こんにちは、理学療法士の赤羽です。前回、IASPの疼痛の定義について書かせてもらいました。
前回の記事はこちら>>>IASPの疼痛定義から考える、多角的な痛みの捉え方 〜科学的根拠に基づく痛みの基礎〜
臨床で疼痛が問題となることも多い中で、疼痛の定義を見たこともない人も多かったかもしれません。今回は、定義の中にあった生物・心理・社会的要因について考えてみます。
BPSモデル
前回紹介した定義の要旨の中に「痛みは常に個人的な体験であり、生物・心理・社会的要因によってさまざま程度で影響を受けます」とありました。つまり、身体機能の問題以外にも疼痛に影響を及ぼす要因があるということです。そこで、BPSモデルの考え方が役立ちます。従来の生物医学モデルでは、疼痛を組織損傷や炎症等に基づいた生体現象として捉えられてきました。しかし、慢性疼痛においては、組織損傷が治癒しても疼痛が残存する例が多く、生物医学モデルだけでは説明がしきれません。
BPSモデルは3つの要因から疼痛を捉えています。BPSはB:Biology、P:Psychological、S:Socialの略です。
- 生物学的要因:身体的な問題や障害等
- 心理的要因:ストレス、不安、抑うつ等
- 社会的要因:人間関係、職場環境、経済状況等
これらの要因が相互に影響し合って、疼痛に影響を及ぼすと考えられます。
生物学的要因
生物学的要因は身体的な問題や障害に関連しています。理学療法士がよく着目している身体機能はここに分類できます。他にも画像検査や生化学検査、神経学的検査による異常もここに含まれます。そのため、介入方法としては、リハビリテーション、薬物治療、手術等になります。リハビリ職種としては、運動療法や物理療法・身体機能訓練等を用いた身体機能の改善や環境設定等を用いた代償手段の獲得等を目指すことになるかと思います。
心理的要因
心理的要因は心理的ストレスや不安、抑うつ状態等です。これら心理的要因があっても、BPSモデルから疼痛を増悪させる可能性があります。疼痛に必要以上に注目してしまったり、疼痛に対しての恐怖心等から過度な回避行動をとってしまう悪循環に陥る可能性もあります。評価としては、質問紙、心理検査、問診等が考えられます。リハビリ職種としては患者さんとの会話の中で、心理的要因と思える内容が出てくる可能性があります。なんとなく話を流すのではなく話をしっかりと聞くことが重要です。また、話を聞く姿勢を相手に見せることで、より相手が信頼して話をしてくれる可能性があり、それだけでも心理的ストレスが軽減される可能性もあります。アプローチとして、適切な心理支援を行う必要があります。認知行動療法やマインドフルネス等が考えられます。臨床心理士との連携も重要です。
社会的要因
社会的要因は人間関係、職場環境、経済状況等です。これら社会的要因によってもBPSモデルから疼痛を増悪させる可能性があります。質問紙による評価や家族構成、学校や自宅・職場等の状況、経済状況、職歴等を確認する必要があります。ソーシャルワーカーや地域支援サービス等と連携し、必要に応じて社会的支援を導入することが重要です。
まとめ
慢性疼痛の治療には集学的治療が有効と言われています。集学的治療では、慢性疼痛患者を多面的に評価して治療を行います。そのため、様々な専門職が連携する必要があります。まさに、BPSモデルの考え方が重要となります。その中で私たちリハビリテーション専門職の関わりは重要です。しかし、残念ながら仕事環境からすぐに多くの専門職との連携が難しい方もいると思います。そこで、生物学的側面だけでなく心理的側面や社会的側面にも目を向けて患者さんに関わる必要があります。ただ、全てを担当の自分一人で抱える必要はなく、必要に応じて主治医も含めて可能な範囲で周りと連携することを忘れないでください。
3つのポイントをまとめると
- 疼痛には生物学的要因だけでなく心理社会的要因も見ることが大切
- 生物心理社会モデルとしてBPSモデルがあり、それぞれが相互に関わり合って疼痛に影響を及ぼしている
- 多職種との連携が重要となる
復習問題
疼痛に対するBPSモデルを基にしたアプローチとして、重要なものはどれですか?
a) 生物学的要因のみを改善する
b) 社会的支援を無視する
c) 心理的ストレスを軽減する
d) すべての治療を一人で行う
e) 画像検査のみで判断する
解説
a) 生物学的要因のみを改善する
⇒×、心理社会的要因も関与するため
b) 社会的支援を無視する
⇒×、必要に応じて社会的支援を行う
c) 心理的ストレスを軽減する
⇒〇、心理的要因に対して有効の可能性あり
d) すべての治療を一人で行う
⇒×、多職種と連携をとる必要がある
e) 画像検査のみで判断する
⇒×、様々な要因が絡むため画像検査のみで判断はできない
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