みなさんこんにちは。作業療法士の仲田です。
今回は、臨床でスプーンの自助具を利用者さんに提供したきっかけ、そこまでに至る考え方を理学療法士・作業療法士の皆さんにお伝えできればと思います。
これは、療法士活性化委員会のスタッフ同士で出た会話の一部です。

仲田さん、そういえば初めて自助具作ったのは何ですか?

スプーンの自助具です。市販のスポンジ太柄スプーンが使いにくそうにしていた利用者さんがいて。

え、普通、太柄スプーン使ってたら「あ、自助具使ってるなー」でスルーしません?そこから更にカスタマイズしようって、どうして思ったんですか?

はい!そこまで至った仲田さんの「頭の中」、臨床推論を知りたいです!
自助具作成の視点 – 臨床家の鋭い観察力

えっと、単純にパッとみた時に「この持ち方、握りにくそうだな」と感じたんですよ。

だから!その「何で握りにくそうだと感じたのか」を知りたいんです!

なるほど。通常、スプーンの操作って3つの指、母指、示指、中指を中心に使うんですけど…その利用者さんは**環指(薬指)と小指も操作の指として使用している**ように見えたんです。

それです!そういう仲田さんがパッと出てくる評価や考え方を詳しく聞きたいです!
指の機能的役割分担 – 自助具作成の基本理解

需要あるかなぁ(笑)。そう、きっかけは、**母指・示指・中指が操作、環指・小指が握り**という指の役割分担が、その利用者さんには上手くできていないと感じた点です。
人間の指の機能的役割分担
日常生活動作において、指は主に2つの役割に分かれます。
- 操作の指:主に**母指・示指・中指**。物の形を変えたり、精密な動きをする際に中心となります。
- 握る指:主に**環指・小指**。物を安定して把持する際に力を発揮します。

人間の指は5指ありますが、それぞれ得意な役割があるんです。例えば格闘技で例えると、空手や剣道でしっかり握って力を入れるのは主に環指と小指ですよね?一方、中国拳法で指の形を繊細に変えたり(操作)するのは母指・示指・中指を使うことが多いです。

他にも、健康な方がペットボトルのキャップを開ける時、どの指を使いますか?

あー!確かに!母指・示指・中指でクルクル回してます!
専門的観察から見える問題点と臨床推論

そういった指の機能的役割の理解があった上で、太柄スプーンを使っている利用者さんの様子をみて、**「5指全てを使ってスプーンを操作している」⇒「指の役割分担が上手くできていないな」⇒「だから使いにくそうなんだ」**という発想に至り、「どうにか改善できないか?」と考えたわけです。
自助具作成へと繋がる専門的観察のプロセス
- 患者さんの動作を細かく観察する:市販の自助具を使用しているが、5指全てを使ってスプーンを操作している様子に気づく。
- 解剖・運動学に基づき問題点を特定する:通常の操作指だけでなく、握り指も操作に使っており、指の機能的役割分担ができていないと推論。
- 問題点から仮説を立てる:指の非効率な使い方により、現在の自助具でも操作に困難さがあり、「使いにくい状態である」と仮説を立てる。
- 解決策の検討:指の役割分担を助け、より操作しやすくなるような、適切な自助具を開発する必要があると考える。
自助具開発の実践プロセス – ダイソーでの発見から試行錯誤

なるほど!観察と推論の結果だったんですね。じゃー、それを形にするために「おゆプラ」で作るきっかけになった理由は?

それは偶然もあるのですが、当時、仕事帰りにダイソーで2時間くらい商品をほぼ毎日みてたんですよ。
素材選びの重要性 – 安全性と加工性

まあ、そこで偶然**「おゆプラ」をみかけた**んですよ。お湯で溶かして好きな形を作れる手軽さに惹かれて、しかも**素材がまな板と同じポリエチレン系でできているので、万が一、口に触れても安全性が保たれる**なと考えたんです。これは試してみる価値があるぞ、と。

なるほど!安全面まで考えてるんですね。買ってきてどうしたんですか?
試行錯誤のプロセス – 効果的な自助具デザインへ

まず買ってきたら、**初めは太柄スプーンのような形をイメージして試作してみた**んです。でも、利用者さんの持ち方を再現してみると、**やっぱりイメージ通り使いにくい。形がそもそも違う**と考えたんですよ。

あの「指の操作が違う」っていう観察結果が生きてくるわけですね。

そうなんです。スプーンは柄が平べったくて、握りだけだと回転して滑りやすいじゃないですか。だから、母指・示指・中指が操作しやすいように**「まとまるような作り」**が必要だと。同時に、環指・小指は安定して握れるようにしたい。

健常な方がスプーンを持つ時って、前腕を少し回外させた状態で、環指・小指は柄を握るように固定して、母指・示指・中指で柄を上から軽く押さえるというか…例えるならピストルを作って指を重ねるような形に近いかな?その操作のしやすさを再現できないかと考えて、おゆプラをこねてみたんです。

あー、そういう身体の使い方や指の役割分担を意識して形を作るって考えはなかったです。目からウロコ…!
自助具開発のデザイン思考ポイント
- **指の機能的役割を深く理解する**(操作の指:母指・示指・中指、握る指:環指・小指)
- **対象者の実際の動作を徹底的に分析する**(なぜ既存の自助具が使いにくいのか?)
- **動作分析に基づいたデザインを考える**(どの指のどの動きを助けるか?)
- **素材の安全性と加工性を考慮する**(利用者さんが安心して使えるか?)
- **実用性を重視した試作と修正を繰り返す**(一度で完成はない!)

それで、お湯プラをある程度太くして、**実際に握る利用者さんの指の跡をつけてみた**んです。そうしたら「これだ!」ってくらい使いやすくて、それをベースに更に実用的にするにはどうすれば良いかを考え始めました。

おお!指の跡を!そこで完成じゃないって、何でまた思ったんですか?もう十分使いやすそうに見えるのに。
プロフェッショナルの思考 – 「完成」の定義を高める

それはですね、「**単純に思いついただけのものは、誰でも作れるし、何かしら欠陥があるはず**」と普段から思っているからですよ。

**どんな企業さんも、商品を開発して世に出すまでには、とてつもない時間とコストをかけて繰り返し試行錯誤を伴っている**わけです。凡人が思いついてすぐに「これで完成!」で実用レベルになるなんて、ほぼあり得ないと考えています。だから、そこからさらに深堀りして改良を重ねていかないと、本当に患者さんのためになる実用的な自助具にはならないんです。

な、なるほど…!そもそもの考え方が違いました(笑)。プロフェッショナルの視点ですね。
実用化のための工夫 – 臨床で「使える」自助具に

それで、プロトタイプから実用化に向けて工夫したのは主に2点です。**1点目は取り外しが可能な仕組み作り、2点目は持った時の安定性**を高めること。

**1点目の取り外し**に関しては、食事で使うものですから**衛生上、外してしっかり洗いたい**という利用側のニーズがあるからです。**2点目の安定性**は、せっかく使用するのなら**安定感が良い方がより少ない力で楽に、かつ正確に食べやすい**と考えたからです。不安定だと余計な力が入ったり操作ミスに繋がりやすいですからね。

なるほど…!使用者の目線に立って、さらに実用性を追求するんですね。もっとそういう臨床的な考え方や視点を知りたいです!

努力はしますが、日頃から自然に行っていると自分では気づかない場合もあるので、さくらさんのように「そこ詳しく!」ってフォローしてもらえると助かります(笑)。
自助具の「実用化」を考え抜くポイント
工夫の視点 | その理由(臨床的意義) |
---|
**取り外し可能な仕組み** | 衛生面の配慮 → 感染予防、日常的な清潔保持、長期的な使用に繋がる |
**持った時の安定性** | 操作性の向上 → 食事動作の効率化、疲労軽減、誤嚥リスク低減、よりスムーズな自立支援 |
まとめ:自助具作成から学ぶ臨床視点
- 指の役割を深く理解しよう
母指・示指・中指は操作、環指・小指は握り。この基本理解が観察の土台に。 - 利用者さん(患者さん)の目線で動作を観察し、考え抜こう
既存の自助具を使えているかだけでなく、どう使っているか?どこに困難さがあるか?実際の使用感を常に考慮する。 - アイデアや試作で満足せず、深堀りしよう
最初の形ができても終わりじゃない。衛生面、耐久性、使用感など、あらゆる側面から改良を重ねてこそ、本当に臨床で役立つものになる。
いかがだったでしょうか。今回の記事が、皆さんの自助具作成に対する臨床的な視野を広げ、日々のリハビリテーションの実践に少しでも役に立てたのなら幸いです。
次回は〇〇についてを予定しています。どうぞお楽しみに!
作業療法士として臨床技術をさらに高めたい方へ
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