球麻痺・仮性球麻痺の嚥下障害、PT・OTが知るべき評価と介入の全体像

球麻痺・仮性球麻痺の嚥下障害、PT・OTが知るべき評価と介入の全体像

【臨床で活用できる3つのポイント】

  • 「咽頭期」だけでなく「口腔期」の機能不全を必ず評価する:高齢者の誤嚥では、口の中で食塊を保持できない、または咽頭へ送り込むタイミングのずれなど「口腔期」の障害が原因となっているケースも少なくありません。
  • 仮性球麻痺の「機能的閉塞」には、即効性のある手技を試す:舌が上顎に張り付いて食塊が送り込めない患者様に対し、ベッドサイドですぐに試せる「鼻つまみ手技(PNM)」や「イー手技」が有効な場合があります。
  • 嚥下は全身運動、姿勢・呼吸へのアプローチと環境設定が不可欠:嚥下と呼吸の協調性の崩れは誤嚥に直結します。顎引き(チンタック)やリクライニングなどの姿勢調整、咳の介助など、PT・OT・STが連携した身体機能からのアプローチと環境設定が重要です。
本日の疑問:
嚥下リハはSTだけの仕事、と思っていませんか?
⇒ いいえ。嚥下は「呼吸・姿勢・全身機能」と直結しており、PT・OTの介入なしには安全な摂食は実現しません。

はじめに

本コラムでは、脳卒中や神経変性疾患のリハビリテーションで頻繁に直面する「球麻痺」および「仮性球麻痺」に伴う摂食・嚥下障害について解説します。

嚥下障害は、誤嚥性肺炎や低栄養、脱水を引き起こし、患者様の予後や生活の質(QOL)を大きく左右します。

嚥下のリハビリというとST(言語聴覚士)の専門領域と思われがちです。しかし嚥下は単なる喉の局所的な運動ではなく、「呼吸」「姿勢」「全身の身体機能」と密接に連動しています。そのため、PT(理学療法士)やOT(作業療法士)にとっても、身体動作やポジショニングの観点から嚥下機能を理解し、チームでアプローチしていくことが非常に重要です。

今回は最新の文献知見を交えながら、明日からの臨床にすぐに活かせる評価、訓練、環境設定のポイントをご紹介します。

球麻痺・仮性球麻痺の病態生理

嚥下障害を引き起こす神経系の障害は、大きく「球麻痺」と「仮性球麻痺」に分けられます。

球麻痺(下位運動ニューロン障害)

延髄(球)にある脳神経核(舌咽神経、迷走神経、舌下神経など)や、そこから筋肉へと伸びる末梢神経の障害です。ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの運動ニューロン疾患や、脳幹梗塞などで見られます。

特徴として、舌や喉の筋肉自体が萎縮して弱々しくなり、線維束性収縮(ピクつき)が見られることがあります。

仮性球麻痺(上位運動ニューロン障害)

大脳皮質から延髄の運動核へと指令を送る経路(皮質延髄路)が、両側性に障害されることで起こります。多発性脳梗塞などでよく見られます。

筋肉の萎縮は目立ちませんが、筋肉の緊張が高まる(痙縮)ことや、異常な反射(下顎反射の亢進など)が出現することが特徴です。

【2つの麻痺の整理】
  • 球麻痺:下位ニューロン障害 → 筋萎縮・線維束性収縮あり
  • 仮性球麻痺:上位ニューロン障害(両側性) → 痙縮・下顎反射亢進あり
臨床では両者が混在することも多く、どちらの要素が優勢かを見極めることが介入の出発点になります。

球麻痺・仮性球麻痺と摂食・嚥下の概要

これらの病態は、実際の摂食・嚥下プロセスにどのような影響を与えるのでしょうか。

高齢の誤嚥患者のデータを分析した研究では、誤嚥の原因として「喉(咽頭期)」の障害だけでなく、「口(口腔期)」の障害が多く関与していることが報告されています。

特に仮性球麻痺の患者様では、舌の付け根(舌根部)が上顎(口蓋)に過剰に押し当てられたまま固まってしまい、食塊を喉の奥へ送り込めなくなる「機能的閉塞」という現象が起きることがあります。口の中に食べ物が残り続けるため、結果的にむせ込みや誤嚥に繋がってしまいます。

また、進行性核上性麻痺(PSP)やALSなどの神経変性疾患の患者様では、嚥下に関連する筋力低下だけでなく、姿勢を保つ機能や、嚥下と呼吸のタイミングを合わせる機能が低下するため、唾液の垂れ込み(流涎)や窒息のリスクが高まります。

球麻痺・仮性球麻痺と摂食・嚥下の評価

適切な介入を行うためには、正確な評価が不可欠です。

ベッドサイドでの非機器評価(臨床的評価)

まずはベッドサイドでの非機器評価から始めます。問診に加え、以下の項目を丁寧に観察します。

  • 唇・舌・顎・軟口蓋の動き
  • 頬を膨らませる動作
  • 喉の感覚や咳の反射
  • 体幹のコントロール(姿勢の安定性)
  • 頭頸部の安定性

嚥下機能だけでなく、体幹コントロールや頭頸部の安定性など、姿勢の評価を合わせて行うことが重要です。

機器評価(FEES・VFSS)

ベッドサイド評価でリスクが疑われる場合は、嚥下内視鏡検査(FEES)や嚥下造影検査(VFSS)といった機器評価への移行を検討します。

  • FEES:咽頭の残留や誤嚥の検出に優れており、ベッドサイドでも実施可能
  • VFSS:口腔期の食塊の動き全体を把握するのに適している

両者は互いを補完する関係にあるため、患者様の状態(移動の可否や姿勢の制限など)に合わせて使い分けることが推奨されています。

球麻痺・仮性球麻痺と摂食・嚥下の訓練

評価に基づき、身体機能・姿勢・動作を組み合わせた具体的なアプローチを展開します。

1. 呼吸機能へのアプローチ

ALSなどの疾患では、咳をする力(ピークカフフロー)が弱まります。誤嚥したものを自力で喀出できない状態は肺炎に直結します。

PTやOTが徒手的な胸郭の圧迫(咳介助)を行ったり、呼気筋を鍛えるトレーニング(EMSTなど)を導入したりすることが極めて重要です。

2. 臨床で使える最新の徒手的アプローチ

先述した仮性球麻痺による「機能的閉塞(舌が上顎に張り付く状態)」に対して、日本の研究チームが非常に興味深い手技を報告しています。特別な道具なしにベッドサイドですぐに実践可能です。

鼻つまみ手技(Pinching Nose Maneuver: PNM)

食塊が口に留まってしまう際、介助者が患者様の「鼻をつまむ」だけの手技です。

鼻を塞がれると、患者様は息をするために反射的に口を開き、舌根部が下方に下がります。これにより機能的閉塞が解除され、食塊が咽頭へと流れ込み、嚥下反射が誘発されます。

重度の認知機能障害で「飲み込んでください」という指示が通らない患者様にも有効な場合があります。

※本手技は症例報告レベルのエビデンスに基づいており、すべての症例に有効とは限りません。適用前に患者様の全身状態と誤嚥リスクを十分に評価してください。
「イー」手技(”ee” Maneuver)

口に食塊を含んだ状態で、患者様に「イー」と発声してもらう手技です。

「イー」と発声する際、舌の前から中間部分が挙上する一方で、舌の付け根は前下方に移動します。これにより咽頭への入り口が開き、スムーズに食塊が送り込まれます。

こちらは指示理解が可能な患者様に有効な場合があります。

※本手技も同様に症例報告レベルのエビデンスであり、個々の患者様の状態に応じた評価・判断が必要です。

球麻痺・仮性球麻痺と摂食・嚥下の環境設定

訓練効果を最大限に引き出し、安全に食事を摂るためには、代償的な環境設定が欠かせません。

1. 姿勢の調整(ポジショニング)

嚥下は重力の影響を強く受けます。

口腔期に障害があり、送り込みが不良な患者様に対しては、リクライニング位(例えば30〜45度)に設定することで、重力を利用して咽頭へ食塊を誘導しやすくなる場合があります。ただし、適否は個々の嚥下機能や姿勢制御能力によって異なるため、評価に基づいた個別調整が必要です。

また、気道防御が弱い患者様には「顎引き(チンタック)」姿勢が有効な場合があります。気道への入り口が狭まり、誤嚥のリスクを減らすことが期待できますが、こちらも全例に適用できるわけではなく、個別の評価を優先してください。

片側の咽頭麻痺がある場合は、麻痺側を向く「頸部回旋」を併用することで、健側を通って食塊が落ちるように誘導します。これらは車椅子やベッド上でのポジショニング調整が不可欠であり、PT・OTの専門性が活きる場面です。

2. 食形態と一口量の調整

患者様の嚥下機能に合わせて、液体の粘度(とろみ)を調整したり、食形態をペースト状などに変更したりします。

一口の量(スプーンのサイズ)の調整も重要です。一口量が多すぎると咽頭に溢れ出て誤嚥に繋がりやすく、少なすぎると嚥下反射が誘発されにくくなります。

3. 食事環境とサポート体制

認知機能の低下や注意障害を伴う場合、食事への集中力が保てるようテレビを消すなどの環境調整を行います。

また、疲労による嚥下機能の低下(重症筋無力症やALSなどで顕著)を考慮し、食事の時間を短くする、または複数回に分けるといった配慮も必要です。

まとめ

★ 今回のポイント3つ
  • ★ 球麻痺・仮性球麻痺による嚥下障害は、「口腔期」と「咽頭期」の両方を包括的に評価することが出発点
  • ★ PNM(鼻つまみ手技)・イー手技など、ベッドサイドで即実践できるアプローチが報告されている(エビデンスレベルに留意した上で活用を検討)
  • ★ 姿勢・呼吸・環境設定はPT・OTの専門性が直接活きる領域であり、STとの多職種連携が安全な摂食嚥下を実現する

球麻痺・仮性球麻痺による嚥下障害は複雑であり、STによる「食べる・飲み込む」の直接的な訓練だけでは限界があります。PTによる呼吸機能や体幹機能へのアプローチ、OTによる食事動作や姿勢の環境調整が組み合わさることで、初めて安全な摂食嚥下が実現します。

今回ご紹介した「鼻つまみ手技」などの手軽なアプローチや適切なポジショニングを引き出しに加えつつ、ぜひ多職種で連携して患者様の「食べる喜び」を支えていきましょう。

免責事項

本コラムで紹介した手技や評価方法、ポジショニングなどを臨床で実践する際は、必ず担当医師の指示を仰ぎ、患者様の全身状態(意識レベル、呼吸状態など)や誤嚥・窒息のリスクを十分に評価した上で、自己責任において実施してください。

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この記事の執筆・監修

執筆:稲葉 暉人(理学療法士)急性期・回復期(整形外科・脳血管・廃用)

監修:大塚 久(理学療法士・療法士活性化委員会 代表)