認知機能の評価とリハビリへの活用 〜デイサービスにおける療法士の役割〜

認知機能の評価と活用法 〜デイサービスにおける療法士の役割〜

 

皆さんこんにちは。作業療法士の内山です。前回は運動機能の評価〜改善までの流れについてお伝えしました。今回は認知機能の評価〜リハビリへの活用について考えていきたいと思います。よろしくお願いします。

評価バッテリーを用いた方法と見るべきポイント

網羅的に評価する際に用いるバッテリー

1. HDS-R

  • 評価項目: 時間・場所の見当識、記銘力、即時再生、計算、逆唱(数字を逆に言う)、物品の命名などが含まれます。
  • 使用目的: 日本の高齢者における認知機能の低下を早期にスクリーニングするために適しています。日本人に馴染みやすい文化や生活に基づいた質問が多く含まれており、日本国内での認知機能評価に広く用いられています。

2. MMSE

  • 評価項目: 見当識、記銘力、計算、注意、言語機能、視空間認知、文章理解や実行、簡単な指示に従うことなどを評価します。
  • 使用目的: 国際的な比較や、異なる言語や文化を持つ患者に対して汎用的に使える評価ツールです。また、研究や臨床試験で標準化された認知機能テストが必要な場合にもよく使用されます。

HDS-RとMMSEそれぞれの特徴として、評価項目ごとの詳細が異なります。

HDS-Rは、日本の文化や背景に合わせて作られており、特に高齢者に対して簡便に使用できるように設計されています。見当識や記憶の評価が中心となっており、質問の範囲がシンプルです。

それに対してMMSEは、より多面的に認知機能を評価し、「視空間認知や言語機能、実行機能」もカバーしています。評価項目が多いため、全体的な認知機能のスクリーニングに向いています。

各機能を掘り下げて評価する際に用いるバッテリー

1. 記憶機能を評価

リバーミード行動記憶検査
  • 評価項目
    • 見当識(場所や時間の見当識)
    • 物の置き場所を思い出す能力(想起)
    • 未来の行動を覚えておく能力
    • 顔と名前の一致
  • 特徴: 実際の生活場面に即したシナリオを使用するため、被験者が日常生活で経験する可能性のある記憶の問題を特定しやすくします。リハビリの進捗や介入の効果を測定する際にも有用です。
ウェクスラー記憶尺度
  • 評価項目
    • 言語性記憶(文章や単語リスト)
    • 視覚性記憶(図形や絵)
    • ワーキングメモリ
    • 即時再生と遅延再生
  • 特徴: 被験者に提示された刺激(文章、図形など)を覚え、それを一定の時間後に再生することで、記憶力を測定します。また、注意力や集中力も評価可能です。

2. 注意、集中機能を評価

TMT
  • TMT-A: 処理速度や注意の集中度、視覚的スキャン能力を主に評価します。より単純なタスクであり、主に基礎的な認知機能を測定します。
  • TMT-B: 認知の柔軟性、ワーキングメモリ、抑制制御といった、より複雑な実行機能を評価します。TMT-Aよりも難易度が高く、前頭葉機能の障害がある場合に顕著な遅延が見られます。

3. 計画、実行機能を評価

BADS
  • 日常生活に即した評価: BADSは、日常生活で必要となる実行機能を反映したタスクで構成されており、前頭葉の損傷による実行機能障害が日常生活にどのように影響を与えるかを直接評価します。
  • 全体的な実行機能評価: 6つの異なるサブテストにより、単一の能力ではなく、複数の実行機能(計画、柔軟性、問題解決、時間管理など)を包括的に評価します。
WCST
  • 実行機能の包括的評価: WCSTは、特定のタスク遂行における柔軟性や適応力、抑制制御など、実行機能全般を包括的に評価します。
  • 前頭葉機能との関連: 特に前頭葉の損傷がある患者では、WCSTで持続的エラーが多発したり、新しいルールに適応できなかったりすることがあります。このため、前頭葉機能の障害を検出するための重要なツールとされています。
ストループテスト
  • ストループ効果: ストループ効果とは、競合する情報がある場合に、反応が遅れたり、誤答が増える現象を指します。この効果に基づき、抑制制御や選択的注意の効率を評価します。
  • ストループテストは、競合する情報の処理能力や注意制御を評価するため、実行機能や注意力の問題を抱える患者の診断や治療効果の測定に役立つツールです。

4. 視空間認知機能を評価

レイ複雑図形検査
  • 総合的な認知機能評価: このテストは、単に視空間能力や記憶力だけでなく、計画力や実行機能といった複数の認知機能を総合的に評価することができます。
  • 手法と順序の観察: 被験者が図形をどのような手順で描くか、全体から描き始めるか、細部から描くかといった描画戦略も観察され、計画力や実行機能の状態が評価されます。

観察評価を用いた方法と見るべきポイント

FIM

  • 特徴: 認知FIMでは、コミュニケーション、社会的交流、記憶などの認知機能を観察し、それに基づいてスコアリングします。

CDR

  • 概要: CDRは、認知機能の低下の程度を観察に基づいて評価するための尺度で、認知症の重症度を0~3のスコアで評価します。記憶、見当識、判断力、問題解決能力、社会的活動、家庭生活、趣味、パーソナルケアなどを含む複数の領域で評価を行います。
  • 特徴: 認知機能が日常生活にどの程度影響を与えているかを観察し、それに基づいて段階的に評価する点が特徴です。

FAST

  • 概要: FASTは、アルツハイマー病を含む認知症の進行度を観察評価するスケールです。認知機能の低下が日常生活にどのように影響しているかを段階的に評価し、7段階で進行度を評価します。
  • 特徴: 観察を基に認知機能の進行を評価し、介護の必要性や対応のガイドラインとして使用されます。

AMPS

  • 概要: AMPSは、日常生活活動(ADL)を行う際の運動スキルやプロセススキル(手順を追って作業を遂行する能力)を評価する観察評価バッテリーです。認知機能の低下が作業遂行にどのような影響を与えているかを観察し、評価します。
  • 特徴: 認知機能の低下が具体的な活動遂行にどのように現れているかを詳細に評価することができます。

NMスケール(N式老年者用精神状態尺度)

  • 概要: このスケールは、特に認知症や精神障害を持つ高齢者の精神状態を評価するために用いられ、日常生活における心理的および行動的な側面を多面的に評価することができます。
  • 特徴: 認知機能だけでなく、心理的および社会的な側面も含めて高齢者の精神状態を評価することができます。(例: 見当識、記憶、注意、計算、言語、視空間認知、抽象的思考、判断力、行動異常、社会的行動)

役割活動を活用した認知機能の評価と賦活

バッテリーによる評価は分かりましたが、実際に認知機能を用いるのは日常生活の中になります。そのため、役割活動を評価手段の1つとして用いることで、見たい機能を場面設定した上で実施しています。それでは具体的にどのような役割活動を用いているのかを認知機能の各小項目ごとに見ていきたいと思います。

1. 記憶機能の評価

  • 役割活動例: 買い物の準備と実行
  • 具体的な活動: 買い物リストを覚える、リストなしで買い物を行う、もしくは一部のアイテムをリスト外から記憶しておく。
  • ADL/IADL: 買い物や料理の準備
  • 目的: 記憶を活用する活動は、短期記憶と長期記憶を活発に保つのに役立ちます。

2. 注意・集中機能の評価

  • 役割活動例: 散歩中に特定の物を探す
  • 具体的な活動: 散歩中に特定の色の車や植物を探す、特定のランドマークを見つける。
  • ADL/IADL: 散歩や外出、家事
  • 目的: 注意と集中力を維持するため、目標を持った行動を行うことで、周囲の環境に集中する機会を増やします。

3. 計画・実行機能の評価

  • 役割活動例: 料理を作る
  • 具体的な活動: レシピを読んで食材を揃え、調理の手順を計画し、実際に料理を作る。
  • ADL/IADL: 料理、掃除、その他の日常生活の活動
  • 目的: 計画を立ててそれを実行する過程で、問題解決能力や実行機能が賦活されます。

4. 視空間認知機能の評価

  • 役割活動例: パズルゲーム
  • 具体的な活動: パズルやブロックを組み合わせる。
  • ADL/IADL: トイレ動作
  • 目的: 視覚的な空間認知能力を刺激する活動を通じて、視空間認知機能が活性化されます。

5. 見当識の評価

  • 役割活動例: カレンダーの管理や日記の記録
  • 具体的な活動: カレンダーを使って日々の予定を確認したり、日記を書いて日付や場所、出来事を記録する。
  • ADL/IADL: カレンダーのチェックや日記の記録
  • 目的: 時間、場所、人に関する見当識を強化するために、日常的な確認作業を行います。

まとめ

  1. 認知機能の評価には、バッテリーによる定量的な評価と観察による定性的な評価があり、それぞれの方法で異なる認知機能を評価できる。
  2. 役割活動を通じて、日常生活の中で実際に必要とされる認知機能を評価し、促進することが効果的である。
  3. 認知機能リハビリでは、評価結果に基づき、個々の機能に応じた具体的な活動を設定し、日常生活に役立つ形でアプローチすることが重要である。

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