こんにちは、理学療法士の赤羽です。このブログでは、理学療法士・作業療法士向けに疼痛に関する情報をお届けしています。今回はシリーズ第21回目、「腋窩神経障害による肩の痛み」について、具体的な症例を交えながら、評価と治療の流れを徹底解説します。
肩の痛みと聞くと、腱板損傷や肩峰下インピンジメント、凍結肩、変形性関節症といった筋・腱や関節の問題を思い浮かべがちですが、実は神経が原因で起こる痛みも見逃せません。特に、腋窩神経(Axillary Nerve)の障害は、肩の動きや感覚に大きく影響します。
腋窩神経障害とは?知っておきたい基礎知識
腋窩神経は、腕神経叢の後神経束(C5-C6)から分岐し、外側腋窩隙を通って肩周辺の筋肉や皮膚に分布する重要な神経です。
腋窩神経の支配領域
- 筋支配
- 三角筋(Deltoid):肩関節の外転(腕を横に上げる)、屈曲(腕を前に上げる)、伸展(腕を後ろに上げる)動作の主役
- 小円筋(Teres Minor):肩関節の外旋(腕を外側にひねる)動作をサポート
- 感覚支配
- 上腕外側部の皮膚(上外側上腕皮神経):肩の外側の感覚をキャッチ
腋窩神経障害の原因 – 外傷だけじゃない!
- 外傷:肩関節脱臼、上腕骨近位部骨折など
- 繰り返しのストレス:スポーツ動作(野球の投球など)、長時間の圧迫(重いリュックサックなど)
- 手術後の合併症:肩関節手術後の神経損傷
- 神経絞扼(こうやく):腋窩部(脇の下)での圧迫
- ガングリオンなどの腫瘤による圧迫
【症例から学ぶ】腋窩神経障害の評価と治療
ここでは、実際の症例を想定して、評価と治療の流れを見ていきましょう。
患者さんの情報
- 年齢・性別:45歳男性
- 職業:建設業(重い物を持ち上げる作業が多い)
- 主訴:右肩の痛みと力が入らない感じ
詳しい症状(現病歴)
3ヶ月前に重い荷物を持ち上げた時に右肩に激痛が走り、それ以来、肩を動かすと痛むようになった。特に以下の動作で症状が悪化。
- 肩を外転・外旋させると痛みが強く、力も入りにくい
- 夜、右肩を下にして寝ると違和感やしびれがある
- 上腕の外側の感覚が鈍い
整形外科では腱板損傷を疑ってMRI検査を受けたが、明らかな断裂は見つからず、「腋窩神経障害の可能性がある」と診断された。
【評価】理学療法士・作業療法士がみるべきポイント
鑑別診断と身体所見
評価項目 | 結果 | ここから分かること |
---|---|---|
Hawkins-Kennedyテスト | 陰性 | 肩峰下インピンジメントの可能性は低い |
Neerテスト | 陰性 | 肩峰下インピンジメントの可能性は低い |
外転筋力テスト(MMT) | 3/5 | 三角筋の機能低下が疑われる |
外旋筋力テスト(MMT) | 3/5 | 小円筋の機能低下が疑われる |
上腕外側部の感覚テスト | 感覚が鈍い | 腋窩神経の障害が疑われる |
Tinel徴候(腋窩部) | 陽性 | 神経の圧迫(絞扼)が考えられる |
肩関節の他動的可動域(Passive ROM) | ほぼ正常 | 肩関節自体の問題はなさそう |
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これらの結果から、腋窩神経の支配領域に一致する運動・感覚の障害、特に三角筋の機能低下と上腕外側の感覚異常が確認できます。
痛みのメカニズムと生活背景
腋窩神経障害のメカニズム
- 肩関節脱臼の経験はない → 神経の圧迫が主な原因と考えられる
- 三角筋と小円筋の筋力低下 → 腋窩神経の支配領域
- 上腕外側の感覚低下 → 上外側上腕皮神経(腋窩神経の枝)の障害
患者さんの生活背景
- 重労働(重量物の運搬)→ 神経への圧迫リスクが高い
- 肩関節の屈曲・外旋動作が多い → 神経の滑走性が低下しやすい
- 睡眠時の姿勢(右肩を下にして寝る)→ 夜間の圧迫リスク
- 既往歴に糖尿病 → 神経障害のリスクが高い
治療アプローチ – 理学療法士・作業療法士にできること
- 腋窩神経への徒手療法
- 神経モビライゼーション:神経の滑走性を改善
- 軟部組織モビライゼーション:周囲組織の癒着を解放
- 運動療法
- 三角筋と小円筋の筋力強化:軽い負荷から徐々に負荷を上げていく
- 肩甲骨安定化トレーニング:ローテーターカフ(回旋筋腱板)を強化
- 姿勢改善エクササイズ:猫背などの不良姿勢を改善し、肩甲骨の位置を整える
- 生活指導と環境調整
- 作業時の肩のポジション修正:物を持ち上げる際のフォームを改善
- 夜間の肩の圧迫を避ける:枕の高さ調整、クッションの使用
- 糖尿病の管理(血糖コントロール)
まとめ|腋窩神経障害のポイント
今回のポイントを整理しましょう。
- 腋窩神経障害は、肩の動きだけでなく、感覚にも影響。三角筋・小円筋の筋力低下、上腕外側の感覚低下が特徴。
- 外傷だけでなく、生活習慣や仕事での動作が原因となることも。
- 治療は、徒手療法、運動療法に加えて、生活指導や環境調整が重要。作業時の姿勢や負担を減らす工夫をアドバイス。
- 整形外科テストは、感度・特異度を考慮し、複数のテストを組み合わせて総合的に判断することが重要。
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