、家族では提供できない特別な関わりを通じて、QOL向上に寄与します。
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