この記事は、過去にリハコヤのライブ配信でお届けした内容をもとに、理学療法士・作業療法士の皆さんに向けて、臨床ですぐに役立つ腸腰筋トレーニングの考え方と具体的な方法を解説します。
(この記事は、リハコヤで過去にライブ配信された内容の一部を再編集したものです)
腸腰筋は、股関節屈曲や骨盤前傾の主動作筋であり、股関節前面の安定性にも関わる重要な筋肉です。歩行においても重要な役割を担うため、リハビリテーションの現場でトレーニング対象となる機会も多いのではないでしょうか。
腸腰筋トレーニングの目的設定:なぜ明確化が必要なのか?
腸腰筋トレーニングを行う上で、まず「何のために鍛えるのか?」という目的を明確にすることが非常に重要です。
- 純粋な筋力向上を目指すのか?
- それとも、歩行などの実際の動作改善につなげたいのか?
この目的によって、選択すべきトレーニング方法は大きく異なります。
臨床場面で、「筋力トレーニングで筋力測定値は改善したはずなのに、実際の動作はなかなか良くならない…」という経験はありませんか?
これは、筋力向上だけでなく、その筋力を動作の中で使えるようにする「運動学習」の視点が不足している場合に起こりがちです。動作改善を目標とするならば、筋力トレーニングと並行して、あるいは目的に応じて運動学習に主眼を置いたアプローチが必要になります。
では、それぞれの目的に合わせた具体的なトレーニング方法を見ていきましょう。
【目的別】腸腰筋トレーニング実践法:筋力アップ編
腸腰筋の純粋な筋力向上を目的とする場合は、筋が最大に近い力を発揮できるポジションで抵抗運動を行うのが効果的です。
具体的な方法:
- 肢位:座位または背臥位
- 運動:股関節屈曲90°の肢位を保持するように指示し、セラピストは股関節伸展方向(下方に押し下げる方向)へ抵抗を加えます。
- ポイント(背臥位の場合):患者さんの下腿をセラピスト自身の大腿の上に乗せると、下肢が安定しやすくなります。「私の手を押し返してください」と指示すると、患者さんも力の入れ方を理解しやすくなります。
この方法は、腸腰筋に対して高い負荷をかけ、筋力増強を図るのに適しています。
【目的別】腸腰筋トレーニング実践法:運動学習・動作改善編
筋力を実際の動作に活かしたい、つまり運動学習を促したい場合は、より実践的な動きに近い形でのトレーニングが求められます。
具体的な方法:
- 肢位:立位、座位、背臥位など、目的とする動作に近い肢位を選択
- 運動:股関節伸展位または中間位(0°付近)から、股関節屈曲90°までの範囲で、股関節屈曲運動を繰り返し行います。軽い抵抗を加えたり、自動運動で行ったりと、対象者の能力に合わせて調整します。
- ポイント:先ほど紹介した「筋力アップ編」のトレーニング(股関節90°位での等尺性収縮)は、日常生活ではあまり行われない動きです。歩行時の振り出しなど、実際の生活場面で腸腰筋が使われるのは、股関節が伸展、あるいは中間位から屈曲する動きです。そのため、運動学習を目的とする場合は、この動作に近い運動パターンを反復練習することが重要になります。
このように、トレーニングの目的(筋力向上か運動学習か)によってアプローチ方法が異なるという考え方は、腸腰筋だけでなく、他の筋肉のリハビリテーションにおいても同様に応用できます。
ぜひ、明日からの臨床で患者さんの状態や目的に合わせて、トレーニング方法を使い分けてみてください。
まとめ:効果的な腸腰筋トレーニングのために
腸腰筋の筋力トレーニングについて、重要なポイントをまとめます。
- 目的の明確化:まず「筋力向上」なのか「動作改善(運動学習)」なのか、トレーニングのゴールをはっきりさせましょう。
- 目的別の方法選択:純粋な筋力アップには股関節90度屈曲位での抵抗運動、運動学習には股関節0度付近からの屈曲運動の反復が効果的です。
- 普遍的な考え方:この「目的によるトレーニング方法の違い」は、他の筋のリハビリにも応用できる重要な視点です。
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