恐怖回避モデルから学ぶ痛みの悪循環 〜科学的根拠に基づく痛みの基礎〜

恐怖回避モデルから学ぶ痛みの悪循環

こんにちは、理学療法士の赤羽です。

疼痛について解説するシリーズの第6回目となります。前回はペインマトリックスについて解説しました。痛みには様々な脳領域が関わっていることを学びました。

これまでの記事で、痛みの多面性BPSモデルについて解説してきました。痛みには様々な側面があり、身体機能だけでなく、心理的・社会的要因も重要であることがわかりました。

今回は、痛みの恐怖―回避モデルを通して、痛みの悪循環について考えていきましょう。

痛みの恐怖―回避モデル

痛みの悪循環

痛みの悪循環は以下のように進行します:

  1. 痛みを感じる(痛み体験)
  2. 痛みを脅威とみなす(破局的思考)
  3. 痛みへの恐怖心が生じる
  4. 痛みを回避する行動をとる
  5. 不活動や身体機能の低下、抑うつ等が生じる
  6. 再び痛み体験へ戻る

一方、回復のサイクルは次のようになります:

  1. 痛み体験
  2. 痛みへの恐怖が少ない
  3. 日常活動に向き合える
  4. 早期回復の可能性が高まる

破局的思考は、ネガティブな思考や脅威となる病気の情報にも影響される可能性があります。

このように痛みが生じた際に、その方がどのように考えるのかによって回復に向かうのか悪循環になってしまうのかが分かれてしまう可能性があります。

リハビリテーションの真の目標:痛みを超えて

慢性疼痛を抱える患者さんのリハビリテーションでは、多くの人が考えるように痛みの軽減だけが最優先の目標ではありません。もちろん、痛みを和らげることは重要な目標の一つですが、それ以上に大切なのは日常生活動作(ADL)と生活の質(QOL)の向上です。これこそがリハビリテーションの本質的な目標なのです。

多くの患者さんは、痛みに強くとらわれがちです。しかし、よく考えてみると、これらの方々も最初はADLやQOLの低下によって痛みに注目せざるを得なくなった可能性が高いのです。そのため、たとえ患者さんの希望(HOPE)が「痛みを軽くしてほしい」であっても、実際にはADLやQOLの向上が必要な方が多いのが現実です。

さらに、「痛みの恐怖―回避モデル」の観点からも、ADLやQOLの向上は重要です。日常生活の質が上がることで、痛みに対する見方が変わり、活動量が増えることで成功体験を積むことができます。これにより、痛みへの恐怖心が軽減され、悪循環から抜け出し、回復への道を歩み始める可能性が高まります。

ここで一つの疑問が浮かびます。「痛みがあるのに、どうやって患者さんに動いてもらえばいいの?」これは、私も痛みについて学び始める前によく抱いていた疑問です。この問題を解決する鍵となるのが、適切な患者教育です。なぜ今活動する必要があるのか、なぜ痛みがあっても過度の安静は避けるべきなのか、こういった点をしっかりと説明し、患者さんに理解してもらうことが重要です。そのためには、私たち医療従事者自身が痛みのメカニズムを深く理解している必要があります。

まとめ

痛みの悪循環を断ち切ることで、慢性疼痛からの回復に向かう可能性が高まります。今回のポイントを3つ挙げてみました:

  1. 痛みの悪循環のメカニズムを理解する
  2. 回復のサイクルを促進する方法を知る
  3. リハビリテーションの目標をADLやQOLの向上に設定し、適切な患者教育を行う

みなさんも、このコラムを読んで自分なりのポイントを挙げてみてください。慢性疼痛に苦しむ患者さんの回復をサポートするために、これらの知識を活用していきましょう。

確認問題

問題:痛みの恐怖―回避モデルにおいて、回復のサイクルに入るためには何が重要ですか?

  1. 痛みを完全に無視する
  2. 常に安静にしている
  3. 痛みに関連した恐怖が少なく、日常活動に向き合える
  4. 痛み止めを多量に服用する
  5. 痛みを感じたら即座に病院に行く

答え:c) 痛みに関連した恐怖が少なく、日常活動に向き合える

解説:痛みの恐怖―回避モデルでは、痛みへの過度の恐怖や回避行動が悪循環を引き起こします。回復のサイクルに入るためには、適度な活動を維持しながら、痛みに対する過度の恐怖を減らすことが重要です。これにより、日常生活の質を向上させ、慢性疼痛からの回復を促進することができます。


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