多裂筋の解剖と機能を徹底解説! 〜学生・新人理学療法士、作業療法士のためのスキルアップガイド〜

多裂筋の解剖と機能を徹底解説! 〜学生・新人理学療法士、作業療法士のためのスキルアップガイド〜

 

 

皆さんは多裂筋のことをどのくらいご存じでしょうか?

多裂筋はインナーマッスルとして脊柱の安定化や、分節的でなめらかな脊柱の動きの補助、脊柱の伸展だけでなく骨盤のコントロールも行っています。

弱化すると楽に姿勢を保つことが困難になったり、アウターマッスルが過剰に働き疲労しやすくなるために腰部痛につながったりします。背骨全体に付着しているため、体全体の安定性にも関与しどんな動作にも関与してきます。

そんな多裂筋ですが、皆さんは多裂筋のイメージや評価をできていますか?

多裂筋の形のイメージがあまりできていなかった頃は、教科書上の仙骨後面から第2頸椎まで一直線についていると思っていました。これだけだと体幹の伸展のイメージはできますが、滑らかな動きのイメージはうまくできません。そのために何故臨床上大事なのか理解できていませんでした。

解剖を改めて確認することで評価やアプローチ、機能低下による影響のイメージがつきやすくなります

まずは解剖から一緒に確認していきましょう!

1. 多裂筋の解剖と作用

多裂筋の解剖図

多裂筋は、脊柱の安定性を担う重要なインナーマッスルです。その特徴的な解剖と機能を理解することは、効果的な理学療法・作業療法介入の基礎となります。

多裂筋の解剖学的特徴

  • 起始:仙骨から第4・第5腰椎、胸椎の全椎骨、第4・第5頚椎の横突起
  • 停止:仙骨後面、各筋束は2〜4椎間を飛び越えて、上位の椎骨の棘突起
  • 神経支配:脊髄神経後枝

多裂筋の主な作用

  1. 脊椎の安定化
  2. 姿勢維持
  3. 脊椎の伸展、側屈、回旋の補助
  4. 骨盤の前傾

多裂筋は腰仙部で最も太い筋肉であり、その独特な構造が脊柱の分節的な動きと安定性に寄与しています。

2. 多裂筋の評価方法

多裂筋の適切な評価は、効果的な治療計画の立案に不可欠です。以下に、臨床で使用できる評価方法を紹介します。

2.1 触診による評価

多裂筋の触診方法
  1. 患者を腹臥位にする
  2. 第2腰椎~第5腰椎の脊椎突起の両側に指を置く
  3. 筋の緊張や圧痛の有無を確認する

2.2 筋力テスト(MMT)

多裂筋の筋力テストは、体幹伸展の評価と合わせて行います。以下に、段階別の評価方法を示します。

MMT段階5、4の評価方法

多裂筋MMT段階5、4
  1. 腹臥位で頭の上で手を組む
  2. 患者のくるぶし部分で下肢を固定する
  3. ベッドから臍が離れるまで体を上げてもらう

判定基準

  • 5:ロックされたようにテスト姿勢が保持できる
  • 4:最終域まで到達するが、努力性がある

MMT段階3の評価方法

多裂筋MMT段階3
  1. 乳頭の高さまで上半身をベッドから下ろす
  2. 両腕を体側に置く
  3. 患者のくるぶし部分で下肢を固定する
  4. 臍がベッドから上がるまで体を起こす

判定基準

  • 3:可動域全体を動かせる

MMT段階2、1、0の評価方法

多裂筋MMT段階2、1、0
  1. 全身をベッドに乗せた腹臥位をとる
  2. 段階3の手順を行う

判定基準

  • 2:わずかでも体幹伸展が起きる
  • 1:収縮を感じる
  • 0:筋収縮なし

3. 多裂筋の筋力強化エクササイズ

多裂筋の機能改善には、適切なエクササイズが不可欠です。ここでは、臨床で活用できる効果的なエクササイズを紹介します。

3.1 バードドッグエクササイズ

バードドッグエクササイズ
  1. 四つ這いの姿勢をとる
  2. 片方の腕と反対側の脚を同時に持ち上げ、一直線にする
  3. その状態を5-10秒間保持し、ゆっくりと元の位置に戻す
  4. 左右交互に10-15回繰り返す

ポイント:背中が丸くならないよう、腹部を引き締めて行います。

3.2 座位での骨盤運動

  1. 背筋を伸ばして座る
  2. 両手を前方にリーチする
  3. 顎を引いた状態で手を前に伸ばす
  4. 体が丸くならないよう注意し、10回程度繰り返す

ポイント:骨盤の前後傾を意識しながら、ゆっくりと動作を行います。

これらのエクササイズは、多裂筋の筋力強化だけでなく、体幹の安定性向上にも効果的です。

4. 多裂筋の機能不全と臨床的影響

多裂筋の機能不全は、様々な姿勢異常や腰痛の原因となります。以下に主な影響と臨床的意義をまとめます。

4.1 過剰収縮による影響

  • 腰椎の過度な前弯(反り腰姿勢)
  • 腰部痛の誘発

4.2 筋力低下による影響

  • 腰椎の生理的前弯角度の低下
  • 円背姿勢の助長
  • 脊柱の不安定性増大

4.3 他の筋群との不均衡

  • 脊柱起立筋群の過剰な働き
  • 血流低下や筋の滑走性低下による疼痛

これらの問題を予防・改善するためには、多裂筋の適切な評価とトレーニングが重要です。

5.臨床ちょこっとメモ

姿勢保持の際、多裂筋や腹部筋の筋力低下が生じていることで大きな筋である脊柱起立筋群が優位に働きます。脊柱起立筋の緊張が高くなると血流の低下や滑走性の低下による疼痛を引き起こす原因になります。

6.まとめ

  1. 解剖学的特徴と機能:

多裂筋は仙骨から頚椎まで広範囲に付着するインナーマッスルで、脊柱の安定化、滑らかな動き、姿勢維持に重要な役割を果たします。各筋束が2〜4椎間を跨ぐ構造により、脊椎の分節的な制御を可能にします。

  1. 評価とアプローチ:

触診と体幹伸展テストによる段階的な筋力評価が主な評価方法です。アプローチとしては、バードドッグエクササイズや座位での骨盤運動など、脊柱の安定性と制御能力を向上させる運動が効果的です。

  1. 機能不全の影響と臨床的意義:

多裂筋の機能不全は反り腰や円背などの姿勢異常を引き起こし、腰痛のリスクを高めます。また、他の体幹筋群との不均衡を生じさせ、脊柱起立筋の過緊張などの二次的問題を引き起こす可能性があります。そのため、多裂筋の適切な評価とトレーニングは、腰痛予防と姿勢改善において重要です。

今回記載したものはあくまでも筋単体のことです。実際の治療においては腹横筋の周囲にいくつもの筋肉が存在しており、深さも考えなければなりません。周囲に何があるかイメージできていますか? 不安な方はぜひ一緒に勉強しませんか?

7. 参考文献

  • 基礎運動学第6版補訂
  • プロメテウス解剖学アトラス 第3版
  • 脊柱理学療法マネジメント
  • 筋骨格系のキネシオロジー
  • 新徒手筋力検査法 原著第10版

臨床に活かせる解剖学を体験しながら学び、さらには関節・筋の検査方法も学ぶには...

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